軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-140:宿のお誘い

「じぃじ、ばぁば、おかえりなさい!」

「ただいま、空」

「うむ、ただいま」

午後のおやつを終えた頃、神社には狩りを終えた大人たちが子供を迎えにやってきた。

雪乃と幸生も戻ってきて、駆け寄った空を抱き上げ笑い合う。

「かり、うまくいった? おにく、いっぱいかれた?」

「ええ。今年も沢山狩れたわ。ハムやベーコンが沢山作れるわよ」

「やったぁ!」

嬉しい報告に空は大喜びだ。雪乃が作る美味しいハムやベーコンは、その味を思い出すだけで幸せな気分になれるのだ。きっと今日の夕飯にも肉が出るに違いない。幸生たちが狩っている獲物の詳細はまだ知りたくないが、肉はとても楽しみだった。

「アオギリ様、弥生ちゃん、空がお世話になりました」

そろそろ帰ろうか、と幸生は空を肩に乗せ、雪乃は境内で子供たちを見送るアオギリ様たちに礼を述べた。礼を言われた二人はそれぞれ笑顔で頷いた。

「どういたしまして。っていっても空くんは大人しくて手が掛からないから、全然お世話してないわ」

「うむ。我も一緒に団子を食べていただけだから、礼を言われるほどのこともない。ところで、今日の狩りはどうだった? 結界周りに不備はなかったか? なるべくいつも通りにしようと思うたのだが、まだ細かい調整が今ひとつでな」

弥生と夫婦になり、名を取り戻したアオギリ様は、その影響で今年から冬の眠りが必要無くなった。そうなれば村を囲む強固な結界も安定して維持できるので、冬前に山の獣を間引く必要性は減っている。

しかし毎年大量に獲っていた肉が急になくなれば冬越しの食料が減ってしまう。かといって村人たちが個別で山に狩りに行くのも何かと面倒だし、山に入っての狩りが苦手な者もいる。

アオギリ様と村人で話し合い、冬前の合同での狩りは変わらず行うことになったのだ。

けれど、アオギリ様は力を取り戻してから初めての結界調整なので、少々不安があったらしい。

「俺の方は特に何も。獲物も例年並みだった気がします」

結界のすぐ側で戦っていた幸生は、何も問題はなかったと首を横に振る。雪乃はそれに頷きながらも、少し考えてから答えた。

「確かに、いつもより少し結界に空けた穴が大きかったり小さかったり、ちょっと不安定な場所があったと聞きましたね。けれど、どこも問題なく対応出来る範囲だったようですよ」

「そうか……取り戻した力にまだ慣れぬゆえ、しばらくは何か不都合が出るやもしれぬ。何かあれば知らせてくれ」

「はい、他の地区にも伝えておきますね」

アオギリ様も弥生も、まだ己の力を把握し調整するのに少々苦労している。結界が揺らぐようなことはないが、強すぎるということはありそうだった。

「そうだ、雪乃よ。見たところ、空の体調や魔力が大分安定しておるようだ。そろそろ何か簡単な魔法を習ったらどうかという話をしておったのだ」

「魔法ですか……もう大丈夫でしょうか?」

アオギリ様の言葉に雪乃は空を見上げ、心配そうに呟いた。空は幸生の肩の上で、うんうんと頷いて手を振った。

「ばぁば、ぼく、おだんごつくるまほう、ねこにしさんからならいたい!」

「お団子を作る魔法……そうね、そのくらいならいいかしら」

境内の端に雪乃が視線を向ければ、屋台の片付けをしていた猫西はそれに気付いて顔を上げ、苦笑するように髭を揺らした。

「冬になれば畑の手伝いも出来ぬだろう。余った魔力でテルが悪さをしたり、空が何かを壊したりする前に、少しずつ使い方を教えた方が良いのではないか?」

フクちゃんとテルちゃんは今日は家でヤナと留守番をしている。子供が沢山いる場所に行くと、珍しがられて撫で回されたり追いかけ回されたりするのであまり近寄りたがらないのだ。きっと今頃は退屈していることだろう。

そんな二匹のことを思い返し、考えておく必要があるかもしれないと雪乃は納得した。

「フクちゃんは大丈夫だと思うけど、テルちゃんはうちで迎える初めての冬だものね。確かに退屈しそうだわ」

「ね、ばぁば。それならふゆのあいだ、ねこにしさんたち、うちにいてもらうの、だめかなぁ」

「猫西さんたちをうちに?」

「うん。だって、そしたらまほうならえるし、おだんごもたべられるもん!」

猫西は冬の間は屋台を休むつもりだと空は以前に聞いていた。けれどどこで冬越しをするのかはまだ決めていないらしい。

「そうね……猫西さん、ちょっといいかしら?」

雪乃が声を掛けると、暖簾を下ろして屋台の扉を閉めた猫西が振り向き、尻尾を揺らしながら歩いてきた。

「何か用なんだね、雪乃さん」

「猫西さん、冬越しはどこでするかまだ決めていないのよね?」

そう問うと、猫西は頷いて白い手袋のような前足で頬を掻いた。

「うん、まだなんだね。今、猫たちが村に来て世話になる家を選んでいるところでね。それが落ち着いたら、田亀さんや猫宮の姐さんにどこか紹介してもらおうと思ってるんだね」

今年も、つい先日から猫たちが冬越しのために村を訪れている。それぞれ馴染みの家を訪ねたり、猫に来てほしいという家を紹介されたりして冬越しする場所を決めている最中だ。魔獣使いの田亀や、猫たちの長である猫宮はその調整役で忙しくしているらしい。

雪乃はその返答を聞き、少し考えてから頷いた。

「決まっていないなら、良かったら冬の間はうちで過ごさない? 納屋に空きもあるから、屋台もしまっておけるわ」

猫西の屋台は雪が降ったら営業が出来なくなる。その後は雪が消えるまで、空のおやつも一先ずお休みという話になっていたのだ。

「それは助かるけど……良いのかね? ヤナさんはあんまり猫を好かないって聞いたんだね」

「ヤナの当たりが強いのは猫宮さんだけよ。喧嘩仲間みたいなものなの。暇なときにでも空に少し魔法を教えてくれたら、貴方と白妙ちゃんがうちに来てもきっとヤナは嫌がらないと思うわ」

確かにヤナは猫西が訪ねて来ても嫌な顔はしない。しかしそこで一冬過ごすとなると、迷惑ではないだろうかと猫西は少し迷った。

慣例として、猫たちが家守のいる家で冬を過ごすことはあまりない。冬の間だけとはいえ、縄張り意識の強い家守たちは余所者が長く滞在することをあまり好まないからだ。

猫西が迷っていると、屋台の屋根の上に寝そべっていた白妙が顔を上げ、ニャーと細い声で鳴いた。その声を聞き、猫西がうん、と一つ頷く。

「ヤナさんが嫌じゃなければ、お世話になりたいんだね。白妙も、米田さんちの囲炉裏の側は居心地が良さそうだから楽しみだって」

「ほんと!? やったぁ!」

その返答に空がピョンと跳び上がって喜ぶと、猫西はくすりと笑って頷いた。米田家なら毎日通って気心も知れている。暖かい場所で冬を越せるのは何よりありがたい。

白妙に魔力を分けてくれる空もいるのだし、少々先生を務めるだけで歓迎されるというのなら言うことはなかった。

「世話になるお礼に、団子を作る魔法が習いたいってなら手ほどきもするし、材料があれば団子も提供するんだね」

「あら、いいの? 魔法の手ほどき以外はのんびりしていてもいいのよ?」

「毎日じゃなければ構わないんだね。どうせ冬は暇で、退屈するのは同じだからね」

そう言って頷く猫西を、空は瞳を輝かせて見つめていた。

(お団子の魔法も楽しみだし、お団子も楽しみだし……あと、ひょっとしたら囲炉裏の側で猫が眠る姿を見れちゃうかも……何か丸い籠とか、用意してもらおうかなぁ)

いつも側にいる小鳥も精霊も可愛いが、猫はまた別だ。去年は矢田家で過ごしていた猫宮を毎日のように訪ね、その毛並みを撫でさせてもらったくらいには、空は猫も好きだった。

前世でも縁遠かった猫という生き物と同じ屋根の下で過ごせるということに、空は密かな期待を抱いていた。

(でも、フクちゃんたちには内緒にしておこう!)

そわそわした態度で空の気持ちはすぐにバレてしまいそうだが、そうなったらいつもよりもみもみして機嫌をとろうと思う。

「じゃあお団子の材料はうちで多めに用意しておくわね」

「うん、お願いするんだね」

「ぼく、おだんごのまほう、がんばるね!」

「……あんまり頑張らない方がいいんじゃないかなっていう気がするのは、何故なんだろうね?」

野生の勘か、猫西はなかなか危機察知能力が高そうだ。