軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十六話~じっくりと話し合いをしました~

「タイシさん、良い機会ですからもう暗殺者達の件について気にするのやめましょう。フラムさんの事もです。私も五体満足で怪我一つありませんし、フラムさんも身請けしました。もう十分でしょう」

フラムが目を覚ますなり、マールがそんなことを言った。

俺はその発言に眉を顰める。

「そんな軽く流せる問題じゃないだろう。俺はフラムの人生を滅茶苦茶にしたんだぞ」

俺は努めて不機嫌な声を出したが、マールは全く怯まなかった。

「そうは言いますけどね、タイシさん。そもそもタイシさんは何も悪くないと思いますよ? だって、タイシさんは命を狙われたんですから。自分の身を守るのは当たり前のことですし、殺しにかかってきている相手なんですから、殺されても当然ですよ。その覚悟が無いなら、最初から刃を人に向けるべきじゃありません」

「だが、俺はフラムを強姦したんだぞ。そして責任も果たさず放置して…」

「責任? そんなものありませんよ。フラムさんはタイシさんに刃を向け、負けたんです。任務だろうがなんだろうが関係ありません。刃を向けて負けたんですから。殺されようが犯されようが、その責はフラムさん自身が負うものです。殺されずに済んでいるんですから、フラムさんがタイシさんを恨むのはお門違いですよ。そんなのはただの逆恨みです」

俺の言葉をマールはピシャリと斬り捨てた。歯に衣着せぬ物言いに、俺も流石にカチンとくる。

「俺の! 俺のせいでフラムは人生を狂わされたんだぞ! そんな一方的な「話になりませんね、タイシさんは一体何様なんですか?」」

マールが蔑んだ視線を俺に向けてくる。俺はその視線に射すくめられ、言葉が紡げなくなってしまった。

初めて向けられるマールの眼に釘付けにされる。

「いくら強かろうが、勇者だろうが、タイシさんは所詮一人の人間なんですよ。タイシさんの目の届く範囲、手の届く距離なんて高が知れています。関わった全ての人間を幸せになんてできるわけないじゃないですか。そんなこと、神様だってできやしません。自惚れも大概にして下さい」

バッサリと斬り捨てられ、俺は閉口せざるを得なかった。

丸め込まれている気がする。だが反論ができない。

マールが言っているのは俺に都合の良い、良すぎる理論だ。受け容れたくなる。

だがこれは一種の洗脳ではないだろうか。

こんなに容易く宗旨替えしていいものなのか? 俺の道徳観や倫理観というのはその程度のものだったのか?

葛藤している俺をよそに、マールは言葉を紡ぎ続ける。

「むしろタイシさんは完全な被害者ですよ。ただ勇者であるってだけで命を狙われて、その結果心に傷を負わせられて。気付いていますか? あの遺跡で暗殺者達を殺してからのタイシさんははっきり言って異常ですよ? 私にちょっとでも累が及びそうになればすぐに箍が外れてます。今日の冒険者ギルドの件だってそうです。私と出会った頃のタイシさんだったら、そもそもあんな大事にせず穏便に済ませられたはずです」

マールの言葉にガツンと鈍器で殴られたような衝撃を受ける。足元がガラガラと崩れていくような錯覚を覚える。

俺は…俺はマールのために。

「私のために怒ってくれたりするのは正直に言えば嬉しいです。守るためには躊躇無く全力を出して、殺人すら厭わずに必死になってくれるのは嬉しいです。でも、そのためにタイシさんが傷ついて、変わっていってしまうのは辛いです。勿論、そんなタイシさんも愛してますけど」

変わった? 俺が? そうなのか?

ギルドで起こった件を再度考えてみる。

マールを渡せと言われた、断った。これは当たり前だ。

ぶん殴られたので殴り返した。これもまぁ、おかしくなかったと思う。

武器を振りかざしてきたので、それを防いで壊して脅した。うん、素手でやったっていうのは普通じゃないと思うけど、行動そのものに異常性は無いと思う。

そして俺は武器を振りかざしてきた奴に思い知らせてやろうと、マールを奪おうと、傷つけようとするクズに目にものを見せてやろうと本気で殺しにかかろうとして、相手のリーダーらしきおっさんに謝られて、マールに説得されて止めた。うん、おかしく…あれ?

なんで俺は殺そうとまでしたんだ? おかしくないか? 相手の武器を素手で砕き散らしたところまでで威嚇効果は十分だったはずだ。

いや、でもマールを傷つけようとしたから。あのクズどもみたいに。

うん? あれ?

「そう言われると、確かに、おかしい、ような…」

「率直に言うと愛が重すぎます! 私が可愛い過ぎるのが罪なんですけdあだだだだだだッ! いたいいたいいたいです!」

ドヤ顔をしているマールの頭を鷲掴みにしてやる。なんだか久しぶりの気がする、この感覚は。

じたばたと暴れるので解放してやった。『うおおおおお。愛が痛いです』とか言いながらマールが頭を抱えている。

うん、なんだか少しだけ頭がスッキリしたような気がするな。マールに諭されてって言うのが若干癪に障るが。

マールの言うことは耳に心地よい。マールの言うとおり、俺に非は無いように思えてくる。

悪質な開き直りのような気もしないでもないが、じゃあ実際のところフラムを殺しておけば良かったのかというと、それも違う気がする。

あの時に生き残っていた他の暗殺者を殺したのはやりすぎだったように思えるが、しかし相手は生粋の暗殺者だ。生かして連行しようにも、実質俺一人じゃ面倒なんて見きれなかっただろう。

あの後に一番隊が来るのが判っていれば違ったかもしれないが、あの時点では判らなかった。

フラム一人か、精々もう一人くらいが限界か。そうなると、どっちにしろ残りの連中は殺さなきゃならなかっただろう。

あの時の俺にその判断が下せたかどうかはわからないが、その時はマールが判断を下していたんじゃないだろうか。

そしてマールは俺に代わって手を汚していただろう。そんな気がする。

「…理屈では理解できるが、納得はいかんな」

「そういうものです。私はまだタイシさんの全てを知っているわけではありませんが、お話を聞く限りではタイシさんの育った国では殺したり、殺されたりということが身近ではなかったんじゃないでしょうか?」

いつの間にか復活していたマールの言葉に、俺は首肯した。

「では、適応してください。この世の中っていうのはそういうものです」

現地人であるマールにそう言われると、思わず納得しそうになってしまう。

「そうは言うがな、マール。俺はフラムを犯してしまったんだ」

「人を殺した後というのは熟練の戦士でも恐怖を紛らわせるために女を抱くと言います。ましてやタイシさんは『童貞』だったんですから、犯した後に狂乱のままフラムさんを殺してないだけ紳士的だったはずです。違いますか? フラムさん」

そう言ってマールはフラムを見た。

今まで黙っていたフラムは、黙したままマールの言葉に首肯する。

フラムのこの反応は本当に本心からの事なのか? 風呂場でマールに言い含められたんじゃないのか?

疑念が浮かぶ。

だが、マールはフラムの主人ではないからフラムに発言や行動を強制することはできない。

内容からして、強制でもないのに首肯することなんてあり得るだろうか? 俺に追い出すように言わせると脅したのか?

ダメだ、疑いはじめるとキリがない。

だが、一つはっきりしていることがある

「俺は、お前がそんな目に遭ったりしたら耐えられそうにない」

「なら何が何でも傍から離さず、絶対に守り通してください。もし、守りきれずに私がそういう目に遭ってしまったとしたら、慰めて、癒してください。私はタイシさんが生きている限りは、絶対に生きることを諦めませんから」

「俺がもし死んだら…?」

「私も後を追いましょう。タイシさんは私が死んでも後を追っちゃダメですよ?」

「なんだよそれ、ズルいぞ」

「女はズルいんです」

マールはそう言って微笑んだ。

今までで一番の笑顔だったように思う。

「タイシさんが暗殺者を倒した件については、誰が許さなくても私が許します。あの時タイシさんは私を守るためにその手を汚したんですから。あの時も言いましたけど、悪いのは私です。ああ、タイシさんを虜にしてしまう私の可愛さが怖い!」

「まったく…何様だよ、お前は」

「王女様ですよ!」

俺の言葉にマールはドヤ顔で胸を張って見せるのだった。

ドヤ顔がムカついたのでマールには少々力を込めてアイアンクローをかけてやった。

今は足元で『かていないぼうりょくはんたいです』とかうわ言を漏らしながら唸っている。

「マールはこう言っているが、フラムとしてはどうなんだ?」

俺の言葉にフラムは少しの間目を閉じ、考えてから口を開いた。

「マール様の言っていることは正論です。思うところは無いわけではありませんが、マール様に断じられたように、逆恨みでしかありませんし」

そう言ってフラムは苦笑した。

「私を含めて部隊の者達は全員、剣を手に取った時から覚悟はしていました。今までする側だった私達がされる側になっただけの話です。私達は抗う術を持たない幼子や赤子すらこの手にかけてきましたから」

彼女は自らの手に目を落とし、自嘲気味に笑う。

「生き恥を晒す羽目になったのも因果応報というものでしょう。それだけの話です」

「だが、そう割り切れるものじゃないだろう」

俺の言葉にフラムは素直に頷いた。

「そうですね、簡単に割り切れるものではありません。ですが、私はご主人様に刃を向けて敗北したのです。本来であれば殺されるべきところを、生かしていただいています。その上、奴隷として買われた身ですから」

「それでいいのか?」

「良いとか悪いとかいう問題ではありません。そういうものです」

どうにも納得がいかない。というか、怖い。

本当にそんなことでいいのか、怖い。

新しい価値観を受け容れるのが、怖い。

暫く考える。

だめだ、答えが出そうにない。

だから、俺は躊躇いながらもジョーカーを切ることにした。

「…フラム、命令だ。一切の嘘を禁ずる」

「はい、ご主人様」

「お前は風呂場でマールに口裏を合わせるよう指示されたか?」

「されていません」

「マールの言葉には全て肯定するようにと指示を受けたか?」

「受けていません」

「お前はマールに何らかの脅迫を受けたか?」

「受けていません」

「今、俺のことをどう思っている?」

「意外と小心者なんだな、と」

フラムはそう言って微笑む。

そんな優しい目で俺を見るな、死にたくなる。

「…ほっとけ、自己嫌悪の真っ最中だ。先ほどの命令を解除する」

「はい、ご主人様」

溜息を吐く俺、そんな俺の様子がおかしいのかクスクスと笑っているフラム。

ああくそ、死にたい。

「タイシさんが私のことをどう思っているか良くわかりました」

「お前は俺のためならなんでもしそうだからな」

床に倒れたままジト目で見上げてくるマールにそう返してやる。

「当たり前じゃないですか」

床に伏せたままマールはニヤリと笑った。

もうここまで来たらそういうものなんだろうと無理矢理納得することにした。

この世界にはこの世界のルールがあるのだ。郷に入れば郷に従え、とも言うし。

だからこそ、今後は気をつけなければならない。

自分を見失わないようにしなければならないし、そのルールが俺達自身にも降りかかってくることを意識して動かなければならない。

俺が負ければ、マールが同じように犯されて殺されてしまうのだ。

守り通すためには、力がいる。この世界では力こそが正義なのだ。

だからこそ力の振るい方にも気をつけなければならないだろう。力に酔って、振り回されないようにしなければならない。

ちゃんと自分なりの正義というものを考えていかないといけない。

もう二度と、フラムに対してやってしまったような失敗を犯さないようにしなければならない。

しかし、この手を汚すことを躊躇してはならない。

そうしなければ、奪われるのはこちらだ。

「しかしそうですね…ご主人様はどうしても納得しきれないご様子。では私なりに復讐をしましょうか」

「それは良いが…その前に奴隷から解放してやるべきではないかと俺は思うんだ」

そうでないと俺にビンタ一つ張るのにもフラムには多大な苦痛を我慢しなければならない。

しかしフラムは首を振った。

「重犯罪を犯した犯罪奴隷が解放されることは基本的にありません。例外はいくつかありますが、その必要もありません。私の事はお気になさらず。先ほども言いましたが、剣を手に持った時より覚悟はしておりますので」

フラムの言葉を聞いて俺の胸に重たいものが溜まってきた。胃がキリキリしてくる。

そんな俺をよそにフラムはとんでもないこと言い出した。

「マール様との仲を引き裂き、ご主人様を私の虜にしましょう。それが私の復讐ということで」

そう言ってフラムがにこりと笑う。斜め上の展開だった。

「ちょっと待ったァ! それは許しませんよ! 絶対に!」

ガバァッ、とマールが立ち上がり吠える。

それに対してフラムは妖艶な笑みを浮かべて見せた。

うむ、色気ではフラムが圧倒的に優勢だな。手を出す気は毛頭ないけど。

「タイシさん! やはりこの人はダメです! 追い出しましょう!」

「あら? マール様はご主人様の愛が信じられないのですか? ご主人様との愛が磐石なものであれば私など脅威ではないはずですが…これは思ったより簡単そうですね」

「ふぉおおぉぉっ!? その喧嘩買いました! 私とタイシさんの愛の力を見せてやります! さぁタイシさん、今晩は寝かせませんよ! 獣のように私を貪ってもらいます!」

その後、俺は日が落ちる前だというのにマールに野獣のように貪られた。

「ぐっふっふ、まだまだですよ」

「やめて! 俺の残弾はもうゼロよ!」

「空撃ちでもいいじゃないですか。さぁさぁ、メイドさん達から教わった手管はまだまだありますよ!」

「おい馬鹿やめろ。ちょっ、やめてくださいほんと許し…アッー!」

野獣マールの暴走は俺が気を失うまで続いた。