軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

弟がほしい!

みんなで今よりもっと小さい頃の私の話をしながら、私はこっそり父上を見上げる。いつも無表情な父上なのに、今は眉を下げ、悲しそうでもあり悔しそうでもある顔をしていた。

赤ちゃん時代の私を見逃したのが、よほどつらいらしい。

私はちょっと考えて、今が話を切り出すのにちょうどいいタイミングかもしれないと口を開く。

「ねぇ、父上。赤ちゃんがみたかったら、父上も子どもをつくったら?」

「…………いや」

父上は長い沈黙の後で、かすかに首を横に振る。

あれ? 子供を作ることに乗り気じゃないのかな? 以前は子供に興味はなかったかもしれないけど、今は私のことを可愛がってくれているし、自分の跡継ぎを欲しいと思っていても不思議じゃないのに。

夢の中で謎の青年に頼まれちゃったし、何より私も弟が欲しいけど、父上にその気がないとどうしようもない。

私は頑張って説得を試みた。

「どうして? きっとかわいいよ!」

私は雪の上に座っている父上の膝に乗ったまま、父上と向かい合う。両方の前足を父上の胸に着いて立ち上がり、至近距離で話をする。

「わたしも、おとうと、ほしいな。きょうだい、ほしい!」

想いが強すぎて、つい前のめりになってしまい、私の鼻が父上の鼻にくっついた。

「父上……」

ゼロ距離で父上を見つめてお願いするが、父上は困ったような顔をして視線を逸らす。

「父上」

「……」

うるうるお目目で懇願しても、苦しげな顔をして無言だ。これは手ごわいかもしれない。

と、母上も父上の態度を疑問に思ったのか、こう尋ねる。

「ウォートラスト、ミルフィリアの言う通りじゃ。そなたもいい加減、跡継ぎを作ればよいではないか。何故拒否するのじゃ。わらわが協力して産んでやってもよいぞ。腹を貸してやろう」

「……いや」

父上は再び首を横に振った。本当に子供を作る気はないみたい。

私は弟が欲しいという自分の願望を簡単には諦められないけど、父上が嫌なら無理強いすることはできない。

(私には兄弟できないのかな……)

少し寂しい気持ちになりながらも、取りあえず今日のところはこれで話をやめておく。父上は子供が欲しくない理由を話したくなさそうだし。

きゅん……と悲しげに鳴いて父上の膝から降りると、父上はこちらを見て苦しそうな顔をする。私の望みを叶えられないことがつらいみたい。

私も父上もどっちも悲しい顔をしていると、隻眼の騎士が私の頭を撫でて慰めてくれた。

そしてふと、私のもふ毛のもふもふっぷりに目を見張って言う。

「ん? 何だか毛が一段ともふもふになってないか? 冬毛になったせいか?」

冬毛のせいでもふもふっていうのもあるけど、たぶんあの謎の青年にもふもふ一割増にしてもらったせいだと思う。

たった一割増なのによく気づいたね、隻眼の騎士。

「え、俺も触りたい」

「私も」

キックスとティーナさんを皮切りに、レッカさんと支団長さん、父上と母上まで「どれどれ……」と私に手を伸ばしてきた。

父上の跡継ぎの話をしてたのに、私のもふもふは今はどうでもいいよ!

そして翌日、私は砦で尾行ごっこをしていた。前回は上手くいかなかったからリベンジしているのだ。

いつもは昼休憩の時間に来るけど、今日は尾行ごっこのために朝に砦に来た。昼休憩の時間だと、騎士のみんなは「そろそろミルが来る頃かな」って思って、私の存在に気づきやすくなってしまうかもしれないし。

早起きしたのでとても眠いが、目をショボショボさせながら尾行する。

ターゲットはレッカさんなのだが、レッカさんは外の訓練場で延々と鍛錬している。なので私も砦の陰からその様子をずっと眺めているだけになってしまい、非常につまらない。眠い。

(ターゲット変えようかな)

しかし私がそう考えた時、レッカさんは訓練場から出て砦の周囲を走り始めた。

私も慌てて後を追うが、ペースが速いので私は全力で走らなければならない。ハフハフと息を切らせて追うけど、やがてレッカさんは私を置いて走り去ってしまった。

「ハァ、ハァ……」

レッカさん、速い。しかし私は仮にもキツネなのに、足の速さで人間に負けるなんて。

微妙に悔しいような、足の速さなんて別にどうでもいいような気持ちを抱えながら、私はふと砦を見上げた。前回の尾行ごっこで、執務室から支団長さんに見られていたことを思い出したのだ。

しかしまだ朝だからか、そこに支団長さんはいなかった。

「さすがにいないか」

けれどそう呟きながら踵を返したところで、砦の陰から顔を覗かせ、こちらを見ている支団長さんを見つけた。

「あ! しだんちょうさん!」

なんでそんなところにいるの?

「しだんちょうさん! なにしてるの?」

支団長さんは見つかってしまって少し恥ずかしそうにしつつ、陰から出てきた。

「いや、朝食を食べに行こうとしたらミルを見かけたから、つい尾行してしまった」

声かけてよ。何で尾行するのよ。

「そのしっぽがふわふわと揺れているのを見たら、炎の明るさに引き寄せられる蛾ではないが、無意識についていってしまってな」

「そうなの……」

よく分からないけど、私のしっぽには相手を魅了してしまう魅力があると思っておこう。

と、私と支団長さんがそんなやり取りをしている時だった。

「ミル」

隻眼の騎士が、支団長さんの後ろからこちらにやってきた。

「あ、せきがんのきし!」

私は隻眼の騎士を目標にして移動術を使ったので、砦に到着した時に隻眼の騎士とは一度顔を合わせているのだ。その時、隻眼の騎士はレッカさんより一足早く朝の鍛錬を終えたところだった。

「グレイル、いつから私の後ろにいた……?」

支団長は恐る恐る尋ねるが、

「いえ、今来たところですが……。食堂へ行っていたので」

隻眼の騎士がそう答えるとホッと息を吐いた。私を尾行しているところ、見られたくなかったみたい。

「ジャーキーを貰いにいっていたんです。ミルの朝食にと思いまして」

隻眼の騎士は片手にジャーキーを三つ持っていて、それを私にくれた。

「料理長がまた新しくジャーキーを作って、ビンに補充してくれていたぞ」

「やったー」

厨房の棚の中には大きめのビンがあって、料理長さんはそこに私用のジャーキーをいつも入れてくれているのだ。

「でも、じゃあ、もっとたくさん持ってきてくれたらよかったのに」

欲張って言うが、隻眼の騎士には「あまり食べ過ぎるとお腹がいたくなるだろう」と返された。今まで食べ過ぎてお腹痛くなったことなんてないのに、隻眼の騎士ったらイメージで言ってない? 私はお腹痛くなるまで食べそうっていう失礼なイメージを持ってない?

憤慨しながら片側の奥歯でジャーキーをアギアギ噛んでいると、ふと精霊の気を感じた。急に現れた感じじゃなく、前から近くにいたけど私が気づけてなかったような感じだ。

でも近くと言っても、砦の敷地内のどこかにいそう、という感じではっきりとした居場所は分からない。

「クガルグかな?」

「どうした? 誰か来たのか? クガルグまで朝から来るなんて珍しいな」

「うん。でも……」

やっぱりクガルグではなさそうだ。ヒルグパパかな? サンナルシス……?

(ううん、似てるけどその三人ではない気がする)

だったら誰だろう? 炎や光の精霊と似ている気を持つ精霊って――。

そこまで考えて、『雷の精霊』という文字が頭にパッと思い浮かんだ。

(ライザード? まさか……)

ライザードだとして、どうして彼が北の砦にいるんだと、私は慌てながら辺りを見回す。

母上もこの前、スノウレア山の住処でライザードの気を感じたような……という話をしていたし、この辺りをウロウロしているの?

なんて考えている間に気配は消えてしまった。やっぱり気のせい?