軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-50:ミッション2、姫の防衛網を突破せよ

「あっ、動いた! 良夫と善三さんの間くらいのとこ!」

突然、千里が声を上げた。鏡の中には良夫と善三に竹が激しく襲いかかる姿が映っている。

避ける隙がほとんど無いくらいの速度と密度で、周辺の竹がその体を振り回し、二人の進路を妨害していた。

「当たりのようだな。他の所は竹の攻撃速度など変わってないようだ」

「じゃあそこだね!」

善三は竹を避けながら白く細い布を懐から取り出し、襲ってくる竹とのすれ違いざまに、それを相手の幹にするりと器用に結んでいく。良夫も同じように攻撃が激しくなった場所を明らかにするため、目印となる布を竹のうちの何本かに結んでいた。

それを終えると二人はその場から大急ぎで撤収を始める。善三はその途中で竹笛を取り出して吹き鳴らし、偵察班に撤収を伝えた。

「泰造、鏡越しに鑑定は無理か?」

「無理だ。直接見ないと駄目だ、悪い」

遠見鏡を覗き込んだ泰造は、悔しそうに首を横に振る。

「千里、何か姫らしき竹は見えるか?」

「うーん、わかんない……奥の方のは動いてないし……どう見てもどれもただの竹に見えるよ」

遠見で見る竹たちは、偵察班が後ろに下がったことで少しずつ落ち着きを取り戻してきている。

千里はさっき善三と良夫が進んでいた場所から先も見てみたが、怪しい竹は見つからなかった。

「それでも、進むべき場所はわかったんですもの。皆の帰りを待ちましょう?」

雪乃に宥められ、皆が頷く。それからまもなく偵察班は全員待機場所まで戻ってきた。

「道具と籠も回収してきちゃいました!」

佳乃子は自分の道具と掘ったタケノコを取り戻せて嬉しそうだ。

全員が揃うと、その視線は自然と千里に向いた。

「どうだった?」

善三が問うと、千里は頷く。

「奥に進んで特に攻撃が激しくなったのは、善三さんとこと良夫のとこ。特に良夫の方が少し反応が早くて攻撃的だったと思うかな。だから、多分二人が進んでた場所の間の先、少し良夫がいた場所寄りかなって思うよ」

「なるほど……なら、次はどうやって泰造を連れてそこに近づくかだな」

周囲の竹をある程度切り払うことも覚悟しているが、なるべく被害を減らしたい。そんな葛藤を抱えて善三は迷うそぶりを見せた。

そこに声を掛けたのは美枝だった。

「善三さん、せっかくだから竹を鎮められるか試してみたいんだけど、良いかしら?」

美枝はそう言って立ち上がり、幸生を見る。

「幸生さん、ちょっと手伝ってくださいな」

「……うむ」

幸生は何をとは聞かずに頷くと、空をそっと膝から下ろして立ち上がる。

美枝は座っていた敷物から降り、姫に支配されている竹がいる境目の近くまで進んだ。その後を幸生も追って行く。

「美枝さん、何をすれば?」

「まずは触ってみないと、どういう状態なのかわからないでしょう? だから、幸生さんに一本捕まえてほしいのよ」

「わかった」

美枝の提案を聞き、幸生はそれなら任せろと頷いて無造作に竹林の奥に向かって足を踏み出した。

するとたちまち少し離れた場所にある一本がぐっと身をたわめ、幸生を殴り飛ばそうとするように幹を傾ける。幸生はそれを避けもせず頭上に手を伸ばすと、バシッと振り下ろされた幹を両手で掴んだ。鋭い葉や固い枝が顔や体を打つが、気にした様子もない。幸生は暴れようとする太い幹をぐっと掴んで放さず、逆に引っ張り下ろすと脇に挟んで締め上げた。竹は慌てたようにバサバサと枝葉を激しく揺するが、幸生の体は小揺るぎもしない。

「ありがとう。じゃあちょっと失礼するわね……」

美枝は幸生の後ろ側に突き出て暴れる竹にそっと手を伸ばした。

「あら? ああ、なるほど……うーん……」

美枝に触れられると、竹はすぐに暴れるのを止め急に大人しくなった。しかし美枝の表情はあまり明るくはない。美枝はしばらくそのまま竹を触っていたが、一つ頷くとその場を少し離れた。

「ありがとう幸生さん、もう放しても大丈夫よ」

「うむ」

幸生が竹から手を放して解放してやると、竹はしばらく呆然としているかのようにそのままだった。しかし二人がその場を離れると、ゆっくりと幹を持ち上げまた元に戻ってゆく。けれどその姿はどことなく戸惑っているように見えた。

「美枝さん、どんな状態だったんだ?」

善三が戻ってきた美枝に問うと、美枝は難しい表情を浮かべ首を捻った。

「残念ながら、やっぱり上手く話が通じなかったわ。例えるなら……ものすごく酔っ払って理性がなくなって、ひたすら自分の奥さんをべた褒めしている男の人みたいな感じ?」

「ああ……たまにいるな、それは。飲み会とかで面倒くさい奴だな」

何となく幸生と善三の視線が和義に向き、和義の視線はそっと明後日の方向にそらされた。

あまりに酔っ払いすぎると、何を言っても半ば聞こえていない、ただひたすら自分の奥さんの自慢話や自分との仲の良さを誰彼構わず語る、時には人の話を曲解し奥さんを馬鹿にされたと怒り出す。

そんな面倒くさいのがたまにいるな……と心当たりのある人達は少々げんなりして、奥の竹林を見上げた。

「美枝さんでも、こいつらに理性を取り戻させるのは無理そうか?」

「うーん、私が触って魔力を少し流したら、一応目が覚めたのよ。でも、多分またすぐにあの群れに戻ってしまう気がするのよねぇ」

さっきの竹はもう他の竹に紛れて、何事もなかったかのようにそこに佇み風に葉をそよがせている。だが近寄ればまた襲ってくるだろうと美枝は考えていた。

「ちょっといいですか」

不意に、後ろにいた菫が手を挙げた。皆の視線が彼に向くと、菫は符を貼った自分の耳をトンと指さした。

「さっき矢田さんが触れた竹が元に戻った後、何か音というか……歌のようなものが微かに聞こえたんですよ。人間の耳にはほとんど聞こえないような僅かなものですが」

偵察班が竹に近づいたときも聞こえていた気がする音だが、竹が暴れる音にかき消されてしまっていた。だが、さっきは探知術に音としてはっきりと聞こえたと菫は語った。

「じゃあ姫はその歌みたいな手段で竹を操ってるのか……」

「恐らくは。酔っ払いと矢田さんが表現したし、歌を介した魅了や洗脳に近いものなんじゃないかと」

ただひたすらに妻を讃える酔っ払いのように、魅了された竹たちはひたすら姫を讃え守っている、ということらしい。

「……姫と名の付くもんは、敵に回ると本当に厄介だな!」

善三は吐き捨てるようにそう言って、足元の落ち葉を踏みしめる。空はそんな善三の姿を珍しく思いながら、ふと良いことを思いついた。

「ね、じゃあ、みえおばちゃんも、うたをうたったら?」

「え? 歌?」

「うん。だって、みえおばちゃん、しょくぶつのあいどるみたいじゃない? おばちゃんがうたったら、たけもそっちがきになるとおもう!」

空の提案に美枝は戸惑ったような表情を浮かべる。しかし反対にすぐに乗り気になったのは意外にも雪乃だった。

「そうだわ、それよ! 美枝ちゃん、歌よ!」

「雪乃ちゃんまで?」

困惑した美枝に、雪乃は何度も頷いた。

「子供の頃に、美枝ちゃんがよく聞かせてくれた歌があったじゃない! 美枝ちゃんが大好きだって言ってた歌! アレを歌うのよ!」

「アレを!? で、でもアレはもう封印したのよ。その、すごく迷惑だったから」

美枝は目を見開いて、次いで頬を赤く染め、それから俯いて首を横に振った。

「ふういんって、なにしたの?」

歌に使うとは思えない言葉に空が首を傾げると、雪乃が苦笑を浮かべた。

「美枝ちゃんがあの歌を歌うと、辺りの草がまぁよく育って育って。野菜や花や植木も育つけど、雑草がすごすぎて草刈りが大変だったのよね」

「そうなのよ……それで両親にすごく怒られたから、あの歌を外で歌うのは止めて、それっきりなの」

それは確かに困った話だが、今のこの場なら役に立つ予感しかしない。善三は悩む間もなく美枝の前に出ると頭を下げた。

「美枝さん、頼む! その歌を歌ってくれ!」

「でも、竹たちに効果があるかはわからないのよ? 雑草がすごく生えるだけで終わるかも……」

「雑草に埋もれても構わねぇ! 何でも可能性があるなら試してみてぇんだ!」

善三にそう言って何度も頭を下げられ、迷っていた美枝もやがては頷いた。

「仕方ないわねぇ。こんな歳で、人前で歌うなんて恥ずかしいわ……」

「声は私が魔法で拡散するわね!」

恥ずかしそうな美枝に雪乃が良い笑顔でそう言って、肩をぽこりと叩かれている。本当に仲の良い二人を見ながら、空は面白い事になりそうだとワクワクとその時を待つ。

(タケサーの姫VSムラサーの美枝……すごい対戦になりそう!)

作戦はどうやら、次の段階へと無事に移行しそうだ。