軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87:長い買い物

女性の買い物は長い。

そんな普遍の法則を、雪乃と買い物を始めた空は身をもって知る事となった。

(都市伝説だと思ってた……)

そう思っていたということは、空の前世の誰かは多分モテない男だったのかもしれないということなのだが、そこからはとりあえず目を逸らしておく。

「これなんかどうかしら?」

「良く似合うけど、もう少し大きくしたらどう? 子供なんてすぐ大きくなるでしょ」

「そうね、じゃあこれの一つ大きいのにするわ。付与はどうしようかしら」

「防寒着だし、軽い防御と耐水あたりかね。斑熊の毛皮を裏打ちしてるから地の防御力も結構あるし、暖かいから防寒はいらないと思うよ」

「防御も草鞋がすごくてあんまり必要なさそうなんだけど……でも念のためお願いしようかしら」

雪乃は空の服をあれこれと買ってはそれに付与する魔法について、服屋のお店の人と相談を重ねていた。

この店に並んでいるのは外から来た既製品の洋服と、それを真似てこの村で作られた洋服だ。

子供服も種類が多く、雪乃はその中から主にこの村で作られた丈夫な物を選んで手に取っている。空に服を当てては首を傾げたり頷いたり、店のおばさんと相談したりと忙しい。

持ってきた何枚かのお下がりの服は最初に出して、生地が丈夫になる魔法の付与を頼んである。しかしそれ以外の新しい服には色々拘りたいらしく、なかなか話が先に進まないのだ。

服自体を丈夫にするような魔法や、体温の調節を助ける魔法、風邪などを引いたりしないよう健康を保つ魔法などなど……色々詰め込もうと一生懸命な雪乃を止める術を空は持たない。

空に出来るのは大人しく服を当てる台座になることだけだ。

(よく眠れる暖かいパジャマは嬉しい……)

魔法が掛かっていなくても空は毎日よく眠っているので、それが必要なのかどうかはいまいちわからないが。

魔法の付与はすぐにこの場でするものではないらしく、後で作業して終わったら届けてくれるのだという。そうなるとその作業を見ることが出来る訳でもなく、空の興味を引くことはなくなってしまった。

早々に買い物に飽きた空は、今日も静かにお供してくれていたフクちゃんを膝に載せてもみもみしながら、二人の話が終わるのを良い子で待った。

しかし雪乃と店のおばさんの長い相談は、空のお腹がぎゅるるる、と鳴りだすまで続く事となったのだった。

「美味しい?」

「うん!」

空はお椀に取り分けてもらった親子丼をもりもり頬張りながら笑顔で頷いた。

まだお昼には少し早い時間だったが、雪乃は空を連れて村にある食堂で食事を取ることにした。

空の為に頼んだのは大盛りの親子丼と、汁代わりのラーメンだ。

空はそれをニコニコと嬉しそうに交互に食べて行く。

フクちゃんにはあんまり味が染みこんでいなさそうな米を何粒かあげた。さすがにフクちゃんに鶏肉と卵はどうかと思ったのでその部分は避けておく。

雪乃は山菜ソバをさっさと食べ終え、空のお椀にお代わりを盛ったりとせっせと世話を焼いてくれる。それを見て食堂のおばさんが笑顔で話しかけてきた。

「雪乃さん、お孫さん? 可愛いねぇ」

「ええ、そうなの。療養のために預かってるのよ」

「そらです!」

「元気だねぇ。うちのご飯はどうだい?」

「すごくおいしい! ばぁばのごはんとおんなじくらい!」

空がそう言うと雪乃もおばさんも笑みを浮かべた。

「よく食べてくれて嬉しいよ。良かったらこのお稲荷さんもどうぞ」

「ありがとう!」

「あら、良いの? どうもありがとう」

空は大きな五目のいなり寿司を二つおまけしてもらい、喜んでそれもペロリと平らげた。子供ってお得だ、といなり寿司を食べながらしみじみと思う。

さて、お腹がいっぱいになって元気が出たところで、次は空が頼んだ用事だ。

ちょっと眠くなった目を擦りつつ、空は雪乃と一緒に村の鍛冶屋のような店にやって来た。

「わぁ……どうぐ、いっぱい」

店に入るなり、空は壁を見上げてぽかんと口を開けた。店の壁には一面に、鍬や鎌、鋤などの農具から、鉈やのこぎり、斧や包丁まで、色々な刃物や道具が所狭しと並んでいたからだ。壁から吊されているものもあれば、中が見えるようにガラスを張った木箱の中に並んだ、精密な工具や刃物もある。

店の奥は工房へと繋がっているようで、そちらからカンカンと何かを叩く音がしてくる。

その手前のカウンターには厳ついおじさんが立っていて、何か小さな物を磨く作業をしていた。

「こんにちは、槌山さん」

「いらっしゃい……って、米田さんか。こないだの大鎌はまだ出来てねぇよ」

槌山と呼ばれたおじさんは視線を上げて雪乃の顔を見ると、笑いながら首を横に振った。

「あら、それは幸生さんか和義さんが受け取りに来ると思うわ。私は別の用事なの」

「そりゃ珍しい。包丁でも欠けたかい?」

「違うのよ。この子、うちの孫で空って言うんだけどね」

「こんにちは、そらです!」

空が挨拶すると槌山は厳つい顔を意外にも人懐っこくくしゃりと崩して、よろしくなと笑って言った。

「空が作って欲しい物があるんですって。材料はこれなんだけど……」

よいしょ、と雪乃が背負っていたナップサックからにゅっとカブトムシの角を取り出す。

いつ見ても物理法則を無視した光景だが、空ももう慣れてそれを見守った。

槌山はカウンターに置かれたそれを見て感心したように頷いた。

「こりゃあ立派な角だな。大物だったろうに……坊主が狩ったのかい?」

「ううん、ぼくのしゅごちょーの、フクちゃんがたおしたんだよ」

「そりゃすごいな!」

槌山は空が指さした、その肩にのる小鳥を不思議そうに見てそれからまた角に視線を戻した。

「じゃあこれで何か作りたいって訳なんだな。刀……はまだ早いと思うがどうすっかな。鎌はクワガタの方が良いしな。これだと、長めの鉈とか小太刀なんかも子供には人気だぞ」

槌山の提案に空は首を横に振り、雪乃が角の上の部分を指さした。

「まだ大きな刃物は早すぎるわ。そうじゃなくて、この上の部分で投石器を作りたいらしいのよ」

「投石器? どんな感じのもんだ?」

「この二股の先にゴムみたいな何か伸びる素材の紐を掛けてもらって、それでドングリとかを飛ばしたいんですって」

雪乃が空の希望を説明すると、槌山はしばらく考えて納得したように頷いた。

「この分かれてるとこの下で切り取って、上を使う訳か。珍しいな」

「みんな、ここどうするの?」

「バラして一つずつ小刀にしたり、角を丸ごと使って、刺叉とか二股の槍みたいなのを作るのが多いかな。捨てちまう子も結構いるよ」

空はそれを想像してみて、やはり首を横に振った。

一体どんな魔法でこの角を刃物にするのかはちょっと知りたいが、それでもやはりまだ早い気がする。大きな刃物など前世でも持ったことがないのだから、せめてもう少し大きくなってから挑戦したかった。

「やっぱり、ぱちんってなるほうがいい」

空が言うと、槌山も頷いてくれた。

「じゃあそうしてやるよ。まだ手も小さいから持てる大きさに本体を加工して、握りを付けて、あとゴムじゃ素材として弱いから……ナガアシ大イナゴの足の腱を加工したやつを紐にするかな」

(名前を聞くだけで遭いたくなくなるイナゴだ……)

「それ、のびる?」

「うんと伸びるし、反動も強い。あと丈夫だぞ」

「じゃあ、それで……あとね、ここのごむのまんなかに、どんぐりあてるとこ、つけてほしいです」

ゴムの中心に革か何かで弾を支える為の部品を付けてほしい。

それを身振り手振りで懸命に説明すると、槌山は空の希望を取り入れて簡単な絵を描いて見せてくれた。

「こんな感じか?」

「うん!」

「お願いできるかしら?」

雪乃が聞くと槌山は大丈夫だと言って頷き、空の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「二、三日ありゃ出来るな。仕上がったらバス便で送るから、何か直してほしいところがあったらまた来るか、連絡してくれ」

村のバスは定期的に魔狩村と魔砕村を巡回しているので、配達も請け負ったりしてくれるのだ。

「ありがとう。お幾らかしら?」

「金は……まぁ加工賃と、ちびっと腱がいるくらいだからな。大した額じゃないが後で計算しとく。次にこっちに来たときに払ってくれりゃいいから」

「良いの? じゃあお願いするわね」

「おねがいします!」

「おう、任せときな!」

槌山に見送られ、ブンブンと手を振って空はお店を後にした。

並んでいた道具はどれも丁寧に作られていて、美しく、かっこよかった。

いつかもう少し大きくなったら、ここでもっと違う道具を作ってもらえたらいいなと空は思う。

「じぃじのくわも、ここの?」

「ええ、そうよ。この前じぃじが壊した、和義さんの大鎌もね」

鎌江ちゃんもこの工房生まれだったらしい。今作られているという新しい鎌にもやっぱり名前が付けられるのだろうか。

「ぼくもおっきくなったら、くわつくってもらお」

「あら、くわでいいの?」

「うん! じぃじとおそろい! はたけで、おいしいおやさいつくる!」

「良いわねぇ、楽しみね」

「うん!」