作品タイトル不明
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俺は、謁見室の隣の小会議室で、ビブリ国王と第一王子との密室の交渉に臨んだ。
ビブリ国王は、額に冷や汗をにじませていた。
(……くっ、胃が痛い。リリアーナの件が公になれば、第二王子だけでなく、我が国の面子も立たぬ!)国王の苦渋に満ちた感情が流れ込んできた。
国王は、意を決したように言った。
「カイル殿下、今回の貴国の援助、心より感謝する。おかげで我が国の危機は水際で免れた。リリアーナの件は、極秘裏に処理させていただきたい。その協力への対価として、グレースとの婚約の儀、外交的な慣例を全て省略し、最速で進めることを約束しよう」
「迅速に対応いただけるとのこと、感謝します」俺は頭を下げた。
ビブリ国第一王子は、手に持ったリリアーナの部屋より回収した機密情報の写しを鋭い眼差しで見つめながら、俺に尋ねた。
「リリアーナという女性が、ヴァロア国の間諜であったことは、貴国ではどのように確認されたのですか?」
俺は威圧を込めて鋭く言い放った。
「我が国の情報収集能力を、あまく見ないほうがいいですよ」
俺のその一言で、第一王子は目に見えて怯え、視線を彷徨わせた。(レギオス国の情報収集力はそんなにすごいのか!我が国の内情は筒抜けなのか?絶対に今後、裏切るような行動に出られない!)と、心の声が響く。
「一つ確認したい事があります」
俺の発言に、ビブリ国王と第一王子は緊張を強めた。
「第二王子失脚に伴い、貴国はロートシルト侯爵家を『第二王子派』として処罰したいが我が国との外交摩擦を招く。ゆえに、どのような落としどころが良いか迷われているのではないか?」
第一王子は、己の最大の政治的ジレンマを的確に指摘され、慌てた表情をあらわにした。
「……まさに、そこは懸念だ。殿下のご意向があれば確認したい」
俺は、待っていたとばかりに、最終的な提案を突きつけた。
「侯爵を単なる派閥貴族として『政治的な粛清』の対象とするのではなく、娘への精神的虐待、そして家族に対する監督責任の放棄という『人道的な制裁』を行ったという体裁を整えるというのはいかがですか? しかし侯爵は第二王子を傀儡にして自分の利益を優先させる画策をするような人物と聞くので、ロートシルト侯爵と長男オーギュストを全ての公務から永久追放するのが良いでしょう。侯爵位の実権はビブリ国が一時的に管理し、二人は侯爵邸での厳重な蟄居を命じられ、二度とグレース嬢に関わらぬことを公的に誓約するというのはどうでしょうか」
(人道的制裁とすることで国内の不満も抑えられる。しかも、厄介だった侯爵家は実質的に滅んだ!)第一王子は心の底から安堵した表情を見せた。
俺の提案は彼らにとって最適解だったようだ。
「……分かった。その裁定に、私は全面的に賛成する。侯爵家の処分は、カイル殿下の裁量に一任する」
ビブリ国王は、安堵からか深く息を吐き出し、頭を下げた。
「感謝する、カイル殿下。貴殿の冷静なご判断とご配慮に、心より感謝を」
俺は、静かに首を振った。
「私が一番に望むのは、グレース嬢の安寧です。私の個人的な願いとして、貴国には彼女の未来のために、真摯な努力を尽くしていただきたい」
俺の希望が叶わぬ場合、容赦なく行動に出るという、『警告』を込めて言った言葉は彼らに正しく伝わったことが、彼らの心の声でわかった。
(……恐ろしい。グレース嬢の扱い一つで、我々の命運が決まる!)
(この殿下を敵に回してはならない。グレース嬢の安寧は、すなわち我が国の安寧だ!)
ビブリ国王と第一王子は、声もなく深く頷くことしかできない様子であった。