軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

128:決意と選択

「アキちゃん……でも、そのねがいは、このままじゃかなわないよ」

空は呟き、辺りを見回す。

微かな物音が聞こえて、空は駆けだした。

家の奥、明良たち親子が寝室としている部屋にそうと知らずに空は駆け込み、そこで明良を見つけた。

「アキちゃん!」

明良は敷かれたままの布団の上に横たわり、目を閉じて眠っていた。周りには明良の玩具や宝物が散乱している。

宝物や玩具を踏まないように走り、空は明良の傍にしゃがみ込んで肩を揺すった。

「アキちゃん、アキちゃん!」

「……そ、ら?」

何度か揺すると、明良が薄く目を開く。

「アキちゃん! よかった……おきて、かえろう! ね、おきて!」

しかし明良の反応は薄く、合わない視線はどこか遠くを見ている。

「おれ……つよくなって、ここにいたい……」

「つよくなるよ! ここにいられるよ! だから、かえろうよ!」

「でも……おれ、ねむい」

明良の反応は芳しくない。幾ら揺すってもすぐに目を閉じてしまう。空は焦った。

「アキちゃん、だめ! ねちゃだめ!」

「そら……ごめ……」

「アキちゃん……!」

目を閉じてしまった明良を見ながら、空はどうしたら良いのかと必死で考えた。

ここで明良を眠らせてはいけないことだけはわかる。そして、空が諦めれば明良が永遠に失われるだろう事も。

(そんなの……絶対やだ! アキちゃんは、僕の初めての友達なんだもん……もっと色んな事一緒にいっぱいやって、一緒に大人になるんだ!)

空は顔を上げ、天井に向かって声を張り上げた。

「フクちゃん、フクちゃん! ぼくのことひっぱって!」

自分と繋がるフクちゃんならこの声が聞こえていると、空は心のどこかで確信していた。

「ホピッ!」

「わっ!?」

どさ、と体が投げ出されて、空は驚いて叫んだ。目の前には自分の顔を心配そうに見つめるフクちゃんの顔がある。

ハッと気がついて慌てて立ち上がれば、そこはさっきと同じ暗い森の中だ。フクちゃんの光る体だけが周囲を照らしている。

「フクちゃん……きこえた? ありがとう!」

「ホピピッ!」

フクちゃんは嬉しそうに頷いた。

空はそんなフクちゃんをじっと見つめ、その首にぎゅっと抱きついた。フクちゃんは温かくてふわふわで、いつだって空の心を癒やし勇気をくれる。

空はぐっと唇を引き結ぶと、もう一度ナリソコネと明良の方を向いた。

二人はさっきと変わらず、ただそこにいる。

さっきと違うのは、眠る明良を巨大な目で見つめ、ぽたり、ぽたりと涙を流すナリソコネの姿だった。

空はもう一度二人に近づき、ポケットに手を入れた。

そして、金色の鏡餅の欠片を二つ取り出す。

小さな欠片と、四角い欠片。それをぎゅっと握って、空はナリソコネに話しかけた。

「アキちゃんを、のみこみたくない?」

『ノミコミタク、ナイ……チガウ……コウジャナイ』

「……なら、ぼくがかわりになる。ぼくが、きみと、けーやくする」

「ホピッ!? ビッ、ビッ!」

後ろでフクちゃんが慌てている声を聞きながら、空は手にした四角い欠片を自分の口に放り込んだ。少しでも自分の力が増すように願いながら。

真四角の鏡餅は硬かったけれど、顎に力を入れてぐいぐいと噛んでいると少しずつ柔らかくなる。

幾つかに砕けたところでゴクリと無理矢理飲み下し、温かいものが胃から体に広がるのを空は目を閉じて感じた。

それからまた目を開ける。

「アキちゃんを、すこしおろして」

空がナリソコネを見上げて頼むと、ナリソコネがぐっと身を屈めた。

「アキちゃん……ごめんね。アキちゃんのほしかったけーやく……ぼくが、よこどりするね」

空は明良の頬に触れる。頬は冷たく、今にも凍り付いてしまいそうだ。

空は明良の口に小さな金の欠片をぐいと押し込んだ。呑み込むかどうかはわからないが、それが助けになると信じて。

空は自分が薄らと光を帯びつつあることを確かめ、そして明良の体に手を伸ばす。

明良の体と、その向こうの、融合しかけているナリソコネの体に。

どうすれば良いのかは、何故だか何となくわかる気がした。

「ビビビッ! ビーッ!」

フクちゃんがいつになく低い声で鳴き、空のコートを引っ張った。

空は慌てるフクちゃんに振り向き、笑って見せた。

「だいじょぶだよ、フクちゃん。ぼくは……ぜったいだいじょうぶ! だからアキちゃんをおねがい!」

「ビッ!?」

「アキちゃん、すごくつめたいから、あたためてあげて!」

空はそう言うと、片手をナリソコネの腹に当て、もう片方の手で明良を引っ張り、思い切り押しやる。

「アキちゃんは、あげない! だから、かえして!」

ナリソコネは戸惑ったように身を震わせた。空は構わず、明良をぐいぐいと引っ張り、押し、僅かに動いた隙間に自分の体を少しずつねじ込んだ。

「けーやくは、ぼくがかわる! アキちゃんは、きみにあげない!」

空は自分の中の魔力が、自分の意思に従って勝手に伸びてゆくのを感じた。

それが明良とナリソコネの間に出来かけていた道に割り込み、繋がっていた部分を優しく解くように切り離し、ナリソコネから伸びる力の端を捕まえる。

なるべく明良に影響がないよう、空はそれを願いながら力の糸を解き、結び直していく。

意思が全てだというのなら、願えば、望めば叶うのだと、空は強く強く信じた。

そうしていると、明良の埋もれかけていた部分が少しずつ引き剥がされ、その体が徐々にナリソコネから離れていく。

「アキちゃんは、ぜったい、いえにかえる! きみは……きみはぼくと、おしゃべりしよう。そんで、もしなれたら……ともだちになろう?」

空の力は、空の願いを確かに叶えた。

やがて明良の体はナリソコネから解放され、ずるりと下に落ち雪の上に転がった。

その代わりに、空が伸ばした手の先は、ナリソコネにすっぽりと埋まっている。

けれど空には不思議と恐怖はなかった。それどころか、解放された明良を見て安心して笑顔が零れた。

「フクちゃん、アキちゃんをおねがい。だれかくるまで、まもってね」

「ホピ……」

フクちゃんは諦めたように空を見て、そして横たわる明良をクチバシで引きずり、自分の羽根の下に包み込んだ。

ふかりとした羽毛に包まれた明良を見て、いいなぁと空は暢気に思う。

「それ、かえったらぼくにもしてね」

そう言って笑顔で振り返った空を、黄色い瞳が戸惑ったように見つめている。

(……目玉焼きみたいだ)

空の意識は、そんな場違いな感想を最後に白く染まった。