軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間 ホルム村最強は誰だ?

ホルム村の夜は早い。

かつては日が落ちれば、恐怖の時間だった。だが今は違う。

村の広場には焚き火が焚かれ、若者たちが集まって「反省会」という名の雑談を繰り広げている。

「なぁ、結局のところ、この村で一番強いのって誰だと思う?」

若手のリーダー的存在であるトトが、鼻筋に走る古傷を指でなぞりながら問いかける。

その問いに、その場にいた全員の視線が交差する。

「そりゃあ、湊様を除いてって話だよな?」

「当たり前だろ。あのお方と比べようなんておこがましすぎるわ!」

「順当にいけばガルじゃない? 湊様のお力との適合率が一番高いし」

焚き火の縁で、弓手のピピが口を開いた。

赤毛のロングヘアを三つ編みにまとめたまま、炎の揺れに合わせて肩先で揺らす。

トトは悪戯っぽく笑いながら、隣に座るガルを小突いた。

「おい、やめろ」

ガルが顔を赤くしてそっぽを向く。

かつて湊を「よそ者」と罵り、真っ先に突っかかっていった彼だが、今では誰よりも湊をリスペクトしていることは周知の事実だ。

「そういえばお前、最初はほんと酷かったよな。『……へっ、口だけなら何とでも言えるぜ』とか言ってさ」

「ぐっ……! その話はもういいだろ!」

「『俺がこの村を守るんだ!』って威勢だけは良かったのになぁ」

「本当にやめてくれよ! 湊様はそれでもいいって言ってくださったんだぞ!」

ガルの悲痛な叫びに、広場が笑いに包まれる。

かつては殺伐としていたホルム村に、こんな穏やかな空気が流れるなんて、少し前までは考えられなかったことだ。

「でも、純粋な戦闘力ならガルだけど、キルスコアならピピ姉じゃない?」

そう発言したのは最年少で子機化を付与された斥候のニーナだ。

彼女の視線の先には、ピピがいる。

「ピピ姉の弓、最近おかしいもん。百発百中っていうか、魔物が動き出す前に射抜いちゃうし」

「それはニーナが囮になってくれるからよ」

ピピは静かに答えるが、その手つきには迷いがない。湊の教えを受け、彼女の「眼」は恐怖を見るためではなく、敵を穿つための照準器へと進化していた。

「いやいや、破壊力ならベルクだろ」

誰かが言い出し、全員が頷く。

焚き火の向こう、ひょろりと背の高い男が猫背のまま座っている。廃材置き場の主、ベルクだ。

口数はいつも通り少ない。だが、鋭い目つきだけは焚き火の輪から外れず、誰の話にも一拍遅れで刺さる。

その手だけが落ち着かない。膝の上で小さな歯車を弄り、針金を折り返し、いつの間にか「仕掛け」になりそうな形に整えていく。

先日の黒狼討伐のときも、廃材の罠で数体の狼を圧し潰した実績を持つ。

「……あれは俺の強さじゃない」

ベルクはボソリと呟くと、燃えさしの先で地面に線を引いた。直線が折れ、角度が生まれ、罠の図面になっていく。

誰よりも湊様を敬うくせに、本人の前では黙って工具を磨くだけの男だ。相変わらず、厄介なくらい器用だった。

「じゃあ、守備力最強はザザか?」

「俺は盾構えてるだけだからなぁ……」

焚き火の熱のそばで、ひときわ大きい影がもぞりと揺れた。

身長一九〇を超える巨漢――なのに、童顔が先に目に入る。ザザだ。

言い終えるとすぐ視線を落とし、気まずさを指先で揉み消すみたいに頭をかく。

膝に立てかけた廃材製のタワーシールドは、湊様が渡した“盾”だった。

鍋の蓋を重ねてきた頃の癖が抜けないのか、縁の歪みを撫でて確かめる手つきだけが妙に丁寧で、料理人のそれに見える。

いざという瞬間、その巨体ごと前へ出て、仲間の前から危険を消す――静かな鉄壁。

攻撃のガル、遠距離のピピ、罠のベルク、守りのザザ。

それぞれの分野で、彼らは確実に「一流」への階段を登り始めている。

かつては魔物に怯えていた彼らが、今では浅層のモンスターなら単独で狩れるほどに成長していた。

「……でもさ」

ふと、トトが声を潜めた。

「俺たちは強くなった。徴発で連れて行かれた親父たちが帰ってきたら、『こんだけ強くなったんだ』って胸を張れると思う。……けど」

トトの視線が、広場の隅に向けられる。

そこには、一人の少年と、彼に寄り添う巨大な影があった。

「この村『最強』は、間違いなくあいつだよな」

全員が無言で頷いた。

視線の先にいるのは、ポポだ。

そして、彼に腹を見せて甘えているのは二匹の狼――銀二と蘭丸。

この村を襲った魔物を湊がゴーレムとして再誕させた魔獣である。

「わふぅ、わふぅ!」

「よしよし、いい子だねー」

ポポが無邪気に頭を撫でると、銀二と蘭丸が嬉しそうに尻尾を振っている。

「……ポポには異常に懐いてるわよね。魔獣を手懐ける才能があるのかしら?」

「いや、あれは才能とかそういうのなのか?」

「ポポが『おすわり』って言ったら、ドラゴンでも座るんじゃないか?」

話題の中心になっているとは知らず、幼いポポは、湊から貰った甲羅のネックレスを宝物のように胸に抱き、無垢な笑顔で魔獣たちと遊んでいる。

「……ま、将来有望ってことで」

「違いない」

焚き火が爆ぜる。

最強談義は結論が出ないまま、夜更けまで続いた。

彼らはまだ知らない。

自分たちが将来、さらなる成長を遂げることを。

ホルム村の夜は、今日も平和だ。