軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-6:春に湧くもの

「あらやだ、可愛い! 誰? この子が小鳥ちゃんのご主人?」

「ビッ! ビビビッ!」

ツカツカと近寄ってくる彼(?)の頭の上で、フクちゃんが空に近づくなと威嚇して髪の毛を引っ張る。

「うむ……わしの孫だ」

幸生はそう言って怯える空の体を高く持ち上げ、そのまま自分の首をまたがせて肩車をしてくれた。

寄ってくる正体不明の相手よりも視線がうんと高くなったことで、空は思わずホッと息を吐く。

フクちゃんはそんな空を見るとバサバサと飛び立ち、幸生の頭の上に着地して、宥めるように空に頬ずりをした。

「えー、可愛ーい! 幸生ちゃん、もっとよく見せてよ!」

「ダメだ。減る」

「そうだぞ! 減るから見るな!」

ヤナが下の方でライダースーツに包まれた長い足をガシガシと蹴っているが、本人は気にせずうろうろと幸生と空を左右から眺め回している。

空は幸生の頭にしがみ付きながら、自分を見上げるその顔を見下ろした。物珍しそうに空に向かう瞳は、近くで見ると金とも銅とも言えるような色合いで、どことなく金属質な光を宿しているように見えた。

さらに、よく見れば瞳の中心の黒い瞳孔が少しばかり横に長いことに気がつく。やはりどう考えても普通の人間ではないようだ。

まぁそもそも、普通の人間が地面から這い出てくるわけはないのだが。

「あの……お、おね? おに? いさん、だぁれ?」

顔を見るとお姉さんだが、体を見るとお兄さんだ。口調はオネエさんで、声は少しハスキーだがどちらとも取れる気がした。

空が悩みつつそう問いかけると、物珍しそうに空を見ていた顔にパッと笑みが浮かんだ。

「うふふ、お姉さんで良いわよ! 私はねぇ、山に住む蛙の化生……ってわかるかしら? 綺麗で強い蛙さんってことなんだけど!」

「か、かえるさん……?」

「何がお姉さんだ! オスだろうが!」

「あらやぁだ、どっちでもいいじゃないそんなの。どうせ両生類なんだし!」

空はその言葉に大きく目を見開き、相手の姿を頭から足先まで見下ろした。

長い黒髪に美しく整った顔、そして均整の取れた逞しい体。顔と体のバランスがちょっとおかしいが、一見すれば人間に見え、その姿には蛙らしいところは微塵も感じられない。

強いて言えば、着ているライダースーツの光沢がちょっとぬめっとした感じに見えるくらいだろうか。

それと両生類という言葉は、どう考えても性別に対して使うものではないはずだ。

空がそんな事を考えながら困惑していると、縋り付いていた幸生の頭がうむ、と頷いて揺れた。

「これはクルミノオモトという名のある大王アマガエルで、うちの裏山の更に奥にある山を根城にするヌシだ」

「あまがえる……ぬしさん……ええと、ぼく、そらです」

「空ちゃんね! 私のことはルミちゃんって呼んでねぇ!」

「ル……ルミちゃん……?」

あまり接したことのないノリにどんな返事をしたら良いのか、空にはよくわからない。それでもその名を呼ぶと、ルミは嬉しそうな笑顔を見せた。

「元は、山中の谷間に生えるクルミの大木の下に住み着く青蛙なのだが……まぁこの通り、少々変わっている」

「幸生、それで済ますな! こやつはヤナの縄張りを狙うけしからん侵入者なのだぞ!」

ヤナが手を振り上げて抗議するが、幸生は宥めるようにその頭を撫でた。

「これがいるから、奥の山が落ち着いているのは事実だ」

「幸生は甘い! お主の魔力を狙ってうろうろしておる相手など、さっさと追い払うべきなのだぞ!」

「ビッ! ビビッ!」

ヤナの言葉にフクちゃんも同意を示し、羽をふわりと膨らませて威嚇している。

しかしルミは気にせず、小さいものを可愛いと眺めるような眼差しで怒るヤナやフクちゃん、そして空を順番に眺めた。

「うふふ、やっぱり里には可愛い子がいっぱいいて楽しいわねぇ」

しかしその視線には嫌なものを感じなかったので、空は少し肩の力を抜く事が出来た。単純に可愛いものを眺めるのが好きなようだと少し安心する。

「ルミちゃん、かわいいの、すき?」

「そうなのよ! 私は綺麗系でしょ? 自分と違うものってやっぱり魅力的よねぇ」

空はもう一度ルミを頭から見下ろして、その言葉に頷いた。

顔は綺麗だし、体も均整が取れて綺麗だ。綺麗系、という言葉は間違っていない……とそっと内心で自分に言い聞かせる。

「うちの山って可愛い子があんまりいなくって残念だわ」

「そうなの?」

「そう、全体的にちょっと大きい子が多いのよね。化けられるようになる頃には、どうしても大きくなっちゃうし」

その言葉に空は、以前落とされたコケモリ様の山で見た巨大な影を思い出し、ぶるっと体を震わせ頷いた。

「だからもっと村に遊びに来たいんだけど、私も春夏は縄張りの維持で忙しいし……ここには結界もあるから、来れるのは龍殿が眠ってからで、それもこんなに小さな分体がやっとなのよね」

「ちいさい……」

幸生より少し背が低いだけのこの体で小さいという事は、本体は一体……と想像しかけ、空はそっと天を仰いでそれ以上考えるのを止めた。

「幸生ちゃんが私と契約してくれれば、もっと気軽に来れるんだけど?」

「いらん」

ルミは幸生にチラチラと上目遣いで視線を投げたが、幸生の返答はにべもない。

「ふふん、幸生にはヤナがおるからな!」

ヤナが勝ち誇ると、ルミは艶やかな唇をきゅっと尖らせ、ちぇっと可愛く拗ねるポーズを取った。顔から下を見なければ可愛い、と空は思う。

ルミはしばらく幸生に纏わり付いていたが、結局色よい返事はもらえなかった。

やがて空のお腹がくぅ、と可愛い音を立てた頃、そろそろ帰ると言いだした。

「さて、じゃあそろそろお暇するわね。今年の冬も幸生ちゃんの畑でよく眠れたし。毎年ありがとね! また冬が来たら、こっそり訪ねてくるわね!」

「来るなというのに! 次は絶対絶対、ちんけな蛙になったところを見つけて踏み潰してやるのだぞ!」

「あらあら、楽しみにしてるわぁ。あ、空ちゃん、良かったら私の山にも遊びに来てね?」

「ううん、いかない!」

空はそのお誘いに笑顔を浮かべ、全力で首を横に振った。

「やだつれないわ! 幸生ちゃん似なの!?」

巨大な蛙たちが住む山など、空は全然行きたくないのだ。ここはきっぱりお断りするに限る。

それを見たヤナが、ざまあみろ、と言ってイーッと口を横に引っ張り舌を出す。

それにブツブツと文句を言いつつ空たちに手を振って、大蛙だという謎のおねにいさんは米田家の門から外に出て山へと帰っていったのだった。

空はその夜、今日の出来事について画用紙にクレヨンで手紙を書いた。誕生日に貰ったクレヨンで家族に短い手紙を書くことに、最近空はハマっているのだ。

絵はあまり上手くないが文字には多少前世チートが発揮できるので、クレヨンを持つ力加減に苦労しながら、紙をいっぱいに使って手紙を書く。

『ルミちゃんはびじんで、ムキムキで、じぃじはもてもて』

それから、あの後で空は雪乃に、じぃじがルミちゃんにモテるのは良いのか、と聞いたところ。

「あら、どうせルミちゃんはばぁばには勝てないから大丈夫よ」

という返事だったので。

『ばぁばはルミちゃんよりつよいから、じぃじがもててもだいじょうぶ』

その手紙を読んだ東京の家族が一体ルミちゃんとは誰なのかと不思議がり、紗雪が説明に悩むのだが、それは空のあずかり知らぬところだ。

「けいちつは、なんかへんなのがおにわからでてくる! おぼえた!」

来年はきっと、ホラーでも怯えたりしないのだ。多分。