軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-10.馬車購入

「それじゃ、オレは馬車を買いにいくけど、アリサ達はどうする?」

「ほへ? どうするって?」

「疲れているなら部屋で休んでいてもいいぞ」

ぞろぞろと大人数で商業ギルドへ行くのもなんだし。

「わたしは大丈夫だけど、ルルはどうする?」

「わ、私も大丈夫です!」

そう言うルルだが、昨夜からのトラブルの連続に疲労困憊といった感じだ。

「2人とも、ご主人様命令だ。オレが帰ってくるまでゆっくり寝ていなさい。食べ物が入った袋と水を置いていくから、お腹が減ったら食べるように」

アリサは元気そうだが、そろそろ電池切れを起こしそうな気がしたのでそう言って1人で部屋を出た。

「――ご主人様!」

馬小屋に様子を見に行くと、棒を抱えてうとうとしていたリザが跳ね起きた。

彼女の足下では寝藁の上でポチとタマが丸くなって眠っている。

藁が鼻に入るのか、スピスピと鼻を鳴らして鼻先を掻く姿が可愛い。

「疲れているんだから、起きなくていい」

リザにちょっと出かけてくると告げ、彼女達の所にも食料と水袋を置いていく。

「お、お待ちください!」

リザが付いてこようとしたが、疲労しているようだったので、「ポチとタマを守れ」と命令して無理やり休ませた。

まあ、オレも疲れているけど、二徹三徹が当たり前だったデスマーチの経験があるので耐えられる。

「――あれか」

教えてもらった道を進むと、貴族街の手前に立派な建物があった。

オレは商業ギルドに入る。

中は活気に溢れており、海千山千な商人達がギラギラした目で商談をしていた。

キョロキョロと周囲を見回すと、銀行や市役所の受付みたいなカウンターが目に入った。

カウンターの上に吊り下げられた案内板に従って、新規受付の列に並ぶ。

列は短かったが、思いのほか時間が掛かった。

「本日はどのようなご用件でしょう?」

そう尋ねる受付のお姉さんもお疲れ気味だ。

「馬車と馬を入手したいのですが、商業ギルドで斡旋していただけないでしょうか?」

オレが用件を告げるとお姉さんの目がキラーンっと輝いた。

「いただけます! 良かった! 丁度、買い手を探している売主がいるんですよ! 主任! スニフーンさんの馬車を買いたいってお客さんが!」

その馬車は商業ギルドの主任さんの案件らしく、彼から紹介状を受け取って、 売り主(スニフーンさん) のいる商会へと向かう。

「随分若いな……。まあ、商業ギルドの紹介ならいいだろう」

そう言ってスニフーンさんが見せてくれたのは、片方は年季の入った幌馬車だ。中は結構広い。

「金貨10枚だ。若い馬や力の強い馬なら一頭でも曳けるが、長距離を走らせるなら二頭いた方がいいぞ」

「支払いは宝石でもいいですか?」

現金の持ち合わせがあまりない。

「俺は宝石の見立てはできん。商会の奴に売って現金にしてきてくれ。年寄り馬で良いなら、この馬車を曳いてた二頭を売ってやるがどうする?」

馬は一頭金貨5枚だった。

人間の奴隷より高い。

即決する前に件の馬を見せてもらったが、気性の穏やかそうな馬だったので馬車と一緒に購入する事にした。

「馬車はすぐに持って行くか?」

「私は御者ができないので、後日取りに来ていいですか?」

「御者ができる者はいるのか?」

「はい、それは大丈夫です」

ルルが荷馬車の御者経験があるそうなので、任せようと思う。

「今日は暇だから俺が運んでやるぞ。こいつらの走り納めもしたいしな」

スニフーンさんのご厚意で宿まで馬車と馬を運んでもらった。

ついでに、スニフーンさんから馬具の付け方や馬の手入れの仕方を教えてもらう。

明日にでもルル達に教えてやろう。まあ、ルルは経験者だから知っているかもしれないけどね。

「サトゥー、この後は何か仕事があるのか?」

「いえ、今日は夕飯を食べて寝るだけです」

「だったら、飲みに行くぞ! お前に馬たちのクセや旅の心得を教えてやる!」

――という事で、スニフーンさんと飲みに行く事になってしまった。

一度部屋に戻り、アリサに夜遅くなる旨を書いた手紙と外で夕飯を食べたくなった時の為に、少額のお金を置いてきた。

獣娘達はぐっすりと眠っていたので声を掛けなかった。こっちの3人は文字を読めないので、手紙を残す事はできない。アリサが食べに出かけるなら、リザ達も誘ってくれるだろう。

宿を出てスニフーンさんと合流し、行きつけの酒場へと向かう。

「ボーナ! 新しい客だ! 特別美味いエールを二つと羊モツ煮込みを山盛りで!」

「おお、スニフーン爺さんの孫かい? なかなか男前じゃないか!」

スニフーンさんが気安い感じで、ソバカスがチャームポイントな女給さんに注文する。

バストもウエストもボリューミーな感じだ。

「はいよ、特別美味いエール」

女給さんが木のジョッキに入ったビールっぽいお酒をドンッとテーブルに置いた。

置いた勢いで中身が零れるほどの勢いだ。スニフーンさんが「もったいねぇ」と言って、零れないようにジョッキに口を付けて啜る。彼はなかなかの飲兵衛のようだ。

「それじゃ、サトゥーの旅路の安全を祈って!」

スニフーンさんと乾杯し、周りの客も一緒になって杯を掲げる。

常連客は顔見知りのようで、スニフーンさんに「孫か?」と聞いている人が多い。

オレはそんな地元の人達を眺めながら、初エールに挑戦する。

――うげっ。

生ぬるいのもアレだが、純粋に異世界のエールが美味しくない。

アルコール度数が低くて、ちょっと苦みや酸っぱさが強い感じだ。それにクセが強い。後味は悪くないが、最初のかび臭い感じの違和感が凄いのだ。

オレは中身をストレージに直行させ、飲み干した振りをして女給さんを呼ぶ。

「エールのお代わりかい?」

「エールは十分堪能したので、他のお酒はありますか?」

「他の? ワインかシードルだね」

シードルというとリンゴ酒かな?

「どちらがお勧めですか?」

「そりゃあ、ワインさ」

「高いからな」

即答する女給さんに、スニフーンさんが突っ込んだ。

なるほど、値段の差か。ワインが口に合わなかったら、シードルを頼んでみよう。

「今日は自慢のミードを薦めないのか?」

「ミードは切らしているんだって店長が言ってた」

ミードというと蜂蜜酒だったかな?

飲んだ事はないから、一度飲んでみたかった。

まあ、無いものはしかたない。

オレはワインを注文する。

結論から言って、異世界ワインは酸っぱい。

ダメ元で頼んだシードルは美味しかったので、全部が全部マズいわけじゃないと思う。

店が混んできたところで退店し、もう一軒酒場を梯子しながら、スニフーンさんから旅の心得やエピソードを色々と聞かせてもらった。

「おっと、失礼」

二軒目の酒場を出たところで、誰かにぶつかりそうになった。

「おう、ヤヘル。お前のお陰で馬車が売れたぞ」

「スニフーンさんと――昼間のお客さんですね。ご成約、お祝い申し上げます」

スニフーンさんが言うヤヘル氏は、商業ギルドの主任さんの事みたいだ。

顔はうろ覚えだが、声はなんとなく覚えている。

「ヤヘルはこれから酒場か?」

「いえいえ、ちょっと色町の方へ」

「お前もいい年なんだから、そろそろ遊んでないで所帯を持て」

スニフーンさん、その攻撃はオレに効く。

いや、今の身体は15歳。まだ「いい年」ではないはず。

「ははは、それはまたそのうちに」

「全く、困った奴だ。それで、どの店に行くんだ?」

「――え?」

スニフーンさんに尋ねられた主任が、呆気に取られた顔になる。

「俺はともかく、若いサトゥーには女を覚えさせないとな」

いえ、知ってますが。

「そうじゃないと、立ち寄った村で都会に出たいだけの女にいいように利用されちまうぞ」

スニフーンさんも若い頃、都会への足と初期資金を出させる為にハニトラされそうになった事が何度もあったそうだ。

うん、気をつけよう。

「なるほど、それはいけませんね」

主任さんの目がキラリと光った。

あれは沼に引きずり込もうとする顔だ。

オレは左右を主任さんとスニフーンさんに挟まれ、黒服に連行されるグレイの気分になりながら、夜のお姉さんがいるお店へと向かった。

会話を楽しむと言うよりは、Hな肉体言語で語り合うお店だったので、適当に嬢を選んでそれぞれ個室へと分かれる。

異世界のお姉さん達の献身的なご奉仕で、なかなか充実した夜を過ごせたよ。

そんなアダルティな日の翌日――。

「もう! 午前様どころか、朝帰りじゃない!」

宿に戻ると、宿前で仁王立ちしていたアリサに怒られた。

「あ、アリサ。ご主人様にそんな口を利いたら――」

ルルも一緒だが、怒り心頭のアリサを止めようとしている感じだ。

「いいのよ」

アリサがオレの襟首を掴み、くんくんと匂いを嗅いで顔をしかめた。

「ギルティ!」

よく分からないが有罪らしい。

「くうぅっ、香水の匂いをプンプンさせちゃって! どこの女よ!」

なるほど、服や身体に付いた移り香をチェックしていたらしい。

幼女に詰られると変な性癖に目覚めそうで怖い。

その扉は厳重に封をして、事象の地平面の向こう側へ放逐しよう。

「もう! そういう事がしたいなら、わたしやルルがいるでしょ!」

アリサが ぷんぷん(・・・・) と擬音が聞こえそうな顔で怒る。

「子供達に手を出す気はないよ」

「ルルだけって事?」

「ルルにも手を出す気はない」

いくらルルが美少女でも、中学生くらいの子に手を出すような悪趣味はない。

横で聞いていたルルがホッとした様子だ。

奴隷として売られ、見ず知らずの男と一緒に行動するのは不安だろうから無理もない。

「馬車の売主に誘われて断れなかったんだよ」

「馬車を買えたの?」

雑な言い訳だったが、アリサには通じたらしい。

「ああ、中庭に置いてある。見に行くか?」

「うん! 見る! ルルも行きましょう!」

アリサ達を連れ、馬車が置いてある中庭に行く。

「ごしゅ~」

「ご主人様なのです!」

「お帰りなさいませ、ご主人様」

馬房の前で掃除をしていた獣娘達がオレを見つけて駆け寄ってきた。

アリサから聞いたのか、リザもオレが昨晩帰っていない事を知っているようだ。

「どの馬車? あの白い箱馬車?」

「はずれ。こっちの幌馬車だよ」

「えー、ずいぶん年季が入った馬車ね……」

アリサは気に入らないようだが、他の子達は興味深そうに色々とチェックしている。

「良い馬車ですね。前の持ち主が丁寧に乗っていたようです」

幌馬車を確認し終わったリザが言う。

「分かるのか?」

「少しは。馬車の整備をする奴隷仲間を手伝ったりしていましたから」

それは頼もしい。

「馬は馬房?」

「そうだよ。芦毛の二頭だ」

「名前はなんて付けたの?」

「そういえば付けてないな」

なんて名前にしよう?

馬と言えばハルウララとかトウカイテイオーとかかな?

いや、レジェンド級のメジロマックイーンやハイセイコーも捨てがたい。

いや、異世界でも実名はマズいか。

「それじゃ、ミギとヒダリで」

「ない! それはないわー!」

手頃な名前を付けたら、アリサに即行で否定された。

「せめて、ギーとダリーくらいになさいよ!」

「じゃあ、それで」

アリサの命名を採用する。

「えー、マジで?」

「お前が提案したんだろ? 馬の名前はそれで決定」

「しゃーないわね。わたしが言い出したんだし」

アリサも納得したところで、今日の予定を告げる。

「朝ご飯を食べに行ったら、買い物をしよう」

主な買い物はアリサとルルの日用品の購入だ。

今の彼女達は、ニドーレンのところにいた頃から着ている貫頭衣が一枚だけ、靴すら履いていない。

靴と着替え、それから替えの下着は必要だろう。

食堂で朝ご飯を食べようとしたら、宿と同じく亜人差別で入店を拒否されたので、露店を回って肉串とスープとパンを買って食べた。

最初の量だと獣娘達が食べ足りない様子だったので、肉串とパンを追加購入する。

野菜も食べさせたいのだが、サラダどころか芋料理以外の野菜を見かけないほど、露店の野菜料理はマイナーらしい。

「金はリザに預けておくから、支払いはアリサがやってくれ」

「え? ご主人様は一緒じゃないの?」

「オレは他に買うものがあるから別行動だ」

「えー、ご主人様に下着とか選んでもらおうと思ってたのにー」

女性の買い物は長いから遠慮したい。

「タマは~?」

「ポチはご主人様と一緒がいいのです!」

そう言ってくれるのは嬉しいが、獣人差別のキツいこの国だと店に入れてもらえない気がする。

外で待たせたら、通行人に絡まれそうだし、どうしたものか。

「二人とも、ご主人様を困らせてはいけませんよ」

「ポチとタマも一緒に買い物に行きましょう! わたしがリボンを選んであげるわ! いいわよね、ご主人様?」

リザとアリサが助け船を出してくれたので、それに便乗する。

「もちろんいいとも。お金が余ったら食料品の追加も買ってきてくれ」

「オヤツも買って良い?」

「一人大銅貨一枚までだぞ?」

リザから「それは多すぎます」と言われ、一人銅貨三枚までに減額された。

オレは朝食後に皆と別れ、一人で魔法屋に向かう。

巻物と魔法の入門書が欲しかったのだ。

「売ってしまった、だと?!」

魔法屋に到着したら、中から怒鳴り声がした。ハスキーな女性の声だ。

なんだかお取り込み中のようだ。

ちょっと入りにくいね。