軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-42.聖獣〔後編〕

サトゥーです。見る人によって正体の違う噂話というのは、昔の妖怪談なんかでたまに聞いた事があります。たいていは「正体見たりて枯れ尾花」ってヤツなんでしょうけどね。

「タマがいっぱいなのです!」

殺気だった猫人族の村人に囲まれているというのに、ポチはちょっと嬉しそうだ。

「タマはオンリー・ワン~?」

「もちろんなのです。タマは うちゅー(・・・・) にたった一人なのですよ!」

タマに抗議されて、ポチはすぐに前言を撤回した。

「 何を(あいお) ごちゃ(おちゃ) ごちゃ(おちゃ) 言っ てる(えう) !」

気が短い虎縞の猫人が怒鳴りつけてきた。

ちょっと聞き取りにくいし、脳内で適当に補正しよう。

「やあ、こんにちは。オレ達は――」

「うるさい! 人族はとっとと村から出ていけ!」

虎縞猫人はとりつく島もない。

彼の後ろにいる猫人達も、手に鍬や鎌などの農具を構えて殺気立っている。

「えーっと」

彼らにオレ達を害せるとは思えないけど、一度出直した方が良さそうだ。

「にゅ!」

タマが前に出てシュタッのポーズで挨拶した。

――挨拶、だよね?

「「「ニャ!」」」

猫人達が猫手にした両手を掲げ、片足立ちになって声を揃えた。

うん、訳が分からない。

「にょ!」

「「「ニュア!」」」

「にぇ!」

「「「ニョア!」」」

「ちぇあ! なのです!」

その後も、よく分からないジェスチャー合戦を繰り返し――途中からポチも参加してた。

最後に汗だくになった両者が熱い握手を交わしていた。

「良かろう。猫人の作法を知る者の群れなら入村を許可しよう」

額に三日月柄の模様がある村長らしき猫人が、そう言った。

そんな作法は初耳です。

タマは迷宮都市で猫人を始めとした知り合いが増えたみたいだし、その中の誰かから教えてもらったのかもしれない。

「タマ、お手柄ですよ」

「にへへ~、タマ頑張った~?」

「偉いぞ、タマ」

タマの頭をぐりぐり撫でる。

「ポチも! ポチも頑張ったのですよ!」

「いえすぅ~、援護、感謝~?」

ポチがぴょんぴょん跳びはねて主張したので、反対側の手でポチの頭もぐりぐりと撫でてやった。

「それでタマ坊達は何しにこの村に来たんだ?」

三日月猫人がタマに尋ねた。

男の子みたいな愛称だが、この村では男女関係なく小さな子供は「~坊」と呼ぶようだ。

「聖獣の祠の絵を描く~?」

「祠の? なんで、そんな事を?」

「ん~、頼まれたから~?」

タマはコテリと首を傾げる。

「描いて、いい~?」

「ああ、構わんぞ」

「せんきゅ~」

タマは足を投げ出して座ると、妖精鞄からスケッチ道具を取り出して祠の絵を描き始めた。

相変わらず上手い。

祠の向きや祠のある村々の配置からして、聖獣がいるのはここから西にある空白地帯だろう。

それは奇しくも、さっき見た黒い影があった方角だ。

「やっぱ、さっきの黒い影が聖獣なのかしら?」

そっちを見ていたら、同じ事を考えたのかアリサがそう言った。

「あれが聖獣様なもんか!」

三毛の少年猫人が噛みつくように言う。

「違うの?」

「あんな化け物が聖獣様のわけないだろ!」

「――と言われても、オレ達は化け物の姿も、聖獣様の姿も見た事ないんだ」

激昂する三毛猫少年を宥める。

「聖獣様はどんな姿なんだい?」

「すっごいんだ! 大っきくて強そうで、凄く凄いんだ!」

三毛猫少年は少ない語彙で必死に聖獣の偉大さを語る。

「凄いのは分かったけど、見た目はどんな獣に似ているの?」

「そんなの決まってる!」

三毛猫少年が挑むような語調で宣言した。

「真っ白な虎だ!」

「――真っ白な牡鹿だ!」

三毛猫少年の声に重なるように、中年獣人の声が重なる。

振り返った所にいたのは鹿人だった。

「違う! 真っ白なお狐様だ!」

鹿人の横でそう主張するのは狐人の女性だ。

「違う! 白虎様だ!」

「雄々しい牡鹿様だってーの」

「お狐様だってば!」

三人が言い争う。

「どういう事かしら? 聖獣が三種類いるの?」

アリサが困惑顔で言う。

「その可能性はあるけど、さきにこっちをどうにかしよう」

さっきから祠の絵を描くタマの耳が、神経質にピクピクしている。

タマの集中を邪魔したらいけないからね。

「お前ら、客人に絡みに行くな」

オレ達が行く前に、三日月猫人が仲裁に来てくれた。

「その言い方はないだろう!」

「そうだそうだ! 黒影が猫村に出たみたいだから様子を見に来てやったのに!」

鹿人と狐人が三日月猫人に抗議する。

「いや、それは感謝しているが――」

「この様子だと、被害は出ていないようだな」

「良かった良かった。だけど、聖獣様のお姿は譲れないぞ」

「だからそれは止めろ。どうせ、論争になっても決着がつかん」

「それもそうだな」

「仕方ない。今から三日三晩、口喧嘩をするわけにもいかぬか」

三日月猫人が再度宥めると、鹿人と狐人も渋々と矛を収めた。

「なんだか、日本のキノコ・タケノコ戦争みたいな感じね」

アリサがそんな事を呟いた。

確か、ネットで度々言い争いになるって、オレも聞いた事がある。

「ねぇねぇ、聖獣様ってどの辺で見かけるの?」

「西の禁域だ。危ないから近寄るなよ、人族」

「おい、鹿! それは余所もんには秘密だって言っただろ!」

アリサの問いに鹿人がうっかり答え、三日月猫人に叱られている。

やっぱり、西にある空白地帯にいるようだ。

タマが祠の絵を描き終わったら、ちょっと見に行ってみよう。

「にゃにゃにゃ」

「待て待てー!」

「鬼さん、こちらー、なのです!」

タマの描画を見ているのが暇になったのか、アリサとポチが猫人の子供達と遊び始めた。

「幼生体、これが『ひよこ』のヌイグルミだと告げます」

「だあああ」

ナナが猫人の赤ん坊をヌイグルミであやしている。

「幼生体、これは食べ物ではないと警告します」

「だあ? だあああ」

「カワイイはもっと優しく扱うべきだと――」

赤ん坊に振り回されながらも、ナナはどこか楽しそうだ。

「ミーア様」「弾いて」「楽しいヤツ」

「ん」

猫人の女児にリクエストされたミーアが楽しげな曲を奏でた。

集中しているタマにも聞こえているらしく、ノリノリな雰囲気で絵を描いている。

「へんなヤツらだ」

三日月猫人がオレ達に声を掛けてきた。

鹿人と狐人との言い争いは終わったようだ。

「村で困っている事はないですか?」

暇なので手伝える事がないか尋ねてみた。

「言ったらなんとかしてくれるのか?」

三日月猫人が皮肉げに答える。

「モノによりますが――」

「食べ物だ!」

「肉が足りん!」

オレの言葉に被せるように、鹿人と狐人が捲し立てた。

「そうなのですか?」

この村の南方は荒れ地が広がっていたが、西側には豊かな森がある。

狩猟が得意そうな獣人なら、幾らでも獲物をゲットできそうなのに不思議だ。

「穀物や豆類はそれほどありませんが、高原狼や熊の肉なら――」

「本当か?!」

「肉を分けてくれるのか?!」

鹿人と狐人が必死な感じだ。

それよりも――。

「鹿人も肉を食べるのですか?」

「喰うぞ。まあ、野菜や穀物の方が好きだがな」

草食動物みたいな歯並びをしているのに、やはり鹿と鹿人は別モノのようだ。

「肉を分けてもらえるのは助かるが、見ての通り貧乏村だ。大した対価はないぞ?」

「その心配は無用です。祠の絵と聖獣の伝承を聞かせていただければ十分です」

オレがそう告げると、三日月猫人があからさまにほっとした顔になった。

「まだ解体していませんが――」

そう言いながら獲物の運搬に使う「魔法の鞄」経由で、ストレージから熊や高原狼の死骸を取り出していく。

取り出した肉はリザやルルが解体を始める。

「おおっ! 凄いぞ!」

「すぐに運ぶ人間とロバを連れてくる!」

「三日月の! 独り占めするなよ! すぐに戻ってくるからな!」

狐人と鹿人が慌てた様子で、人手を集めに自分達の村に戻ろうとする。

「待ってください」

そんな二人を呼び止め、明日にでもそれぞれの村を訪問するので、その時に渡すと話し、ついでに二つの村で、聖獣の祠の写生と伝承の聞き取りの許可を頼んだ。

「そんな事か! 構わんぞ」

「うむ、肉のためだ。それくらいお安い御用だ」

鹿人と狐人が快諾してくれた。

肉の力は偉大だ。

「必ず来いよ!」

「歓迎の準備をして待っているからな!」

そう言って、何度も名残惜しげに振り返りつつ、鹿人と狐人がそれぞれの村に帰っていった。

解体は村の大人達が総出で手伝ってくれたので、思った以上に早く終わりそうだ。

村のご夫人達が、最初に解体が終わった熊肉を調理しだしたので、ルルと一緒に手伝いに向かう。

「シチューと焼き肉ですか?」

「ああ、それが宴の品だからね」

そんな事を話しながら調理していると、いつの間にか子供達が遊ぶのを止めて集まってきていた。

涎を垂らしながら、オレ達の手元をじっと見ている。

たまにつまみ食いしようと調理テーブルに手を伸ばして、ご婦人達に手を 叩(はた) かれて追い払われていた。

良い匂いがしてくると、絵を描いているタマの尻尾がたしたしと地面を打つ。

タマもそろそろお腹が減ってきているらしい。

やがて、解体を終えた大人達もやってくる。

「おおっ、ご馳走じゃねぇか」

「もうすぐできるから、子供みたいにつまみ食いしようとするんじゃないよ!」

「おおっ、おっかねぇ」

猫人達の会話を聞いていたら、田舎での盆や正月を思い出してしまう。

「――兄ちゃん、料理ができるまで一緒に酒でも飲もうぜ」

「行っておいで。こっちは人が足りてるからさ」

縞猫人に酒に誘われ、調理を仕切るご婦人に促されたので、そっちに混ざりに行った。

ツマミもなしに地酒らしき濁り酒を瓶から直飲みする感じだったので、収納鞄から人数分のカップとツマミ用の干し肉を配る。

「うまうま、なのです」

ポチが干し肉を欲しそうにしていたので、子供達にも干し肉や飴を配った。

酒を酌み交わしながら、大人達から聖獣の話を聞かせてもらう。

この村では聖獣は信仰の対象らしい。

信仰されるようになったのは――。

「終わった~」

タマがにゅーんと声を出して伸びをする。

「お疲れ様」

タマに

「上手く描けた~?」

「ああ、とっても 上手(じょうず) だよ」

なぜか祠が美味しそうに見えるのは不思議だけど、ちゃんとそっくりに描いてくれている。

「料理ができましたよ~」

「それじゃ、ご飯にしよう」

ルルが大きく手を振って呼んでくれたので、タマと一緒に宴会に合流する。

「美味しい!」

「肉がいっぱい入ってる!」

「秋祭りより贅沢!」

猫人達が大はしゃぎだ。

オレ達も猫人村の定番料理という山菜と肉のシチューを食べ、BBQ風の骨付き焼き肉を囓る。

なかなかワイルドだけど、野趣溢れる感じがいいね。

食後は満腹になった大人や子供が転がる広場を抜け、禁域の手前までという約束で、仲間達と一緒に西の森まで食後の散歩に出かけた。

「――あれ?」

西の森の奥、空白地帯との境界まで来た。

オレだけ空白地帯に一歩踏み出し、全マップ探査を使ってみたのだが、聖獣がどこにもいない。

「どしたの~?」

「お腹痛いのです?」

「大丈夫、なんでもないよ」

急に黙ったせいか、タマとポチが心配顔で見上げてきた。

「もしかして、いない?」

アリサの問いに首肯する。

「実在しないのかしら?」

「そうかも――」

言葉の途中で、木々の向こうから霧が出てきているのに気付いた。

「霧ですね」

「イエス・ルル。集落の猫人から、この辺りは霧が多いと聞いたと報告します」

「ご主人様、森から撤退しますか?」

「そうだね――」

ナナの報告を聞いたリザがオレに尋ねる。

「―― 一度、引き上げよう」

マップやレーダーがあるから、迷う事はないだろうけど、普通に足下が危なくなりそうなので、村に戻る事にした。

「サトゥー、来る」

ミーアの言葉が終わらないうちに、ミルクのように濃密な霧がオレ達を追い抜いて、周囲に満ちた。

「皆、止まって。霧が晴れるまで、その場で待機だ!」

こうも霧が凄いと足下が危ない。

「すっごい霧ね」

「ん、濃霧」

アリサに答えながら、ミーアがオレの腰に抱き着いた。

「あ! ミーア、ずるい」

ミーアに気付いたアリサが抗議する。

「ずるくない。迷子防止」

「あー、なるほろ。じゃ、わたしも」

「ポチもやるのです!」

「タマも~」

年少組が次々に抱き着いてくる。

「マスター、迷子防止に参加と告げます」

「あ、あの、ご主人様。私もいいですか?」

ナナが無表情で抱き着き、ルルがおずおずとくっついてくる。

「危ないからそのくらいにしておきなさい」

リザはそう言って、すぐ傍で周囲を警戒してくれている。

「――白い、竜?」

リザが呟いて一歩踏み出す。

あっという間に、リザの姿が濃霧に飲まれた。

「リザ、待って」

そう言って伸ばした手が、濃霧を空振りする。

「――リザ!」

「■ 風(ウィンド) 」

ミーアが素早く精霊魔法で風を生み出して霧を吹き飛ばす。

霧の向こうに、リザの尻尾が見えた。

「皆はここにいて」

オレはそう言ってリザを追う。

見えない足下に、蹴躓きそうになるが、悪路走破スキルを頼りに駆け抜ける。

――見つけた。

「リザ!」

「――ご主人様」

彼女の腕を掴み、引き留める。

「聖獣がいました」

「それより、止まって」

なおも進もうとするリザを引き戻す。

それと同時に、彼女が蹴った石がカラカラと乾いた音を立てた。

「――崖?」

「危機一髪だったね」

リザのレベルなら崖から落ちても死にはしないだろうけど、危ない事には違いはないからね。

オレはリザを連れて皆の所に戻る。

「霧の中は危ないから、注意するんだよ」

「すみません、ご主人様」

「うん、反省しているならいい。それより、聖獣はどんな姿だった?」

「真っ白で雄々しい竜の姿をしていました」

白竜か……まあ、信仰対象になっても不思議じゃない。

――あれ?

レーダーに映る仲間達の光点がバラバラになっている。

「急ぐよ」

オレはそう言って、リザの手を引いて仲間達を集めていく。

「ナナ、ミーア!」

「マスター! 聖獣を見つけたと報告します。真っ白で小さくて――そう、カワイイのです」

「違う、白兎」

ナナとミーアも聖獣を見かけたらしい。

見た感じ、聖獣を見て歩き出したナナを引き留めようとして、ミーアが引っ張っていかれた様子だ。

オレ達はすぐ近くにいるアリサとルルの所に合流する。

「ご主人様! こっちにも聖獣が出たわ!」

「そうなのか?」

「はい、真っ白な女の人でした」

「えー? 女性じゃなくて、真っ白なショタだったじゃない?」

「ショタ? 子供ってこと? 違うわ。髪が長かったし、お母さんくらいの女の人だったと思う」

論争するアリサとルルを止め、全員でロープを掴んで待つように言う。

それから結構離れてしまっているタマとポチを追いかけた。

さっきの失敗を反省して、地上ギリギリを天駆で走る。

「ポチー! タマー!」

霧の向こうに小さな影が見えた。

「いた――違う!」

危機感知と同時に、黒い影が刃に変じて襲ってきた。

オレはストレージから出した妖精剣で、影を受け流す。

影は黒い火花を上げ、霧の向こうに消える。

始末するのは後だ。

まずはポチとタマを見つけなくては――。

「にゅあ!」

「とーなのです!」

タマとポチが戦っている。

なぜか二人の傍には霧がない。

「ポチー! タマー!」

「ご主人様なのです!」

「敵~? 影みたいなの~」

影を蹴散らして二人と合流し、霧の向こうに逃げようとする影に 誘導気絶弾(リモート・スタン) を打ち込んでやる。

殺傷力の高い 誘導矢(リモート・アロー) を使わなかったのは、仲間達への誤爆を恐れてだ。

――あれ?

ミーアの風で吹き飛ばされなかった霧が、オレの誘導気絶弾の軌道で晴れていく。

「怪我をしているのか?」

「だいじょび~」

「これくらいへっちゃらなのです!」

笑顔で言う二人に、魔法薬を飲ませて回復させる。

影はレーダーの圏外に逃げてしまったようだ。

慌ててマーカーを付け損ねた。

「霧も晴れてきたし、皆の所に戻ろう」

気のせいか、オレ達から距離を取るように霧が晴れていく。

「あい」

「はいなのです!」

道すがら、二人にも離れた理由を聞く。

「聖獣を見つけたのです!」

「真っ白な猫さん~?」

「違うのです! ポチが見たのは白い犬さんだったのですよ!」

「違う、猫~?」

「犬さんなのです!」

言い争う二人を宥め、他の子達と合流した。

幸いな事に、他の子達は黒い影と遭遇しなかったらしい。

その話をしたら――。

「影が聖獣の正体だったのかしら?」

「違うのではないでしょうか? あの白い姿には、害意や邪悪な気配を感じませんでした」

アリサの予想にリザが異を唱える。

「でも、不思議ですね。どうして、皆、違う姿に見えたんでしょう?」

「ねぇねぇ、ご主人様は何に見えたの?」

「オレは見てないよ」

白いので 見えたのは霧(・・・・・・) だけだ。

レーダーにもそれらしき光点は映っていなかったしね。

「幻影?」

ミーアが首を傾げながら言う。

「にゅ! そういえば不思議な感じだった~?」

「ん、精霊×」

ミーアが顔の前でバッテンを作る。

霧の中で精霊を感じなかったらしい。

「タマ、どう不思議だったのです?」

「ん~、気配が薄い感じ~?」

「ミーアの言うように、幻影だったのでしょうか?」

「その可能性は高いね」

オレには幻影なんかが効かないタチらしいし。

「探索するには影がやっかいね」

「そうでもないさ」

既にマップ検索で彼らの現在位置は把握している。

もちろん、ロックオン済みだ。

「 誘導矢(リモート・アロー) 」

120本の魔法の矢が放物線を描いて森の向こうに飛んでいく。

――よし、命中。

「倒したよ」

「相変わらずチートね~」

アリサが呆れたように言う。

あの影の正体は「 影獣(シャドウ・ビースト) 」という魔物だ。

霧に紛れて人々を脅し、家畜を食い荒らしていたのだろう。

「――あれ?」

「どうしたの?」

「聖獣がいる」

「――いた」

オレ達は猫村に戻ると、祠の上に白い猫が寝そべっていた。

「黒影が出てたけど、大丈夫だったか?」

三日月猫人が声を掛けてきた。

「それなら退治したよ」

「退治した? あの巨大な化け物をか?」

「ああ、それよりも、あの子猫は?」

「御使い様だな」

「聖獣の?」

「白いからそう言い伝えられているだけのただの野良猫だよ。日当たりが良い日はああやって昼寝しているんだ」

「あの猫がいると霧がでないんだってさ。婆ちゃんが言ってた」

いつの間にか傍にいた虎縞猫人の少年が教えてくれる。

それはそうだろう(・・・・・・・・) 。

あの猫の正体こそ、聖獣なのだから。

聖獣には「 霧身(ミスト・フォーム) 」という種族固有能力があり、森に満ちていた霧こそが聖獣自身だったのだ。

レーダーに映らなかったのではなく、レーダーの範囲よりも広く薄らと映っていた白い光点を見逃していたという事だろう。

どうりで、オレの誘導気絶弾の軌道で霧が晴れたはずだ。

そういえば影獣と戦うポチとタマの傍にも、霧がなかったっけ。

「タマ、あの猫を描いてくれるかい?」

「承り~?」

タマがぺたんと座り、白猫――聖獣の絵を描いた。

あの学者さんが信じてくれるか分からないけど、これでミッション・コンプリートだね。

「でも、ご主人様、あの猫に幻影を作るスキルは無いわよね? 私達が見たのはなんだったのかしら?」

夕飯の用意をしていたら、アリサがそんな事を言い出した。

「そういえばそうだね」

聖獣の種族固有能力は「 霧身(ミスト・フォーム) 」と「 浄化領域(ピュリフィケーション・フィールド) 」と「 癒やしの吐息(ヒーリング・ブレス) 」の三種類だけだ。

たぶん、後者の二つが由来で聖獣と呼ばれるようになったのだろう。

「にゃー」

白い猫が寄ってきて、夕飯用に作っていた鰹のタタキをおねだりしてきた。

「食べるかい?」

「にゃ!」

尋ねると、コクコクと頷く。

「もしかして、言葉が分かるとか?」

「にゃ!」

白い猫がこくりと頷いてニヤリと口角を上げた。

年齢がミーアの三倍くらいだし、言葉を覚えていても不思議じゃない。

「はい、熱いから気を付けるんだよ」

小皿に盛ったカツオのタタキを白い猫に与える。

「にゃ!」

熱さに驚いた白い猫が、恨めしそうにカツオを眺めた後、にゅるんと姿を変えた。

「白い犬に変わった?」

姿を変えた聖獣が、バクバクとカツオを食べる。

「もしかして、どんな姿にでもなれるとか?」

アリサに答えるように、真っ白な幼児の姿に変じてカツオを指で掴んで口に放り込む。

『美味し、かった。またね』

聖獣はカツオを食べおわると、白い鳥に変じて森の向こうに飛んでいった。

なかなかファンタジーな生き物だ。

「サトゥー! 美味そうな匂いがするぞ!」

「とっておきの酒を持ってきた。食べ酔うぞ!」

もう少し聖獣と遭遇した感慨に耽っていたかったが、カツオを焼く香りに釣られて欠食児童のような猫人達が押し寄せてきたので、本日二度目の宴会に突入した。

「学者さんに良い土産話ができたわね」

「信じてくれるかな?」

「大丈夫でしょ。信じられなかったら、別の調査隊を派遣するんじゃない?」

「それもそうだね」

信じるか信じないかは貴方次第ってやつだね。

十分な気分転換にもなったし、迷宮都市に戻ったら本格的に「 階層の主(フロア・マスター) 」討伐を目指すとしよう。

「ご主人様ー! お肉も焼けたのですよ!」

「すぐ、行く!」

でも、今日はそんな事を忘れて、仲間達と猫人達と楽しく宴会だ!