軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ドワーフの住む山へ

「それなら、ルリーナって、パーティの移籍とか設定ができるってことか?」

「はい、可能です。あ、ただし魔記者が作った札が必要になりますので、それがあれば、ですけれど……すみません、仲間に魔記者はいなくて」

「魔記者か。ちなみに、何レベルでその札は作れるようになるんだ?」

「レベル10です」

俺の魔記者のレベルは現在7。

レベルが少し足りないか。

「あ、そういえば札を作るには薬師の専用のインクが必要だったんだよな」

「札のインクなら、リリアナが作れますよ? 彼女は薬師ですから」

ルリーナはひとりのダークエルフの名前を挙げた。

「へぇ、リリアナが」

それはいいことを聞いた。

「ちなみに、インクの素材は何を使うんだ?」

「 没食子(もっしょくし) と硫酸鉄ですね。どちらも薬師の店で比較的手に入りやすいはずです」

もっしょくし? 聞きなれない名前だけど、憶えておこう。

それにしても、硫酸鉄も使うのか。

てっきり、石油のようなものを使うとばかり思っていた。

どちらにせよ、魔記者のレベルを上げないといけないようだ。

「あ、あの、イチノジョウ様。ひとつお願いがあるのですが」

「お願い? まぁ、俺にできることなら――」

「サインをいただけないでしょうかっ!」

ルリーナはそう言って、矢筒と短剣を俺に差し出した。

……彫れと?

できることならやると言った手前、断るのも憚られた。

しかし、普通のサインですらしたことがないのに、短剣で名前を彫るなど……彫るなど……意外とうまいことできるものだ。芸能人みたいなサインがぱぱっと彫れた。

彫刻刀でもここまで綺麗に彫れなかったと思うんだが。器用さUPなどのステータスに影響が出ていないスキルの賜物だろうか?

鍛冶スキルで細かいアクセサリーも作ることができるようになったしな。

「ありがとうございます! 家宝にします!」

家宝って大袈裟だろ。頼むから一代限りにとどめておいてくれ。

サインのデザインは中学校の頃に友達と冗談で作ったのを思い出した。黒歴史だと思っていたが、意外なところで役立った。

ん? 細工か。

「そういえば、ダークエルフも全員器用だよな? ミスリルの鏃とかも自分たちで作ったのか?」

「いえ、ミスリルの加工をできるものは私たちの中にはいません。ドワーフに依頼していました」

「ドワーフっ!?」

ドワーフはエルフと並び有名な種族だったよな。髭が濃く、酒と鍛冶を愛する種族だというイメージが強い。また、この世界に来てから最初に見たダイジロウさんのこの世界に関する説明の手引きにもその種族名は列なっていたし、 人間族(ヒューム) 、 巨人族(ジャイアント) 、 小人族(ミニヒュム) とともに女神教会を立ち上げた種族でもある。

「ドワーフが住んでいる場所はわかるのか?」

「大森林の北にドワーフが住む山があります」

そのあと、ルリーナはドワーフの住んでいる具体的な場所を、簡易の地図に描いて俺に教えてくれた。

「彼らに大森林で造った果実酒を卸し、その見返りとしてミスリルの加工を頼んでいました」

最初にララエルと出会った時、俺は彼女にミスリルを譲った。もともとは山賊が盗んできたミスリルだし、俺の鍛冶スキルではまだミスリルの加工はできないので快く譲ったことがあったな。

「じゃあ、手に入れたミスリルは全部鏃にしていたのか」

「それは一部ですね。ほとんどはイシルディンを作るために使われました」

「イシルディン?」

また聞いたことがない名前が出てきた。

地球に存在する物質なら翻訳さんが勝手に地球の言葉に変換してくれるので、やはり異世界のアイテムかなにかなのだろう。俺が知らないだけかもしれないけれど。

「イシルディンはミスリルから作り出すことができる、インクの一種です。実物を見たほうが早いですね。少々お待ちください」

ルリーナはそう言うと、ツリーハウスの方へと走って行き、数分で戻ってきた。

小瓶を持って。

「こちらがイシルディンです」

「これが……イシルディンか……」

と俺は言ってはみたけれど、小瓶の中にはなにかが入っているように見えない。

「本当にこの中にイシルディンはあるのか?」

「はい、ありますよ」

「もしかして、バカには見えないインクとか?」

「いいえ、 現在(いま) は誰にも見えません。このイシルディンは、月の光の下で魔法を唱えることで見えるようになるのです」

よかった、俺だけが見えないわけではないようだ。

ミスリルがどうやったら液体になるのかは見当も付かないし、魔法を唱えないと見えないというのも理解できない。

しかし、ようやく使い道は理解できた。

「なるほど、つまりこのイシルディンを使って他種族には決して知られていはいけない秘伝を文字にして伝えていくわけか」

「うふふ、そんな大したものではありません。このイシルディンが見える時、その光はとても美しいのです。ですから、私たちは黄金樹のある洞窟の壁にイシルディンで絵を書き、年に一度、黄金樹の真上を月が通過するときに魔法を唱えて鑑賞するんです。もっとも、イシルディンはとても貴重ですから、いまだに壁の五分の一も描けませんでしたけれどね。イチノジョウ様にも見ていただきたかったです」

「それは是非見たかったな」

黄金樹が植えられていた洞窟は、セトランス様がサラマンダーを倒したあと、ララエルに頼まれて破壊しておいた。黄金樹が持ち出されたことを誰にも知られないために。

そんな壁画があるって知っていたら、破壊を躊躇したかもしれない。

それに、この世界では、もうイシルディンが光り輝くことはないだろう。

マイワールドには俺たちが立っているこの大地以外、月もなければ星もない。それどころか昼も夜もないのだから。こんな環境では、月の下でしか輝かないというイシルディンが光を放つことはないだろう。

「そういえば、ドワーフでしたら、イチノジョウ様が探しているというダイジロウという方の情報も少しは入手できるかもしれませんよ」

「なにっ!?」

ダイジロウやミリの情報はダークエルフと共有していた。

その時はほとんど情報は得られなかったが。

「ドワーフの加工技術は世界一と言われており、特に錬金術と鍛冶については右に出るものがいません。そのため、多くの技術者が集まります」

「そうか――確かにダイジロウさんが一匹オオカミじゃなければ、技術者の知り合いもいるだろう」

というより、あんな巨大な飛空艇、ダイジロウさんがひとりで造ったとは考えにくい。

ダイジロウさんと協力している技術者がいれば、彼女が現在どこにいるか、そういう情報も集まるかもしれない。

俺はドワーフの住む山を目指すことにした。