軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-48.サトゥーの帰郷(2)ポチとタマのグルメ旅

「いい匂い~?」

「何だかとっても気になるのです!」

ポチとタマがお店のガラスにペタリペタリと貼り付く。

東京グルメツアーに出発したはずのポチ達だったが、さっそく予定外のファストフード店に引っかかってしまったようだ。

「確かに美味しそうな香りですけど、ここは目的のお店ではありませんわよ?」

「醤油と砂糖と肉の匂い。肉じゃがに近い香りですね」

アリサの書いたグルメガイドを見ていたカリナ嬢とルルが首をかしげながら指摘する。

「でも、とっても良い匂い~?」

「ここは絶対に絶対に、おいしい店なのです」

「何の料理を出す店なのでしょうか?」

皆、興味津々だ。

「ここは牛丼屋さんだよ」

「ご主人様なのです!」

「わーい~?」

オレを見つけたポチとタマが左右から抱き付いてくる。

「ご主人様! リザさんやカグラ様達と アキバハラ(・・・・・) に行ったんじゃ?」

ルルが驚いた顔で尋ねてきた。

「もしかして、『遍在』ですか?」

「違うよ。遍在じゃないから、大した力は使えないけど、道案内くらいできるよ」

ここは他の神様の領域だから、ホムンクルスに分割した意識体を 憑依(インカネーション) させてみた。

「ここ入ろ~?」

「ご主人様も、一緒にギュードンのヒトを食べるのです!」

二人はどうしても牛丼屋さんに入りたいようだ。

「でも、ここで食べちゃったら、目的のお店で食べられないよ?」

「だいじょび~?」

「そうなのです! 肉はベツバラなのですよ!」

なら、本腹には何が入るのかと問い詰めたい。

「これくらいポチに掛かったら、お昼ご飯前のオヤツみたいなものなのです!」

「タマもいっぱい食べられる~」

二人から絶対に牛丼が食べたいという鉄の意志を感じる。

「カリナ、ルル、悪いけど、少し付き合ってくれる?」

「はい、大丈夫です」

「わたくしも大丈夫ですわ。少し、ギュードーンというのにも興味がありますし」

「うふふ、カリナ様、私もです」

どうやら、カリナ嬢とルルも牛丼屋に入ってみたいようだ。

まあ、牛丼の香りって、とってもお腹が空くからね。

四人を連れて店に入ると、妙に視線が集中した。

「もしかして、女性お断りの店なのかしら?」

「そんな事はないよ。きっと、カリナやルルが美人だから視線が集まったんだよ」

カリナ嬢の魔乳やアイドルも裸足で逃げ出すような超絶美少女のルルなら、お店の視線を独占しても不思議じゃない。

そう思っていたのだが――。

『何かの撮影か?』

『そうじゃなきゃ、牛丼屋にあんな美人連れで来ないって』

なんて客の会話が聞こえてきた。

なるほど、ちょっと場違い感があったか。

カリナ嬢はゴージャスな装いだし、ルルも避暑地を訪れている深窓のご令嬢みたいなコーディネートだ。ポチとタマも余所行きだしね。

「ご注文は?」

「お肉がいっぱい食べたいのです!」

「タマも~」

翻訳の魔法道具が上手く働いているのか、お店の人とちゃんと会話できている。

「えっと?」

「その二人には肉だく牛丼の超特盛りで、オレは並盛りで頼む」

しばらく日本を離れているうちに、メニューが色々と変わっている。

「あの……子供にはけっこう量が多いんですけど、大丈夫ですか?」

「無問題~?」

「大丈夫なのです!」

店員さんが心配してくれたが、タマとポチは不退転の決意で笑みを返した。

オレは店員さんに礼を言って、ルルとカリナ嬢に話を振る。

「二人は何にする?」

「わたくしもサトゥーと同じでいいですわ」

「私は牛皿定食というのにします」

そういえば牛丼ばかりで牛皿定食は食べた事無かったかも。

「お待たせしました」

「早い~」

「とってもすぴーでぃーなのです!」

はしゃぐ二人を見て、店員さんも笑顔になる。

「お肉がいっぱいなのです!」

「こっちの小鉢もお肉~?」

肉だく超特盛はただでさえ丼の上がお肉でいっぱいなのに、他に肉の小鉢まで付いてくるらしい。

「お肉が山盛りなのです!」

「わ~お~」

ポチが牛丼とは別鉢で来たお肉を、丼の上にガパッとひっくり返して肉のピラミッドを作っている。

タマもそれを見てすぐにマネをしていた。肉が丼からこぼれ落ちそうだ。

「わたくしもあちらを頼めば良かったかしら?」

肉だく超特盛を見た後だと、並盛りは少なく見えるよね。

「本番の店は別にありますから、あまりお腹いっぱいになっても食べられませんよ」

「そ、そうですわよね」

うらやましそうなカリナ嬢だったが、オレがそう指摘すると慌てて取り繕った。

もしかしたら、もう本命の店はどうでも良くなっているのかもしれない。

「牛皿定食お待たせしました」

「ありがとうございます」

ルルにお礼を言われた店員さんが顔を真っ赤にしていた。

「それじゃ、いただこう」

「「「いただきます」」」「なのです!」

皆で手を合わせて食事を始める。

カリナ嬢はお箸が苦手だったので、スプーンを貰った。こういうサービスもあるんだね。

「とってもとっても デリンジャラス(・・・・・・・) なのです!」

牛丼をぱくりと食べたポチとタマが、見えない尻尾をピンッと立てて感動した。

「にくにくにく~」

タマとポチが山盛りになった肉ピラミッドを攻略する。

はぐはぐと 直向(ひたむ) きに食べる姿が可愛い。

「肉が長くて、スプーンだけだと食べにくいですわね」

「なら、手伝ってあげるよ」

箸で肉を切ってやる。

普通は無理だけど、魔力がない地球でもこのくらいの芸当は朝飯前だ。この場合は牛飯前かな?

「この生卵は何に使うんでしょうか?」

ルルが牛皿定食に付けられていた生卵に首を傾げている。

「その鉢に割って、牛皿の肉を溶き卵に通してまろやかにしてもいいし、ご飯に掛けて卵かけご飯にしても美味しいよ」

「すき焼きみたいにして食べるんですね」

納得したルルがオススメ通りに食べ始める。

「甘い汁を吸ったゴハンが美味~?」

「はいなのです! 甘辛く炊かれたタマネギさんやホロホロのスジ肉さんもサイコーなのですよ!」

肉の層を突破したタマとポチが、その下に隠されていた白米ゾーンに到達した。

想像以上の速さだ。オレも食べないと、二人の方が先に食べ終わってしまいそうだ。

オレも箸を付けようとして、重大なミスに気付いた。

――紅ショウガを乗せていない。

天ぷらにするのも美味しいけど、やっぱり牛丼には千切りの紅ショウガを乗せないとね。

「それなに~?」

「美味しいのです?」

オレが紅ショウガを食べるのが美味しそうに見えたのか、タマとポチが興味深そうな目を向けてきた。

「二人も食べるか?」

「あい」

「はいなのです」

「合わないかもしれないから、少しだけね」

紅ショウガを小さなトングでつまんで二人の丼に入れる。

カリナ嬢とルルも興味がありそうだったので、そちらにも入れてやる。

「にゅ」

「ちょっと辛いのです」

二人の口に合わなかったようで、目をバッテンにして舌を出したので、二人の丼から紅ショウガを回収してやった。

「そんなに辛くはありませんわよ?」

「はい、丁度いい感じですね」

カリナ嬢とルルは大丈夫なようだ。

「あっ」

「しまったのです」

牛丼を味わっていると、タマとポチが動きを止めた。

「どうしたんだい?」

「お肉さんがいなくなちゃったのです」

「おう、みすていくぅ~?」

なるほど、白米が残ってしまったのか。

「生卵を頼んで、卵かけご飯にしてもいいけど――」

ここは武士の情けだ。

「すみません、牛皿二つください」

追加のお肉を頼んでやろう。

すぐに提供された牛皿を見て、タマとポチが「ぽち~」「タマなのです!」と言って抱き合って喜んでいた。大げさな。

「――ふう、ごちそうさま」

ご飯を半分くらい残すつもりだったのに、白米まで全部食べてしまった。

久々の牛丼だったので、ついつい堪能してしまったよ。

それはオレだけでなく、ルルとカリナ嬢もだったみたいで――。

「お腹がいっぱいになってしまいましたわ」

「はい、思ったよりもボリュームがありましたね」

「少し腹ごなしに歩けばいいよ」

カードで支払いを済ませ、「ご馳走様、美味しかったです」とお礼を言って店を出る。

昔は現金派だったけど、一度便利な支払い方法に慣れると戻る気になれない。個人店は手数料問題があるけど、おつりの交換やレジ締めが大変そうなチェーン店なら別にいいよね?

「すごい人通りですわね」

「今日はお祭りがあるんでしょうか?」

「この辺はいつもこんな感じだよ」

明治神宮の方はそうでもないんだけど、この通りはいつも混み混みだ。

「甘い匂い~?」

「あっちからなのです! あれはきっと美味しいのですよ!」

鼻をスンスンさせていたタマとポチが、目をキラキラ輝かせて振り向いた。

指さす先は、女子高生が持つタピオカのカップだ。

「まだ、売ってるのか」

とっくに廃れているかと思ったけど、なかなか根強い人気があるらしい。

「行ってみようか」

「はい」

ルルが苦笑しながら頷いてくれた。

どうやら、目的のお店に辿り着くには、なかなか険しい道がまっているようだ。