軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

卒業パーティ(9)

会場のざわめきは、なかなか収まることはなかった。

エレノアが壇上に上がった今も、貴族たちは動揺し、ひそひそと何かを話し合っている。これまで彼女を平民だと見下していた者たちは、特に強い衝撃を受けていた。

――そして、その中でも最も荒々しく動揺を示したのが、ヴァニエルだった。

「嘘だ!!」

彼の絶叫が、静けさを取り戻しつつあった会場を再び乱す。

人々の視線がヴァニエルに集まるが、そんなことなど気にする様子もなく、彼は壇上のエレノアを指さして叫んだ。

「お前、そんなこと……一言も俺に……!」

その瞳は信じられないものを見るように、大きく見開かれていた。

「それに、髪の色が違う!王族の色ではない!地味な…なんの変哲もない茶色じゃないか!」

ヴァニエルの顔は青ざめ、彼の取り巻きですら彼の突然の言動に動揺しているようだった。

不敬極まりない発言に、国王は表情を引き締め、彼を一喝しようと一歩前に出た。

「陛下」

静かだが、はっきりとした声がそれを遮る。

エレノアだった。

壇上に立つ彼女は、毅然とした表情で国王を見上げ、そっと片手を挙げる。

「私の方で対処させていただくこと、お許しいただけますか」

国王は一瞬だけ彼女を見つめた後、静かに頷いた。

許可を得たエレノアは、まっすぐにヴァニエルを見つめ、説明する。

「……ノエルもそうですが、私たちは学園に在学中、自らの正体を明かすことを禁じられていました」

ヴァニエルの眉がピクリと動く。

「禁じられていた?」

「決して正体を公言することができないよう、厳しい制約魔法がかけられていたのです。これは王家が決めたことであり、学園の関係者、そして私たち自身も、それに従うしかありませんでした」

事実を淡々と告げるエレノアに、ヴァニエルは言葉を失ったように口を開けた。

しかし、すぐに食い下がる。

「だとしても……! 髪の色が違う! 王族の髪色はプラチナブロンドで……!」

エレノアは一つ、肩をすくめてみせた。

「……染め粉よ」

「……なに?」

「王家の血筋が、何の変装もせずに学園生活を送るとでも思って? 髪の色を変えるくらい、むしろ変装としては少ない方だわ」

ヴァニエルはぐっと息を詰まらせた。

確かに、王族が素顔をさらして学園生活を送るなど、ありえない。

もし本当に王族ならば、それ相応の対策がなされているのは当然のことだった。

ヴァニエルの顔色がさらに悪くなる。

「嘘だ……」

呆然と呟くヴァニエル。

それを見下ろしながら、エレノアの唇がゆっくりと弧を描く。

「……先ほどの騒動も含めて、あなたが今まで私に向けてきた数々の不敬な言動。責任は、きちんと取ってもらう予定よ」

その言葉を聞いた瞬間、ヴァニエルの顔は完全に青ざめ、拳を強く握りしめていた。

だが、そう簡単に屈するつもりはないらしい。数秒間、必死に呼吸を整えた彼は、顔を上げ、次にノエルへと視線を向けた。

「……ノエル・ウィンチェスター殿下」

その呼びかけに、ノエルはわずかに眉をひそめる。

「先ほどは大変失礼を致しました」

ヴァニエルは、いかにも誠実そうに頭を下げる。

「まさか、あなたの姉妹が王家のご息女であられたとは思わず、軽率な振る舞いをしてしまったことを深くお詫び申し上げます。これからは決してそのような非礼を犯すことはございません」

一転して殊勝な態度を見せるヴァニエルに、周囲の貴族たちはざわめく。

しかし、彼はここで終わるつもりはなかった。

顔を上げると、その瞳には決意の光が宿っていた。

「――そして、私はこれから、あなたの伴侶として、王家に誠心誠意仕える所存です」

言葉を区切りながら、堂々と宣言するヴァニエル。

会場は一瞬、静寂に包まれた。

だが、その沈黙を破ったのは、ノエルの何とも言えない反応だった。

「……え?」

首を傾げ、困惑したようにヴァニエルを見つめるノエル。

「……すみません、今の話、何かの聞き間違いでしょうか?」

わずかに微笑みながら、あくまで丁寧に尋ねるノエルだったが、その声色には明らかに「とぼけている」意図が込められていた。

ヴァニエルの顔が引きつる。

「なっ……! い、いや、今言った通りだ! 私は、あなたの伴侶となる者――」

「なるほど、なるほど」

ノエルは頷きながら、さらに首を傾げる。

「でも、それって一体、何の話でしょう?」

「……!」

ヴァニエルは愕然とした表情を浮かべる。

周囲からも、小さな笑い声が漏れ始めていた。

焦ったヴァニエルは、苛立たしげに胸元を探り、取り出したのは――金の封筒。

「これだ! これを見ろ!」

ヴァニエルは封筒を高く掲げ、会場中に見せつけるように振りかざした。

「これは王家から私に宛てられた正式な手紙! ここにはこう書いてある! 『王家にふさわしい人間であることを証明するなら、王家のご息女を嫁がせる』と!」

周囲がどよめく。

「私はそれに相応しい人間になった! 先日、正式に魔法剣士の試練を受け、王家に剣を捧げることを許された! これで証明は十分なはずだ!」

ヴァニエルは息を荒くしながら続ける。

「まさか王家が約束を違えることはないよな?」

言葉の端々に、わずかながらも脅すような響きがあった。

それを聞いたノエルは――ただ、ゆるりと目を細めた。