軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-41.聖獣〔前編〕

サトゥーです。聖なる獣というと、神話や民族伝承など様々な所で言い伝えられています。もっとも、中には妖怪や魔獣のようなものまで含まれる事があるので、分類が難しそうです。

「――聖獣?」

「あい」

迷宮都市セリビーラの生活にも慣れた頃、タマがそんな話題を運んできた。

「ガクシャーのお姉さんから聞いた~?」

「ガクシャー、学者かな?」

「そんな感じ~」

タマが首を横にコテンと倒す。

そこはあまり気にしていないようだ。

「聖獣ってユニコーンとかペガサスとか?」

「いや、あれは幻獣っていう分類だったと思うぞ」

アリサの疑問に答える。

ペガサスはまだ見た事が無いけど、ボルエナンの森で見たユニコーンは「幻獣」だった覚えがある。

「タマちゃん、それで聖獣さんはどんな姿なの?」

「ん、興味」

ルルとミーアが話を振ると、タマがソファーの上に飛び乗って話し出す。

「お姉さんはすっごく神々しいケモノだって言ってた~?」

「ケモノ? 肉なのです? 美味しいのです?」

「聖獣さんはきっと食べたらダメ~?」

「残念なのです」

タマの常識的な発言に、ポチが残念そうにする。

気のせいか、タマをソファーから下ろすリザも、少しガッカリした雰囲気だ。

「旦那様、お客様です」

そんな時、メイドのミテルナさんが居間にやってきた。

「お客さん? どんな人ですか?」

「王都の王立学院の学者で、ラスクという女の方です」

なんだかサクサクしたお菓子みたいな名前だ。

今度、古くなったパンをスライスして作ってみよう。

「もしかして、タマが言っていた聖獣の人かしら?」

「たぶんね。会おう、応接間に通してくれ」

案内はミテルナさんに任せて、オレはちゃんとした服に着替えてから応接間に行く。

「初めまして、ペンドラゴン卿。私は王立学院で講師をしております学者のラスクと申します」

立ち上がって淑女の礼をする彼女に、オレも返礼を返す。

「実は私の研究を手伝ってくださる探索者を探しておりまして――」

ラスクさんが言葉の途中で、扉の方を見た。

振り返ると、扉の隙間からタマ達が覗き込んでいる。

「――あなたは、さっきの」

「お姉さん、やっほ~?」

タマがフレンドリーに手を振る。

「タマとお知り合いですか?」

「いえ、知り合いと言うほどではありませんが――彼女がタマ画伯?」

――画伯?

「ああ! テニオン神のお導きに感謝を!」

ラスクさんが手を組んで、天に向かって祈りを捧げる。

彼女は信心深い人のようだ。

「これも天の配剤です。ペンドラゴン卿、私の依頼を受けていただけないでしょうか?」

「研究を手伝ってほしいとの事でしたが、どのようなご依頼なのでしょう?」

ラスクさんがオレの手を握って懇願する。

「ちょっぷ」

「はいはい、離れて離れて」

その手をミーアがか弱い手刀で分断し、アリサが交通整理の警官のような動きで、ラスクさんとの距離を開けさせる。

「うふふ、可愛い子達ですね」

「ええ、私の大切な仲間達です」

アリサとミーアがオレの左右に座る。

さっき名前を呼ばれたタマは、ポチと一緒にソファーの後ろからよじよじと登って、今はオレの頭の上に顎を乗せてふにゃっとしているようだ。

「本題」

「そうでした」

ミーアに促され、ラスクさんがこほんと咳払いをする。

「私は王立学院では希少生物の研究をしておりまして、今のテーマは『聖獣』なのです。その聖獣に関する伝承が真実かどうか調べる為に、エルエット侯爵領の辺境に赴く必要があるのですが……」

「つまり、その護衛をしてほしいという依頼ですか?」

学術調査団の護衛なんてしたら、どのくらい時間を取られるか分からない。

数日ならともかく、それはちょっと勘弁してほしいね。

「いえ、それは違います」

ラスクさんが首を横に振る。

「私は王都で机に向かって研究ばかりしていました。とてもではありませんが、街道すら整備されていない山道を歩き、魔物の跳梁跋扈する場所で調査などできません」

きっぱり言うラスクさんは、レベル5だとAR表示されている。

確かに、このレベルだと事故が怖いね。

「わたし達に調査してこいって事? それとも他の人を連れていけって?」

オレに代わってアリサが問う。

「前者です。正しくは事前調査をお願いしたいのです」

「何を調べてこいと?」

「聖獣の実在を」

マップ検索すればいるかいないかはすぐに分かるけど、いない場合にユニークスキルを秘密にして納得させられる自信がない。

「無理難題を言ってるって、自覚ある?」

「はい、ですから無制限に探せとはいいません。私が指定する二、三の村に行って、聖獣の噂を調べてきてほしいのです。その村々には聖獣の祠というのがあるそうなので、タマ画伯に模写してきていただければ幸いです」

なるほど、それでタマを見て喜んでいたのか。

「もちろん、本物の聖獣様を目撃したら、そちらの模写も、是非!」

「おっけ~」

タマが気軽にOKを出す。

「それでは依頼はお受けしていただけるという事で宜しいですね?」

ラスクさんはなかなか強引だ。

「待って」

ミーアがすかさず待ったを掛けた。

「少なくとも、聖獣の祠っていうのは実在するんでしょうね?」

「はい、行商人の話ではあるとの事です」

それなら、休暇中だし、行ってみるのもいいかな?

「では報酬の話を――」

ラスクさんが話を切り出す。

そういえば聞いてなかったっけ。

「私が提供するのは王立研究所が極秘開発した魔法道具です!」

薄い胸元をバンと叩き、その手で自分の鞄を指し示す。

「どんな魔法道具~?」

「ポチも興味があるのです!」

「ふふふん、すごいわよ~? 迷宮探索者垂涎の品なんだから!」

ラスクさんがタマとポチの年齢に釣られてか、ちょっと子供っぽい口調になった。

「どんな?」

「なんと! 迷宮の中で方向が分かる魔法道具よ!」

鞄から取り出した魔法道具を、ババンッと音が聞こえそうなポーズで見せびらかす。

「なーんだ、方位磁石か」

「残念」

アリサとミーアがあからさまにガッカリする。

「違うわよ!」

「違うの?」

「これはね! 竜脈の位置から方角を導き出す、画期的な魔法道具なの!」

「そんな凄い魔法道具を報酬にして大丈夫なの?」

「大丈夫よ。元々、探索者ギルドからの依頼で開発したヤツだし。ギルドの方にはもっと高性能なのを納品済みよ。これは携帯性を高める事を目標に試作したヤツだって」

ラスクさんがアリサの口調に釣られている。

少なくとも磁力による方位磁石とは違う仕組みのようだ。

「方位磁石を狂わせる迷宮の中で、確実に方向が分かるんだから、凄いでしょ?」

「そう、ですね」

オレの場合、マップやレーダーがあるから、方位を気にした事がなかったし、タマもなんとなく方向が分かって、ミーアも精霊の動きや密度で方向が分かるようだ。アリサも空間魔法で、近場の経路はある程度は把握できるしね。

「どう? 行ってくれるかしら?」

「その村までの地図を用意していただけるのでしたら、行ってきましょう」

ここしばらくは迷宮ばっかりだったし、たまには気分転換もいいだろう。

オレ達はラスクさんから村までの大雑把な地図と、聖獣にまつわる伝承を聞いて、彼女と別れた。

「それじゃ、ハイキングの準備をしてくるわ」

「オヤツも必要~?」

「オヤツは三〇〇エンまでなのです! バナナはオヤツに入らないのですよ!」

アリサがハイキングだと言ったせいか、タマとポチまでそんな雰囲気になっている。

ポチのセリフはアリサが原因だろうけど、エンが何の単位かまでは分かっていないようだ。

オレはリザとナナに遠征の準備を頼み、ルルと一緒に遠征用のお弁当を用意する。

途中からミテルナさん達が手伝いをしてくれたので、けっこう盛りだくさんの品数になった。

そして翌日、オレ達は騎乗して辺境の村へと出発した。

迷宮都市の北にある山脈を越え、エルエット侯爵領の辺境地帯に入る。

この辺りは初夏から夏といった気候の迷宮都市よりは過ごしやすい。

「今日はサイコーのハイキング日和なのです!」

「イエス・ポチ。麗らかな小春日和だと告げます」

花が咲き乱れる高原でお弁当を食べる。

食後にミーアの演奏を聴きながら、「全マップ探査」の魔法でエルエット侯爵領を調べた。

――あれ?

「どうしたのご主人様?」

「いや、聖獣が見当たらないなと思って」

もっとも、領内には小さいものも含めれば1000箇所以上の空白地帯があるから、そのどこかにいる可能性はある。

「ふーん、まあ、眉唾物だったし、仕方ないんじゃない?」

「まにゅーば~?」

タマが戦闘機の機動みたいな間違いをする。

「眉唾っていうのはね。本当か嘘か分からない事をいうんだよ」

信憑性の低そうな話を指す場合が多い。

「にゅ?」

「簡単に言ったら、実在しないって事よ」

「そんな事無い~?」

「はいなのです。聖獣さんはきっといるのですよ!」

かみ砕いたアリサの言葉に、タマとポチが抗議する。

「まあ、村の場所は分かっているんだし、そこに行けば何か分かるだろう」

村の一つの近くに、大きめの空白地帯があるから、そこが本命だと思う。

「尾根側から高原狼~?」

高原では狼や熊といった通常の獣達に、よく襲われた。

「またぁ、もう狼はいらな~い」

「そんな事無いのです! 肉はいくらあってもいいのですよ!」

「ポチの言う通りです。余ったら干し肉にすれば長持ちしますしね」

特に狼の襲撃回数が多いからか、アリサがちょっと食傷気味になっている。

まあ、気持ちは分かる。すでに100匹以上狩っているからね。

獣娘達にとっては食材扱いらしく、見つけるたびに嬉々として狩りに向かう。

「反対側」

「大きなワシさんですね!」

ミーアが見つけた急降下で襲いかかるワシを、ルルが魔法銃でサクッと撃ち落とした。

「マスター、ザコばかりで暇だと告げます」

出番のない盾役のナナが不満そうだ。

そんな不満が出たのも初日だけで、二日目からは徐々に魔物が増え始めた。

「それでも、まあ、迷宮よりは圧倒的に少ないわね」

「比べる対象が間違っているよ」

レベル20以下の魔物ばかりなので、数撃で斬り伏せてしまうような相手ばかりだ。

「ちょっと移動ペースを上げよう」

旅を始めた頃のような雰囲気が懐かしかったからか、あっちへ寄ったりこっちへ寄ったりしてしまっていたけど、そろそろ目的地に向かわないと、いつまで経っても到着しない気がしてきたのでそう言って旅路を進めた。

その甲斐あってか、翌々日には目的の村の近くまで来る事ができた。

「霧が濃いわね」

アリサがぼやくように、今日は朝から霧が濃い。

「むぅ」

「風で吹き散らしても、すぐに戻ってきちゃうね」

ミーアの精霊魔法でも、オレの風魔法でも効果は長くない。

マップやレーダーがあるから、迷う心配も奇襲される心配もないのが救いだ。

「にゅ!」

タマが耳をそばだてた。

「何か聞こえる~?」

そう言った直後、木々がなぎ倒されるような轟音が遠くから聞こえてくる。

「ご主人様、あれを!」

ルルが指し示す方に、大きな黒い影があった。

マップの範囲内には何もいない。

「タマ、ポチ、ナナ、警戒しなさい」

「あい」

「はいなのです」

「第一種戦闘態勢と告げます」

獣娘達とナナがオレ達を守るように円陣を組む。

だが、木々をなぎ倒す音は徐々に遠ざかり、大きな影も空に溶けるように消えてしまった。

「ご主人様、分かる?」

「たぶん、霧に映った影だね。場所的に考えて、さっきのが聖獣なんじゃないかな?」

オレとしては鹿とか馬くらいの大きさを想像していたんだけど、それよりは圧倒的に大きそうだ。

そんな事を話している間に、霧が薄れ、目的の村が視界に入った。

「あれが村? なんだかボロっちいわね」

「ぼろち~?」

「ボロチーなのです」

「他人の住居を、そんな風に言ってはいけませんよ」

アリサの言葉に釣られたタマとポチを、リザが窘める。

結界柱はあるものの、村の家々は掘っ立て小屋と大差ない あばら屋(・・・・) が多い。

「家の中からこちらを警戒していると告げます」

ナナが言うように、村の住人達はオレ達を警戒しているようだ。

暗闇の中に、住人達の瞳が爛々と光って見える。

「こんにちはー!」

声を掛け、扉をノックしても反応がない。

「ご主人様、あれ見て~?」

タマがオレの袖をクイクイと引っ張って、ある場所を指し示した。

「岩? いや、祠か?」

「あれが聖獣の祠かしら?」

「きっと、そうなのです!」

マップ情報でもそうなっている。

「これを写生するんだっけ?」

「そうだね。タマ、頼んだよ」

「あいあいさ~、お任せあれ~?」

タマが足を投げ出して座り、妖精鞄から出した画材で祠の絵を描き始める。

「材質は普通の岩よね? ご神体もないし、どの辺が『聖獣』を表しているのかしら?」

アリサが祠をぺたぺたと触る。

「 祠に(ほこあい) 触るな(さあうあ) !」

怒りの声に振り向くと、そこには村の住人らしき猫人達がいた。

さて、まずは友好的な関係にならないとね。