軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32:肉の力

などと昨日は弱気になった空だったが、一日経ったら全て忘れた。

理由は簡単だ。

「おにく? ぼく、おにくあたったの!?」

「そうよ、空! 良かったわねぇ、一等よ!」

「やったー! おにく! いっとう!」

昨日の祭りで行われた賭けは、その夜に抽選が行われたらしい。

優勝者に賭けた人の札の中から今度はくじ引きのようにして、用意された景品ごとにそれぞれの札を引いていくのだという。

その中で、空の名前がなんと一等に当たったというのだ。

幸生が昨夜持って帰ってきた大きな塊が、どんとテーブルに置いてある。空はその大きな塊を見て飛び上がって喜んだ。

ちなみに幸生は大分遅くまで飲んでいたらしく今朝はまだ寝ている。

「黒毛魔牛のお肉、色々いいとこ取りそろえて十キロ分よ! 空、何して食べたい?」

「えっ! えーとえーと……あ、ばぁばのおにぎりたべたい!」

「あら、あれ好き?」

「だいすき!」

雪乃は空の元気な返事に、嬉しいわねぇと言って笑う。

空も嬉しくなってにこにこと笑った。

雪乃は早速包みを開け、ローストビーフになりそうな良い部分を大きな固まりで取り分ける。

それから、これはステーキに、こっちは焼肉、こっちはシチューとあれこれ小分けにし、必要な分を残して冷凍庫へと運んでいった。

「ねぇばぁば、このおにくって、どこでとれるの?」

「このお肉はね、山の向こうに牛を誘う放牧地が作ってあって、そこで獲れるのよ。元は野生の牛さんなんだけど、今は半分野生って感じね」

「いつもたべられない?」

そう聞くと雪乃は頷いた。

「牛は沢山いるんだけど、何せ強いし群れるからちょっと面倒なのよね。だから定期的に間引くためとか、こういうお祭りの景品にとかで、時々強い人何人かで狩りに行くの」

どうやら黒毛魔牛は村人にも結構手強い相手らしい。

「じぃじは狩れる?」

「狩れるわよ。私でも大丈夫。ただ私達二人だとあんまり頻繁には食べないから、山向こうまで行くのが面倒くさくて……でもこれからは空がいるから、時々狩りに参加しようかしらね。お肉は地区で順番に分けるけど、狩った人には取り分があるから」

そう語りながら、雪乃は残しておいた肉を手際よくさっと焼いてステーキにしてくれた。

「おにぎりは時間が少し掛かるから、まずは味見ね」

「ふわぁぁ……!」

食べやすいように小さく切り分けてくれたその断面はうっすらと赤身が残り、美味しそうなミディアムくらいの焼き加減だ。

「お醤油とお塩、どっちがいい?」

「しょうゆ!」

そう叫ぶと雪乃は軽く醤油を掛けて、空の前に肉の皿を置く。

空は待ちきれないというように身を乗り出し、皿の上の肉をフォークでしっかり刺して、齧りついた。

「ん……ん……!」

空の乏しい語彙力は更に無くなった。

口に入れ噛みしめると、肉は適度な弾力があるのに、途中でとろりとほどけるように広がった。醤油の香ばしさと塩気が牛肉の脂の甘みと旨味をどこまでも引き立てる。黒毛魔牛の肉を食べるのはこれが二度目だが、やはり体に染み入るような旨さを感じる。空はずっとこれを口に入れていたいとうっとり目を瞑った。

「ほあぁ……おいしい……」

「良かった。もっと食べてね。魔素がいっぱいだから、空の体にとっても良いのよ」

こんな美味しいものをもっと食べろと勧めて貰えるなんて、空は本当に生まれ変わってこの田舎に来て良かったと心から思った。自覚はないが前世で何か徳でも積んでいたのだろうか、と思うほど美味しく嬉しい。

ここにずっといて、この肉を定期的に食べるためならどんな努力だって出来ると今なら思える。

雪乃が用意してくれた真っ白なご飯に肉を乗せてかき込みながら、空はやっぱり自分もいつか色んな事が出来るようになりたいなぁと思った。主に美味しいものを食べる為に。

この美味しい米だって、これが食べられるなら、空は田起しだって田植えだって頑張れる気がする。

「ねぇ、ばぁば。ぼくも、このうしさんつかまえられるようになりたいなぁ」

「そうね、空ならきっと出来るわ。美味しいものいっぱい捕まえましょうね」

「うん! ぼくねー、おおきくなったら、くいしんぼうになる!」

空の言葉に雪乃があはは、と大きな声で笑う。

「それはもうきっとなってるわよ! だから沢山食べてね、空」

「あい!」

田植えが終われば春は終わりだ。

次の季節はどんな美味しいものがあるんだろう、と空は思いを馳せた。

田舎の不思議が受け入れられずちょっとくらい心が浮き沈みしたって、美味しいものを食べればきっと頑張れる。

夏の田舎もきっと楽しい。

今の空には素直にそう思えた。

肉は偉大だった。