軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-27.権能貸与

サトゥーです。会社勤めの頃はお偉いさんのちゃぶ台返しや無茶振りが日常茶飯事でした。異世界に来てからはムーノ男爵という理想の上司に出会って、そんな理不尽から解放されたのですが、今度は思わぬ所から無茶振りされる事になりそうです。

『魔神を討伐せよ』

説明を聞き終えたヘラルオン神がオレに命じた。

なんとなく従った方がいい気分になったが、たぶん単なる気の迷いなので聞き流す事にする。

ログには精神魔法系のログがないし、 言霊(ことだま) みたいな原始魔法の一種だろう。

『ヘラルオンは愚か。カリオンもそう言っている』

『言ってない。でも、魔神の力を増す要素を近付けるべきではないと具申する』

オレを魔神に近付ける事で、「魔神が『真なる神』にパワーアップしてしまう可能性がある」とウリオン神とカリオン神が主張する。

どうやら、応援に駆けつける前から、オレと魔神のやりとりを覗き見していたらしい。

『そもそも人族に魔神を討てるものか! 貴様も 物質界での魔神の強さ(・・・・・・・・・・) は知っているはずだ』

ガルレオン神が言う。

その言い方だと、神界では七柱の神々の方が魔神より強いのかな?

『この者とザイクーオンの戦いを忘れたか? 物質界に限れば、この者は魔神の足下に届くほどの力を振るうぞ』

ヘラルオン神に諭されて、ガルレオン神がぐぬぬと反論に詰まった。

『論点がズレている。ヘラルオンとガルレオンは冷静になるべき。カリオンもそう言っている』

『言ってない。でも、対応は慎重になる事を推奨する』

『慎重? 不当に神を貶め、信仰心に疑念を植え付けた魔神を討伐するのに、なんの遠慮がいろうか!』

『その通りだ! 我らから権能を掠め取り、亜神から神の座へと昇りつめておきながら、忘恩にもほどがある!』

ヘラルオン神とガルレオン神の怒りは収まらないらしい。

ガルレオン神が口にした「権能を掠め取って、神の座へと昇った」という言葉が少し気になる。

尋ねても答えは返ってこないだろうし、メニューの備忘録にメモしておこう。

『貴様らはそのような理すらわからんのか? これだから女神というのは度し難い』

ガルレオン神から女性蔑視な発言が出た。

『言い過ぎですよ、ガルレオン』

『すまぬ、テニオン。君の事を言ったわけではない』

ガルレオン神はテニオン神に頭が上がらないらしい。

『カリオンとウリオンも、魔神を放置していいとは思っていないはずです。まずは彼女達の話を聞きましょう』

テニオン議長の言葉で、ようやくヘラルオン神とガルレオン神も話を聞く姿勢になった。

……というか、穏やかに見えるテニオン神も、魔神の討伐自体は賛成のようだ。

『聞いてやる。言ってみろ、ウリオン』

『偉そう。ヘラルオンはもっと謙虚になるべき。カリオンもそう言っている』

『言ってない。ヘラルオンが謙虚になるとは思えない。ウリオンの諫言は無意味』

カリオン神もなかなか辛辣だ。

それにしても、そろそろ話を進めてほしい。

『ご主人様、魔神に特攻とかしちゃダメよ』

アリサが眷属通信で釘を刺してきたので、「しないよ」と返しておいた。そんな趣味はないからね。

『本当に~? アーゼたんを嫁にやるって言われても断れる?』

『……もちろん、だとも』

そこまで魅力的な報酬だと、ちょっと目が眩みそうだ。

『ちょ、ちょっと! 本当にダメだからね? 嫁はたくさんいるんだから、神々の口車に乗っちゃダメよ?』

返答が遅れたせいか、アリサが動揺しながら釘を刺し直してきた。

『そんなに心配しなくても大丈夫だよ、アリサ』

だいたい、魔神討伐の報酬で結婚なんて、アーゼさんに失礼過ぎる。

『――説明は以上。ゆえに、この人族を魔神の傍に行かせるのはリスクが大きすぎる。カリオンもそう言っている』

『これはウリオンに同意。魔神討伐は神兵の軍勢を派遣するのを推奨』

アリサと話してるうちに、ウリオン神とカリオン神の発言が終了した。

ヘラルオン神は納得したようだが、ガルレオン神は今一つ納得していないようだ。

『これだから貴様らは考えが浅いと言うのだ』

『猪突猛進のガルレオンに言われたくない。カリオンもそう言っている』

『言ってない。ウリオンは巻き込み禁止』

しばし、ガルレオン神とウリオン神の言い合いが続いた後、テニオン神が仲裁して話が再開した。

『これを魔神に近付けると、魔神の力が増す危険があるというのは分かった』

なんだか厭な予感がする。

『だが、我らがこれを近付けずとも、魔神がこれを取り込もうとやってくるぞ。貴様らはそんな事もわからんのか? 今のうちに始末するか、神封篭にでも封じておくのが世界の為だ』

ガルレオン神の主張はわかるが、それに唯々諾々と従う気はない。

『やっぱり、ガルレオンは愚か。カリオン説明して』

『言ってな――フェイントは禁止。ウリオンは意地悪』

ケタケタと笑うウリオンの前で、カリオン神がご機嫌斜めだ。

『カリオン、説明をお願いしていい?』

『テニオンの頼みなら仕方ない』

カリオン神がこくりと頷いて説明を始めた。

『始末するのは論外。五対一なら万が一にも負けはないけど、神力を大幅に消耗するのは確実。魔神戦に使う神力が不足するどころか、世界を守る結界すら維持できなくなる可能性が高い』

なんの事かと思ったら、オレと戦った場合の話か……。

本人の前で話せるあたり、神様と人間のメンタルの違いを感じる。

『カリオンの言う通り。今は魔神の計略で人々から集まる信仰心や祈りが大幅に減じている。回復速度が低い今、神力を消耗するのは愚かと言える』

カリオン神の説明に、ウリオン神が補足する。

『ならば封じれば良いではないか』

『ガルレオンが何を見ていたか疑問。この人族は魔界に囚われていたハイエルフを、一瞬で救出した。魔界との境にある結界は強固にして緻密。あれを前準備無しで一瞬で無効化した以上、この人族は移動系、それも結界を通り抜ける権能を持つのは確実。ゆえに、神封篭に封じるのは無意味』

カリオン神がオレを見る。

答える義務はないが、秘密にする必要も無いので首肯しておいた。

否定して試しに封印されても嫌だしね。

『我らが魔神に与えた権能にそのようなモノはなかったはずだ』

『魔神が竜神から報酬に受け取った権能にあったのではない?』

ヘラルオン神とテニオン神が小声で言葉を交わす。

『では、放置するのか?』

『それも危険。最良の対応はウリオンが語る』

『カリオンは無茶振りを止めるべき』

カリオン神から対応策を丸投げされたウリオン神が不平を鳴らす。

『その人族を使って罠を張るのが最良と理解するべき。カリオンもそう言っている』

『言ってない。でも、罠は良案。やってきた魔神がその人族を取り込もうとする寸前に自爆すれば、魔神に大きなダメージを与えられる』

カリオン神もなかなか鬼畜な発言をする。

『自爆は遠慮したいですね』

なし崩しに自爆テロ要員にされても困るので、控えめに主張しておく。

『この期に及んで、保身に走るか! これだから人族というのは愚かなのだ!』

『ガルレオンは反射で発言するのを止めるべき』

ウリオン神の発言は同感だが、そう言う彼女自身もけっこう反射で発言していると思う。

『命が一つしかないヒトが命を大事にするのは当然。それは創造神様が生命に植え付けた基本原理。死んでも再生する神とは違う』

七柱の神々が言う創造神は、彼らの故郷を創造した神の事だったはず。

『それを使って罠を作り自爆させると言い出したのは貴様であろうが! そんな事も忘れたのか!』

『もちろん、覚えている。自爆させるのはその人族の複製体。テニオンに複製体を作ってもらって、魔神を内側から滅ぼす崩壊因子を植え付ける』

なるほど、オレのコピーを用意して罠を作るのか。

『魔神は狡猾だぞ。そのような見え見えの罠に引っかかるか?』

『大丈夫。ちゃんと複製体にも反撃させる。一発くらいなら、その人族が使った魔法を模倣する事は可能』

なんだか話がどんどん勝手に進んでいく。

『発言しても宜しいでしょうか?』

このままだとマズイ点があるので主張させてもらおう。

『許可する』

『魔神と敵対する前に、私を取り込みたい真意を尋ねたいので――』

『却下。リスクが大きすぎる。そしてリスクを取ったからといって、魔神が真実を話すとは思えない。相手は神すら欺しおおせる希有な詐欺師』

神様は意外と欺しやすそうという気がするが、それはオレも変わらないので黙っておこう。

『魔神を討伐する以外に道はないのですか?』

外見以外に似通ったところは見受けられないが、あれでもオレと同一人物らしい。

魔神の嘘かも知れないが、できれば討伐以外の道を選びたい。アーゼさんに手を出した事は許せないけれど、それとこれとは別だと思う。

『無い。お前はお人好し過ぎる。魔神は永き雌伏の時を経て我らに刃向かった。幾つかの策がお前に防がれたとはいえ、今更、我らの前に膝を屈するとは思えないし、我らがそれを許す事はない』

テニオン神の方を覗ったが、彼女もカリオン神の言葉に同意なようだ。

これ以上食い下がっても、神々が譲歩する事はないだろう。

ならば、彼らが魔神を討伐する事に消極的に協力するくらいしか手がない。

魔神や紫幼女達に狙われている状況で、ヘタに彼らにまで敵認定されたら、色々と面倒だからね。

『私が複製体と入れ替わるのはいつでしょう?』

『複製体が完成したら、すぐにでも』

『入れ替わった後は、私はどこに?』

『ウリオンかテニオンの神域結界――完璧を期すならウリオンの結界内がいい』

カリオン神がオレの質問に答える。

『その時は仲間達も一緒に避難して構いませんか?』

『神域結界は神の領域。ゆえに雑念が多いヒト種は遠慮するべき。そのハイエルフは構わない』

全員で行くのはウリオン神に拒否された。

さっき魔神に狙われたのはアーゼさんだけど、アーゼさんがいなければ他の仲間達が狙われるのは確実だ。

その事をウリオン神に訴え、譲歩を懇願した。

『その懸念は順当。不当に功労者が不利益を被るのは正義にもとる。対策を考慮するべき。カリオンもそう言っている』

『言ってない。ウリオンの悪癖』

ウリオン神としては自分の領域に試練を果たしていない相手を入れるのが嫌なようだ。

それはテニオン神も同様なようで――。

『ならば残る者達に身を守る手段を与えましょう。カリオン、ウリオン、いいかしら?』

テニオン神がそんな事を言い出した。

『テニオンの頼みなら否はない。身を守る権能を貸与する』

カリオンから離れた小さな朱色の光がオレの近くに浮かぶ。

『誰がいい?』

『権能をお返しする時に、権能を宿した者の身はどうなりましょう?』

カリオン神に尋ね返す。

鬱魔王シズカに任せれば安全に分離できるだろうけど、一応確認しておかないとね。

『どうもならない。喪失感があるだけ』

オレの質問にカリオンが答える。

転生時に植え付けられた「魔神の欠片」とは違い、貸与された七柱の神々の欠片は普通に返却できるらしい。

『誰がいい?』

オレの仲間達の中で一番守護の力を上手く使えるのはナナだ。

『 ホムンクルスの娘(ナナ) にお願いします』

本人に確認を取った後、カリオン神に誰かを伝えた。

朱色の光がナナに吸い込まれる。

ナナの額に、カリオン神の聖印が一瞬だけ浮かび上がって消えた。

『カリオンはテニオンに甘すぎる。テニオンは自分の権能を貸与するべき』

『そうね。ならば現し身で人々を覗――見守る時に使う認識阻害の権能を貸与しましょう。この力があれば魔神に察知される事もないでしょう』

それはいい。魔神に察知されなければ安全性は高まる。

……というか、テニオン神。さっき、「覗き見する」と言いかけませんでしたか?

心の中だけで問いかけると、テニオン神が「内緒よ?」と言いたげなジェスチャーを取った。

『誰がいいかしら?』

テニオン神から碧色の小さな光が離れる。

普通に考えて猫忍者タマが適任なのだが、セーラが必死に「私に!」と言いたげに自分を指すので、その熱意に負けてセーラを指名した。

碧色の小さな光がセーラに吸い込まれる。

セーラが恍惚の表情をしているが、テニオン神の巫女が「神の欠片」を宿すのだから、乙女らしからぬ蕩けた表情もしかたないのかもしれない。

『公平にヘラルオンとガルレオンも権能を貸与するべき』

『ふん、魔神を倒すためとはいえ、我が権能を信者でもない者に貸与せよと?』

『ガルレオンはケチ。カリオンもそう言っている』

『言ってない。でも、自分だけなにもしないガルレオンはズルイ』

『何もしないとは言っていない。信者でもない者に貸与するのが嫌なだけだ。やむを得ん、一時的に貸すだけなら我慢しよう。魔神に揺るがず、怯まぬ心を与えよう』

ガルレオン神はウリオン神と反発するわりに、カリオン神にズルイと思われるのは嫌なようだ。

蒼い色の光がガルレオン神から離れる。

ガルレオン神が顎をしゃくって、誰に貸与するのか指名しろと暗に迫った。

アリサが一番向いているが、既に「魔神の欠片」を持つアリサにガルレオン神の欠片を受け入れる余裕はないだろう。

となると、候補は――主力のリザか支援魔法に優れるミーアあたりだろう。

リザを見ると、彼女は静かに頷いた。

『 蜥蜴人族の娘(リザ) に』

オレがそう言うと、蒼い光がリザの胸を打つ。

『次はヘラルオン』

『よかろう。では目映き神の光で魔に属する者どもを怯ませる力を授けよう』

一瞬、微妙かと思ったが、逃げるための時間を稼ぐ手段としては優秀かもしれない。

リザと最前線に立つ事が多いポチに手渡したかったが、ポチはテンパってタイミングを逃しそうなので、中衛に立ち機動力に優れるゼナさんを選んだ。

橙色の光がゼナさんを包む。

お日様色の髪に、後光が差したような輝きが生まれる。

これはゼナさんのファンが増えそうだ。

『最後は私。邪悪の接近を察知し、周知する力を授ける』

オレはウリオン神の権能を受け取る相手を、ミーアに指定した。

脅威の探知力を持つタマと精霊の動きを察知できるミーアで悩んだが、もしかするとタマの探知力はウリオン神の権能に匹敵するかもしれないので、二重チェックの為にもミーアを選んだ。

藍色の光がミーアに吸い込まれ、ツインテールに結った淡い青緑の髪を揺らす。

『これで憂いはないはず。人族は呼び出し時、すぐに応じるべき』

『承知いたしました』

オレはウリオン神に最敬礼で応え、神々が神界へと帰還するのを見守った。