軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-16.ホムンクルスとエルフ(3)

「サトゥーさん! 薬師の婆ちゃんが来たよ!」

影狼の襲来の翌日、皆と一緒に破壊された壁や破片の後片付けをしていると、元気な 牧場主の娘(メリンナ) さんが駆け込んできた。

「どこに行けば会えますかと問います」

待ちに待っていた吉報に、オレより早くナナが反応した。

「わわっ、そんなに慌てなくても案内するよ」

顔がくっつきそうな勢いのナナに、メリンナさんもタジタジだ。

「案内は要らないよ。患者はここかい?」

そんなメリンナさんの言葉に被せるように、年老いた声が重なる。

「患者はこちら――」

「おやまあ、エルフ様じゃないか」

海千山千といった老婆が、ベッドに眠るミーアを見た瞬間、その場に跪いて祈りを捧げるポーズになった。

「お婆ちゃん?」

「お前らも頭を下げな。――いずれの氏族のお方か存じませぬが、ボルエヘイムで調合を学んだ人族のススキーナがご挨拶申し上げます」

ミーアが眠っているのを分かった上で、老婆が名乗りをあげる。

耳が隠れるようにしてあるけど、ミーアの青緑色の髪は特徴的だからそれで見抜いたのだろう。

「それでは診察していただけますか?」

「任せておきな。ボルエヘイムで受けた恩を今こそ返す時だよ」

老婆がギラリと眼光を輝かせる。

「ふむ、これは魔力欠乏症だね。自分の力量を超えた魔法を行使したか、やたら魔力を喰う魔法装置に魔力を吸い出されたか……」

「イエス・医師。姫は後者だったと告げます」

「なんだって! こんな小さなエルフ様に無茶をさせおって!」

ナナが答えると老婆が激昂した。

「『迷路』の起動に姫の魔力が必須だったのだと告げます」

「迷路? まさか、賢者の遺産かい?」

「イエス・医師」

老婆によると、エルフの賢者トラザユーヤの遺産に「迷路」と呼ばれる魔法の遺跡があると噂されていたそうだ。

話の流れからして、ミーアはナナのマスターが迷路を起動する為にミーアの魔力を限界以上に吸い出して、今の魔力欠乏症の状態にしてしまったのだろう。

まったく、児童虐待だね。

「治療は可能でしょうか?」

「もちろんだ。魔力回復薬、できれば中級以上のを飲ませればすぐに改善するよ」

良かった。

治療不能とかじゃなくて。

「早く姫に処方してほしいと懇願します」

「そうしたいのは山々なんだけどね……」

無表情で訴えるナナに、老婆が難しい顔をした。

「対価ならお支払いしますが――」

「金の問題じゃない。現物がないんだよ。魔力回復薬はあたしが訪問する村谷集落に需要がないからね。自分用の保険に下級の魔力回復薬があるけど、これじゃエルフ様の魔力欠乏症を治すには力不足だ」

それは困った。

やはり領都までひとっ走りして買ってくるしかないか。

「あんたレベルは?」

急に問われて驚いたが、老婆に今のレベルを告げる。

「それだけあれば十分だね。とはいえ、一人じゃ危ないね。同じくらいのレベルの者はいるかい?」

老婆の問いに仲間達が挙手して答えた。

「メリンナ、千尋の谷への行き方を教えてやりな」

「ゴレトの谷の事? あそこは魔物もいるから危ないよ」

「その坊やのレベルなら大丈夫だよ。そっちの蜥蜴人族の娘も強そうだ」

話を纏めると、ゴレトの谷という場所に魔力回復薬の素材を採りに行けという事のようだ。

「どんな素材を採取してくれば良いのでしょう?」

「簡単さ。谷の底に生える。光る苔を袋一杯にとってくればいい」

老婆がメリンナさんに袋を用意させる。

「苔だけでいいの?」

「ああ、他のは手持ちがある」

アリサの問いに老婆が首肯する。

オレ達はミーアの世話にルルを残し、他のメンバー全員でゴレトの谷へと苔採取に向かった。

「それにしても、谷なんてどこにあるのかしら?」

牧草地を横切っていると、アリサが周囲を見渡して疑問を投げた。

「フジサン山脈にはたくさんあったと告げます」

牧場からも東側に聳え立つ山脈がよく見える。

「ですが、地図に書かれた道筋は反対側のようです」

リザが言うように、地図は丘陵地帯の方に線が引かれていた。

「けっこう歩くんじゃないか?」

「てくてくてく~」

「ポチは散歩のプロなのですよ!」

オレの言葉にタマとポチが反応した。

とくにポチは散歩に出かけた子犬のように元気いっぱいだ。

「この花が気になる~?」

タマは気になるものを見つけると、とたとたと近付いて観察していた。

今回はタンポポみたいな花に顔を近付けて匂いを嗅いでいる。よく見ると花弁が水晶のような質感で少し透き通っている。

「それも薬草の一種みたいだね」

AR表示によると、ニニギ草という薬草のようだ。

「おう、あんびりばぼ~」

びっくりするタマに、ニニギ草という名前と薬効を教えてあげる。

「ご主人様、こっちの花はどうなのです? とっても良い匂いがするのですよ!」

「それは食用にできる花みたいだね」

食いしん坊のポチらしい。

「ミスター・サトゥー、あれを見てほしいとつげます」

散歩を満喫していたら、ナナが前方に何かを見つけた。

「なんだろう? 岩?」

「この目印の岩に違いないと主張します」

ナナが言うように、地図には岩っぽい絵と一緒に大きく「岩」と書いてある。

足早にそちらに歩み寄ると――。

「谷だわ」

「谷だね」

丘陵地帯を引き裂いたように、丘の陰に谷の入口があった。

オレは全マップ探査の魔法で谷を調査する。

ここは別マップのようだ。

マップを確認すると、谷の全容が見えてきた。

入口こそ狭いし、ここからはよく見えないが、ぐねぐねと折れ曲がっているので思った以上に長い谷だ。途中で枝分かれもしており、総全長は10キロくらいある。

目的の苔をマップ検索する。

意外と希少らしく、けっこう奥まで行かないと生えていないようだ。

オレは場所をマーキングし、皆に声を掛ける。

「それじゃ、谷に入ろう」

「薄暗いわね」

「イエス・アリサ。―― 魔灯(マナ・ライト) と告げます」

ナナの額に小さな魔法陣が現れ、彼女の理術による明かりが生まれた。

オレも魔法欄から生活魔法の「 照明(ライト) 」を使ってサポートする。

「にゅ!」

「眩しいのです」

オレを見上げていたタマとポチが、目をバッテンにして顔を隠した。

どうやら、薄暗さに慣れていた目で、オレの出した明かりをまともに直視してしまったようだ。

「ごめんごめん、先に言うべきだったね」

無詠唱は便利だけど、同行者に魔法行使が伝わらないのが玉に瑕だ。

ふと誰かに服を掴まれた感触がして、そちらを見る。

いつの間にかアリサの距離が近い。

「どうした、アリサ?」

いつものセクハラかと思ったけど、どうも様子が違うようだ。

「な、なんでもないわ」

アリサの視線が 忙(せわ) しなくあちらこちらを彷徨う。

「ヤモリや虫が怖いのか?」

苔も生えない岩場でも、岩陰に小さな虫や爬虫類が見え隠れしている。

「それは大丈夫なのよ」

そう応えながらもアリサの視線は落ち着かない。

詳しく話す気はないようなので、オレ達は目的地に向かって進む。

「前方にクモの巣を発見したと告げます」

ナナが言った瞬間、アリサがオレの腕にギュッと抱きついた。

「――なるほど」

「ちゃうねん」

アリサが首を横に振るが、身体は正直だ。

彼女はクモが苦手らしい。

「魔物のものですか?」

「ノー・リザ。普通のクモの巣だと否定します」

タマとポチがどこからともなく拾ってきた小枝でクモの巣を搦め捕って遊んでいる。

「心配しなくても、クモは頼もしいナイト達が排除してくれるよ」

棒きれ剣を持った小さな騎士二人が、オレの言葉に応えて「かっこいい」キメポーズを作ってオレ達を見た。

そんな二人の頭を撫で、オレ達は道を進む。

まあ、さすがにアリサがかわいそうなので、こっそりと生活魔法の「 害虫避け(バグ・ワイパー) 」を使って、道中の虫を排除しよう。

「あれ? 大きめの虫は逃げないね」

「生活魔法のスキルが低いからじゃない?」

なるほど、そういえば生活魔法のスキルレベルは1ポイントしか割り振ってなかったっけ。

ここはアリサの為にも、もう少し割り振ろう。

スキルレベル10はやり過ぎだから、スキルレベル5くらいでいいだろう。

スキルポイントを割り振ってから、もう一度「 害虫避け(バグ・ワイパー) 」を使うと、凄い勢いで虫達が逃げていく。これでクモも逃げるだろう。

「ミスター・サトゥー」

何度目かの休憩の時、水魔法の「 給水(ポア・ウォーター) 」で喉を潤していると、ナナが無表情に真剣な雰囲気でオレを呼んだ。

「何か魔力波のようなものを察知したと告げます」

「ポチも感じたのです!」

「タマもぴりぴり~ってした~」

三人によると、術理魔法の「 探知(ソナー) 」に似た波動を感じたとの事だ。

オレはマップを開いて、そんな事ができそうな相手を検索してみる。

――いた。

魔法使いじゃない。魔物だ。

コウモリの魔物が超音波代わりに魔力波を出したのだろう。

でも、何か変だ。

「ご主人様、どうしたの?」

「魔力波を出した魔物を見つけたんだけど――」

マップ情報をよく確認したら、コウモリの魔物が「捕縛」状態だと分かった。

その近くに、もう一匹いる。

「だけど?」

「そいつがクモの魔物の巣に捕まっているみたいだ」

オレの言葉を聞いたアリサが、「嘘でしょ?」と言いたげな切実な顔でオレを見た。

悪いけど、嘘じゃない。

「ま、まあ、でも? 今回の目的は苔だし、そんなヤツのトコに行く必要ないわよね」

すまない、アリサ。

「な、何よ、その顔は! まさか――」

アリサが愕然とした顔で叫んだ。

そう、そのまさか。

「苔の群生地はクモが陣取る場所のあたりなんだ」

「そ、そんにゃああ~」

アリサがムンクの叫びみたいなポーズで絶叫した。

それが面白かったのか、アリサの横でタマとポチが「あんびりばぼ~」「へんが大変なのです!」と楽しそうに叫んでいた。

まあ、クモはそんなにレベルが高くないし、なんとかなるだろう。