軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-3.出会い(1)

「ふう、ちょっと休憩」

オレは独りごちて、道沿いにあった手頃な岩に腰を下ろす。

休憩するオレを尻目に、人々が大荷物を抱えて道を進む。

鉱山都市との分岐点を越えると、街道を行く人の流れが一気に減った。オレは体力がなくて、他の人達がどんどん先に行くのでさらに人が減ったように感じるのだろう。馬車に便乗したかったけど、馬車は子供や年寄りや妊婦が優先で、その次は山盛りの荷物だ。

「たふへへ……ほひ……」

道の先の方から何か聞こえてきた。

道沿いに丘を回り込んでいくと、服を着た犬と猫が道行く人達に声を掛けては邪険にされている。

犬や猫が喋るとは、なかなかファンタジーだ。

AR表示によると、あの子達は犬人と猫人という種族らしい。

「 誰か(られか) 、 トカゲを(ろかえを) 助けて(らすけれ) ほしいのです(ほひーのれふ) 」

「 お願い(おねらい) ~」

ちょっと聞き取りにくい言葉を脳内で補完する。

「誰か、トカゲを助けてほしいのです」

「お願い~、トカゲ死んじゃう~?」

あの子達のペットのトカゲが怪我をしたのかな?

「うるせぇ、獣人ふぜいが気安く声を掛けてるんじゃねぇ!」

「――あうっ」

前を歩いていた男にすがりついた犬人の子が、思いっきり蹴飛ばされて路肩の草原を転がる。

おいおい、あんな小さな子供になんて事をするんだ。

「イヌぅ~」

慌てて猫人の子が、犬人の子の所に駆け寄る。

オレも道を外れ、二人のところに向かう。

「……ネ、ネコ」

「にゅ」

オレが近づいたのに気付いた犬人の子が怯えた顔をし、猫人の子が犬人の子を守るように両手を広げた。

「危害を加える気はないよ。怪我をしていないかい?」

「してるのです!」

オレがそう尋ねると、犬人の子が元気に立ち上がってそう宣言した。

この様子だと、怪我は打ち身程度かな?

一応、骨折していないか確かめた方がいいだろう。

「どこだい?」

「こっち、なのです!」

オレが尋ねると、犬人の子がオレの手を引いて駆け出す。

置き去りになった猫人の子が「イヌ、待って~」と慌ててついてくる。

――道?

草原に向かって駆けだしたのかと思ったら、雑草で隠れた獣道みたいな細い道があった。

細い道の先は岩場に繋がっており、岩場の合間に家らしきものが見えてくる。

人の気配はない。

たぶん、結構前に放棄された廃村のようだ。

犬人の子がそのうちの一軒に向かう。

「――な、何者です!」

廃屋の中に入ると、目の前に先の尖った棒を突きつけられた。

棒を持つのは橙色の髪と鱗を持つ 蜥蜴人(リザードマン) だ。

見た目だと分かりにくいが、一六歳の女性らしい。

話すたびに擦過音が混ざって聞き取りにくいが、先ほどの二人と同様に脳内で言葉を補完する。

「待ってなのです!」

「この人はいい人~?」

犬人と猫人の子がオレ達の間に割って入る。

「イヌ? ネコ? 二人、だけで、街道まで、行った、のですか?」

蜥蜴人の子が息も絶え絶えに二人に問う。

今気付いたけど、身体に巻いた布が赤く染まっている。薄暗くてよく見えないけど、彼女がいる場所の地面も黒っぽく濡れているようだ。あれが血だとしたら、かなりの出血をしているに違いない。

「――くっ」

「「トカゲ!」」

蜥蜴人の子が地面に膝をつく。

もう立つ事もできないほど弱っているようだ。

――早く医者に。

そう言いかけて、ここが日本じゃない事を思い出した。

――そうだ!

「これを」

オレは鞄経由でストレージから取り出したポーションを差し出す。

「ま、魔法薬?」

蜥蜴人の子は目を見開いただけで、ポーションに手を伸ばそうとしない。

毒を疑っているのだろうか?

「毒じゃないよ」

オレはポーションの瓶を開封して、ほんの少しだけ口に含んでみせる。

「苦っ」

あまりの苦さに思わず涙目になりかけたが、ぐっと我慢して口に含んだポーションを飲み下す。

「大丈夫だろ? だから飲んで」

未だに手を伸ばさない蜥蜴人の子に、ポーションの瓶を押しつける。

「本当に飲んでも?」

蜥蜴人の子は散々逡巡したあと、そう尋ねてきたので首肯してやる。

「トカゲ~」

「早く飲むのです!」

猫人の子と犬人の子が促すと、蜥蜴人の子も観念したのか、意を決して苦いポーションを飲み干した。

――おおっ。

顔や腕にあった切り傷があっという間に塞がっていく。

「どうだい?」

「ありがとうございます。お陰で傷が塞がりました」

AR表示によると、蜥蜴人の子の 体力(HP) 値は全回復しておらず、状態も「内臓損傷」のままになっている。

貰ったポーションだと内臓損傷までは癒やせないのか、一本じゃ足りないのか、どちらかだろう。

「まだ治りきってないみたいだね。もう一本飲んで」

「で、ですが、奴隷の私にこのように高価な物は……」

――奴隷?

そんなモノまであるのか。

そう思って確認したら、AR表示される情報が増えた。

三人とも階級が「奴隷:主人なし」となっている。

「構わないよ。貰い物だし、気にしなくていい」

続けて「一本も二本も一緒だよ」と付け加えると、彼女は素直に二本目を飲んでくれた。

すぐにポーションは効果を発揮し、内臓損傷の状態異常が消えて体力値が全回復する。

「大丈夫みたいだね。お腹の調子はどう?」

「はい、痛みも身体のだるさも消えました」

蜥蜴人の子は治療中もずっと握りしめていた棒を地面に置き、オレの前で跪いた。

「若様の魔法薬のお陰で生き延びました。この御恩は決して忘れません」

「感謝~」

「ありがとなのです!」

蜥蜴人の子が平伏して頭を下げると、子供達二人もそれに倣う。

「どういたしまして、たまたま持っていただけだから、気にしなくていいよ」

そう言って、三人の頭を上げさせる。

「それよりも、打撲痕だけじゃなく刀傷もあったみたいだけど、何があったんだい?」

リアルだと厄介事に首を突っ込む趣味はないけど、どこかゲームみたいなこの世界なせいか、ついつい聞いてしまった。

オレはメインクエストはそっちのけで、サブクエストを消化するタイプなのだ。

「つまらない話で恐縮ですが――」

蜥蜴人の子がそう前置きして経緯を話してくれた。

彼女達の前の主人ウースは「ドブネズミ」という犯罪ギルドの長だったらしい。

「あの日、セーリュー市で上級魔族が現れたという日の事です。ウース様の身体が裂け、血塗れで現れた魔族がアジトの人達を虐殺して回ったのです」

その時の事を思い出したのか、犬人と猫人の子達が抱き合って震える。

そんな二人を、蜥蜴人の子が優しく抱き寄せて優しく頭を撫でた。

「私達は他の奴隷仲間と一緒に逃げ出しましたが、アジトの外にも魔族達が徘徊しており、街の人々を弄ぶように傷付けて回っていました」

それは地獄絵図のようだったと彼女は語る。

「細い路地を逃げ回っている間に、私達三人だけになっており、その時に『主人なしの奴隷』になっていると気付いたのです」

「それは分かるものなの?」

話が一段落するまで口を挟まないつもりだったけど、つい尋ねてしまった。

「はい、私達奴隷はウース様の許可なくアジトがある東街からは出られません。その命令に背いたのに、『罰』の激痛が来なかったのです」

おそらくは 前の主人(ウース) が魔族に殺されたせいで、命令が解除されたのだろうと彼女は言う。

「さっきの傷はその時の?」

「いいえ」

蜥蜴人の子が首を横に振る。

「イヌやネコと一緒に魔族から逃げだし、避難する人達の流れに乗ってこの近くまで来たのですが……」

そこで「ドブネズミ」の構成員に見つかり、トラブルになったらしい。

「自分達の奴隷にしてやると言われたのは別に構わなかったのですが、足手纏いはいらないと、イヌやネコを殺そうとしたので抵抗したら、争いになってしまいました」

なんとか相手を排除したものの、彼女も大怪我を負ったらしい。

なかなかハードだ。

――くるるるる。

彼女達のハードな話が一段落したところで、犬人と猫人の子のお腹が鳴った。

「お水を飲んでくるのです」

「一緒に行く~」

井戸ではなく、放置された桶に溜まった雨水が飲料水らしい。

「トカゲもお水を飲むのです」

「飲んで、くらさい~?」

犬人の子が蜥蜴人の子に水を運び、猫人の子が怯えた様子でオレに水が入ったコップを差し出す。

「ありがとう」

猫人の子から欠けたコップを受け取る。

オレの事が怖いだろうに、良い子達だ。

「食料は持ち合わせていないのか?」

「はい、ここまでは街道沿いの野草や虫を食べて、なんとか飢えを凌いできました」

おおっ、予想以上にワイルドな答えが返ってきた。

「ここ、あんまり虫いない~?」

「雑草さんもあんまり生えてないのです」

犬人の子と猫人の子がごくごくと水を飲む。

どうやら、喉が渇いていたんじゃなくて、空腹を水で誤魔化していただけのようだ。

「これを食べるかい?」

商人に分けてもらった干し肉の包みを、肩掛け鞄から取り出す。

「ちょっと硬いから食べにくいかもしれない――」

包みを開いた瞬間、三人の目が干し肉にロックオンされた。

よっぽどお腹が空いていたのか、目がギラギラしているうえに、口から涎がだっぱーと流れ出ている。

「三人で仲良く食べるんだよ」

「よろしいのですか?」

「遠慮なくどうぞ」

それでもなかなか手に取ろうとしなかったので、三人の手に三等分した干し肉を押しつける。

犬人の子がきょろきょろと他の二人を見た後、オレを見たので頷いてやると、目を輝かせて干し肉に食らい付いた。

それに釣られたのか、他の二人も干し肉に齧り付く。

小さな二人は はぐはぐ(・・・・) と必死に咀嚼し、蜥蜴人の子は噛み締めるように味わって食べている。

干し肉を食べ終わっても、小さな二人はもにゅもにゅと口を動かして、味を反芻しているようだ。

「もう少し食べられそう?」

食べ足りなそうなので、残りの食料を提供しよう。

次の集落である「サビレの街」には、ゆっくり歩いても今日中に行けるはずだ。

「はいなのです! まだまだいっぱい食べれるのですよ!」

「だいじょび~」

蜥蜴人の子は目をぱちくりさせて驚いていたが、小さな二人は元気よく答えて硬い黒パンやチーズの塊をパクパクと口に運ぶ。

よっぽどお腹が減っていたのか、オレ一人なら三日くらい持ちそうな量があっという間に、三人のお腹の中に収まった。

「ふひ~」

「お腹がぽんぽこりんなのです」

小さな二人は満足そうにヘソ天で地面に転がっている。

「も、申し訳ございません。若様の貴重な食料を!」

満腹になって我に返ったのか、蜥蜴人の子が必死で頭を下げ、「罰は自分に」と懇願する。

その様子を見た二人も、不安そうな顔で蜥蜴人の子の横に並んで頭を下げた。

「罰は必要ないよ。頭を上げて。オレが食べろって言ったんだから、気にしなくていいから」

そう言って説得してなんとか頭を上げさせた。

「ところで、君達は行く当てはあるの?」

そろそろ街へ行こうという段階で、蜥蜴人の子にそう尋ねてみた。

「それは……」

蜥蜴人の子が口ごもり、小さな二人も不安そうに互いを見る。

三人とも行く当てはないようだ。

「一緒に来るか?」

気がついたら、オレはそう尋ねていた。

当面の金はあるし、誰も知り合いのいない日々が、少し寂しかったようだ。

「よろしいのですか?」

そう尋ねる蜥蜴人の子に首肯してやる。

「わ~い」「なのです!」

小さな二人が飛び上がって喜んだ。

「このトカゲ、ご主人様に生涯の忠誠を誓います」

大げさだな~。