軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42.他人の普通は誰かの異常

「まずいくつか質問をする。正直に答えろよ? 少しでも嘘をついてみろ。後ろの猿共に頼んで、その乳首の星が一生取れない呪いを掛けてやるぞ?」

「わ、分かった! なんでも正直に答える! だからそれだけは止めてくれ!」

よほど嫌だったのか、村長は何度も頷く。

いや、そんな呪いないけどね。ただのハッタリである。

「……ウッキィ?」

杖を持った魔術猿が、「呪い、掛ける?」って感じの声を上げる。

……俺に合わせてくれてるだけだよね? まさか本当にそんな呪いないよね?

ちょっと確認するのは怖いので、話を進めよう。

「じゃあ、まずは教えろ。どうして亜人を差別する?」

「へ……? さ、差別?」

俺の質問に村長はぽかんとする。

ともすれば質問の意味が理解できて居ないような。

そんな表情だ。

「とぼけるなよ。この村での亜人たちの扱いは知ってる。何故、あんな風に虐げる? 同じ人間だろ?」

「え……いや、それは、当たり前だろ? 亜人は人の罪の姿だ。彼らの罪を濯ぐためには、人に尽くさせることが義務だ。教典にもそう記されているだろ?」

村長はまるで当然のことのようにそう答える。

「……教典?」

「『純血教』に決まっているだろうが! お、お前、まさか知らんのか?」

すると村長はハッとなって俺を睨みつけた。

「そ、そうか! お前、『ぷれいやー』か! 奴らは強く、常識も知らず、ふざけた姿していると聞く……。通りでさっきから訳の分からんことを……」

「へぇ……」

そういやメイちゃんも初めて会った時に、プレイヤーについて言及してたな。

それなりに知名度はあるということだろう。

(……その割には他のプレイヤーには全然会わないけどな)

掲示板によればスタート地点は俺が居たグランバルの森を含め基本的に四つ。

プレイヤーの数はあくまで予想だが数百~千人程度は居ると、俺は考えている。

つまり現実との時間のズレや、プレイする時間帯の差もあるだろうが、それでも互いのログイン時間やフィールドが全く重ならないなんてことはないだろう。

オープンワールドだが、他のプレイヤーと共通しているのは掲示板等の一部だけなのか? それとも他に何か理由があるのか?

まあ、今は考えることじゃないな。

「俺がプレイヤーかどうかは今関係ない。俺の質問にだけ答えろ。余計なことを言えば、禿げにする呪いも追加するぞ」

「ヒッ……。わ、分かった。すみません……すみません。どうか、それだけは……」

俺の言葉に村長だけでなく、門番や他の奴らも一気に青ざめた。

……やっぱ禿げは嫌か。

分かるよ。俺も朝起きた時に枕についた抜け毛が増えてると落ち込むもん。

「じゃあ、次はその純血教について詳しく教えろ」

「わ、分かった。純血教とは――……」

村長から純血教について教えて貰った。

純血教とは、いうなれば『人間至上主義』の宗教だ。

人こそがこの世界で最も優れた存在であり、人が罪を犯すと、その重さ、罪状に応じて来世では亜人に生まれ変わる。

だから亜人にならぬよう、正しく生きなさい。

そして亜人を人のために使役することは、彼らの罪を注ぎ、来世は人間に生まれ変わらせるための尊い行いである。

まあ、ざっくり言えば、そんな感じだ。

「いやいやいや、おかしいだろ。死後の世界のことなんて誰にも分からないのに何で亜人が罪の姿だって分かるんだよ? それともこの世界じゃ、死後の世界を確認する方法でもあるのか?」

「何を馬鹿な。死後の世界を見ることなど出来るわけがないだろう」

「お前、秒で矛盾してるじゃん。じゃあ、どうして亜人が人の罪の形なのさ?」

「教典にそう記されているからだ! それを疑うなど不敬極まりないぞ!」

当然とばかりにそう主張する村長に、俺は内心、こりゃ駄目だと悟った。

当初の予定では呪いやハッタリで彼らに亜人に対する扱いを改めてもらい、メイちゃんや他の亜人が少しでも安心して暮らせるように出来ればと思ったがこれでは無理だろう。

宗教ってのはいわば死と差別への緩和剤だ。

死んだ後のことなど、誰にも分からない。分からないものは怖い。

だから死後の世界や転生、前世の罪といったわかりやすい処方箋を作ることで、今を生きる人々の不安を払しょくさせる。

分かりやすい差別対象でも居れば、更に上手く機能するだろう。

自分より下に誰かが居れば人は安心するのだから。

それが悪いことだとは言わない。人は理屈じゃなく感情で動く生き物だ。

ただ――いつの時代も、それを曲解し、悪用する連中はいるというだけで。

「じゃあ、亜人達もそれで納得してると?」

「それには我々も手を焼いているのだ。亜人どもは我らがどれだけ救いの手をさしのべても、それを理解しようとせん。ふんっ、きっと余程、罪が重いのだろうな」

……少なくとも亜人側も純血教を受け入れてるって訳じゃないのか。

そりゃそうだ。彼らにしてみればただの迷惑でしかない。

「ああ、だが羊人の連中は比較的、救いがあったな。いくら痛めつけても、我々に従順で重宝していたのだ」

「……」

「ついつい使い勝手が良すぎて、この村でもめっきり数が減ってしまってな。残ったのが、村の外れに住むガキ二匹だけ。まあ、それでも仕方ないからと、森の異変を調べさせたら、大火傷に呪いまで貰ってきやがったんだ。やはり亜人は役立たずだな。せっかく我々の与えた大事な仕事も碌にこなせ――ほげぅ!?」

俺は 村長(ハム) の顔面に思いっきり蹴りを入れた。

割と我慢した方だと思う。

そうだ。一つ、いいことを思いついた。

「ほがっ……おまっ、おまふぇ! 何をする!?」

鼻から血を流す村長に向けて、俺は出来るだけ優しく笑みを浮かべる。

「ごめんな。でも悪く思わないでくれ。これもお前たちの為なんだ」

「は……? な、なにを言って――おごっふ!?」

混乱している村長を、俺はもう一度蹴る。

蹴る、蹴る、蹴る。

他の連中もひたすらに蹴って、殴って、鞭で叩いた。

「ふぁ、ふぁにが俺たちの為だ! ふざけるな! な、なぜこんなふぉとを……!」

あらら、歯が抜けちゃってうまく発音できないのか。

「いやぁ、お前たちは知らないだろうが、実は俺ら『プレイヤー』はお前たち人間の上位存在なんだ。人間は、俺たちプレイヤーが生前に罪を犯して転生した姿。だから、こうしてお前たちを痛めつけてやることがその罪を償わせる唯一の方法なんだ。な? 分かってくれるよな?」

「ふ、ふざふぇるな! そんな馬鹿な理屈があるか!」

「あるんだよ、理解できないなんてかわいそうだな。でも仕方ないよな。罪の重さを理解してないんだから。だから、ほら、頑張って罪を償ってくれ」

殴る、蹴る、殴る。

村長も、門番も、他の連中も。

ボロボロになるまで殴った。……ひどく嫌な気分だった。

「はが……も、もうやめふぇ……」

「何言ってんだ? お前たちだって、亜人に自分たちの勝手な理屈を押し付けてきただろ? 俺が今やってることと、お前たちが亜人にしてきたこと。何が違うんだ? 教えてくれよ?」

「ッ……ふぉ、ふぉれふぁ……」

俺の言葉に、村長は目を逸らす。

「考えたこともなかったって面だな。自分たちの理屈をそのまま自分たちに適用されるなんてどうして思わなかった? どうして、自分たちの普通が、他人にとっての異常だって思わなかったんだ?」

「ち、違う! ふぁ、我々の教えはずっと昔からあって……ずっとそうだったから……だから……我々にとってはそれが普通で……当たり前で……」

「その当たり前がこういうことなんだろ」

もう一度殴ると、村長は何も言わなくなった。

「ッ……でも、そんな……じゃあ、私のしてきたことは……いや、でも……違う、違う、違うっ」

目を逸らし、ブツブツとうわ言のように違うと繰り返す。

そうだな。

人は簡単には変われない。

余程強い意志がなければ、変わるなんて不可能だ。

ましてや、それがずっと当たり前だと思ってきたことならなおのこと。

はぁ……もういい。こんなこと、俺だってもうしたくない。

「……なあ、亜人の国ってのはあるのか?」

「ど、どこかにはあるとは聞いたことはあるが、詳しいことは知らん……。ほ、本当だ! だが、最近あちこちで亜人を解放するとかいう訳の分からん連中が活動している。ソイツらなら何か知ってる……と思う」

なるほどね。

メイちゃんたちが安心して暮らせるなら、ソイツらを頼った方がいいだろうな。

もちろんソイツらのこともちゃんと調べる必要はあるが、このままこの村に居たところで、体よく使い潰されて終わりだろう。

「そうか、じゃあ最後に――」

俺が村長に最後の質問をしようとした、その瞬間だった。

『―――ギィィイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!!』

何かの叫び声が、聞こえた。

それは木々を揺らし、大地を震えさせるほどの大絶叫。

どこか猿の鳴き声を思わせるそれは、森の方から聞こえてきた。

「な、なんだ……?」

「キ、キキ……」

猿たちが怯えながら、信じられないといった表情を浮かべている。

その視線は、俺たちがやってきた方向――グランバルの森に向けられていた。

俺もそちらに目を向けて、絶句した。

「……なんだ、ありゃ?」

そこには森の木々よりも遥かに巨大な黒い猿の上半身が出現していた。

その表面は泥のように流動的で、その泥を浴びた木々が煙を上げて枯れてゆく。

異常としか言いようがない光景だった。

「ギィィァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

黒い猿は雄たけびを上げると、ゆっくりと這いずるようにこちらへ向けて動き始める。

その不気味さ、悍ましさに絶句していると、頭の中にアナウンスが響いた。

『特殊条件を満たしました』

『オープンワールドでのEXシナリオを解放』

『これよりEXシナリオへと移行します』

『メインストーリー3 EX『 籠鳥檻猿(ろうちょうかんえん) 』

『クリア条件 一時間生存する

敗北条件 メイメイ・メイ、メイメイ・ミィ及び特定のNPCの死亡

成功報酬 ポイント+500、女神の水晶、30,000イェン』

EXシナリオ。全てを賭けて挑むべき壁。

それがあまりにも唐突に始まりを告げた。