軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家族旅行第3弾

今日は家族旅行に行く日だ。第三弾だから、これで今回の家族旅行は最後。

第一弾と第二弾は、花畑に花が咲いていなかったり、砂漠の暑さにやられちゃったりしたけど、今回はどうなるかな?

父上はどこに行くつもりだろう? とちょっとドキドキする。暑いところじゃないといいけど。

「今回こそ……必ず……美しい景色の場所に、連れていく……」

父上は私と母上を迎えに来た時、そう決意を滲ませていた。

「今日行くところは……季節は関係なく……いつも美しい、はずだ……。それに……昼間でも、涼しい場所だ……」

「それならだいじょうぶそうだね!」

私の言葉にコクリと頷くと、父上は私と母上を連れて砦に向かう。そして護衛としてついてくる隻眼の騎士たちと合流すると、いつものメンバーで家族旅行に出発する。

――かと思いきや、家族旅行で失敗続きの父上は少し不安になったのか、まずは一人で目的地の状況を確認しに行ってしまった。

「ジャーキーは持ってきたか? この前は食べ損ねてしまったからの」

「ええ、ありますよ」

父上を待っている間、母上がティーナさんにちゃっかりそんな確認をしている。

と、私たちの目の前で白い霧が発生し、人の形になっていく。父上が帰ってきたのだ。

「父上! どうだった?」

「……」

戻ってきた父上は微妙な表情だった。目的地の光景や環境が変わっていて落ち込んでるような様子でもないけど、変わっていなくて安心している様子でもない。

父上は恐る恐る言う。

「今回の目的地も……以前訪れた時と……様子が変わっていた……」

「ええ!?」

今回も美しい景色は見られないのかなと思っていると、父上はこう続けた。

「景色はやはり、美しかったのだが……」

じゃあ、いいじゃん。

「じゃあ、いいじゃん!」

思ったことをそのまま口に出し、父上を励ます。父上は少し迷ったけど、最終的に私の軽い言葉に乗せられて頷いた。

「では、行こう……」

今度は全員で移動すると、着いた先は豊かな森だった。

「なんじゃ、また森か? じゃが、ここは……」

母上は一瞬つまらなさそうな顔をしたものの、すぐに目を見開いた。

「美しい森じゃな」

私も、一緒に来た隻眼の騎士や支団長さんも、キックス、ティーナさん、レッカさんも、「すごい」と呟きながら森の木々を見回す。

なぜならほとんど全ての木が、綺麗に紅葉していたからだ。緑の葉はほとんどなく、赤や黄色、オレンジ色に染まっている。こんなカラフルな木々は、針葉樹林の多いスノウレア山の森では見られない。

「きれい……」

瞳に紅葉した木々を映しながら、私は感動して呟く。

すると父上はちょっと言いづらそうに口を開く。

「……ここは……目的の場所では、ない……。目的地は、もう少し先だ……」

「そうなの?」

この紅葉を見せたかったのかと思った。

先頭を歩く父上の後に続いて、私たちも前に進む。すると五分も歩かないうちに森は途絶え、景色が開けた。

「わぁ、すごい!」

私は森を抜けると同時に声を上げる。

そこには大きな湖があって、その湖を囲むように紅葉した森が広がっていた。ほとんど波のない凪いだ湖面は鏡のようになっていて、そこに綺麗な赤や黄色の木々が反転して映っている。

「なんて綺麗なの!」

「すごいな、ここは」

「美しい湖だ」

ティーナさんが目をきらめかせ、隻眼の騎士や支団長さんたちも感嘆の声をあげる。レッカさんやキックスも目の前の景色に見とれていて、私もしっぽを振って父上に駆け寄った。

「父上! ここ、すごくきれいな場所だね! ここがもくてき地?」

「ああ、そうだ……」

私やみんなが喜んでいるのを見て、父上もホッとしたような嬉しそうな顔をしている。

「夏に来た時は……森は緑だったんだが……何やら派手になっていて……驚いた」

季節が変わって森が紅葉し、父上が見せたかった景色とは変わってしまったのかもしれないけど、きっと夏の景色よりもっと美しくなったんじゃないかな。結果的にはよかったと思う。

「ここって父上のすみかとはちがう場所だよね?」

森に囲まれた大きな湖を眺め、私は尋ねる。父上の住処に似ているけど、やっぱり湖の形や森の様子が違うもんね。

最近父上の住処の森に行ったけど、木々はここほど紅葉していなかった。たぶん森に生えている木の種類が違うんだろう。朝と昼の寒暖差がある方が綺麗に紅葉するとも聞くから、気候も少し違うのかもしれない。

私の質問に、父上はゆっくり頷く。

「そうだな、違う……。だが、今、思い出した……。ここは昔、子供の頃に、私が住んでいた湖だ……。私の父の住処だった……」

「ええ!? そうなの!?」

今それをやっと思い出したの? でも父上の子供の頃って言ったら千年以上前だし、忘れてても仕方ないか。

「父上のお父さんはもういないんだよね?」

私は寂しい気持ちで尋ねる。夢に出てきたあのターバンの青年が、水の精霊は今は父上しかいないって言ってたもんね。

父上はやはり頷いて、遠くを見つめながら言う。

「ああ、もう死んでしまった……」

「そっか」

沈黙の後、私は改めて父上に聞く。

「父上は、水のせいれいの家族がほしいと思わないの? どうしてあとつぎを作りたくないの?」

「まだ弟のことを諦めておらなんだのか」

母上の言葉を聞き、私はぴんとしっぽを立てて宣言する。

「だって、ぜったいに弟ほしいんだもん。ちっちゃなへびの弟を首にまいて、いっしょに散歩するんだもん!」

「なんじゃ、その野望は」

私は父上に向き直って続ける。

「ねぇ、父上。どうして?」

理由を話してくれなきゃ、弟を諦められないよ。

すると父上は迷いながらも話し出す。その理由は、私が想像していなかった意外なものだった。

「ミルフィリアのことを……愛おしく思いすぎて……、自分の息子を、ちゃんとミルフィリアと同じくらい……可愛がれる……自信がない」

「え?」

そんな理由だったの? だけど父上は、こうも続ける。

「それに、精霊の本能のようなものが働いて……跡継ぎのことを……一番に想ってしまうのも怖いと……思っているのだ……。ミルフィリアより、息子のことを愛してしまうようになったら……どうしようと……」

不安そうに顔をしかめる父上。

「自分の子に対して……自分がどういう感情を抱くか……分からないから……不安だ」

「そうだったんだね」

私はしっぽをしゅんと下げて言う。そういう理由で跡継ぎを作ることを迷っているなら、私も安易に大丈夫とは言えないな……と、何て声をかけようか迷っていた時だった。

背負っていた荷物を湖畔に置きながら、キックスが言う。

「なんか、昔のうちの母親みたいなこと言ってますね」

「キックスのお母さん?」

私と一緒に父上もキックスの方を振り向く。

キックスは頷いてから、父上に話しかける。

「俺は長子ですけど、母親は二人目を妊娠した時、二人目のことも俺と同じように可愛がれるか心配だったみたいですよ。それとは逆に、赤ん坊という存在が可愛すぎて、俺のことを今まで通り愛せなくなることも心配だったみたいです」

「それで母親はどうなった……?」

父上は、父上にしては食い気味で尋ねた。

キックスはニッと笑って答える。

「結果、二人ともめちゃくちゃ可愛かったって言ってました。全然心配することなかったって。俺に対する愛おしさは変わらなかったし、二番目の子も俺と同じくらい可愛いと思ったって。何て言うか……自分の中にある愛情が、子供が増えることによって分散されてしまうんじゃないかって思ってたらしいんですけど、実際はそうじゃなく、子供が増えれば自分の中の愛情も無限大に増えるらしいです。……で、そうやって不安がなくなった結果、うちは子だくさんになったっていう」

「素敵ね」

ティーナさんもほほ笑んで相槌を打つ。

「二人ともすごく可愛いかもしれない、と考えたことはありますか?」

キックスの話を聞いた支団長さんが、父上に静かに聞いた。

「ミルのことも可愛いままで、二番目の子も可愛い。可愛い存在が二人に増えると考えたことは? どちらかへの愛情がなくなる可能性より、私はそちらの可能性の方が高いと思いますが」

「可愛い存在が二人になったら、最高ですよ。きっと」

キックスが駄目押しすると、父上はその考えに衝撃を受けたかのように目を見開いた。

これで少しは前向きに跡継ぎを作ることを考える気になったかな。

と、そこで支団長さんがスケッチブックとクレヨンを手に、私たち親子三人を並ばせる。

「ではお三方、湖の前で並んで座ってください。今回は家族仲睦まじい様子を描きます」

「今回もかくんだ……」

やる気を見せている支団長さんの前で、私は呟く。

とは言え、言われた通りに湖の前に座る父上と母上の間に、私も一応収まる。そして三人でくつろいでいる感じでポーズを取った。何で父上も母上もノリノリなの。

「キックスは描かないのか? 前、上手だったじゃないか」

「うん。飽きた」

レッカさんの質問にキックスがそんな返事を返していた。興味が続かなかったみたい。

一方、支団長さんはこちらとスケッチブックを交互に見ながら、熱心にクレヨンを持つ手を動かしている。

今は私のことばかり見ているから、きっと私を描いているんだろう。目が真剣だ。大作を仕上げようとする巨匠みたいな迫力がある。今日は私、もふもふ子ギツネの姿だもんね。

心の中でそんなことを思いながら絵の完成を待つ。すると――

「できた!」

一仕事終えた支団長さんが、額の汗を拭って言う。

「どうでしょう? いい感じに描けたと思うのですが……」

「どれどれ」

支団長さんに手渡されたスケッチブックを、母上が眺める。私と父上も横から覗き込んだ。

「わー! やっぱりじょうずだね!」

支団長さんの絵はやはり優しいタッチで、温かい雰囲気だった。そして今回も私のもふもふ感の表現にかなりのこだわりを感じる。何か私だけ特に細かく描き込まれている気がする。

「なかなか上手いのう」

「……」

母上も絵を褒め、父上も無言で頷く。そして父上はスケッチブックに向かって無言で手を伸ばす。どうやらこの絵が欲しいらしい。

けれど支団長さんは謎のこだわりを見せて言う。

「これはまだ完成してないので、一旦持ち帰って色を付けてからお渡しします。中途半端なものを差しあげるのは信条に反するんです」

支団長さんのその信条はいつできたんだろう? と私は首を傾げるが、父上は納得して頷いた。旅行の思い出ができて嬉しそうだ。

「さて、じゃあ、ここでまたボール遊びでもしますか?」

そうして今度はティーナさんが私の生首ボールを取り出した。

「遊んだら、おべんとうだね!」

私はそう言いながら、私の生首ボールを受け取り、口に咥える。

三回目の家族旅行は、綺麗な景色を見ることができて、遊びもお弁当も楽しんで、とても充実した旅行になったのだった。