軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宝石職人試験

とりあえず、込み入った話になりそうなので、ミルの宿屋の部屋に戻った。

職奪の宝玉というのは、対象から職業を奪うことができる魔道具の一種だという。

本来は、犯罪職を極め、手に負えなくなった凶悪犯の職業を封じるために使う魔道具らしいのだけれども、それを使えば、無職になれるのだとか。

「じゃあ、それを女神様にいただけばいいわけか。ダンジョンに行けばいいのか? それとも女神様が直接マイワールドに来てくれるのか?」

「いや、女神様は地上の人間に迷宮の踏破ボーナス以外、道具を渡すことは禁止されているんだ。渡せるのは特定のスキルだけだ」

「禁止されている?」

それは、女神の上位存在がこの世界にいるかのような話だ。まぁ、いるんだろうな、創造神とか。

「ってあれ? それっておかしくないか?」

「なにがだ?」

不思議そうな顔を浮かべるニーテだったが、俺はそんな彼女の顔を指さした。

この、一見どこにでもいるようなポニーテール美少女と、マイワールドで引きこもっているボブカット美少女。

ふたりはどちらも普通の人間ではなく、ホムンクルスである。

そして、彼女たちはトレールール様からいただいた。

ホムンクルスを道具扱いすることは憚られるが、しかし渡せるのが特定のスキルだけ、という原則から外れている。

「あぁ、そういうことか? 確かにあたしたちはマスターのために働いているけれど、結局はトレールール様の命令が最優先、神の人形だからな。本当はマスターに与えられているわけじゃない。トレールール様の命令が最優先される。最悪、マスターを殺さなくちゃいけなくなる」

「マジか……」

「そんな顔すんなよ。イヤなのはあたしだって同じだよ。なんだかんだいって、マスターは好きだしな」

「……そうか」

「マスターを 揶揄(からか) うのは好きだからな」

「…………そうか」

わざわざ言い直したのは、照れ隠しなのか、それとも本当に揶揄われているのかはわからない。

まぁ、トレールール様がニーテに殺害命令を下すことはあまり考えられないけれどな。

「マスター、話を戻していいか?」

「あぁ、悪い。それで、職奪の宝玉はどうすればいいんだ?」

「老竜の巣だ」

なんでも、ピオニアが言うには、ドラゴンというのはキラキラ光る宝石や金銀財宝が好きなんだそうだ。人間の馬車をも襲っては宝を奪って、自らの巣に持って帰る。

その巣の中に、職奪の宝玉がある可能性が高いらしい。

なんでも、二十年くらい前に盗まれたんだそうだ。

「老竜の巣ってどこにあるんだ?」

「ここから一番近いのは、この町から北西にある火山だな。ランドウ山っていうらしい。十五年前に、職奪の宝玉がその巣の老竜に奪われたことも確認済みだ。だから、まずはマスターに、宝石職人の職業を解放し、装飾品鑑定のスキルを入手して欲しい。あたしも職奪の宝玉がどんなものかわからないからな」

「宝石職人?」

はて? その職業、どこかで聞いたような気がする。

あ……思い出した! 本に書いてあったんだ。

管理者である彼女は、試験を行うことで、見習い料理人、宝石職人、キノコ鑑定士の職業を解放させることができるんだった。

なんたる偶然――いや、ルリーナのことを知っていたから、ニーテはこの提案を俺にしたのだろう。

マイワールドに戻った俺は、ルリーナに、宝石職人になりたいと伝えた。

すると、彼女はふたつ返事で了解してくれた。

しかし、そのまま試験――というわけにはいかない。

「イチノジョウ様のお役に立てるとは光栄です。宝石職人になるには、まず宝石の原石を用意してください」

宝石の原石か……そんなものアイテムバッグの中に入っていただろうか?

いや、待てよ?

「そうだ、あれがあるじゃないか!」

俺はそれを思い出し、さっそくマイワールドにいるみんなを浜辺に集めた。

肩をまわして軽くストレッチをする。

職業は……いまのままでいいだろう。

俺は浜辺の目的地に行った。

「シーナ三号、亀鍋の準備はできているなっ!」

「はいデス!」

海女さん姿のシーナ三号はそう言うと、金属製の命綱を体に巻きつけ、海のなかに飛び込んだ。

そして――

「いまだっ! みんな、引けっ!」

俺の合図で、ダークエルフたちが一斉に縄を引く。

縄はみるみる巻き取られていき、シーナ三号を餌と間違えたらしいルビアタートルが釣れた。

シーナ三号、自分は疑似餌が得意だって言うから任せてみたが、本当に凄いな。

釣りを開始して五秒も経っていない。

もちろん、こんな無茶な釣りは本物の海ではできないけれど。

「いまです、マスター」

「おう、スラッシュピコピコハンマー乗せ!」

俺の放ったスラッシュが、ルビアタートルの甲羅に命中。

ダメージはほとんどないが、気絶させることに成功した。

あとは、気を失っている間に解体を済ませる。

【イチノジョウのレベルが上がった】

【侍スキル:真剣白刃取りを取得した】

【アウトドアシェフスキル:塩作成を取得した】

よし、レベルアップきた。

真剣白刃取りか。侍らしいスキルだな。

塩作成は、海水から塩を作ることができるスキルらしい。海水を乾燥させて作るよりも効率が良さそうだ。

スキルを覚えていない職業も順当にレベルが上がっている。

俺は第二職業を解体士に変え、殺したルビアタートルを解体していく。

一瞬とはいかないまでも、十分も掛からずにルビーでできた甲羅と亀の肉に分解した。

「よし、シーナ三号! この亀肉の調理はお前に任せた!」

「任されたデス!」

俺は亀の甲羅を持って、作業小屋にいるルリーナのところに向かう。

「ルリーナ、例のもの持ってきたぞ!」

「お疲れ様です、イチノジョウ様。では、さっそく宝石職人の試験をはじめます」

管理者である彼女は、教官職のように職業試験を実施することができる。

国の法律では、試験を行うには国の許可が必要なのだが、当然、マイワールドは治外法権なので関係ない。

「それでは、イチノジョウ様に試験内容をお伝えします」

試験の内容は、受験生が持ってきた宝石類に応じて決まる。

カンニングや不正は一切禁止、試験の内容もルリーナが決めるのではなく、スキルを使うと自動的に決まり、彼女はそれを伝えることしかできない。

「試験の内容は、ルビーを使った指輪です。一定基準のルビーの指輪を作ってください」

「わかった!」

俺はさっそく、アイテムバッグから、錬金術で作った純銀を取り出すと作業を開始した。

まず、純銀に槌を振り下ろし、一瞬で無数の銀の指輪(台座付き)を作り出す。

そして、ルビアタートルの甲羅から、不純物が多い部分を取り除き、綺麗な場所だけ手の平に納めると、作業を開始する。

方法は簡単、同じく鍛冶スキルを使うのだ。

鍛冶スキルのなかにあった火の剣。

その素材はルビーと魔石だった。

火の短剣を作る。

小指サイズの短剣を作り出す。柄の部分がちょうど指輪に収まる感じになった。

そして、短剣の部分を少し削れば――

「よし、完成だ!」

「不合格です」

「はやっ!? え? なんで? これってすごい逸品だぞ! 指輪なのに――」

と指輪から赤い熱線が出て、部屋の隅においてあった岩を破壊した。

「と、攻撃にも使えるんだぞ」

「なんでって、イチノジョウ様。それは火の指輪で、もうルビーの指輪ではありません。いえ、威力は一級品ですけれど。イチノジョウ様の魔攻値に連動しているのですね」

「くっ……もう一回だ。しかし、どうすればいい?」

「あの、イチノジョウ様、普通に宝石を作るための機材を用意していますので、そちらを――」

「鍛冶の素材変更で――いや、これって追加素材を入れるだけだから、ルビーの指輪じゃないんだよな。なんでアクセサリー一覧にルビーの指輪がないんだよ」

「ですから、イチノジョウ様、普通に――」

「ん? そうだ、逆にこっちを使えばいいんだ!」

俺は不純物が多く、捨てようと思っていたルビーを手に取る。

そして、錬金術により不純物を取り除く。

「よし、球体のルビーができた。あとはこれを埋め込めば……ルリーナ、できたぞ!」

俺は完成したルビーの指輪をルリーナに見せた。

「ご……合格です。錬金術で宝石から不純物を取り除くのは非常に困難だと聞いたことがあるのですが」

確かに、かなりのMPが使ったけれど、しかしこの程度、ブースト 太古の浄化炎(エンシェントノヴァ) を使うよりかは、遥かに楽だ。

「気にするな。これで宝石職人になれるのか?」

「はい、あとは筆記試験に合格すればなれます」

「ひ……筆記試験?」

マジか……いや、もう後には引けないな。

「ルリーナ、頼む!」

「はい、少々お待ちください」

ルリーナはそう言うと、どこかに行って、戻ってきた。

なぜか黒いスーツとタイトスカート、そして伊達メガネをして。

「なんだ、その恰好は」

「イチノジョウ様の世界では、女性の教官はすべからくこの姿で教えるべし! とニーテ様より教わりまして」

「よし、細かいツッコミはなしだ。巻きで行くぞ」

もう何も言うまいと決めて、俺はルリーナから宝石職人になるための勉強を頑張った。

ジュエルタートルの宝石と普通の宝石の見分け方とか、イミテーション宝石の作り方みたいな内容まで、ざっと五時間は集中した。

これほどまでに勉強したのは、高校受験の前日以来じゃないだろうか?

そして、筆記試験が始まった。

これまた難題な問題が続く。

あれ? アリガ島の埋蔵量が一番多い宝石はラピスラズリだったか、それともアクアマリンだったか、どっちだったっけ?

といささか混乱することもあったが、試験は制限時間よりも少し早く終わった。

ルリーナがその場で即採点をする。

「宝石職人試験。合格点数は七十五点。イチノジョウ様の点数は……」

このタメの時間……心臓に悪いな。

「八十七点です!」

「よっしゃ!」

自然とガッツポーズが出る。

レヴィアタン並みの強敵を撃破した気分だ。

【職業:宝石職人が解放された】

アウトドアシェフを宝石職人に変更。

そして、浜辺に向かった。

後ろから、俺の合格祝いだろうか? 打ち上げ花火が上がった。

そして、

『~イチノジョウ様、宝石職人合格おめでとう~』

という横断幕が、亀鍋パーティ会場に掲げられているのを見つけた。

俺が試験に落ちたらどうするつもりだったんだ?

あ、そうか。ルリーナが打ち上げた花火が、俺の合格を知らせるものだったのか。

「イチノジョウ様、こちらの準備もできています」

鉄格子に閉じ込められているエメラルタートルをララエルが持ってきた。

「悪いな……家畜を殺すことに躊躇っている余裕はないんだ」

最初から殺すことを目的として育てた亀だ。

いくら恨んでくれても構わないと思い、俺は白狼牙でエメラルタートルの眉間を突いた。

【イチノジョウのレベルが上がった】

【侍スキル:投げ銭を取得した】

【宝石職人スキル:研磨を取得した】

【宝石職人スキル:装飾品鑑定を取得した】

装飾品鑑定を取得したようだ。

他の鑑定スキルのように統合はされないようだ。

素材と完成品との違いかな?

「目的のスキルを覚えたぞ!」

これで、職奪の宝玉を鑑定することができる。

「お、ニーテは準備がいいな……で、なんだ? この目立つ服は?」

「敵地に忍び込んで宝石を奪うならこの服装が一番だな」

赤いジャケットに青いシャツ、黄色いネクタイと白いパンツ……どう考えても、目立つだろ。

どこかの警部に追いかけられる未来が見える。

「イチノジョウ様、一応こちらも用意しています」

ララエルが黒い服に口を隠すマスクという簡易変装の服装を俺に渡した。

人間の屋敷に忍び込むならいいけれど、ドラゴンの巣に忍び込むなら普段着で十分だろう。

「マスター、亀鍋もできてるデス」

「……あ、うん。もらうよ」

シーナ三号念願(?)の亀鍋を受け取り、口に運ぶ。

「……美味いな、これ。いい塩加減だ」

ミドリガメとかは食べると腹を壊すと聞くけど、ルビアタートルはウミガメだ。確か、ウミガメは美味しいって聞いたことがあるからな。

ウミガメのスープ問題みたいな話もあるし、美味しいんだろうな。

「よかったです。亀の料理は初めてだったので不安だったのですか」

「ララエルが作ったのか?」

ララエルは料理が上手なのか。

ハルたちは料理が下手だったからなぁ。

「族長、ズルいですよ。私たち全員で作ったんですよ」

「そうです! むしろ、ララエル様は出汁を間違えて捨てていたじゃないですか!」

「灰汁取りを人一倍頑張った私こそが功労者です」

とダークエルフたちが己の功を宣言した。

「あぁ、みんなのお陰だな。ありがとう。さぁ、みんなで食べよう」

俺はダークエルフたちに礼を言って、最後の亀雑炊まで美味しく食べたのだった。