作品タイトル不明
クラウス①
(この感情は一体……)
私――クラウス・ド・カラフリアは国王である父と、王妃である母との間に生まれた唯一の子である。
私はとても優秀だった。
幼くして始まった王子教育をあっという間に修め、剣も魔法も教えられた以上のものを身に付けていった。
そして十歳という異例の早さで立太子されることになったのだ。
立太子と同時にランドルフとフィンメルが私の側近に選ばれた。
これまで同年代の子どもと共に過ごすことがなかったが、二人と一緒に過ごす時間が増えていくと改めて自分の優秀さを知った。
もちろんランドルフもフィンメルも、上級貴族家の子なだけあって優秀ではある。
ただそんな日々が続くと、なにか物足りないと感じることが多くなっていく。
私はその物足りなさを、女性と過ごすことで埋めていった。
貴族の令嬢から平民の女性まで幅広い付き合いをしてきた。
ただそうは言っても、自分が王太子である自覚はちゃんとある。だから体の関係まではない。
演劇を見たり食事をしたり買い物をしたりと、時間があればそんな風に女性たちと過ごすようになっていた。
勉強や稽古、公務をこなしつつ、女性と過ごすという生活を続けてきたが、十五歳になりとうとう婚約することになってしまう。
まだ遊びたいという気持ちはあったが、王太子である私がいつまでも婚約者を作らないわけにはいかない。
そしてその婚約の相手として選ばれたのが彼女、ダリアローズ・ブルーだった。
これまで一度たりとも表舞台に出てこない謎の令嬢。
そう聞けばなんだか神秘的に聞こえなくもないが、父から聞いた話によると家族から疎まれているという。
なぜそんなやつと私が婚約しなければならないのか。
どう考えても釣り合わない、そう思ったが同い年の上級貴族の令嬢が彼女しかいない。
だから仕方なくだと父は言うが、そんなお荷物を私に押し付けるなど心外である。
ただでさえ婚約してしまえば、付き合っている女性たちとの関係を終わりにしなければならないというのに、とんだハズレだ。
じゃあバレずに関係を続ければいいのでは?
なんてことも考えたが、やはりそれはリスクが高すぎると断念した。
なぜなら彼女の母親はパレット帝国の皇女で、彼女にはたしかに帝国皇室の血が流れているから。
帝国からの怒りを買うようなことは避けたい。
対応を誤れば王国が滅びる可能性だってある。
それだけ国力が違いすぎるのだ。
いくら家族から疎まれているからと言って、蔑ろにしていい相手ではない。
ただ頭では理解していても、どこかで驕りがあったのだろう。
私は顔合わせの場で、余計なことを言ってしまい、それが全ての原因ではないものの、婚約の話は白紙になってしまったのだ。
顔合わせの後、少し時間を置いてから父と改めて話をした。
『あの娘にしてやられたな』
『そう、ですね……ですが婚約を白紙にする必要はあったのですか?王命で婚約させてしまえば』
『馬鹿者。そんなことをしてみろ。この国がどうなるか分からんぞ』
『……その、そこまですごいのですか?』
S級冒険者、魔道具師、ローズ商会長……
この時の私は、彼らがどれだけ国に影響を与える人物なのか分からなかった。
『はぁ……お前は一度あの者たちのことを調べてみなさい』
父にそう言われ私は調べた。
そして婚約の白紙という結果に納得せざるを得なかった。