軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3巻発売記念SS リリの騎士

皆様お馴染みの、リリアス殿下。5歳の時に光の神獣を助け契約を交わした。

真っ白な豹、ユキヒョウだ。その名をユキと名付けた。聖なる神獣、ユキ。アーサヘイム帝国の建国からの史実を紐解いても、神獣と契約を交わした皇子など一人もいない。

奇跡としか言いようのない出来事だった。それ故に、皆は驚いた。

その後、ユキはリリアスを守るといって、いつもそばにいる。

「ユキはボクの騎士だ」

「オクソールの様にか?」

「そうだよ。だから、ユキ。騎士の誓いをしよう」

帝城の中庭にある四阿だ。周りには芳しい程の花が咲いている。空は澄み切った青空。時折、リリアスのグリーンブロンドの髪をそよ風が揺らしていく。

「剣はないから、ユキの手を取るよ」

「なるほど、こうか?」

リリアスが出した手に、ユキはお座りをして前足をパフンと乗せる。

これは……何処からどう見ても『お手』だ。

周りから見ると、歴とした『お手』だ。それ以外の何者でもない。

リリアスの小さな手に、モフッとしたユキの前足を乗せている。なんなら、ユキの手の方が大きい。

「うわ、重い」

「むむむ……そうか?」

「うん、ユキの手は大きいね」

「ブフッ」

背後で笑上戸な、従者兼護衛のリュカが堪らず吹き出した。

「大丈夫、始めるよ」

「何をするのだ?」

「ボクが話し終わったら、ユキは跪いて」

「ひ、跪くのか……」

それは、無理というものだ。ユキは今、お座りをしている。ユキヒョウに跪けとは? どうするのだ?

「じゃあ、始めよう。ユキ、ボクはリリ。ボクの騎士になってください」

ん? 騎士の誓いとは? 普通は、主が剣を受け取り、跪いた騎士となる者の肩に剣の刃を置き、騎士叙任の宣言と騎士に与えられる誓いの文句を唱える……ものではないのか? まあ、いい。

「ユキ、跪いて返事して」

「よ、よし」

ユキはそのまま伏せた。それしかない。お座り以上の事といえば、伏せになってしまうだろう。

「我はリリに絶対の忠誠を捧げよう。リリを守る事をここに誓う」

それらしい事を言っているが、ユキは伏せをしている。

「ブハッ」

また、リュカが堪えきれずに吹き出した。

「リュカ、笑うところじゃないよ」

「だって殿下、無理があるッスよ」

「いいの。気持ちだよ、気持ち。よしッ! ユキをボクの騎士と認めよう! 最初の騎士だ」

「おお、最初か!」

リリアスとユキは満足気だ。当人が満足なら良いだろう。

「ユキ、行くよ!」

伏せをしているユキの背中に、リリアスがよいしょと乗った。

ヒラリとではない。よいしょだ。

「ユキ、城の中を一周しよう!」

「よし! しっかり捕まるのだぞ!」

そう言ったかと思うと、ユキはシュンと風の様に駆け出した。

「えッ!? ちょ……待って下さい!」

慌てたのはリュカだ。ユキヒョウの速さには付いていけない。

あっという間に、走るユキの姿が小さくなる。

「リリアス殿下ぁ!!」

慌ててリュカも追いかけるが、もう見えなくなっている。

「そんなに速く走ったら危ないッス!!」

虚しくリュカの声が、城の中庭に響いている。

当の、リリアスとユキは。

「ユキ! 凄いや! はやーいッ!」

「アハハハ! まだまだ速く走れるぞぉ!」

「いけーッ! ユキはボクの騎士だぁーッ!」

騎士も何も関係ない。

ユキは全身をバネの様に使い、地面を力強く蹴って走る。

背中にリリアスを乗せている。リリアスの体が揺れない様に走っている。まだまだ、全速力ではないのだろう。

それでも、城の庭をユキヒョウに乗ったリリアスが爆走していると、直ぐに大騒ぎになった。

「リュカ! 何をしているんだ! どうしてこうなった!?」

オクソールだ。騒ぎを聞きつけたオクソールが、リュカを見つけて走って来た。

「オクソール様! あっという間だったんです! 止める暇もなかったんです!」

「馬鹿! それでもお止めしないでどうする! もしもリリアス殿下が落馬? いや、落豹でもされたらどうする!」

「す、すんません!」

「リリアス殿下はどこに行かれたんだ!?」

「分からないッス……」

どんどんリュカの声が小さくなっている。

「分からないだと!?」

「だって、突然ビュンッてユキが走って行って!」

「探すぞ!」

「はいッス!」

騎士団総出で、リリアスとユキの捜索が開始された。

「あ! リリアス殿下!」

と、騎士が見つけても、目の前を走り去って行く。

「やっほーッ!」

なんて呑気に、リリアスは片手を挙げている。

「リリアス殿下ぁ!」

誰にも追いつけない、止められない。

城の建物を囲む様に広がる庭を白い豹に乗ったリリアスが爆走している。

当然、皇帝の耳にも入ってしまった。

「アハハハ! リリが!?」

「陛下、笑い事ではありません。リリアス殿下が怪我でもされたらどうなさいます」

「大丈夫だよ。ユキはリリを守る神獣なんだから。それにしても、リリは楽しい事をするなぁ。私も乗ってみたい」

「陛下!」

リリアスの父、皇帝が笑うそばで皇帝の懐刀とも呼ばれているセティが冷や汗を拭っている。

ちっとやそっとでは、表情を変えないと有名な側近セティがだ。

次々とそのセティの元に報告が入る。側近セティが管理する影からの報告だ。

「今は裏におられるそうです」

「速いなぁ」

「相変わらず、爆走しておられると」

「アハハハ!」

そのうち、騎士達が庭の周りを囲み出した。そして、口々に叫ぶ。

「殿下ぁ!」

「止まってくださいぃッ!」

「危ないですッ!」

そうするしか、術はないらしい。苦肉の策だ。

変に飛び出して、急にユキを止めたら反動でリリアスが落ちてしまうかも知れない。

それ以前に、誰も止められない。

もう大騒ぎだ。城の窓から顔を出して見ている者までいる。

「ユキ! 凄い凄い! カッコいい!」

「ワハハハ! そうか! 我はカッコいいか!」

リリアスもユキも上機嫌だ。

だが、それももう終わりらしい。何故なら、進行方向にラスボス、クーファルの姿があった。

「うわッ! クーファル兄さまだ! ユキ、止まって!」

「よし」

ユキが徐々にスピードを落とし、クーファルの前にピタッと止まった。

「リリ……」

怒っているぞぅ。背後に魔王が見えるぞぅ。

「クーファル兄さま」

「リリは何をしているんだ?」

「ユキに乗ってました」

「そうか。どうだった?」

「はい! とってもカッコよくて気持ち良かったです!」

ああ、良い笑顔で言い切ってしまった。

「リリ! 危険な事はやめなさい!」

「兄さま、危険ではないです」

「危険だよ! もしもリリが落ちたら、どんな怪我をするか分からないだろう!?」

「我がリリを落とす訳ない」

「ユキ!」

ユキの尻尾が、体に巻き付いた。クーファルの勝利だ。

「ユキに乗る事は禁止する!」

「ええー! クーファル兄さまー!」

「駄目だ! 城中の者が見ていたんだ。皆リリを心配しているんだよ?」

「すみません?」

クーファルには誰も勝てない。父の皇帝でさえだ。

その後、城の中ではユキに乗る事を禁止されたそうだ。

5歳のリリアスの可愛らしい? 暴走だった。