軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ

ハルと別れて、もう二週間くらいか。

静かだったマイワールドも、ホムンクルス姉妹に、ダークエルフたちも加わり、これまで以上の賑わいを見せている。

現状は大森林跡地から北を目指していた。

ユーティングス侯爵領に謝礼をもらいに行くことも考えたけれど、望みのままの恩賞というのもどこまでのものかわからないし、下手に、「男爵の地位を授かれるように国王陛下に進言してやろう」と言われても困る。成り行きでパウロ伯爵から爵位を賜ったが、この国にいつまでもいるわけではない。これ以上の爵位は足枷になりかねないからな。

というわけで、とりあえず北を目指すのには訳がある。

昨日、俺はダークエルフたちの弓の訓練を見学させてもらっていた。

五十本弱の矢が木で作られた的の中心に命中するとともに、木の的は破裂した。ただの石矢だというのに。 石鏃(せきぞく) に火薬を仕込んでいたわけではない。これがダークエルフたちの弓術なのだという。

「我々の種族名がダークエルフと呼ばれるのは、種族全員が生まれながらにエルフ弓士の職業に就くことが可能だからなのです。エルフ弓士は魔力を矢に込めて放つことで、魔法にも勝るとも劣らぬ威力の矢を放つことができます」

ララエルが自慢するわけでもなく、淡々と俺にそう語った。

魔力を矢に込める……魔法剣ならぬ魔法矢といったところだろうか?

ちなみに、ララエルの職業がエルフ弓士ではなく、大弓士だったのは、大弓を扱うことで射程距離を伸ばしたかったからだそうだ。大弓士は矢の射程を伸ばすためのスキルが複数手に入るらしい。

「しかし、石の矢でこれだけの威力を放つことができるということは、鉄ならどれだけの威力になるんだ?」

「いいえ、イチノジョウ様。鉄を含め、ほぼすべての金属はエルフ弓術との親和性が低いのです。鉄の矢を使うくらいなら、木の矢のほうが威力が高いくらいです」

「え? そうなのか?」

ほぼすべてってことは、銀や金でもダメなのだろう。

それなら、いっそのことダイヤモンドの矢とか……作る方法がわからないや。

「唯一の例外がミスリルの矢です。鏃がミスリルでできている矢の威力は、同じミスリルの盾ですら防げないと言われています」

そう言って、ララエルは矢筒から一本の矢を取り出した。

それが普通の矢ではないことは見てわかった。鏃の部分が銀色に輝いている。普通の銀よりも輝くその金属を鑑定してみると、ミスリルだということが確認できた。

ララエルはその矢を大弓に番えた。

そして、ララエルが矢を放つ。

真っすぐ飛んでいった矢はなにもない地面に突き刺さった――その直後だった。

爆発した。

現在の俺のブーストプチファイヤくらいの威力だろうか? 地面は深く抉れ、クレーターができており、残ったのはミスリルの矢だけだった。

「これがエルフ弓士の神髄です。この矢を使うダークエルフは一騎当千の猛者とも言えます」

なるほど。どうして五十名弱のダークエルフに対し、一万以上の軍を動かしたり、わざわざ森を焼き払うなど姑息な手段に出たか疑問だったけれど、この話を聞いたら納得だ。

一騎当千という言葉をそのままに取るのは言い過ぎとしても、百人くらいなら相手にできそうだ。そんなダークエルフが五十名弱……つまり五千人相当の兵力があると思って相手したのだろう。

「族長、いくらイチノジョウ様に説明するためだからって、土を抉らないでください。 均(なら) すのが大変です」

「いくらイチノジョウ様にいいところを見せたかったからって、ミスリルの矢は緊急時以外使わない決まりだったはずですよ」

「ララエル様ばかりイチノジョウ様と話してずるいです!」

訓練をしていたダークエルフたちから批判が殺到した。

「訓練の最中は私語を慎めっ!」

ララエルが強めの口調で言うが、しかしそれだけでは野次は収まらなかった。

その後、何故か俺との会話を巡って弓矢で勝負をすることになった。俺の決定権は……うん、口を挟める余裕はないよね。

参加者は三十名、若手のダークエルフが十余名棄権を申し出た。ララエルも強制的に不参加を言い渡され、そして試合は一時間も続いた。

ダークエルフの訓練の様子を見るという名目はしっかり果たされた。

そして、勝ち残ったのは銀色の髪をサイドアップにしたダークエルフの中では若手の少女だった。見た目は俺より年下――十六歳くらいに見えるけれど、ダークエルフは長命な種族だから見た目通りの年齢ではないのだろう。

「……よろしくお願いします、イチノジョウ様!」

笑顔で俺に挨拶をする彼女。

えっと、名前は確か――

「ルリーナ……だったよな?」

と俺はフランクな口調で尋ねた。普段話し慣れていない女性に対し、こういう口調で話しかけるのは俺としてはいささか不満があるのだけれども、立場を明確にするために敬語は使わないようにと、ララエルに注意されたことがあった。

まぁ、こういう口調の方が楽な面もあるので、最近はすっかり受け入れている。

「ふたりで話すのは初めてなのに、覚えていてくれたんですねっ! 嬉しいです!」

「まぁ、もう何日も一緒にいるからな。あと、ふたりきりじゃないから」

ルリーナに向けられているものだというのはわかっているけれど、しかし他のダークエルフからの視線が痛い。というより、もうダークエルフの弓術の見学は十分したから、説明は要らないんだけど。

ってあれ?

俺はルリーナの職業を見て気付いた。

【管理者:Lv13】

初めて見る職業だ。

「ルリーナの職業、管理者なのか?」

「はい、そうです! 管理者です! え? 凄い洞察力ですね。なんでわかったんですか?」

どうしてって、無職スキルについては説明するわけには……って彼女たちをこの世界に連れ込んだ時点で今更か。

「特別なスキルだよ。ところで、管理者ってなんなんだ?」

「管理者は、基本的にはいろいろな情報の管理をする職業ですね。冒険者ギルドで見たことがありませんか?」

「いや、見たことがない」

「あぁ、まぁ、冒険者ギルドでも基本は裏方の仕事ですからね。冒険者ギルドでパーティの設定をしているのが一番有名な管理者の仕事です。あとは、計算や記録などのスキルも覚えます。文章も本一冊くらいなら五分で丸暗記できますね」

へぇ、それは便利な職業もあったものだ。受験生垂涎のスキルだな。

「管理者にはどうやったらなれるんだ? やっぱり上級職なのか?」

「いいえ、そんなことはないですよ。管理者は冒険者ギルドが一年に一度開催している試験に合格すれば誰にでもなれる職業です。ただし、そのために覚えないといけないことが山のようにあるので、合格率は一割未満と言われています」

まさか、試験に便利な職業になるために、試験を受けないといけないとは。

日本にいた頃、就職のためにいろいろな資格とその合格率を調べたことがあるから、その難易度はよくわかる。

合格率一割未満って司法試験の合格率よりも低く、気象予報士の合格率よりは高い。つまりは非常に厳しい試験ということだ。

俺にはまず無理だろう。

「ちなみに、試験の内容はどんな問題だったんだ?」

「管理者の試験のジャンルは幅広いですよ。たとえば、『野菜、芋類、肉類、穀物等の価格表を用い、金貨三十枚で大型船の長距離航海用の食糧を買い込むとき、一番効率のいい組み合わせはなに?』という問題が第一問だったとするのなら、『第一問の食糧を買い込み、以下のガレー船に積載したとき、航海に必要な人員の数を導き出せ』という問題が第二問ですね。その後は、『架空の航海図を用意され、その食料、その人員でどこまでの往復の航海が可能か計算しろ』みたいになります」

思った以上に難しい問題だった。問題の意味はわかるけれど、解き方はちんぷんかんぷんだ。

解こうと思えば、栄養の知識、価格計算、さらに船の性能や航海図の読み方まで全部理解していないと解けないんじゃないか? あ、野菜や生肉なんかは腐りやすいから、それについても計算しないといけない。

そんなの解ける人間、本当にいるのか?

って、そういえばルリーナがそうだったっけ。

「そういえば、ピオニアさんに聞いたんですけど、イチノジョウ様が大切になさっているキャロル様なら、管理者の試験も余裕で合格しそうですね」

……そういえばそうだ。キャロなら余裕だ。

ついでに言うと、ミリも絶対に合格できる。

俺の周りの小さい子たち、優秀過ぎるだろ。