作品タイトル不明
115.デイリーダンジョン 共闘戦 その4
「井口、頭の中で俺の 従属(カード) になると念じてくれ。たぶん、それでいける」
俺がそういうと、井口は複雑そうな表情を浮かべた。
「カードって……今更ですけど、やっぱ今の私ってそういう扱いなんですね」
「仕方ないだろ。カードについては知ってるのか?」
「はい。あれ? でも私なんでカードについて知ってるんだろ?」
井口ははてと首を傾げた後、ハッとなる。
「でも、あれですよね? カードになったら、基本、先輩に絶対服従ですよね? その……先輩からのそういう行為とかも断れな――うぉぅ!?」
井口の顔面すれすれを通過するように、エイトさんの放った弾丸が通過する。
エイトさんはいつの間にか銃持っていた。
サイレント・バレッドという名の通り、音が一切鳴らない銃だ。
数字メインのエイトさんだが、銃、剣、槍系の武器は装備できるのである。
井口は驚きのあまり、口をパクパクさせている。
「……カードがプレイヤーに従うかどうかは基本、任意だよ。無理やり服従させるスキルもあるけどね。職場の後輩だったか? リュウが君にそういう事を強制するような下劣な人物に見えているのなら、私は君に容赦しないよ? 私は、私の友人を貶す輩がとても嫌いなんだ」
「は、はひっ……すびばせんっ」
ガタガタと怯える井口。
エイトさん、数字なのに迫力が凄い。
……でも、エイトさんも現実で似たようなこと言ってなかった?
エイトさんは口に手を添えてこちらを見てくる。
(私がリュウに言うのはいーの♪)
(なんでだよっ)
以上、アイコンタクトで行われたやり取り。
「エイトさんの言う通り、プレイヤーにはカードへの強制権はないよ。でもお前をこのままにしておきたくはない。他にも色々聞きたいことがあるし、俺たちと一緒に来てくれないか?」
「先輩……」
井口はしばし神妙な顔をした後、ゆっくりと頷いてくれた。
「分かりました。私、先輩のカードになります。えっと、頭の中で念じればいいんですよね?」
「ああ、それでいいはずだ」
「分かりました……あれ?」
目を閉じて念じたのだろう。
しかし、彼女は首を傾げた。
「どうした、井口?」
「いや、なんか今『所有者の権限なしに、移譲は不可能です』って声が聞こえたんですけど……」
「……なんだって?」
カード所有者?
井口は既に誰かのカードになっているってことか?
もしそんな奴が居るとすれば――。
「ッ……まさか」
「もしやと思ったが、そういうことか」
俺とエイトさんはほぼ同時にハッとなる。
「……ごめん、リュウ。私が早合点してたみたいだ」
「エイトさん、謝らないでくれ。あの情報だけじゃ、間違うのも無理はない」
俺とエイトさんの視線が交差する。
ほぼ同時に、同じ結論に達したのだろう。
「「彼女(井口)は『門番』じゃない」」
「……?」
俺とエイトさんの声が重なる。
井口は何のことかと首をかしげている。
彼女のカード所有者。
おそらくソイツこそが本当の門番。
ふと、どこからか明るい笛の音が聞こえて来た。
「おやおやおや、気付いたかな? 気付いたようだね? それは残念だ」
駅前広場に声が響く。
終末世界には不釣り合いなほどの陽気で明るい声が。
「あ……あぁ、あ……」
突如、井口が頭を押さえて苦しみだした。
「井口、大丈夫か?」
「そう、だ……思い出しました。私は、あの方に……アイツに捕まって……自衛隊の人たちと一緒に……ああああああああああああああああああああああ!?」
絶叫と共に、彼女は一枚のカードに変化する。
それは地面に落ちることなく、宙に浮かび、どこかへと飛んで行く。
「ッ……」
掴もうとしても、まるで手をすり抜けるように掴むことが出来なかった。
井口のカードが向かった先。
壊れた街灯の上に、誰かが立っていた。
全身が赤と白の縦じま模様。先端に球体を付けた尖った靴を履き、襟元にはフリルがあしらわれ、鶏のトサカを思わせるような先が垂れ下がった帽子をかぶっている。
手にバトンと角笛を持つその姿は総じて、 道化師(ピエロ) という言葉がぴったりと合う。
「どぉ~も、初めましてぷれいやーの方々。本日のメインイベントを務めますわたくし、『嘆きの門番』クラウン・レディオと申します」
『モンスター図鑑が更新しました』
『モンスター図鑑№22 嘆きの門番クラウン・レディオ
救世の鍵を守護する門番
かつて■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■
■■世界を■■■■■■■■共に破壊し■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■第一階層を■■■■■■■■■
討伐推奨LV25』
なんだこの情報は?
殆どが塗りつぶされて、読むことが出来ない。
「ふふ、わたくしはとても臆病な性格でして。ぷれいやーの皆様に情報をお見せしないように、少しばかり細工を施させて頂いております。あぁ。それにしても……」
ピエロはこちらをじっと見つめると、ぷっと噴き出すような仕草をする。
「ようやくここまでやって来たぷれいやーがまさかこんな愉快な姿をしているとは。わたくし、感動いたしました。この世界の『ふぁっしょんせんす』も捨てたものではありませんね。特にその胸の星が素晴らしい。わたくしも真似したいくらいだ!」
「……馬鹿にしてんのか?」
「素直に褒めたつもりですが?」
ピエロは「はて?」と首をかしげる。
マジで褒めてたのか?
なら、それはそれでムカつく。
「それにしても、この子達は役立たずでしたねぇ。まあ、所詮は現地調達。それもまた仕方のないこと」
角笛を腰に引っ掛けると、空いた手にカードが出現する。
その数は四枚。
井口と残りの三枚は、おそらく狙撃兵だろう。
奴はおもむろに、そのカードを重ねると――ッ!?
「おい! なにをしている! やめろ!」
反射的に、俺は『 脱衣(パージ) 』を奴に向けて使用する。
「おやおや?」
すると、四枚のカードとバトンが奴の手からすり落ちた。
ピエロが不思議そうに首をかしげている隙に、俺は茨蛇姫の鞭を使って、井口と狙撃兵のカードを手元に引き寄せる。
茨蛇姫の鞭は、枝のような細い鞭を無数に生やし、それらを自在に操ることが可能な武器だ。
かなり繊細なコントロールが必要で、まだまだ訓練中の武器だったが今回は役にたった。
「ほぅ、面白い武器だ。鞭が幾重にも枝分かれしたように見えましたが?」
「そんなことはどうでもいい。てめぇ……今、何をしようとした?」
「何って……こう、破こうとしただけですが?」
ピエロは空の手で、カードを破る仕草をする。
「役立たずには仕置きが必要でしょう? 返してくれますか?」
「断る」
「全く我儘なお客様だ。それにしても不思議な感覚ですね。手がモノを持ちたいと思っても、いうことを聞いてくれない。これは困りました。仕方ありませんね……」
ため息と共に、ピエロは驚くべき行動をとった。
片手で手刀を作ると、もう片方の腕を切り落としたのだ。
「!?」
だが血しぶきは舞わない。
落ちた腕は、地面に落ちる寸前、煙のように消えると、いつの間にか奴の腕が元通りになっていた。
新たに生えた腕で、もう片方の腕も切り落とすと、同じ現象が起こる。
新しく生えた腕を確かめるように見つめると、笑みを浮かべた。
「ふむ……不思議な感覚でしたが、再生後の腕には作用していないようだ」
地面に落ちたバトンが再び奴の手に戻る。
腕を再生させたのか。
まさか 脱衣(パージ) をこんなやり方で解除するなんて。
「カードは……まあ、いいでしょう。しばしの間、お貸ししましょう。ああ、しかし残念。そのカード、顔見知りだったのでしょう?」
その笑みが、三日月のように不気味に歪む。
「破り捨て、怒りと嘆きにくれるその顔を是非、拝みたかった」
下種野郎が。
「リュウ、アイツのレベル……」
「ああ、絶対におかしい」
討伐推奨LV25。
にもかかわらず、嫌な感じがずっと消えない。
自分の情報を塗りつぶせるんだ。
ひょっとしたら、この数字すら、塗り替えられた数字の可能性が高い。
「では『ぷれいやー』の力とやらを見せてもらいましょうか。イッツショウタイム!」
ふわりと、ピエロが街灯から降り立つ。
同時に奴の纏う威圧感が、数倍に膨れ上がった。