軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルナベラの不安

砦にやって来たダフィネさんは『仕方ないわね』と言いたげにため息をついた。

支団長さんや隻眼の騎士を始めとする騎士たちは〝北の砦に続々と集まってくる精霊たち〟という状況にも慣れた様子だ。

「異常で光栄な状況のはずなのに、既視感を感じるな」

「ウッドバウムの時もこんな感じの状況になりましたからね」

なんて言いながら。

ダフィネさんは改めて言う。

「で、今回は何を揉めているの?」

クガルグはダフィネさんに抱っこされていたけれど、こちらに着いた瞬間に腕の中から抜け出した。お母さんに甘えているところを見られるのは恥ずかしいんだろう。

ダフィネさんは逃げ出したクガルグの代わりに私を抱き上げると、胸毛をもふもふしながら、ふとルナベラやサンナルシスに視線を向けた。

「あら、サンナルシス? 会うのは随分久しぶりだわ。あなたがどうしてここに?」

顔の広いダフィネさんは、どうやらサンナルシスのことは知っていたみたい。でもそれほど親しいと言うわけでもなさそうだった。

ダフィネさんはルナベラを見て続ける。

「それに彼女は……」

「闇の精霊のルナベラだ」

サンナルシスが答え、親しげにルナベラの背に手を添えた。

ダフィネさんはその様子を見て少しびっくりした顔をした後、ルナベラを見て言う。

「あなたが闇の精霊? 私は大地の精霊のダフィネよ。私、闇の精霊に会うのは初めて。あなたたちって代々孤独を愛する精霊なんでしょう? まさかサンナルシスと仲が良いとは思わなかったけど」

ダフィネの言葉に、ルナベラは控えめに答える。

「そうですね、母は騒がしいのが苦手で、一人でいるのが好きなようでした。母の母もそうだったと聞いています。でも、私は別に一人が好きなわけではないんです。自分に自信がなくて引きこもっているだけで……」

「そうなのね」

二人がそんな会話をしていると、母上が話題をルナベラたちの悩みに戻した。

「ダフィネ。この二人には子ができぬらしいのじゃが、原因が分かるか?」

「子どもができない?」

「そうなんです。私たち、闇と光で精霊としての相性が悪いせいでしょうか?」

ルナベラはそう尋ねたけど、ダフィネさんは少し考えた後で「いいえ」と答えた。

「子どもができないことと精霊の相性は全く関係ないと思うわ。あなたたちのように正反対の性質を持っていたとしても、子供をもうけることはできるはずよ」

性質が正反対でも問題ない、というダフィネさんの話を聞いて、クガルグがパッと表情を明るくする。何故クガルグが喜ぶのか。

サンナルシスも「そうか! よかった」と喜んでいたが、ルナベラはまだ不安そうだった。

「だったら、何故……」

「そうね……」

ダフィネさんは私の胸毛をもふり続けながら言う。

「考えられる原因は、私には一つしか思いつかないわ。――それは『お互いの同意』よ」

「同意?」

サンナルシスとルナベラは声を合わせて呟く。

ダフィネさんは頷いて続けた。

「お互い子供が欲しいと思っていなければ、精霊が番っても跡継ぎはできないの」

ダフィネさんが答えると同時に、サンナルシスとルナベラはハッとお互いを見る。

先に口を開いたのはサンナルシスだ。

「ルナベラ、お前は私との子供は欲しくなかったのか? てっきり跡継ぎを作ることには同意してくれていると思っていた」

「いえ、私は……。サンナルシスはどうなのですか? 実は子供は欲しくなかったなんてことは……」

「そんなことはない。私は子供が欲しかった」

「そうですか、そうですよね……。サンナルシスは跡継ぎを欲しがっていました」

ルナベラはそう呟いて下を向く。どうしたんだろう?

一方、サンナルシスは腰に手を当ててダフィネさんに詰め寄った。

「我々は『お互いの同意』はある! 原因はそんなことではないはずだ」

「まって、サンナルシス」

私はダフィネさんに抱っこされたまま、話に割って入る。

だってサンナルシスは気づいてないけど、ルナベラはうつむいたままで、明らかに何か隠していると言うか、口に出せなかった想いがありそうなのだ。

私は丸い瞳でルナベラを見つめる。

「ルナベラ、ほんとうに子どもがほしいと思ってたの? なにかサンナルシスにかくしてること、あるんじゃない?」

「……」

ルナベラは言いにくそうに口をつぐんだままだ。

と、そこでサンナルシスが表情を凍らせながら、信じたくないという様子でルナベラに言う。

「ルナベラ、本当は子供が欲しくなかったのか? 私との子供はいらなかったのに、お前は優しいから言えなかったのか……?」

サンナルシスはちょっと絶望していて、握った拳が震えている。本当は自分はルナベラに愛されていなかったのか、って思っているんだろう。

普段は誇り高いだけに、こういう姿を見ると可哀想になる。

だけど私は、ルナベラはちゃんとサンナルシスのことを愛していると思う。だってルナベラの住処の森で、ルナベラは私にサンナルシスの好きなところを色々語ってくれたもん。

『彼は私と違って自分に自信があって、自分を愛している。前向きで堂々としていて、強い。そんなところに惹かれたんです』

私は、そう語った時のルナベラの穏やかな笑顔を思い返しながら言う。

「ルナベラ、ちがうよね? ルナベラはサンナルシスのこと好きだもんね」

「ミ、ミルフィリアちゃん」

ルナベラは照れて頬を赤くしていたが、サンナルシスを愛していることは認めた。

「ええ、それは間違いありません」

「ルナベラ……」

凍り付いていたサンナルシスが生気を取り戻した。嬉しそうに表情を緩めている。

ルナベラはおどおどと話し出す。

「私は、不安だったんです。自分に自信を持てなくて、こんなに素敵なサンナルシスの相手が私でいいのかって、ずっと不安に思っていました。サンナルシスはどうして私なんかと一緒にいてくれるんだろうって」

黒いレースの手袋をつけた手をもじもじさせながら、ルナベラは続ける。

「相手がサンナルシスなら、子供も欲しいとは思っていました。でも、生まれてきた子が光の性質を持っていた場合、もしも少しでも私の影響を受けて、引っ込み思案で暗かったり、弱かったりしたら……サンナルシスはがっかりするんじゃないかと思うと怖くて……。だからどこかで、子どもはできない方がいいと思っていたのかもしれません」

ルナベラはそう吐露した。

ルナベラの心の奥にあった不安が、二人の間に子供ができなかった原因のようだった。