軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-17.ホムンクルスとエルフ(4)

「アリサ、歩きにくい」

クモ発見の報告から、アリサが背中に張り付いている。

「ミスター・サトゥー、前方にクモの巣を発見したと告げます」

「でろでろ~」

「なんかいっぱい垂れているのです」

隘路を抜けると、狭い谷の両側を繋ぐようにクモの巣が幾つも張られていた。

「な、なんで、こんなに巣が大きいの?!」

体育館でも埋め尽くしそうな規模をしたクモの巣を見て、アリサが後じさった。

「クモがいませんね……」

リザが周囲を見回し、ポチが鼻をすんすんさせ、タマが聞き耳を立てる。

「臭いはいっぱいなのです」

「音はしない~?」

レーダーにも赤い光点が見当たらない。

マップを確認すると――。

「クモは逃げ出したみたいだね」

光点はけっこう離れた場所に移動していた。

「なんでだろ?」

「 害虫避け(バグ・ワイパー) の魔法で逃げ出したんじゃない?」

元気を取り戻したアリサが「惰弱惰弱だじゃくぅ~」と勝ち誇る。

「何か動いたのです!」

「――ひっ」

ポチの言葉を聞いたアリサが、神速でオレに抱きついてくる。

本気で怖がっているのか、絡みつく手が痛い。

「これは肉~?」

クモの糸でぐるぐる巻にされた何かが動いている。

「クモに捕まった獲物のようですね」

「これはコウモリだと推察します」

ナナがぐるぐる巻からはみ出た翼を指さす。

「とどめを刺して 魔核(コア) を回収しましょう」

「あいあいさ~」

「らじゃなのです」

獣娘達が流れるような動きで、ぐるぐる巻のコウモリを地面に下ろす。

「待って! モリ助は助けてあげて」

アリサが素っ頓狂な事を言い出した。

「モリ助?」

「この子の事よ! コウモリは虫を食べるから、クモの子をいっぱい駆除してくれるはずだわ!」

魔物にそんな食物連鎖があるのかは分からないが、ぐるぐる巻の隙間から覗くコウモリの目が きゅるん(・・・・) と効果音が付きそうな感じでオレを見ている。

「分かった。逃がしてやろう」

このまま解体したら、コウモリ肉の串焼きとかを食べさせられそうな気もするし。

「承知」

獣娘達が蜘蛛の糸を切ってコウモリの拘束を解いてやる。

残念そうだけど、反論はないようだ。この埋め合わせに、何か美味しい肉料理を振る舞ってあげよう。

半分ほど解けたところで、コウモリがジタバタと暴れて自分で拘束から抜け出した。

空に舞い上がったコウモリが、キーキーと嬉しそうに鳴き、どこかへ飛び去る。

「さらばモリ助。蜘蛛の子をしっかり駆除するのよ!」

そんなコウモリにアリサがそんな要求をしていた。

視界に動きを感じて、視線をログ・ウィンドウに向けると――。

>称号「 調教師(テイマー) 」を得た。

>称号「魔物調教師」を得た。

>スキル「テイム」を得た。

そんな表示が増えていた。

指示出しをしただけで増えるとは思わなかったよ。

「それじゃ苔を採取しようか」

本来の目的はミーアの魔力欠乏症を治す薬の材料集めだからね。

「うわっ、蜘蛛の巣が髪についた!」

「ねちゃねちゃ~」

「蜘蛛の巣は てわごい(・・・・) のです」

年少組が蜘蛛の巣に難儀している。

けっこうねちゃねちゃしているので、除去するのも大変そうだ。

「――あっ」

試しにストレージに収納できないかなと試したら、オレが触っていた蜘蛛の巣に繋がっていた部分が目の前から消えた。

慌ててメニューを操作してストレージを確認したら、「谷蜘蛛の巣」というアイテムが収納されていた。

「ご主人様?」

アリサが胡乱な目で見る。

「これで作業しやすくなっただろ?」

「まあ、それで誤魔化されておいてあげるわ」

アリサが肩を竦める。

「苔を集めましょう」

「ういうい~」

「はいなのです。ポチは苔を集めるのですよ!」

皆で苔を採取し、少し湿らせた布で包んでアリサのアイテムボックスに収納し、帰路についた。

「ふん、なかなかの品質だね」

牧場に戻り、老婆に苔を手渡す。

「あとはあたしの仕事だ」

老婆が台所の一角を使って、魔力回復薬の調合を始める。

薬研や乳鉢などの分かりやすい道具に加えて、何に使うのかよく分からない板がその横に並ぶ。

「見てないで手伝いな」

老婆に指示されて苔に水を掛けて汚れを落とし、薬研や乳鉢を使って細かくすりつぶしていく。

>「調合」スキルを得た。

>「製薬」スキルを得た。

>称号「薬師見習い」を得た。

>称号「薬師」を得た。

ログにスキルや称号が並ぶ。

今のところは手伝いだからスキルポイントは割り振らないけど、ポイントに余裕ができたらぜひとも取ってみたいスキルだ。

「ふむ、丁寧な良い仕事だね」

老婆がそう言って、すりつぶした苔と何かを混ぜて調合を進めていく。

「ぼさっと見てないで、錬成板を広げて魔力を流しておきな」

「錬成板というのはこれですか?」

「見た事無いのかい? 四方の棒を立てて、手前の色の違うところに手を当てて魔力を流すんだよ」

言われてみれば錬成板の傍に四本の棒が置いてある。

錬成板の凹みに刺していけばいいのかな?

あとは魔力を流すんだけど、どうやればいいんだろう?

「このもの知らずが! 魔力の流し方も知らないのかい? 手を当てて右手から左手に流すんだよ」

「ありがとうございます」

口は悪いが、老婆は意外と世話焼きのようだ。

言われたように魔力を流す。

なかなか難しい。

>「魔力操作」スキルを得た。

>称号「錬金術師見習い」を得た。

ここは素直にスキルに頼ろう。

魔力操作スキルに1ポイント割り振って、スキルを 有効化(アクティベート) してみる。

1ポイントでもけっこう違う。

さっきより遥かにスムーズに魔力が流せる。

ポイントに余裕ができたら、このスキルにも優先的にポイントを割り振ろう。

いい感じだ。魔力を篭めると、錬成板に嵌まっている魔核っぽいのが光を帯びていくのが面白い。

領都に行ったら、錬金術関係の本や道具に手を出すのもいいかもしれない。

「魔力はそれくらいでいい」

老婆からストップが掛かった頃には、魔力残量がほぼゼロまで減っていた。

まあ、一晩眠ったら回復するだろう。

「ここからは集中するから、邪魔するんじゃないよ」

そう言って、老婆が錬成板の前を陣取る。

ビーカーみたいなガラス器具に水を満たし、下準備していた苔の混合物を入れながらかき混ぜる。

ある程度攪拌が終わったところで、老婆が錬成板を操作し始めた。

ビーカーの底面が光り、光を帯びた粒子がビーカーの中を滞留する。

「きれ~」

「とってもビュー フティル(・・・・) なのです!」

後ろで大人しくしていたタマとポチが、食い入るように光の乱舞を見守る。

そのままかぶり付きで見物する勢いだったが、それはリザが素早く捕獲して阻止していた。

老婆はその間も忙しなく錬成板を操作し、小刻みに魔力を調整している。

やがて光の乱舞が終わり、AR表示される液体の表示が「錬成物」から「中級魔力回復薬」へと変化した。

「ふう、できたよ」

老婆はそう言って、椅子に身体を投げ出した。

「さすがに中級の錬成は疲れるね。年寄りがやるもんじゃないよ」

「お疲れ様でした」

オレは労いの言葉とともに、冷たい水の入ったコップを老婆に渡す。

「気が利いてるじゃないか」

「ミズ・薬師、魔法薬ができたなら、すぐに姫に投与してほしいと懇願します」

ナナがずずずいっと前に来て老婆に訴えた。

「慌てるんじゃないよ。魔法薬も完成してからしばらく寝かせてから使わないと効果が下がるんだよ」

はて? AR表示では普通に完成しているけど、何か変わるんだろうか?

しばらく待ってみたが、AR表示に変化はない。

「まだですかと問います」

「まだだよ」

そんなナナと老婆の会話が幾度となく繰り返され、根負けした老婆が「分かった分かった」と言って椅子から立ち上がった。

やはり、AR表示に変化はない。

どうやら、老婆が休憩する為の方便だったらしい。

「これでいいはずだ」

老婆がミーアに魔法薬を投与する。

皆が固唾を呑んで見守る中、ミーアが 薄(うっす) らと目を開いた。

「きらきら」

何かをぼんやり見ていたミーアが、オレの方を見つめ、再び眠りに就いた。

「ミズ・薬師、ミーアがまた昏睡したと告げます」

「心配いらん、もう大丈夫じゃよ。目が覚めたら元気になっておる」

焦るナナを 遇(あしら) い、しばらくは安静にさせるんじゃぞと付け加えて老婆は部屋を出ていった。

「看病は私がやると告げます」

ルルに替わって、ナナがミーアの看病をする。

ミーアが寝ているのは以前の部屋ではない。オレ達が借りている部屋は影狼の件で半壊しているので、病人のミーアには小部屋を一つ融通してもらったのだ。

元の部屋は応急修理したけど、風にガタガタ音がうるさいし、隙間風も凄いからね。

明け方、ミーアの部屋に様子を見に行くと、ミーアが目を覚まし、ナナが甲斐甲斐しく世話をしていた。

「誰?」

ミーアがオレの方を見て問う。

神秘的な銀色の瞳だ。

「ミスター・サトゥーだと告げます。姫の治療に協力してくれたのだと報告します」

「姫違う」

ミーアに拒絶され、ナナが無表情のまま落ち込んだ雰囲気になった。

「きれい」

ミーアが焦点のあっていない瞳でオレを見る。

どこに綺麗要素があるのか分からないが、話せるくらいに回復したようだ。

「精霊使い?」

ミーアの唐突な問いに、首を傾げる。

さすがに精霊を使役するようなスキルは持ってない。

色っぽい水の精霊ウンディーネとか妖艶な森の精霊ドライアドがいるなら、会ってみたいね。

「いいえ、精霊さんにはお会いした事はありませんよ」

「見えない?」

ミーアが凄く不思議そうな顔をする。

普通は見えるものなのかな?

「何か食べれそう?」

「ん」

「ちょっとスープか麦粥でも貰ってくるよ」

そう言って踵を返そうとしたら、ミーアが服を掴んで首を横に振った。

「いて」

懐かれている理由がよく分からないけど、不安そうな顔をされては無下にもできない。

オレはミーアの看病をナナと交代し、ナナにはミーアの流動食を貰いに行くミッションを頼んでおいた。

「イエス・サトゥー。依頼を受託すると告げます」

そう言ったナナの顔は無表情ながら、すごく寂しそうだった。

ミーアが食事を取って眠ったら、ナナと看病役を交代してやろう。