軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-47.サトゥーの帰郷

サトゥーです。 故郷(ふるさと) っていいですよね。海外に貧乏旅行するたびに、そう実感したものです。

秋葉原も久しぶりだなぁ。

リーングランデ嬢を日本に連れて行った事がバレて、皆に日本行きをねだられたのでやってきた。

ミーアとアーゼさんは耳を帽子で隠す程度の変装だが、獣娘達は幻影を重ねて本格的に変装している。元の姿もかわいいけど、人族っぽい姿も新鮮でいいね。

はじめは全員で行動していたのだが、皆の行きたい場所がバラバラだったので、午前中は別行動となった。

アリサはヒカルやシスティーナ王女や元鬱魔王シズカを連れて、腐女子活動をしに池袋へ。

ミーア、ナナ、アーゼさん、セーラは新宿や渋谷でショッピングを。

ルル、ポチ、タマ、カリナ嬢はグルメガイドおすすめの食べ歩きに。

秋葉原をリクエストしたカグラは、到着するやいなやリザとゼナさんを引き連れてゲーセンへと乗り込んでいった。

感慨深く周囲を眺めていたオレは出遅れてしまったわけだが――。

「佐藤氏」

懐かしい顔がオレを間違った名で呼んだ。

そこにいたのは、歩くたびにたぷたぷと脂肪が揺れるヘビー級プランナーのメタボ氏だ。

オレが異世界に行く直前まで、一緒にゲームを作っていた会社の同僚である。

「どこに行っていたんですか、佐藤氏!」

「知らない人ですね」

佐藤なんて知らない。

「とぼけないでください! 黙っていなくなるなんて佐藤氏らしくないですぞ!」

「オレは鈴木だ。佐藤じゃない」

「――あっ、これはとんだご無礼を」

鈴木と訂正したら、メタボ氏の舌鋒が緩んだ。

そういえばメタボ氏の本名って何だっけ?

「それで鈴木氏、今までどこに?」

「ああ、ちょっと外国に拉致られて、日本に帰れなかったんだ」

オレの雑な言い訳に、メタボ氏が驚く。

人がいい彼は、素直に信じてくれたようだ。

「すまぬな、田中」

ゲーセンに入ったはずのカグラがいつの間にかそこにいた。

さすがは竜神様。地獄耳だ。

『親切なわらわに随分な発言じゃな』

カグラから念話の抗議が届いた。

なるほど、さっきの「田中」は適当な呼びかけじゃなくて、メタボ氏の本名を教えてくれていたらしい。

そうか、田中だったか。

皆がメタボ氏としか言わないから本名忘れていたよ。

『わらわのさりげない配慮に気づかぬとは、さっしの悪い 男の子(おのこ) じゃ』

『ごめんごめん、後で何かお礼をするよ』

『楽しみにしておるぞ』

カグラと超高速で念話をやりとりする。

神格を得てから、こんな事もさらりとできるようになった。

「鈴木氏の娘さんかい?」

メタボ氏がカグラをちらりと見て尋ねてきた。

「いや、妾はこやつの嫁だ」

「佐藤さんがついにロリの魅力に開眼した! あんなに 頑(かたく) なに幼女趣味を否定していたのに!」

カグラの言葉を聞いたメタボ氏が感動している。

また「佐藤」になっているぞ、メタボ氏。

「ゼナ様、こちらにいらっしゃいました」

「カグラ様、急に消えたから心配しました」

リザとゼナさんがゲーセンから出てきた。

「新たな女人が! ご親戚かご家族? それとも奥さん?」

「そうだよ」

奥さんは家族だと突っ込みを入れたかったが、話を長引かせたくなかったので首肯しておいた。

「どっちが?」

メタボ氏がリザとゼナさんを見比べる。

「全員じゃよ」

カグラが余裕の表情で告げた。

「重婚?!」

メタボ氏が驚く。

まさか氷山の一角とは言えない。

話を逸らそう。

「それでメタボ氏、ゲームのリリースはちゃんと行けた?」

「それはまあなんとか。鈴木氏が仕上げてサーバーに置いておいてくれたおかげで」

それはよかった。ちょっとその辺が心残りだったんだよね。

「むしろ、その後のバージョンアップとか、サーバーの保守管理が地獄だったけど。そこは社長の人脈で何とかしてもらったんだ」

あの社長も色々と謎だ。

その人脈で早めにプログラマーの補充をしてほしかった。

「田中さん、お友達ですか?」

これはびっくり。

メタボ氏が女連れだ。

一瞬だけ、綺麗なお姉さんのお店の同伴出勤かと思ったが、彼女は違う。

確か、経理の山田さんだ。

「デートのお邪魔をしてもなんですから、オレ達はこれで――」

また飲みに行こうと約束して、メタボ氏と別れた。

「……イチロー」

カグラが深刻な顔でオレを呼んだ。

「ゲーム作りが恋しいかや?」

「そんな事ないよ。作りたかったモノはだいたい作ったし、また作りたくなったら、会社でも興せばいいさ」

だから、そんな顔はしないでほしい。

「その時は、わらわが社長をやってしんぜようぞ」

うん、カグラは物事を進める力があるから、社長に向いてそうだ。

リザとゼナさんはそれを微笑ましそうに見守ってくれている。

「では、行こうぞ!」

カグラに誘われてレトロゲームをはしごし、リザがレースゲーム、ゼナさんがリズムゲームで無双していた。意外と、対戦格闘は合わなかったみたい。

K○Fの新作が未だに出続けてくれているのは素直に嬉しかった。まあ、アキバの猛者達に秒殺されちゃったけどね。

続いて訪れた、同人ショップではカグラから幼女趣味全開の薄い本を激推しされたり、肌色多めの本を見たゼナさんに「不潔です!」と言われたり、日本軍艦擬人モノの食べ歩き本を見たリザが興奮して尻尾を揺らして近くの本タワーを薙ぎ倒したりしていた。

最後のは店員さんの手を煩わせる前に、カグラ以外のメンバーでサクサク修復したよ。

フィギュアショップでは――。

「錬金術師向けのお店でしょうか?」

「リビングドールの素材かもしれません」

ゼナさんとリザが真面目な顔で店内を見回していた。

完成品はともかく、組み立て前のパーツは、どことなく怪しげな雰囲気があるからね。

昼からは皆で合流して、アリサのリクエストで寄ったサイゼで昼食をとる。

そして、その後は本来の目的地――。

「イチロー、覚悟を決めよ」

実家のインターフォン前で躊躇うオレの背をカグラが押し、アリサが「ポチっとな」と言ってインターフォンを押してしまった。

「はい、鈴木です」

懐かしい声がした。

「サトゥー」

「頑張って!」

ミーアとアーゼさんが後ろから励ましてくれた。

他の子達も声にこそ出さないがオレを応援してくれているのがわかる。

「どなた?」

インターフォンの向こうの声が訝しげだ。

オレは意を決して顔を出す。

ちゃんとデスマーチ前の29歳の時の姿で、だ。

「えっと、――ただいま」

「イチロー兄ぃ!」

驚き顔の妹の声がブツッと途切れ、ドタバタという音に続いて勢い良く玄関の扉が開いた。

「イチロー兄ぃ、イチロー兄ぃ、本当にイチロー兄ぃだ!」

飛び出してきた妹が、そのままの勢いでオレの首に抱きつく。

なおも名前を呼び続ける妹の頭を撫で、詫びの言葉と再会の言葉を重ねた。

「あらあら、まあまあ」

のんびりした声の主は母さんだ。

声とは裏腹に、目を見開いて驚いている。

「ただいま」

「おかえりなさい、イチロー」

母さんの視線がオレの後ろに流れる。

「そちらのお嬢さん達はイチローのお友達?」

「「「妻です」」」

皆の声が重なった。

「それで本当の奥さんはどの人?」

「わらわが正妻じゃ」

「わたしも奥さんよ!」

「妻」

「ポチもお嫁なのです」

「タマも~」

妹の質問に、カグラや年少組が次々に答える。

一七人もいるとリビングに入りきらないので、隣接する和室の 襖(ふすま) も取っ払って、座れる場所を広げた。

ちなみに、ヒカルは自分の家に帰省中だ。

彼女もオレと同様に、失踪した事になっていたからね。

「はいはい、イチロー兄ぃは相変わらず小さい子にモテるのねー」

妹は全く信じられなかったらしく、適当な感じに流してしまった。

「それで、今までどこに行っていたの?」

「外国だよ」

「それはこの子達を見たら分かるけど――」

あまり追及しないでほしい。

「ただいま!」

玄関が開く音がして、男性の声が聞こえてきた。父さんの声だ。

「早くない?」

「イチロー兄ぃが帰ったって伝えたら、半休使って早退するって」

仕事人間の父にしては珍しい。

「イチロー、おかえり。今日はスキヤキだぞ!」

顔を出してそう言ったと思ったら、そのまま台所の方に行ってしまった。

ひさびさの再会のはずなんだけど、父さんは相変わらずな感じだ。

「ほら、母さん、俺の言ったとおりだったろ? あのイチローが行方知れずになるわけないって」

父さんがはしゃいだ声で母さんに言うのが聞こえてきた。

ごめん、本当は異世界に行方知れずでした。

「あんな風だけど、イチロー兄ぃと連絡が取れなくなってから、よくここで一人でお酒飲んで、イチロー兄ぃの写真に話しかけてたんだよ」

妹がオレのいない間の父さんの話を耳打ちしてくれる。

「愛されておるの」

カグラがオレをからかう。

「あ、お手伝いします」

「では、私も」

「食材の配置は任せてほしいと告げます」

母さんがすき焼きの準備を始めたのを見て、ルル、リザ、ナナが手伝いに向かう。

オレも手伝いに行こうと思ったのだが、一般家庭の台所に四人もいたら邪魔だと追い返された。

それなら――。

「追加の食材ならわたしが買ってくるわ」

「アリサだけじゃ危ないから、オレも一緒に行くよ」

「でしたら、私もご一緒します」

「タマもお手伝い~?」

「ポチだって手伝うのです!」

アリサが買い出しに付き合うと言うと、ゼナさん、タマ、ポチが手伝いを名乗り出た。

カリナ嬢やセーラも行きたそうにしていたが、あんまり多いと他の買い物客の迷惑なので、五人で行く。

ゼナさんが売られている食材の多さに目を丸くし、タマとポチがオモチャ付きのお菓子に目を輝かせ、和牛コーナーですき焼き用の肉の薄さに絶望の表情をしていた。

「ぺらぺーら~?」

「夢も 希望(ちぼー) もないのです」

まあ、普段から数十kg単位で魔物肉を食べているから、薄っぺらく感じるのも無理は無い。

「あはは、薄いけど、信じられないくらい美味しいから期待しなさい」

「本当なのです?」

「期待していい~?」

「もっちのロンよ!」

アリサの言葉に、ポチとタマが笑顔を取り戻した。

「けっこうお高いんですね」

「まあ、国産の肉は高めですね」

特に、今買おうとしているのはA4のお高いお肉だ。

今日は祭日だからか、いつもは置いていないA5のお肉もあったけど、これは還暦が見えてきた父さん達には脂が多くてキツいだろうから止めておいた。

「全部買っても、量が足りないね」

「あら、それなら注文したらいいのよ。――すみませーん」

アリサがスーパーの精肉コーナ前の関係者扉から声を掛けた。

どうやら、肉の加工をする人に、追加発注するようだ。

アリサの機転のお陰で、20kgほどの牛肉が買えたので、今日のすき焼きはバッチリだ。

帰りに量販店でカセットコンロとすき焼き鍋も三セット買っておいたから、調理スピードも問題ないだろう。

買ってきた肉の量に妹が目を丸くしていたが、食べきれるので安心してほしい。

「ルルちゃんは手際がいいわね。いいお嫁さんになりそうだわ」

「そんな、私なんて」

母さんに褒められたルルが頬を染めている。

もともと超絶美貌を持つルルがそんな表情をしたら、どんな朴念仁でも愛の言葉を囁きたくなるに違いない。

「わたしも! わたしも嫁だから、手際を見せつけないと!」

「ポチもいいお嫁さんになるのですよ?」

「タマも ぐっどわふー(・・・・・・) になる~?」

タマ、それは 良妻(グッド・ワイフ) と言いたいのかな?

「私もお手伝いしたいなー」

「わたくしだって、つ、妻として!」

「「「私も――」」」

なんだか手伝い競争みたいになり始めた。

「イチローがモテモテで、母さん嬉しいわ」

喜んでもらえて何より。

皆で、鈴木家の絶品すき焼きに舌鼓を打ち、大人メンバーはお酒、子供メンバーはゲーム大会に移行した。

「それで、孫はいつ頃になりそうだ?」

アルコールが入ったからか、父さんがぶっ込んできた。

大人メンバーと子供メンバーの双方から「きゃー」と黄色い悲鳴が上がる。

特にアーゼさんと未だに免疫が薄いカリナ嬢の二人は、アルコールとの相乗効果でゆでだこ状態だ。

余裕のある表情をしているのは――カグラだけみたい。

「わらわはいつでも子作りに応じるぞ。それこそ、毎日千人でも産んでみせよう」

カグラ、それは日本神話の神様――って、カグラは異世界の竜神であると同時に、日本の神様「 天之水花比売(あまのみずはなひめ) 」でもあるんだったっけ。忘れていた。

「わたしはいつでもドーンと来いよ!」

「私も子供はたくさん欲しいです」

「セーラ、順番ですよ。私も子供はたくさん欲しいですが、まずはアイアリーゼ様に産んでいただかなくては」

アリサが薄い胸を張ってカグラに続けば、セーラが名乗りを上げ、システィーナ王女がそれを制する。

「わ、私は、その、そんなに急がなくてもいい、かな。――あっ、でもでも、イヤってわけじゃないから、誤解しないで、その、あの」

話を振られたアーゼさんが抱きしめたくなるくらい可愛い。

このまま抱きしめてもいいんじゃないだろうか?

「サトゥー」

ミーアが頬を膨らませてビタっと抱きついてきた。

「子供、ほしい」

「ポチもいっぱいいっぱい産むのですよ! 犬人は多産なのです!」

「タマもいっぱい産む~? 猫人もタサン~?」

ミーアとポチとタマは、もう少し大人になってからね。

「「わ、私も子供は欲しいです」」

ゼナさんとルルの言葉が重なる。

「マスターの子供を産むと宣言します」

ナナが後ろから胸を押しつけてきた。

「まあ、そのうちね」

誤魔化したらブーイングが出た。

「そんなに急がなくても大丈夫だよ」

人生は長いし、神生はもっと長いんだから。

「うふふ」

母さんが笑う。

「この様子なら、還暦より先に孫を見られそうね」

母さんのその言葉に、皆が一斉に「任せろ」的な返事を返した。

まあ、追々ね。

向こうに戻ったら、しばらく寝かせてもらえない気がする。

まあ、今日のところは、久々の生家を堪能させてもらうとしよう。