軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-12.牧場

「サトゥーさーん! そろそろ牛達を牛舎に戻してー!」

「わかったー!」

遠くから声を掛けてきた 牧場主の娘さん(・・・・・・・) に了解の声を返す。

<次の目標は領都カゲゥス市だ>

――なんて言っていたオレ達だったが、ちょっとした出会いと御節介から、カゲゥス市の先にあるナフ村の牧場で働いていた。

決して爆乳の娘さんの色香に血迷ったわけじゃない。

「ご主人様、牛達を集めて参りました」

「ありがとう、リザ」

リザと一緒に牛達を牛舎へと連れていく。

たまに群れからはぐれようとする困った牛は、ポチとタマが牧羊犬よろしく群れの方に追い立ててくれる。

この牧場に来てから、思う存分運動できるからか、ポチとタマが楽しそうだ。

「ご主人様、牛舎の掃除は終わらせてあります」

「ありがとう、ルル。アリサは?」

「帳簿の整理とかで、牧場主さんのお手伝いに行っています」

相変わらず、謎のスキル外スキルを持つ奴だ。

「ご主人様、牛を房に入れました」

「完璧~?」

「次は水やりなのですよ!」

「タマもやる~」

リザが報告し、ポチとタマが真新しい水を汲んで水桶を満たす。皆、働き者だ。

オレは牛達が害虫に煩わされないように、生活魔法の「 害虫避け(バグ・ワイパー) 」を魔法欄から選んで使っていく。

牛舎は臭うので「 消臭(デオドラント) 」も掛けたいところだが、初日にそれをやって牛達から不評だったので、今はその日の作業が終わった後に、自分達に掛けるだけにしている。

「サトゥーさん、ご飯もうすぐできるから、水浴びでもしてきて」

「分かった」

食堂の扉が開いて牧場主の娘さん――メリンナがお玉をふりふり声を掛ける。

今度は食堂の手伝いか。働き者の女性だ。

「あー! ご主人様が鼻の下を伸ばしてる!」

「はなな~?」

「びよよ~んなのです」

アリサの登場に、タマとポチが意味も分からずに乗っかった。

「伸ばしてない」

思わず口元に手をやってしまったけど、断じてそんな事実はない。

「まー、いいわ。それより水浴びに行きましょ! わたしが背中を流してあげる」

アリサがぐへへと美幼女が台無しな顔で、手をわきわきとさせた。

「必要ない。いつも通り、生活魔法の『 柔洗浄(ソフト・ウォッシュ) 』と『 乾燥(ドライ) 』を使うよ」

これのお陰で旅の間も快適に過ごせた。

あの巻物を売ってくれた魔法屋の老店主や販売許可をくれたカゲゥス女伯爵には、幾ら礼を言っても言い足りないほどだ。

「ちぇー」

アリサが残念そうに口を尖らせた。

それをスルーして、汗だくの皆を生活魔法で綺麗にしてやる。

これはこれで凄く便利だけど、やっぱり、たまには湯船に浸かりたい。

湯沸かしに使える魔法を早めに覚えないとね。

「どう? 山狼は見かけた?」

「いや、君と会った時の一件だけだね」

カゲゥス市とこの村の分岐点付近で、ミルクの配達帰りのメリンナさん達が山狼の群れに包囲されているのを見かけ、慌てて助けたのが出会いだ。

なんでも、ここしばらく急に狼の群れが出没するようになったとかで、牧場の牛達や牧童さん達に大きな被害が出ているらしい。

オレ達は用心棒兼臨時牧童として、ここに滞在している。

「チーズがある!」

食卓に並んだ大きなチーズを見て、アリサのテンションが上がった。

「アリサちゃんのリクエストに応えてみたよ。暖炉はあそこだから、こっちの長フォークに刺して炙ってみて」

「うっほひーい!」

アリサが奇声を上げて暖炉に駆け寄る。

いつもは焼きたてソーセージに夢中なポチとタマも、今日ばかりはアリサの奇行が気になるようだ。

「何するの~?」

「チーズのヒトを焼くのです?」

「ふっふっふっ。まあ、見てたんさい」

不思議そうな二人に、アリサが思わせぶりに言う。

「あっ! チーズのヒトが溶けてきたのです!」

「垂れそう~?」

「ルルお姉様、スライスしたパンを!」

アリサがチーズを見つめたまま後ろ手に要求する。

「はい、これでいい?」

「バッチリよ!」

アリサがトロリと溶けたチーズをパンの上に載せる。

「これをやにわに喰らう!」

アリサが豪快にチーズ載せパンに喰らいついた。

「あちち」

食いちぎられた断面から、チーズが糸を引く。

それを目で追っていたポチとタマが、受け止めようと口をぱかりと開けて右往左往する。

とりあえず、落ち着きなさい。

「うんまい」

「ポチも! ポチもやってみたいのです!」

「タマもやる~?」

必死で訴える二人に、アリサが長フォークを手渡す。

「火傷しないように注意するんだよ」

「はいなのです! まずは、ポチからなのです!」

ポチの後ろにタマやルルが並ぶ。

リザまでその後ろに並んでいた。

オレと目が合うと、リザが気まずそうに目をそらした。ちょっと可愛い。

「あれ? メリンナさんまで?」

「あはは、なんか美味しそうで」

「牧場ではああいう食べ方はしないんですか?」

「チーズを料理に使う事はあるけど、暖炉で溶かしたチーズをパンに載せるのはやった事ないわ」

牧場の娘さんなら飽きるほど試してそうなのに、意外だ。

そんな風にわいわい楽しい夕食を摂っていると――。

「楽しそうな事をやってるじゃないか」

メリンナさんの父親で牧場主のケインツさんがやってきた。

相変わらず熊みたいな印象の人だ。

まあ、この人が獣娘達やアリサの髪色を差別しないでいてくれたお陰で、こうして気兼ねなく滞在できているんだけどさ。

「父さん、どうしたの? いつもは母屋で義母さん達と食べるのに」

「ああ、ちょっとな。牧場で何か気になる事は起きてないか?」

「特に気になる事は――」

「そうか」

オレの答えを聞いた牧場主が思案顔になる。

「何か気になる事でも?」

「御山沿いの村で亡霊騒ぎが起きたって噂が流れてきてな」

「――亡霊、ですか?」

ホラー系は遠慮したいんですが。

「あのー、その御山っていうのは?」

「フジサン山脈の事だよ、アリサちゃん」

メリンナさんの発言に、思わずオレとアリサは噴き出してしまった。

フジサンって富士山? なのに、山脈?

これが小説なら校正さんに「重言気味です」って鉛筆を入れられるところだ。

「ど、どうしたの二人とも」

「失礼。なんでもありません」

こんな時は 無表情(ポーカーフェイス) スキルが欲しくなる。

ポイントに余裕ができたら取ろう。

「そう?」

「ええ、ちょっと気管に入っただけです。それより、亡霊ですか? 山狼じゃなく?」

元々、オレ達がこの牧場に来たのだって、山狼の被害が大きいからって話だったのだから。

「そうなんだ。三つ向こうの村で子供が狼に襲われそうになった時に、頭を光らせた女みたいな亡霊が現れて、『よーせー』がどうとか叫びながら助けたらしい」

「それって、普通に女の人が助けてくれたんじゃ?」

二枚目のチーズのせパンを食べ終えたアリサが尋ねる。

「いや、助けられた子供の話だと、頭が二つあって、触手みたいに手が四本もあったらしい。それに死人みたいに首ががくがく揺れていたそうだ」

それは怖い。

「村人達も子供を探して森の中に入った時に見かけたらしいんだが、最後は頭を光らせて忽然とその場から消えたらしい」

まさにホラーだな。

「それで、その亡霊と狼の関係は?」

「それはわからん。だが、亡霊騒ぎと時を同じくして狼が出なくなったんだ。山沿いの村でも狼の被害が多かったはずなのに、ここ数日はピタリと止まっているらしい」

「群れがどこか遠くへ移動したとか?」

マップ検索した限りだと、狼の群れは山を離れて西方へと移動してしまっている。

まだ、はぐれ狼が近場をうろうろしているので、本職の牧童さん達が怪我から復帰するまでは牧場で警戒していた方がいいだろう。

「それだったらいいんだが、嵐の前の静けさって言葉もある。何か強大なバケモノがうろついて狼が逃げたのかもしれん」

「お父さん、さすがにそれは考えすぎじゃない?」

「まあな。俺だって信じてるわけじゃない。だが、その可能性があるって考えて備えておくのは必要な事だ。多少警戒しすぎたって、後で笑い話にするくらいでいいのさ」

牧場主がそう言って豪快に笑い、「夜中に亡霊を見かけたら言ってくれ」と言って、ポチとタマを怖がらせて去っていった。

しばらくは、夜中のトイレのたびに付き添いする事になりそうだ。

「ご主人様、それで本当に亡霊とかいるの?」

一応、マップ検索してみたけど、亡霊は見つからなかった。

もちろん、牧場主が恐れていたようなバケモノも見当たらない。レベル20以上で検索したから、漏れはあるかもしれないけど、さすがにそれ以下ならバケモノとは呼ばれないだろう。

「このへんにはいないよ」

オレの答えを聞いたタマとポチが安堵の吐息を漏らした。

リザだけは、亡霊と戦いたかったのか、少し残念そうに見える。

そして、そんな話を聞いた日の晩、オレ達は件の亡霊と遭遇する事になるのだった。