軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-16:次の日の朝

次の日の朝。

空は紗雪に優しく起こされ、ぼんやりと目を覚ました。隣を見れば、鏡の中で良く見る顔がすぐ近くにある。およそ一年ぶりのその光景は懐かしく、そして何だか少し切なかった。

「りく、おはよ」

「んー……そら、おはよ……」

体を起こして陸に声を掛けると、まだ半分寝ぼけているような声が返る。

空は一つあくびを零し、窓の外に目を向けた。今日は外は良いお天気のようだ。

「二人共、起きて顔を洗って、ご飯にしましょ。今日は良い天気だから、外で遊べるわよ?」

「そと……あそぶ!」

紗雪の言葉に陸はハッと目を開けてガバリと起き上がった。それからゴシゴシと目を擦り、ぱっちり目が開くと空の方を振り向く。

となりに確かに空がいる事を確かめ、陸はパッと花が咲いたような笑顔を浮かべた。

「そら、おはよ! なにしてあそぶ?」

「りく、おはよ。きょうはねー……」

外に行こうよ、と言いかけたところで空のおなかがぐるるるる、と盛大な音を立てた。

「……ごはんにしよ!」

「あはは、そうね。まずご飯食べなきゃ。お腹いっぱい食べて、遊ぶのはそれからね!」

「うん!」

陸は頷き、立ち上がるともそもそ服を脱ぎ出す。

空も服を脱いで、紗雪が渡してくれた服に着替えた。

「あ、これ……りくとおそろいだ!」

「ほんとだ!」

紗雪が用意した服は、水色と緑で色こそ違うが、全く同じデザインの色違いの物だった。

大きさもピッタリ同じで、空と陸は自分の着ている服とお互いが着ている服を見比べ、にこりと笑う。

空が東京にいた頃は、空の方が陸よりずっと成長が遅く、揃いの服を着ることはあまりなかった。空の服は陸のお下がりで事足りたし、普段着ているものはほとんどパジャマのような部屋着だった。

「なんか、ふたごみたい!」

「ふたごだもん!」

空が言えば、陸が応える。二人で視線を合わせれば、もうその高さに差は少しもない。二人共それが嬉しくて、顔を見合わせてくふくふと笑う。

「まま、ありがとう!」

「ありがとー!」

同じ服を揃えておいてくれた事が嬉しくて、空と陸は傍にいた紗雪に両側から抱きついた。紗雪は笑って二人を抱きしめ、それから両腕でそれぞれを抱き上げた。

「どういたしまして! さ、二人共ご飯に行くよ~! お兄ちゃんたちがきっと待ちくたびれてるわ!」

抱き上げられてキャアキャアとはしゃぐ二人を軽々と抱え、紗雪は足取りも軽く階段を駆け下りる。

「まま、ちからもちで、すごい!」

「すごーい!」

「そうよー、実はママって結構すごかったのよ?」

やはり母は米田家の人間なのだな、と納得しつつ、空は陸と一緒にはしゃいで笑った。

そんなやり取りの一つ一つが、空には全部楽しく、嬉しかった。

賑やかな朝食を終えた後。

「さて子供たち。ヤナと一緒にまた外に出てみるか? 今日は天気が良いのだぞ」

「いくー!」

ヤナが子供たちを見回して声を掛けると、陸が真っ先に手を挙げて頷いた。

昨日は昼寝から目覚めた後、雲が出て日が陰り冷たい風が吹いたので、子供たちは家の中で遊んでいたのだ。陸だけがまだ庭に出ていない。

「りく、あんね、ここのおにわ、りくのすきそうないしがいっぱいあるんだよ!」

「ほんと? りく、いしひろいしたい!」

陸が目を輝かせて言うと、昨日庭に出た樹と小雪が頷いた。

「そういえば、空が送ってくれたみたいな変な石がいっぱいあったよ」

「きれいなのもありそうだったよね!」

「ふふ、身化石探し、懐かしいわね。じゃあ皆で外に出てみようか」

「うむ、一緒に行くぞ」

ヤナと紗雪に連れられ、子供たちは上着を着て玄関に向かった。するとそこには幸生が何かを手に待っていた。

「じぃじ、どうしたの?」

空が駆け寄ると、幸生は無言で手にしたものを樹たちに差し出した。空はそれが何であるか、すぐにわかった。

「あ、わらじだ! いっぱいある……じぃじ、これみんなの?」

「……うむ。それぞれにある」

幸生はまだ空以外の他の孫たちに少々緊張しているらしく、言葉少なに頷いた。樹たちの方にも、寡黙で強面な祖父への少しばかりの恐れや遠慮がまだ垣間見える。

空はそんな兄弟たちに代わって草鞋を受け取って、とりあえず一番上にあった小さいものを陸に渡した。

「これはりくのね! で、こっちはおねえちゃん、おにいちゃん」

陸は草鞋を受け取って不思議そうにしていたが、空はそれを履かせるのはヤナや紗雪に任せ、一回り大きい物を小雪に、さらに大きい物を樹にそれぞれ渡した。皆戸惑いつつも受け取り、口々に幸生にお礼を言う。

そして、最後にもう一つ大人物のような大きさの草鞋が残った。

「このおっきいの……あ、もしかしてぱぱの?」

「うむ」

空が見上げると幸生が頷く。玄関の端にいた隆之は自分の物もあると知って驚いたような顔をしていた。

「はい、ぱぱ!」

「僕の分まで……ありがとうございます、お義父さん」

「うむ。完全防御付きだから、それを履いて安心して過ごすと良い」

「か、完全防御……?」

それは草鞋に付けていい物なのか、と隆之の顔には書いてある。空はその気持ちがとても良くわかる、と思いながら隆之に草鞋を渡すと、慣れた様子で自分の草鞋に足を突っ込んだ。

「そらとおそろいだ!」

ヤナに紐を結んでもらった陸が、嬉しそうに自分の足元と空を見比べて足踏みをする。

一方おしゃれが好きな小雪は、初めて目にする藁で編んだ履き物を何だか嫌そうに見ながら足を通していた。

「えー、これふくとあわないんじゃない? はかなきゃだめ?」

「テレビとかで見たことあるやつだ! 渋くて良いじゃん!」

樹は特に気にせず足を通し、隆之と共に紗雪に履き方を教えてもらっていた。

「ままはいいの?」

紗雪の分はなくていいのかと陸が聞くと、紗雪は笑って頷いた。

「ママは危険なものはちゃんとわかってるし、負けないから大丈夫よ」

(……さすがママ。やっぱりママも、魔砕村育ちなんだなぁ)

この間の保育所の様子やルミちゃんが語った話を思い出し、空は思わず遠い目をした。

その視界に隆之の姿が入り、空は何となく父を見上げる。すると彼は眩しいものを見るような眼差しで頼もしい自分の妻を見つめていた。

(パパもある意味相当、精神が逞しい……)

自分よりも遙かに強い女性をそうと知りながら口説き、結婚して家庭を築き、その実家まで付いてきた男として、空は隆之をかなり見直したのだった。

安全対策もバッチリ出来たところで、杉山家の全員とヤナは一緒に庭に出た。

池の縁を通り、裏庭に回るとその広さに隆之が目を見開く。

「裏は畑なんだね。広いなぁ」

「私がいた頃より少し広くなったかな?」

「うむ。空が来る前に幸生が裏山の方に少し敷地を広げたのだぞ。空の為に畑で育てる野菜の種類を増やしたいと言ってな」

木々を幾らか切り倒したり移動させたりして、敷地を広げてその境界に柵を建て直した、とヤナは言う。

しかしそれを聞いた隆之は首を傾げた。

「空が来る前……え、そんなに短い時間で?」

「そんなもの、幸生にかかればあっという間なのだぞ。張り切りすぎて裏山を更地にしそうな勢いだったしの」

「ふふ、父さんらしい」

紗雪はそう言って笑ったが、それを聞いた隆之と空はよく似た顔でそんな紗雪の顔を見つめた。

「空、どうかした?」

「……ううん、なんでもない!」

父さんらしいという感想で済むのか、と驚いただけだ。

すると、不意に空の服がつん、と横から引っ張られた。

「そら、いこ! いしさがそ!」

「あ、うん!」

陸に焦れたように誘われ、空は頷いて駆け出した。

今の時期はまだ畑に作物は少ない。タマネギや菜っ葉の生えた畑はわかりやすいし、何かの種を蒔いたばかりの場所などは紐で区切ってある。

それらを踏んだりしないように、空は陸を連れて敷地の端へと向かった。

畑ではない部分には少しばかりの果樹や庭木、紫陽花や椿などの低木が点在している。

空はそれらの下を覗き込んだりして、適当な石をいくつか拾うと陸に見せた。

「りく、ほらあったよ!」

「わぁ……きれい!」

拾った石は三分の一ほどが青っぽく透き通った石だった。形は少々歪で、陸の好みからは少し外れている。

「ぼく、まるいのさがしたいな」

「じゃあさがしてみよ!」

「うん!」

丸い石が好きな陸は、自分でも木々の下や雑草の間を覗き込む。

樹や小雪も一緒になって皆で庭を駆け回った。

子犬のようにはしゃいで駆け回る子供たちを見守る紗雪たちは、空が別人のように元気になった姿にまた少しだけ目尻を拭った。

「空……あんなに元気になって」

「本当に良かった……」

去年までの空からは信じられないその姿を見て、二人は心から安堵を覚えた。