軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-49:視界に弾幕が見える男

一方、それを見学する空や泰造は少々暇だった。

泰造は役目があるが、空は当然見学だけだ。年齢を考えれば、こんな現場に連れてきてもらえたのも孫に甘い幸生がいたからこそ。その幸生も、役割としては一応観察班の護衛ということだが結界の中では特にやることがない。

今の幸生の役目は敷物の上に胡座をかき、可愛い孫の椅子になることだった。

空は幸生の膝の上にちょこんと座りながら、まだ少々眠そうなフクちゃんを両手でもみもみしていた。偵察班がそれぞれの配置につくのを待っているので、少々暇がある。

空はフクちゃんをもみもみしながら、同じように隣に座って待機している泰造に声を掛けた。

「たいぞうにいちゃん、なんでさっきから、てでめをかくしてるの?」

「あー……魔力の温存? あと目を開けると、視界にずーっと、竹、竹、竹、竹、竹、って見えるから鬱陶しい」

確かにそれはかなり鬱陶しそうだ。

「たいへんなんだね……そういえば、たいぞうにいちゃんて、よしおおにいちゃんとなかわるいの?」

空は子供らしく、気になっていたことをズバリと聞いてみた。

「えー……それ聞いちゃう?」

「だって、きになるもん。よしおおにいちゃんは、おさななじみ? っていってたし」

空の言葉に泰造はしばし黙り込み、それから首を縦に振った。

「幼馴染みなのはまぁ確かだな……仲はわかんねぇ。なんたって常に俺が一方的に嫉妬して噛みついてるだけだからな!」

「うわぁ、正直者~」

「それを一切隠さないところがお前の憎めないところだな……」

千里と菫が思わず感心するほど、泰造はキリリと言い切った。

「しっとするの?」

(そういえば前に、同い年だったら嫉妬で死んじゃう! って叫んでたっけ)

保育所で泰造がそんな事を言っていたなと思い出す。

「だってよ~、見ただろあの良夫の平凡顔! 見た目もすげー普通!」

「うん……?」

「なのにアイツ、だるそうにしてるくせに努力家だし、同年代で一番強いし、希望の星なんだぜ!? もう完全に主人公じゃん! 年も一緒で家も近所で同じように育ったのに、俺がアイツに勝ってるとこなんて顔の良さくらいしかねぇのよ! 嫉妬するわ!」

「へいぼんがおって、だいじだった?」

その要素は今の会話に必要だったか、と首を傾げる空に泰造は何度も頷く。

「大事に決まってるだろ! 俺みたいな顔の良すぎるやつは好感度が稼げないから、主人公には向いてねぇんだよおぉぉ!」

一体泰造はどんな漫画や物語を読んで育ったんだろう、と空は内心で首を傾げた。しかし泰造は大真面目だ。

「泰造が好感度稼げないとこはそこじゃないと思う~」

「同感だ。そのよくわからない思考回路の方を修正した方が良い」

千里と菫が突っ込むと、泰造はうるせーと言って顔を横に背けた。ふと、この二人もそう言えば年が近そうだと空は思い至った。

「おねえちゃんと、おにいちゃんも、みんなおさななじみ?」

「私は一個上かな。でも仲は良いよ! あ、私のことは千里って呼んでね~!」

「俺は同じ年。スミでいいぞ」

「ぼくはそらです! たいぞうにいちゃんって、むかしからこんなかんじ?」

空が全く悪気なく問うと、二人はうんうんと頷いた。

「小さい頃は違ったけど、中学生くらいからはこうだね~」

「それ以後は年々悪化して変に……いや、気難しくなっているぞ」

「やかましい! あと気を使うな!」

どうやら泰造には、中二病を激しく悪化させたままこの年まで拗らせている自覚があるらしい。

「くそ~、俺だってこの『森羅万象』に能力を使われてなければ、今頃もっと忍者っぽくかっこよく活躍してモテたりしてたかもしれねぇのに……」

泰造はそう言ってブツブツとぼやく。忍者っぽくかっこいい、という観点で見ると確かに良夫の戦い方はそれに当てはまっている。良夫は泰造の憧れる姿に近すぎて、それが幼馴染みだからこそ突っかかってしまうらしい。

「そういうきぼうはあるんだ……じゃあひよこのかんていしは?」

「それが叶わないから、俺はいっそふわふわに埋もれて暮らしてぇの!」

人並みの願望はあるが、叶わないならその対極にいたいらしい。なかなか難しい男だ。しかし空はそれを聞いて、ふと気付いたことがあった。

「ひよこのかんていしって、ずーっと、ひよこ、ひよこ、ひよこ、ひよこ、ひよこ……って、めのまえがいっぱいで、よくわかんなくならない?」

「ハッ……!?」

竹林で目を塞いでいる男に、ぎゅうぎゅうに集まったヒヨコは無謀だろうと空は気付いてしまった。そして泰造も。

「あああ……ふわふわ……」

がくりと地に伏せた男の頭に、空はそっとフクちゃんを乗せてあげた。何だかとっても可哀想だったので。

「よし、全員配置に着いた。そろそろ始めるぞ」

フクちゃんがホピホピと泰造を尻に敷いて慰めて(?)いると、善三から声が掛かった。

怪異当番の二人が慌てて結界の端に行って座り直し、術の準備を始める。

「準備完了~! いつでもどうぞ!」

「同じく」

「よし」

二人が手を挙げると、善三は手に持っていた竹笛を口に当てた。美枝がタケノコをもらっている間に手持ちの細い竹で作った物だ。

それに強く息を吹き込むと、ピィー! と甲高い音が竹林に響く。少し遅れて、同じ音が遠くから幾つも返ってきた。

「行くぞ!」

善三は竹笛をしまうと竹林の奥に向かってゆっくりと歩き出す。

するとすぐに善三の周りに生えていた竹が、わさっと葉を揺らした。

「あっ!」

空はそれを遠目で見ながら、思わず声を上げ幸生の腕にしがみ付いた。少し離れた場所に生えていた太く長い竹が器用に身をしならせ、ぶんっと善三の頭上に真っ直ぐ襲いかかったのだ。

だが善三は気にした様子もなく、普通に歩いてその竹をするりと避けた。一瞬善三の動きがぶれたように見えたが、次の瞬間には竹のすぐ横を変わらぬ様子で歩いている。

頭をもたげた竹が身を捩り、今度は横薙ぎに幹を大きく振った。しかし善三は気付けばいつの間にかその幹の反対側に立っている。空はその様子を見てホッと息を吐いた。

善三は襲い来る竹を次々躱しながら少しずつ奥へと進んでいった。その背中が徐々に遠くなる。

「千里ちゃん、どう?」

「んー……いまのとこどこもそんなに変わりがないっぽいです……良夫の辺りが、ちょっとだけ反応が強い?」

「魔力は動きが感じられないですね。音も特には……いや、何か微かに変な音が聞こえるかな。だが竹が暴れる音が大きすぎる」

千里は遠見の術の視界をこまめに切り替えながら、前に進む六人を上空から見ている。今のところ竹林は踏み入った六人に大体平等に襲いかかり、それほど差があるようには見えなかった。

千里の視界に合わせて鏡に映る様子はめまぐるしく変わる。

空はそれを見ている雪乃の横からそっと覗き込んだ。

善三は相変わらず、普通に歩いているように見えながら竹の攻撃を避けてゆく。

良夫は竹に襲われると地面を蹴り、他の竹を一瞬足場にしながらピョンピョンと器用に跳んで避けている。

正竹と芳竹はさすがに善三の息子で、同じように普通に歩きながら、時折シュッと瞬間移動するような動きで竹を避けていた。

(わぁ……皆すごい、かっこいい!)

空はどの人が映っても、その信じられないような動きに目を見張るばかりだ。

特に佳乃子は、ある程度竹を引きつけてからフッと体重を感じさせない動きで跳び上がり、襲ってくる竹と竹の間をすり抜けるように避けていて、まるでアクション映画の俳優のようだった。

(こういうの、前世の映画で見た気がする……! 銃弾とか、そういうの避けるやつ!)

空はこれを現実で見る日が来るとは、と思わずここが現実か疑うような気分で遠い目をした。

「……和義は避けていないな」

鏡に映った幼馴染みを見て、幸生が呆れたように呟く。

「かずおじちゃん、ぜんぶたたいて、ぺってかえしてるね……」

和義だけは避けることを選ばず、襲いかかる竹を拳で殴って弾き返していた。どうやら和義はいつでも変わらず、俺より強いやつに会いに行くタイプの男らしい。

しかし意外にも器用に加減し、殴り返した竹が折れるほどの力は込めていないようだ。弾かれた竹はビヨンビヨンと激しく揺れ、目を回したようにしばらく動けなくなっているが折れたりはしていなかった。

「和義は意外と器用だ。羨ましい」

幸生がそんな感想を零すと、隣でごそりと動く気配がした。

「米田さんにも、誰かが羨ましいとかあるんだ……」

泰造は頭にフクちゃんを乗せたまま、どこか呆然と呟いた。

「……俺は、力の加減が昔から下手だ。善三や和義のように器用にアレコレとは出来ん。特に若い頃は、俺が出る時は大体、周辺の被害も覚悟しての最後の手段だった」

村を襲う危機に対して皆が手を尽くし、もう他に手立てがないときにばかり幸生は呼ばれていた。だから幸生は、そうやって呼ばれることが昔は嫌いだった。

「だから俺は羨ましかった。弱くても、お前のように色々な方向に役に立つ特技がある者たちが、ずっと」

幸生は力が強過ぎたからこそ、誰よりもそれを制御する努力をしてきたのだ。

けれどやはり今もこうして留守番になることが多々ある。和義のように友の役に立てない事が少しだけ悔しい。

空は鏡から目を離し、そんな幸生を振り仰ぐ。

「じぃじ、いっつも、すごくかっこいいよ!」

「む……そうか」

「うん! あとで、ひめがみつかったら、じぃじのでばんもくるんじゃない?」

「ああ、そうだといいな」

そう言って祖父と孫は和やかに笑う。

泰造は目を開けて、そんな二人の姿をじっと見つめていた。