軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

飛雲

俺と師匠は、当然徒歩移動ではなかった。

もちろん俺も師匠も、旅をするからには徒歩が一番だと思っている。

移動に仙術を使うなど、怠惰極まりない。修行が足りない、と言われるところだ。フウケイさんも基本徒歩移動だったらしいしな。

とはいえ、今回は俺の都合もある。俺は宮仕えの身なので、あまり長期間国を空けるは好ましくない。

ぶっちゃけ徒歩で往復だと何年とか何十年とかかかりそうだし。

俺も師匠もそんなことを気にしないが、帰ったらエッケザックス以外全員死んでいる、という可能性もある。時間とは残酷なものだ、特に時間の尺度が違う者同士だとさらに残酷である。

「我が弟子よ、申し訳なく思っている。儂のような時間の余っている年寄りの都合に合わせて、娘の成長を見守れなくなっているのだからな。お前もそうであるが、レインやファンにも申し訳なく思っている」

「俺は師匠のことも大事だと思っていますが……そうですね、レインやファンだけではなく、ブロワにも悪いと思っていますよ」

師匠が死ぬ、ということもあって同行している身ではあるが、ファンには申し訳ない。

そばにいる時間が本当に少ない。俺の人生はそれこそ有り余っているのに、彼女のために使っている時間が少なすぎる。

よく考えたら、俺ってブロワやお嬢様と一緒にいた時間が、一番長いのではないだろうか。

「できれば、早め早めに帰りたいところですね」

「であろうな、行きは儂の術を使っているわけであるが……帰りは何か宝貝を調達せねばな」

筋斗雲、という天動術である。

小さめの雲を高速で動かす術であるが……ぶっちゃけ乗れているのは、仙術の軽身功によるものであった。

俺と師匠は、二人が寝転がってもぶつかり合わない程度に大きい雲の上で、風に乗って移動してた。

眼下には大地が広がっており、まさに飛行機に乗っている気分である。

仙人なので風圧だとか気圧だとかの影響は受けないのだが、この雲自体が風と同じ速さで移動しているので、結果的に俺の周囲は無風状態である。飛行機というよりは、気球なのかもしれない。

「と、なれば、挨拶もかねてセルへ行くのも悪くない」

「ああ、マジャンの近くにある秘境ですね」

「いかにも、虚空法によって隔離された空間であるな」

師匠は昔を懐かしんでいた。

片腕をちぎられたことも、あまり気にしていないらしい。

「……そうさな、時間もあることであるし、今まで何も説明せなんだ分、稽古ではなく昔ばなしでもしてやろう」

自分が術を覚えることに執心し過ぎていたことを悔いている師匠は、あまり多くのことを俺に教えたがらなかった。

こうして積極的に教えてくれるようになったのは、それだけ俺が成熟していると認めてくれている証拠だろう。

「宝貝は神宝に及ばん、所詮仙術の再現である、ということは知っているな」

「ええ、なので師匠はエッケザックスを求めて神のところへ行ったんですよね」

よくよく考えると、それって大概ではないだろうか。

そもそも師匠は、神から紹介状によって俺を弟子にしたわけである。

直接会った時に、いろいろと言われたのであろう。エッケザックスをもらい受けるときに、借りでも作ったのかもしれない。

「然りである。とはいえ、元より儂も花札で学んだ仙人である。最初から神宝を求めていたわけではない」

師匠も宝貝を作ることができるが、お世辞にもそこまで高性能な道具が作れるわけではない。

もちろん、錬丹法も含めて多くの実用性あふれる道具を作成できる、という点は凄いのだが。

「元々、儂が修業を始めたときに、花札にはいくつかの宝貝が奉納されておった。それこそ、神宝に次ぐ強力な武具であった」

「……壊したんですね」

「然りである。奉納されておったそれのうち一つを、儂は盗んで使っておった。それを止めるべく、許可を得たフウケイが、残りの奉納されていた宝貝を装備して儂と戦い……全部壊した」

ご神体的な道具を、遊び半分で壊したのか……。

改めて聞くと、ひどい師匠である。

それを自覚しているのか、師匠はとても恥じらっていた。

なるほど、自分のことを尊敬している弟子には、とてもではないが話せないことである。

しかし考えてみれば、武器が壊れるなんて当たり前だ。

俺もオセオへ侵攻したときは、礼服はともかく剣は大量に折った。

どれだけ気功剣で強化しても、武器というものは使えば壊れる消耗品。

どれだけ手入れをしても、構造上の強度には限界がある。

最強に近い武具も、酷使すれば壊れるのが必然だ。

伝説の武器だという八種神宝も、師匠自身がエッケザックスを使ったとはいえぶっ壊しているし、そのことでいまだに恨まれている。

そんなことを、昔の俺が聞いたらどう思うだろうか。

なんで弓矢ならともかく、武器が壊れるんだよとか思っただろうか。

「とにかく、儂は勝手に奉納されておった武具を持ち出したことを悔いることもなく、フウケイやカチョウ師匠に迷惑をかけたことを意識もせず、己の未熟さを棚に上げて武器がもろいことを嘆いたのじゃ。それ故に、エッケザックスを求めたわけであるが……エッケザックスを手に入れた後に、儂はまず何をしたと思う?」

「試し切りですか?」

「然り、儂は奉納されていた最高の宝貝の製作者のところへ、エッケザックスを振るうべく向かったわけである。もちろん、道中でも試し切りはしたがのう」

なるほど、そこまで聞けばわかる。

秘境セルとは、その凄腕の宝貝職人の仙人が暮らしている場所なのだ。

「宙にういておった花札とは異なり、セルは虚空に隠された場所故探すのには少々難儀したが、流石に神の居場所よりは簡単に見つけられた。エッケザックスのおかげで気配を察知できる範囲も広がっておったしのう」

「そして、セルに赴いて……」

「うむ、至高の宝貝職人にして虚空法を修めた仙人、いやさ大天狗『セル』の配下と戦うことになったわけであるな」

「……セルって、天狗の名前なんですか?!」

「いかにも、セルが術で生んだ秘境ゆえに、秘境セルと呼ぶ。あ奴は儂の師よりも長い年月を生きた大天狗であってな、その手が作る宝貝は儂の宝貝とは比べ物にならん。それこそ才能が違う、もしくは情熱が違うと言えるのかもしれん」

師匠は最終的に『石や棒で殴ればよくね?』という結論に達しただけに、道具作りには情熱が湧かなかったようだ。

あるいは、それだけその人が天才なのかもしれないが。

「そこでは無体をすることはなかった。支援を受けた里一番の男と戦い……手傷を負うも勝利した。あの経験も、儂にとっては宝である」

「そこでなら、私が帰るときに使える道具も手に入るかもしれませんね」

「うむ、セルが怒っていなければであるが。とはいえ、お主はセルの配下を救ったのであろう? であれば、そうそう悪いことにはなるまいて」

にこやかに笑いながら、師匠は気になることを言っていた。

「我が弟子サンスイよ。これから赴く先は秘境セルであり花札、迅鉄道云々を抜きにしても仙術がよく知られている土地である。当然、それに対して策を練っている者も多い。それが何を意味するか分かるか?」

「容易ならざる相手、ということですね」

「然りである」

魔力による魔法は、基本的に聖力による法術と相性が悪い。

しかし、熱や雷という対策も確かに存在している。

はっきり言えば、俺が仙術で常に優位に立ってきたのは、仙術の対策が個人レベルにとどまっていたからに他ならない。

しかし、これから向かう先には代々仙術対策をしてきた、そんな戦士がたくさんいるということである。

希少魔法の使い手の最大のアドバンテージ、希少であり未知であること。

それが通じない相手と、俺は戦うことになるだろう。

「勝て。これは信頼であり、確信である」

俺は最強である。

師匠がそう送り出したからには、誰が何人相手でも負けることはできない。

それは、師匠が悲しむことになるのだ。

師匠の前で、無様は晒せない。俺はふんどしを締め直していた。