軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-26.魔神の正体

サトゥーです。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」なんて言葉もありますが、昔も今も知らない事こそが恐怖の源泉なのではないでしょうか? 知る事さえできれば、どんな難しい問題でも解決に向けて努力する事ができると思うのです。

「「ああっ! やっぱり!」」

仮面の下から現れた魔神の素顔を見たアリサとヒカルが、声を揃えた。

だが、続く言葉は重ならなかった。

「影城にあった絵と同じ顔!」

「会社にいた頃のイチロー兄ぃの顔にそっくり!」

アリサが言うようにルモォーク王国にあった影城の玉座の間で見た肖像画の人物とそっくりだ。

ヒカルが言うほどにはオレには似ていない。異世界に来る前のオレがヒゲを伸ばして、もう少し歳を取ったらあんな顔になるのかもしれない。

――ある程度、予想していたとはいえ直接目にするとショックが大きい。

『分かったか、もう一人の 俺(・) 』

わざわざ日本語で魔神が言う。

影城で絵を見た時から予感があったが、異世界に来た鈴木一郎はオレ一人じゃなかったようだ。

『 ヒメ(・・) に選ばれなかったお前に、最後のチャンスをやろう』

――チャンス?

こういう上から目線の相手が言うチャンスは、たいてい碌でもない事が多いと思う。

……というか姫というのは誰の事だ?

俺の脳裏に謎幼女と神界で魔神に懐いていたパリオン神が過ぎった。

竜神アコンカグラという可能性もあるが、どちらかというと姫というよりは女王や女帝というイメージが強いので候補から外した。

『かつて、 ヒメ(・・) が言っていた「ただ神格を与えただけでは完全な神にはならない」と。「幾つもの魂をより集める事で器を広げる事が真なる神への近道」だと』

――まさか。

身じろぎしようとして、身体が動かない事に気付いた。

後ろにいたアリサやヒカルが魔神の言葉にツッコミをいれなかったのは、オレと同様に動きを縛られていたからのようだ。

ログには「真忍術:縛神影」とやらの抵抗に失敗したと表示されていた。

いつの間にそんな術を使ったのやら。

まあ、いいか。そのログのすぐ後に「真忍術」や「耐性:真忍術」を手に入れていたので、スキルポイントを最大まで割り振って 有効化(アクティベート) しておく。

術理魔法の「 魔法破壊(ブレイク・マジック) 」を使えないという事は、縛神影とやらは行動の束縛だけでなく、魔法の発動まで阻害するようだ。

『お前を取り込んで俺は完全体になる』

昭和の時代のゲームや漫画じゃあるまいし、今時そういう古くさいのは流行らないと言ってやりたい。

魔神がオレに掌を向ける。

耐性を確保したのに、未だに動けないのは魔神の方がレベルが高いからか……。

このままだとマズい。

『さあ、今こそ――』

掌に集った暗紫光が怪しく蠢く。

『何っ――』

魔神が視界から消える。

光った瞬間にアリサ達と一緒にユニット配置で退避したのだ。

二次被害を抑える為に、大砂漠の中心へと場所を移した。

取り込まれた後で内側から支配権を奪い返すのがセオリーなんだろうけど、そういう泥臭いのは遠慮したいからね。

『どうやって神の束縛から抜け出した!』

魔神が転移で追いかけてきた。

真忍術による捕縛に、絶対の自信を持っていたらしい。

『遅延発動型の脱出魔法を用意しておいたのさ』

オレは詐術スキルの助けを借りて、適当な言い訳を口にする。

『ならば逃げる手段を無くしてくれる!』

周囲が暗紫色に染まり、全方向から包み込むように暗紫色の掌型の光が襲ってくる。

感触からして、空間魔法での離脱を阻害する結界も同時展開されているようだ。

――動かないで。

声なき声がオレに届く。

掌光の雨がオレに届く寸前、鮮やかな朱色の光がそれを阻んだ。

見覚えがある。

『カリオンか!』

魔神が神代語で叫んだ。

『――正解』

オレの前方で空間が歪み、少女の輪郭を象った朱色の光――カリオン神が現れた。

やはり、先ほどオレ達を守ったのはカリオン神の「神理盾」だったようだ。

『来たのはカリオンだけじゃない。テニオンもそう言っている』

藍光の少女――ウリオン神と碧光の乙女――テニオン神がカリオン神に続いて姿を現した。

『間に合ったようね』

テニオン神が腕を一振りすると、オレ達を拘束する魔神の「縛神影」が解けた。

『外で会うのは初めてかしら?』

テニオン神が魔神を見る。

『外形パターンの類似を確認』

『意味不明。カリオンはどうでも良い事に拘るのは止めるべき』

『どうでもよくない。ウリオンは狭量』

カリオン神がオレと魔神の容貌が似ている事を指摘したが、ウリオン神はそれを「意味不明」と断じた。神々にとって外見が似ているのは大して意味が無い事のようだ。

『ご主人様、どうする?』

アリサが眷属通信で話しかけてきた。

オレ達にできる方法は少ない。

・魔神と一つになって、真なる神の一部になる。

却下だ。考慮に値しない。

・ユニット配置で別の世界に逃げて一生を過ごす。

これは保留。世界間移動は神々にも難しいはずだから、魔神からでも逃げられる可能性が高い。

ただし、それはこの世界での生活を捨てる事になる。仲間達に故郷を捨てさせるような選択は最後の手段だ。

・魔神を倒す。あるいは魔神を封印する。

これも保留。倒すための手札はあるけど、その過程で魔神に取り込まれる危険がある。

・神々が魔神を討伐するのを見守る。あるいは手助けする。

魅力的な案だがこれも保留だ。思ったよりも神々の力は大きそうだが、魔神に出し抜かれる可能性が非常に高い。

・魔神と腹を割って話して和解する。

できればこの案を選びたい。

もちろん、魔神の目的がオレを取り込んで「真なる神」になる事なら和解は不可能だ。

だが、「真なる神」になる事で、何かを為そうとしているなら、その目的によっては歩み寄れると思う。

コンマ一秒ほどの間に思考を終え、意識を魔神と三女神の方に向け直す。

テニオン神と魔神が問答をしているようだ。

『ここまで早く現れるとは予想外だったぞ』

『愛しい巫女が教えてくれたの。魔神がここにいる、と』

テニオン神が一瞬だけセーラに視線を向けた。

『ふん、信徒を使った覗き見、盗み聞き、か。相変わらず趣味の悪い事だ』

当のセーラはテニオン神の姿を目の当たりにして感動の涙を流している。

たぶん、セーラに通報したという意識はなかったに違いない。魔神という存在を前にして、いつもの習慣で神に祈ってしまったのだろう。

『神界とは話し方が違うのね。こちらが本来のあなたなのかしら?』

そういえば神界では道化のような話し方だったっけ。

『ふん、自尊心が肥大した輩は持ち上げておくと操りやすいからな』

誤魔化す事なく魔神が嘲る。

『テニオン、警戒心を上げるべき。魔神は韜晦の必要がなくなったと判断しているとカリオンが言っている』

『言ってない。でもウリオンに同意する』

ウリオン神が藍色の光で、カリオン神の神理盾を補強した。

『大丈夫ですよ、ウリオン。魔神も彼我の神力差は理解しているはずです』

テニオン神が魔神を見つめる。

『ふんっ。分け御霊に神力を割いた状態では、三柱の神々を相手にするのは面倒だ』

魔神が強がりともとれる言葉を吐き捨てる。

『――とでも言うと思ったか!』

鮮烈な紫色と漆黒のオーラが魔神から放たれる。

『既に策は成った! 我が信徒は世界に満ち、我が身には溢れるほどの神力が流れ込んで――』

魔神が途中で言葉を止めた。

『――いない。違いますか?』

テニオン神が静かに言う。

『馬鹿な。何故だっ!!』

叫ぶ魔神をスルーして、テニオン神がオレを見る

『魔神の信徒が増えないように動いたのはあなたね?』

確信を篭めたテニオン神の言葉に微笑み返す。

世界中を巡って人々の洗脳を解いた事で、魔神の企みの根幹を潰してしまっていたようだ。

『ありえん! 間に合うはずがない! それ以前に魔力が足りぬはずだ!』

魔神が説明してほしそうにオレを睨み付けるが、種明かしする意味を見いだせなかったので、肩を竦めるだけに留めた。

『 主(あるじ) 様!』

重い雰囲気を斬り裂くように、紫幼女の一人が転移してきた。

この子達は何人いるのだろうか?

『確保完了したよ!』

嫌な予感がする。

幼女の言葉を最後まで聞き終わる前に、オレはマーカー一覧を開いた。

『よくやった。仕切り直しと行こう』

ニヤリと笑みを浮かべた魔神が言う。

『見ろ! 不良品!』

魔神がオレを呼ぶ。

「アーゼさん!」

空中に投影されたスクリーンに、紫幼女に囲まれて鎌を突きつけられているアーゼさんが映し出された。

ザイクーオン神といい、逆鱗に触れるのが好きな奴らだ。

『愛しい娘が大切なら、邪魔の入らない魔界へ来い』

『ウリオン、捕まえて!』

『分かってる。テニオンは心配性』

藍色の光が繭のように魔神を包むが、それより早く魔神が消え去った。

『……逃げられましたね』

『ちょっとした手違い。神にも失敗はある』

『ウリオンに失望。大言壮語はほどほどにするべき』

神々の言葉を聞き流しつつ、オレは思考制御でスイッチを押す。

「――え?」

「アーゼさん!」

目の前に現れた愛しのアーゼさんを抱きしめる。

ダメ元でユニット配置を使ったのだが、魔界からでも引き寄せる事ができた。

「サトゥー」

涙を流しながらオレを抱き返すアーゼさんの確かなぬくもりを身体で感じる。

『もしかして、人質になっていたハイエルフ本人?』

『驚いた。カリオンも驚いたと言っている』

『ウリオンに同意。私は驚いている。魔界は小さくても魔神が創造した世界。創造主の許可なく領域に侵入する事は非常に困難。よほどの力量差が無い限り事実上不可能なはず』

神々、特にカリオン神の驚きが大きい。

もっとも、凄いのはオレじゃなくユニット配置だ。

この力をくれた誰かには感謝の念が尽きない。

『――逃げられた』

太陽のように熱を伴った橙色の光と蒼い光が現れた。

魔神の分霊と戦っていたはずのヘラルオン神とガルレオン神だ。

『あと一歩まで追い詰めたというのに。不甲斐ないぞガルレオン!』

『我のせいだと言いたいのか、ヘラルオン! 貴様がそんなだから逃げられたのだとなぜわからん!』

この二柱の神々も相変わらずだ。

テニオン神が神々を宥め、ここでの顛末を伝える。

説明を聞き終えたヘラルオンがオレに命じた。

『魔神を討伐せよ』

無茶振りは止めてほしいね。