軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-47:頼もしい助っ人

空は六個あった朝食用のおにぎりを全て綺麗に平らげ、幸生が貰ってきてくれた三杯目の味噌汁を飲み干し――その間、ずっと皆の会話に耳を傾け、考えていた。

善三が忙しくなったのは、どう考えても米田家が原因だ。

竹細工師として大人気にさせてしまった事に、空自身も一役買っている。そこはさすがに少々申し訳ない。

自分に何か出来ることはないだろうかと空は考え、そして栄養を補給し目が覚めて回り始めた頭ですぐに一つの結論を導き出した。

最近出来た、なんか変な友達がいるじゃん、と。

「ね、ばぁば。ぼくにもそのつる、ひとつちょうだい」

「え、これ? 良いけど、何をするの?」

「ぼくのねー、ともだちで、たすけてくれそうなひとをよぶの」

空は雪乃から折り鶴を一つ貰うと、羽を開いて左の手のひらに載せた。これの使い方はこの間、保育所で鶴を作った後に雪乃が参考にと教えてくれたのだ。

空は雪乃に教わった手順を、頭の中で思い返した。

(えっと、確か決められた言葉を最初に言って、伝言を誰に届けるかを言って、それから伝言だって言ってたよね? ばぁばの鶴の場合は、「可愛い小鳥」だって教えてもらったから……)

空は鶴の背中に右手の指でちょんと触ると、魔力を少しだけ注いで言葉を紡ぐ。

「かわいいことり、ぼくのことばを、『まさいむらの、おしのたいぞう』にとどけてください……『たいぞうにいちゃん、じけんだよ! でばんがきたよ! たけざいくしのぜんぞうさんちに、いますぐしゅうごうだよ!』」

空が魔力を注ぐのを止めると、パタパタと鶴が羽ばたき出す。

鶴はふわりと手のひらから浮き上がり、村の中心部に向かって飛びたった。それを見送る空に、少々困惑した顔の雪乃が問いかけた。

「空、泰造くんって幸江さんとこの子よね? 友達って、いつ知り合ったの?」

「ほいくじょであったよ! なんかねー、ぼくとともだちになりたいんだって!」

「あ、そういえば非常勤だって言ってたわね……」

雪乃はまだ保育所で働く泰造とは会ったことがないらしい。そういえば泰造と空が友達になった日も、雪乃と泰造は顔を合わせていない。

雪乃が空を迎えに来たとき、泰造は「乗車率百五十パーセントってなにぃ……!?」と未知の世界に恐れ戦き泣き崩れていたので、置いて帰ったのだ。

まぁそれは今はどうでもいい話だ。

「何で泰造くんを呼んだの?」

「だって、たいぞうにいちゃんなら、きっとみただけでひめがわかるもん」

「何っ!? 本当か、空!」

空の言葉が聞こえたらしく、善三がガバッと顔を上げて詰め寄った。空はそんな善三にうんうんと何度も頷く。

「ぜったいみつけてくれるから、だいじょぶだよ!」

しかし、泰造の名を聞いた怪異当番の三人はどことなく複雑そうに、お互いの顔を見合わせた。

「泰造か……確かにアイツなら……でも鑑定能力はすごいけどなぁ」

「ちょーっと面倒くさいんだよね~」

「うむ……アイツがそう都合良く働くと思うか?」

三人がぼそぼそとそんな不安を話し合っていると、パタパタと走る音が聞こえてきた。

「あ、美枝ちゃん!」

竹川家に駆け込んできたのは、いつものワンピースとエプロン姿の美枝だった。よほど急いで来てくれたのか、息が荒い。

「おは、よう、緊急、だって言うから、ハァ、来たわよ」

「ああ、ありがてぇ! すまねえ美枝さん、朝から呼び出して……」

善三や正竹たちが頭を下げると、美枝は汗を拭きながら首を横に振った。

「ご近所なんだから、いいのよ。で、何があったの?」

「ああ、実は竹林の奥に、なよ竹の姫っていう寄生生物が出た可能性が……」

善三が美枝に事情を説明をしていると、しばらくして遠くからまた走る音が聞こえてきた。

泰造が来たのかと空が入り口の方を見ると、そこに現れたのは何と和義だった。和義は竹川家の敷地に飛び込む勢いで走ってきて、善三の前で器用に急停止するとぐっと胸を張った。

「おう、来たぞ善三!」

「はぁ!? お前は呼んでねぇぞ!」

「ああ、俺が呼んだ」

「いつの間に!?」

幸生は先ほど空が雪乃に鶴を貰ったとき、ついでに自分も一枚貰って和義に伝言を届けていたのだ。

「呼ばないと、後で何かあったとバレたときにうるさい」

「ったり前だ! つーか真っ先に俺を呼べよそこは! 水くさいじゃねぇか!」

和義は憎まれ口は叩くが幼馴染み二人のことを何だかんだ言って大事に思っているし、何より仲間外れが嫌いなのだ。それを幸生はよく知っている。

善三もまた、和義のそんな気質を思い返し、確かにと頷いた。

「……悪かったな。じゃあ、手を貸してくれ」

「おう、任せろ!」

和義が嬉しそうに笑い、自分の胸をドンと叩く。するとそこにまた誰かが走ってくる音が聞こえてきた。

「あ、こんどこそきた?」

「来たっぽいな……なぁ空、アイツを呼んで、本当に大丈夫なのか?」

「よしおにいちゃんも、たいぞうにいちゃんのことしってる?」

「ああ、まぁ同い年だし家もすぐ近所だし。多分、友達……いや、どうかな……幼馴染み?」

何故そんな間柄で疑問形なんだろう、と空が首を傾げると、ザザザッと敷地に滑り込むように入ってきた男が一人。

「空、来たぞ! 俺の出番だって聞い……た……ちょ、おま、何で……何でこんな主人公とか山の主級のがゴロゴロしてるとこに俺を呼ぶんだよおぉぉぉ!」

そう叫んで泰造はその場にくずおれ、ここが地面じゃなかったらゴロンゴロン転がりそうな勢いで嘆き出す。

「この面子じゃ俺が輝かねぇだろおぉぉ!」

「いやお前何しに来るつもりだったんだよ」

「ほら~、やっぱり面倒くさい!」

「全くだ」

同年代たちの感想は実にもっともだった。

しばし嘆いた後、泰造はすぐに立ち直った。

「だいじょぶだよ! ちゃんとかがやくから!」

と空が頑張って宥めたせいだ。

周りの視線はすっかり冷え込み、大丈夫かコイツ、という空気が漂っているが本人と空はあまり気にしていない。空と善三が事情を説明すると、泰造は理解したらしく自信満々の顔で頷いた。

「なるほど。じゃあ俺はその、『なよ竹の姫』ってのが寄生してる竹を見つけりゃ良いんだな? 簡単じゃん! そういうのなら俺に任せろ!」

「さすがたいぞうにいちゃん、たよりになるね!」

「だろぉ?」

空におだてられて、泰造はすっかり舞い上がっている。それを見ていた良夫は心配になって、泰造、と声を掛けた。

「お前、ホントにわかるのか? 大丈夫なのか?」

「チッ、んだよ良夫! お前にゃ負けねぇからな! この主人公野郎め!」

泰造はそう言って良夫をキッと睨むと、面白くなさそうに口をへの字に曲げた。これは確かに、友達とか幼馴染みという態度にはあまり見えない。

(泰造兄ちゃんは、すごく独特な罵り方をするなぁ……それ悪口なの?)

良夫は泰造の態度に慣れているのか、呆れたようにため息を吐いたが怒り出したりはしなかった。

「また意味わかんねぇこと言う……勝ち負けじゃないだろ。俺が心配してんのは、竹に襲われてもちゃんと鑑定できるのかってとこだよ」

「うっ……そ、それは……いや、でも俺だけが奥に行くわけじゃねぇだろ? お前だって行くんだよな!?」

「あはは、急に弱腰になった~」

「いつも通りだな」

そのやり取りを見ていた千里と菫が呆れたように首を横に振る。善三もため息を一つ吐いたが、何も言わなかった。

善三はしばし考え、それから顔を上げて今ここにいる人達をぐるりと見回し、前に出た。そして、全員に深々と頭を下げた。

「すまねぇが、皆、俺に手を貸してくれ。ここは俺が親から受け継いだ大事な竹林だ……三男の俺に一番竹細工や付与の才能があるからと、兄貴たちも俺にここを譲ってくれた。俺の代でここを失ったり、大きく損ねる訳にいかねぇ」

「父さん……」

正竹や芳竹が父のその姿に息を呑み、そして慌ててその隣に並んで同じように頭を下げた。

楓も五月も、奈菜も、竹川家の一員として同じように頭を下げる。

「絶対、姫に乗っ取られたり、更地にするわけにはいかねぇんだ。頼む」

「……駄目か」

「駄目に決まってんだろうがこの野郎!」

ぼそりと呟いた幸生に反射的に怒鳴り返して、善三はハッと我に返る。善三たちの前に立つ全員が、皆笑顔で頷いた。

「もちろん協力するわ」

「ええ。竹たちを鎮めるのは任せてちょうだい」

「私も、攪乱や囮くらいならできますよ。竹林が駄目になったら、タケノコが採れなくなっちゃうしね!」

雪乃、美枝、佳乃子がそう言って微笑む。

「怪異当番なんで……出来る限りは、頑張ります」

「あんまり役に立ちそうにないけど、出来ることは精一杯しますよ~!」

「後方支援を頑張ります」

「任せてください! なんたって俺が! この作戦の要!」

怪異当番三人ともう一人が、元気よく頷く。

「がんばろうね、じぃじ!」

「うむ」

「いやお前ら二人は帰っていいぞ」

「なんでー!?」