軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4巻発売記念SS-猫ちゃん

「しょぉ~ッとね」

「リリアス殿下」

「リュカ、しぃー。しょぉ~ッと」

声の主は、アーサヘイム帝国第5皇子リリアス・ド・アーサヘイムだ。その従者である狼獣人のリュカと何かを見つけたらしい。

リュカがリリアスの従者になってから、まだ日は浅い。なのに二人一緒に色々やらかしたりして、もう既に何度も一緒にクーファルに叱られていたりする。

二人一緒にというよりは、リュカが一方的にリリアスに振り回されているのだが。

城の中庭の隅っこでリリアスが何かを見つけたらしい。

「おいれ~」

リリアスが小さな手を出している。

リリアスとリュカがいるのは、一番皇族の住居スペースに近い中庭だ。それ故、皇后様お気に入りの四阿がある。

その周りには、四季折々の花が常に咲き手入れも行き届いている。城の庭師が皇后様を思い、手塩に掛けた花が立派に咲き誇っている。

そんな場所で遊んで、もしも庭を荒らしてしまってはいけない。お花も可愛そうだし、何より皇后様の雷が落ちる。それも特大の雷が。

この日は遊ぶというよりも、庭園の隅にリリアスが何かを見つけてしゃがみ込んで小さな手を出している。

「みゃー」

「猫っスか?」

「リュカ、しぃー! しょぉ~ッとなの!」

抜き足差し足で近寄ろうとするリリアス。その先に、でっぷりとした恰幅の良い猫ちゃんがいた。

リリアスは。そーっとと言っているが、猫ちゃんの方は全く怖がっていないし警戒さえしていない。

堂々とそこに座っている。なんなら後ろ足で首筋をカッカッカッカと掻いたりしている。

堂々としているというよりも、太々しいといった表現の方が合っている。なかなか大胆不敵な猫ちゃんだ。

「ねこちゃ~ん、おいれ~」

「殿下は猫ちゃん好きッスね」

「え、ボクどっちかっていうと、わんちゃん派なの」

「そうッスか」

リュカは聞いておいてどうでも良いらしい。

「ねこちゃ~ん」

「ワシは猫ちゃんという名ではない」

「「え!?」」

リリアスとリュカが一緒に驚いている。

今のは誰が喋ったのだ? 二人で、周りを見回したりなんかしている。

「リュカ、今のリュカ?」

「いや、違うッス」

「え? じゃあだりぇなの?」

「知らないッス」

二人ともキョトンとしている。確かに聞こえたんだ。

猫ちゃんなんて名前じゃないと。

「どこを見ておる。ワシにゃ」

また聞こえた。『にゃ』と言ったか?

「またきこえたね」

「どこッスか?」

「ここにゃ」

にゃ? とリリアスとリュカが顔を見合わせている。

「リュカ、変だよね」

「変ッスね」

「何が変なのにゃ」

やっぱ聞こえた。語尾に『にゃ』と付けて話しているのは……

「ここにゃ。ワシにゃ」

目の前にいる猫ちゃん。太々しい態度のでっぷりとした猫ちゃんを見る。

「にゃ」

「「ええーッ!?」」

驚いたなんてもんじゃない。何しろ、目の前にいる猫ちゃんが喋っていたんだ。

『ワシ』と言うのだ、きっと翁なのだろう。

「猫ちゃん!?」

「だから猫ちゃんなんて名ではないと言っているにゃ」

この世界には獣人がいる。リュカだってそうだ。だから猫ちゃんが喋る事だってあるのだろう。え? あるのか?

「ねこちゃん、しゃべりぇりゅの?」

「だからワシは猫ちゃんて名ではない」

「お名前ありゅの?」

「当たり前にゃ。〇×◇にゃ」

ん? 名前の部分だけ聞き取れない。どうしてだろう?

「わかんない」

「聞き取れないにゃ?」

「どうして?」

「ワシが分かるわけない」

素っ気ない猫ちゃんだ。

前足でお顔をスリスリと擦っている。

ぷっくりとした前足が可愛い。触ってみたい。なんなら撫でて抱っこしてみたい。

「ねこちゃ~ん」

「だから猫ちゃんなんて名ではないと言うておる」

偉そうだ。とってもとっても偉そうな猫ちゃん。

そろりとリリアスに寄って来た。リリアスの小さな手をクンクンとしている。

「かぁ~わいいね~」

「にゃー」

リリアスが出した手を、ペロリと舐めた。すると、ポポンッと白い煙がでたかと思ったら、リリアスが猫ちゃんに変身していた。

クリッとした目を大きく開けて、驚いているらしい子猫ちゃん。

「えぇッ!? リリアス殿下!?」

「にゃ~」

「どうして!? どうなってんだ!? リリアス殿下を元に戻せ!」

「知るか。ワシの所為ではないにゃ」

「ならどうしてリリアス殿下が猫ちゃんになってるんスか!?」

リュカが猫ちゃんになったリリアスを抱っこする。大事そうに、落とさない様に、両手でそっと抱っこしている。

「そのちびっ子が願ったからにゃ」

「そんなわけないじゃないか!」

「そうか? そのちびっ子はもう嫌だったのじゃないか? 人でいる事ににゃ」

「そんな事ない! リリアス殿下を元に戻せ!」

「にゃー」

鳴きながら、太々しい猫ちゃんはピューッと何処かへ消えて行った。

「ええー!! どうすんだよ! リリアス殿下!」

「にゃ~」

リュカの腕の中には、小さな可愛い猫ちゃんが。リリアスと同じ髪色をした可愛い猫ちゃん。

どうするんだ? 子猫ちゃんになっちゃったぞ。

「殿下! リリアス殿下!」

リュカがどうすれば良いのかも分からなくてリリアスの名前を呼ぶ。

「殿下! リリアス殿下!」

「んん~……にゃ~」

「何が、にゃーッスか。寝ぼけてんスか?」

「え? リュカ? あれ? ボク、ねこちゃんになっちゃって……」

「夢見てたんスか?」

「ええ?」

リリアスが目を擦る。少し重い瞼の目を開けて、周りをジッと見る。

リリアスの部屋だ。そのソファーで眠っていたらしい。

「そんなとこで寝ていたら、ニルさんに怒られますよ」

「え? ボクねてたの? リュカと一緒にねこちゃんみちゅけて……ボク、ねこちゃんになって」

「何言ってんスか?」

どうやら、夢だったらしい。びっくりした。リュカだけでなく、猫ちゃんになっちゃったリリアス自身も超びっくりしていた。冷や汗が出た。

人に戻れなかったらどうしようと、マジで焦った。

「ふぅ~、びっくりしたにゃ~」

「アハハハ、にゃーって何スか?」

「ええー?」

「アハハハ!」

リリアスの部屋から少し離れた木の上に、でっぷりとした太々しい猫ちゃんが見ていた。

「にゃー」

と、鳴きながら。