軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話~王都の市場に行ってみました~

王城に滞在を始めてから十日目。

そろそろ王城での飼い殺しを企んでいるのではないかと怪しみ始めた頃になってやっと『準備が整った』とゾンタークから伝えられたのである。

「待ちくたびれたぜ…とは言うものの、毎日食っちゃ寝してただけだったからアレだが」

「定期的に身体は動かしてましたけどね!」

そう、マールも近衛兵に稽古をつけてもらって剣術のレベルが2に上昇していた。

魔物を倒したわけではないのでレベルは上がっていないが、鍛錬によってスキルは鍛えることができたのだ。

俺? 俺は何も変わってないぜ、何度も朝から晩まで近衛兵達と模擬戦したけどな、はっはっは。剣術レベル4から5までの道程は険しいらしい。

しかし近衛兵達との模擬戦は決して無駄ではなかった。

国の中枢を守る近衛兵達はやはりエリート中のエリートで全員が剣術だけでなく魔法も使えたし、少なくない人数が魔力撃を修得していたのだ。

カレンディル王国の近衛兵達の平均レベルは30を超える。上は副団長の42で、下は今年任官したばかりの新人さんで25。全員がレベル3以上の剣術を修得しており、一つか二つは魔法技能を持っているという優秀さ。

一対一ならそう遅れは取らないと思うが、全員で一斉にかかってこられたら今の俺では多分勝てない。

そんな彼らと朝から晩まで模擬戦をするのは非常に疲れたが、得るものは大きかった。

何せ俺の剣術はスキルポイントで無理矢理身につけた付け焼刃だ。

正道の剣を使う彼らとの模擬戦で学べる部分は非常に多かったし、魔力撃の運用に関してもそれは同様だった。

俺の今までの運用は魔力をインパクトの瞬間に相手に流し込み、炸裂させることによってダメージを与える使い方だった。

近衛兵達が言うにはこの技法は本来『貫撃』と呼ばれるもので、鎧や頑丈な甲殻などを持つ相手を魔力で『貫く』ことによって防御を無視して体内を破壊するものらしい。

俺の場合は貫く、というよりは大量の魔力を流し込んで爆破するような手法になっているため『貫撃』というより『爆撃』になってしまっているようだが。

もう一つ、剣を使った魔力撃の運用で『閃撃』という手法も習った。これは剣の刃の部分から高出力の魔力を放出させつつ斬るというやり方だ。

この技法を使えば熱したナイフでバターを斬るように岩や金属を断ち切ることができる。

実際に何度か実演してもらい、魔力眼で魔力の流れを視てこれらの技法を修得することに成功した。

魔闘術のレベルが上がったわけではないが、実に有意義だった。

お返しに俺は自身の身体に魔力を纏わせて身体能力を強化する方法を教えた。

これは近衛兵達にもなかなか難易度が高いらしく、かなり苦戦していたが副団長と新人君が修得してくれた。ちゃんとギブアンドテイクの関係になれてホッとしたのは内緒だ。

脱線した、話を戻そう。

俺達は再度国王陛下に拝謁して挨拶してから、ゾンタークの部下に連れられて第三防壁の内側――壁内と呼ばれる区画に赴いていた。

この街の人々は建設中の第四城壁の外側に広がる街を『壁外』、第四城壁の内側の区画を『新市街』、第三城壁の内側の区画を『壁内』、第二城壁の内側の区画を『貴族区』とそれぞれ呼んでいるのだそうな。

第四城壁の建設が始まる前は『新市街』と呼ばれる場所も『壁外』という扱いだったらしい。

さて、この壁内には様々な施設がある。

先日勉強しに行った魔法学校を始めとして、役所や教会、衛兵の詰め所、高額商品を扱う競売所なんてのもあるらしい。

その他にはお値段は高いが高品質の商品を扱う大店も多くある。資金を十分に稼いだら顔を出してみよう。

「ワクワクしますね!」

「そうだな」

俺達が向かっているのは俺の要求した『拠点』である。

案内人は既に下見を済ませてあるらしく、迷いの無い足取りで俺達の前を歩いていた。

危険察知に訴えてくるものもないので、俺達は素直にその後ろに続きながら街並みを堪能している。

結局危険察知は取ってから一回も機能していない。それに越したことは無いんだが、損をした気分である。

やがて一件の屋敷に辿り着いた。

表通りに面している石造りの屋敷で、それなりに年季の入った外観だ。屋敷は俺の背丈を少し越える程度の塀に囲まれている。

決して老朽化しているとかそういうことではなく、言うなれば味がある風情といった様子だ。

ただ、少々大きすぎないだろうか。

「ちょっと大きくないか?」

「確かに、二人だけで住むには少し大きいかもしれないですね」

あまり大きいと掃除が大変だが、その辺りはゾンタークが管理人やメイドを用意してくれているはずなので大丈夫だろう。

案内人は俺達に挨拶をして去っていった。彼が案内するのはここまでで、後は屋敷の中に居る管理人に話をしてくれということだ。

門を通り、前庭に足を踏み入れる。

花などは特に植えられていない。そして雑草を刈り取った跡がある。恐らく俺達が王城に滞在している間に急ピッチで使用するための準備が進められたのだろう。

屋敷は石造りの二階建てで、屋根には煙突が見える。恐らく暖炉があるんだろう。

窓はあるが、ガラス窓ではないようだ。

そういえばエリアルドに来てからガラス製品は王城の中でしか見ていないような気がする。恐らく高価な品なんだろうな。

玄関の扉にノッカーがついていたので鳴らす。

コンコン。

暫くして扉が開いた。

俺を迎えたのは初老の男性だ。ピシッとした執事服に身を包み、片眼鏡をつけている。

背が高く、黒髪と白髪の混じりあった灰色の頭髪を清潔感漂う感じにこれまたピシッとセットしている。セバスチャンと呼びたくなるな。

俺達の姿を見てすぐに気付いたのか、彼は俺達を屋敷に迎え入れてから恭しく礼をした。

「お初にお目にかかります。当館の管理をゾンターク侯爵閣下より賜りました、ジャック=メイスンと申します。私めの事はジャックとお呼びください」

「タイシ=ミツバです、お世話になります」

「マールです。よろしくお願いしますね、ジャックさん」

「はっ…ではお屋敷をご案内させていただきます」

まず、今俺達が居るのがホールだ。

ホールには二階への階段といくつかの扉がある。屋敷の左手側には大きめの風呂場や厨房、食堂があり、厨房から食堂へ、食堂から奥のリビングへと繋がっている。

奥のリビングには暖炉やソファなどが設置されており、落ち着ける雰囲気だ。窓を開けると裏庭が見えるし、部屋全体も明るくなる。

屋敷の右手側には鍛冶と錬金術に使える工房があり、奥には使用人の部屋が何部屋かあるようだ。

地下室もあり、ここは食料庫や物置、ワインセラーとして使われる。

二階には寝室や客室、書斎兼執務室などがある。

ちなみにトイレは一階に二つ、二階に一つあった。

魔動具と言えば、この家には多くの魔動具が設置されている。

厨房や風呂場は勿論のこと、暖炉やトイレ、照明まで魔動具だった。

いったいどれだけの金がかかっているんだろうか、これは。

今の俺の所持金は旅の道具を揃えるのに使ったり、森の中で出た魔物の素材を売り払ったりして金貨だけで86枚くらいだ。細々とした小銭なんかを合わせても金貨1枚か2枚分だろうから、金貨90枚は無いだろう。

マールに預けている生活費なんかを合わせても恐らく金貨100枚くらいだ。

日本円にして一千万円くらいはある計算なのだが、この屋敷の設備と広さを見てカレンディル王国がどれだけのカネをかけたのかは想像もつかない。

「如何でしょうか? お館様」

一通り見て回り、ホールに帰ってきたところでジャック氏がそう聞いてくる。

「もう少しこじんまりとしているのを想像していましたから、正直驚いていますよ」

「お館様、使用人である私にそのような言葉遣いは不要です」

「あ、ああ…そういうものか?」

流石にジャック氏のような折り目正しい年上の男性にタメ口というのは、なかなか慣れそうに無いんだが。

聞くと彼の給金もカレンディル王国から出るそうだから、俺が雇用しているというわけでもないし。

ウーツのおっさんとかなら気兼ねなくタメ口で話せるんだがな。

「ところで、メイドは居ないのか?」

「ハッ、私めの姪が勤めさせて頂くのですが、今は買出しに出ておりまして。本来であればお館様をお出迎えしなければところを、申し訳ございません」

「いや、気にしないでくれ」

そう言ってジャック氏は深く頭を下げる。

その時、玄関の扉が開いて一人の女の子が入ってきた。おお、メイドさんだ。

走ってきたのか、ちょっと重そうな麻袋を抱えている彼女の顔は上気して赤くなっている。

「す、すみません叔父様! 遅れました!」

「メイベル、お館様の前だぞ」

「も、申し訳ございません! ジャックの姪のメイベルと申します! よろしくお願いいたします!」

重そうな麻袋を抱えたままメイベルと名乗ったメイドさんはお辞儀をした。

髪の毛は俺と同じような黒髪。長い髪の毛をまとめて頭の後ろでお団子にしている。

どこか幼さの残る顔立ちで、体格はマールと同じくらい。麻袋を抱えているから判らないが、恐らくぺったん子。

「タイシ=ミツバだ。こっちはマール。よろしく」

「よろしくお願いしますね、メイベルさん!」

「は、はい! よろしくお願い致します! 失礼致します!」

メイベルはがばっと大げさに頭を下げ、麻袋を持って厨房へと去っていった。

その様子を見送ってからジャック氏が頭を下げてくる。

「申し訳ございません。そそっかしい性質でして」

「いや、不快には思ってないよ。むしろ好ましいくらいだ、な?」

「そうですね、賑やかで良いと思います! でもタイシさん、手を出すなら一回相談してくださいね?」

俺の言葉に、マールは上目遣いでそんなことをのたまった。

おい、叔父の前だぞ。おい。

「何言ってくれちゃってんのお前!?」

「英雄色を好むと言いますからな」

「ですよねー!」

「ジャックさんまで!? てか意気投合早くないか君ら!」

俺の叫びが新居に響き渡るのだった。

「んー…! 極楽ですねぇ…」

「ああ、気持ち良いな…」

白米と魚の干物(!)という涙が出るようなありがたい夕食を平らげ、俺達は風呂に入っていた。

とりあえず当面の資金としてジャック氏には金貨二十枚を預けておいた。勿論マールに預けている生活費とは別枠だ。

まだ生活を始めたばかりだから様々な雑貨が必要だろうし、日々の食料を購入するのにもお金がかかる。

カレンディル王国からも金が出ているという話だったが、全てがおんぶにだっこというのもスッキリしない。過剰に借りは作りたくないしな。

「明日からどうしましょうか?」

「そうだなぁ、まずはアルフェンの冒険者ギルドに挨拶する必要があるだろ。武器の方は今のところ問題ないが、防具はもう少し良いのに新調したいとこだな」

暗殺者に脇腹を突かれて穴が開いたままだしな。軽くて丈夫な素材でできた軽鎧が欲しいところだ。

そんなことを考えていると、マールが身じろぎして少し拗ねたような表情を向けてくる。

下ろした鳶色の髪が濡れて、頬に張り付いている。なんというか、表情も相まって可愛すぎるんだが。

「もー、タイシさんったら! もう少しゆっくり、ゆっくりでも良いんじゃないですか?」

「んー、そうだな…なら新市街の市場にでも行ってみるか? 外縁部の雑多なエリアも歩いてみると掘り出し物があるかもしれんし」

「いいですね! 色々な屋台の食べ物を食い歩きしましょう!」

「おいおい、食い気かよ」

「ふふ、タイシさんは色気の方が好みですもんねー」

そう言いながらマールは俺の胸板に指を這わせてきた。

湯に浸かったマールの綺麗で白い肌は桜色に上気していて、髪の毛と同じ色の鳶色の瞳は挑発的な色を覗かせている。

OKOK、受けて立とうじゃないか。

「んっふっふ~♪ 私の勝ちですね!」

やだこの娘、いつの間にこんなテクを…悔しいっ!

「王城のメイドさん達に色々聞いたんですよ!」

王城のメイド…侮れぬ。

「行ってらっしゃいませ、お館様」

「行ってらっしゃいませ!」

美味しい朝食を頂き、ジャック氏とメイベルに見送られて俺とマールは屋敷を後にした。行き先は新市街だ。

今日はこのままギルドへの挨拶へ向かい、その後は朝の市場を見て回ってから昼にかけて壁外の雑多な街並みを見て歩く。

その後は新市街に戻ってきて色々な店を見て回ってから、壁内の高級店を冷やかして帰る。そんな感じで予定を立てている。

雲ひとつ無い快晴、とは行かないが良い天気だ。

「絶好のデート日和ですね!」

「だな。どんなものが見られるか楽しみだ」

今日のマールはミスリルの短剣こそ腰に差しているものの、革鎧などは特に身に着けていない。

以前クロスロードで購入した少しお洒落な普通の服を着ている。俺が着ているのもその時に買った服だ。その上に革鎧つけてるけどな。

「似合ってる、可愛いぞ」

「そうですか? えへへ」

俺の言葉にはにかんで見せるマール。なにこれ可愛すぎるんですけど。

俺はそんな最高に可愛いマールを伴って壁内の門を潜った。

門を警備している衛兵の視線が剣呑な気がする。

ふはははは、悔しかろう、この負け犬どもめ。こちらの世界に来てからリア充路線まっしぐらの俺には貴様らの視線が心地良いわ。

「タイシさん、なんか悪い顔になってますよ」

「おっと」

いかんいかん、気を引き締めよう。

大体にして厄介ごとというのはこういう気の緩んだ時に降りかかってくるものだからな。

「おう坊主、別嬪な彼女連れてるじゃねぇか」

「へへ、俺らにも使わせてくれよ。独り占めはいかんよなぁ?」

「ギャハハ! こんなちっちゃい身体じゃぶっ壊れちまうかもなぁ! 坊主のじゃ満足できなくなっちまうぜ!」

あたまがいてぇ。

新市街の冒険者ギルドに入って、カウンターに着く前に酔っ払った冒険者に絡まれてしまった。

朝っぱらから酔っ払いやがって。きっと大口の報酬が入って夜通し飲んでたんだろう。冒険者ギルドに併設されている酒場は24時間営業だからな。

鑑定眼でレベルを見てみる。

最初のがレベル21、次のが19、最後のも19。全員剣術なり鈍器なりの戦闘スキルをレベル2で獲得している。

特に賞罰がついていないところを見ると、初犯かどうやってか知らないが上手くやってるんだろう。

どいつもこいつも体格の良い筋肉ダルマだ。

「断る。マールは俺のだ、誰にも渡さん」

脳裏に何かが走った。鼻の奥がツーンとする気がする。

「おー! カッコイー! オラァッ!」

三人目の男はへらへら笑いながら近づいてきたかと思うと、突如表情を憤怒の表情へと変えて拳を振るってきた。

脳裏に走った感覚に戸惑っていた。

顔面に衝撃。鼻の奥がジーンとする。

拳を受けた衝撃で身体が仰け反る。しかしこの程度で吹き飛びはしない。

なんだよ、やろうってのかオイ。

俺からマールを奪って好きにしようってのか、ええ?

魔力を込め、お返しとばかりに俺は殴ってきた三人目の男の腹に拳を打ち込んだ。

ドガァン、と炸裂音。

吹き飛んだ三人目の男がテーブルやら椅子やらを引っくり返しながらギルドに併設されている酒場の奥に吹き飛んでいく。

「クズが、弱いくせに突っかかってくるんじゃねぇよ」

まだ鼻の奥がジーンとしているが、鼻血は出ていない。

無意識に魔力を篭めて防御してたかな、これは。

「てめぇ…!」

二人目が腰に吊るしているメイスの柄に手をかけた。

おいおい、そいつはご法度だろう?

俺はカウンターに目を向けるが、ギルドの女性職員は顔を青ざめさせて震えていた。

アカン、これは当てにならん。

また、例の感覚が脳裏に走った。肩口がむずむずする。

そうか、これが危険感知スキルか。俺は即座に視線を二人目の男に戻した。

余所見をしているのを隙と見たのか、二人目がメイスを振り下ろしてきていたのだ。

俺は魔力を込めた左手の手のひらでメイスの柄頭を受け止めた。

「ッ!?」

二人目の顔が驚愕に染まる。

俺は魔力を更に込め、メイスの柄頭を握り砕いた。

パァン、とガラスの砕け散るような音がギルド内に響く。

砕け散った金属片を見えるように床に零してみせる。

俺のマールを奪おうとするクズだ、もう少し痛い目に遭わせてやろうか。

なんせあっちは武器を抜いて、一方的に振るってきたんだ。

心にどす黒い感情が噴出してくる。

「お前の頭はメイスより柔らかそうだな…」

俺は二人目の男を睨み付け、一歩踏み出す。ざわついていた辺りの音がシン、と静まり返った。

二人目の男が気圧されたようによろよろと後退った――かと思ったら、それよりも後ろに退いていた一人目の男が襟を掴んで後ろに引っ張った。

俺と男達の間合いが離れる。

なんだか腰が重い。

俺は間合いを詰めるため魔力を拳と脚に込め、身を落とし

「待った、待ってくれ。俺達が悪かった、許してくれ」

一人目の男が二人目の男の頭を押さえつけて頭を下げさせた。そして自分自身も直角に腰を折って頭を下げている。

気がつけば、俺の腰にもマールが抱きついていた。

「タイシさん、私は大丈夫ですから。ね?」

そして柔らかな笑みを俺に向けてくる。

毒気を抜かれてしまった俺は一つ溜息を吐き、構えを解いた。

「悪かったな、嬢ちゃん。ありがとよ。ほら、ザクソンを拾って来い、行くぞ」

一人目の男は二人目の男にそう言って、ザクソンと思しき三人目を回収するとそそくさとギルドから出て行った。

弁償金なのか、カウンターに金貨を1枚置いていく。俺が吹っ飛ばして壊したんだから、俺が払っても良かったんだがな。意外と殊勝な奴らだ。

「騒がせて悪かった」

俺はそう言って頭を下げた。

ギルド中から長い溜息が聞こえてきた。サーセン。

「よ、よよ、ようこそ! こ、こちらは王都アルフェンの冒険者ギルドれす!」

ギルドカウンターの女性職員さん涙目である。や、その、そんなに怖がられると凹むんですが。

事態を傍観していた他の冒険者達は倒れた椅子やら机やらを直し、壊れたものは端に寄せてこちらの様子を見ている。

慣れてるな、あいつら。

「今日は挨拶に来ただけなんだが…クロスロードから来た、タイシ=ミツバだ。こっちはマール。これから暫くアルフェンで活動することになると思う、よろしく頼む」

「じゃ、じゃあ貴方があの、『トロール砕き』のタイシさんですか? ど、道理で…」

とろーるくらっしゃー?

「なんだ、そのとろーるくらっしゃーってのは」

「一人で三匹のトロールを屠ったという噂が…しかもそのうち一匹は素手で殴り殺したとか」

本当ですか? と女性職員が目で問いかけてくる。うん、だいたいあってる。

目撃者多数だからな、隠しようも無い。

「凄いですね、タイシさん! 立派な二つ名じゃないですか! いいなー、いいなー」

マールがニコニコしながら騒ぐ。

ああうん、なんというか、こんな時どんな顔をしたらいいかわからないの。

「あー…と、とりあえず今日は挨拶に来ただけだから。騒がせてしまって悪かったな」

なんだか恥ずかしくなった俺はそそくさと冒険者ギルドから逃げ出した。

だってお前、こっちを見てる冒険者達がなんかこっち見ながらボソボソ囁きあってて居心地が悪かったんだよ。

『あいつがあの…』とか『流石はトロール砕き…』とか『もっとムキムキマッチョマンかと思ってた…』とか『ウホッ、いい男…』とか勘弁してもらいたい。

「らっしゃいらっしゃい! 今日はスモールボアの良いのが入ってるよ!」

「小麦粉あるよー! 混じり物なしの高品質な小麦粉だ!」

「塩はこちら! ミスクロニア王国から入ってきたばかりだよ!」

新市街に開かれている市場は凄い喧騒だ。

今日一日分の食料を買い求めに来ているのか、籠を手にした女性達が多い。

商人達は声を張り上げ、自分の商品がどれだけ新鮮で優れた商品かを主張し、買出しに来た女性達の関心惹くのに必死だ。

俺達は、というと見慣れない果物や野菜を見つけては質問し、試食して気に入ったものは買ってという作業に没頭している。

「おっちゃん、この野菜はどんな風に食うんだ? 風味は?」

「おう、冒険者の旦那! そいつはな…」

「タイシさん! この果物美味しいですよ! 買っていきましょう!」

「お嬢様、これもオススメよ。これはね…」

という感じで勧められるままにバンバン買いまくった。

幸い俺のストレージは底無しな上に、ストレージ入れたままにしておけば新鮮さを保つことができるので問題ない。

少々値が張ったが、カレー粉のような風味の調合されたスパイスや胡椒や唐辛子のような香辛料の類も入手できた。

これで冒険中の食生活も豊かに過ごせそうだ。

流石に塩だけというのはつらかった。

しかしこうして見てみると、異世界にも元の世界に似通った食材が結構ある。

ニンニクがタマネギサイズだったりとか、ネギが短くて太いとか、ニンジンが丸いとか多少の違いはあるが。

バナナとかは少々小ぶりだけど、そのまんまだったし。

それと米、米があった。

粒の大きさとか形に違いはあったが、マールにアドバイスを受けながら元々食っていたものに近い米を購入することができた。

あとは昆布を見つけた。よく似た別のものかと思ったが、試食させて貰ったらやっぱり昆布だった。

この辺りでは利用する人が居ないらしく、はるばるゲッペルス王国から仕入れたは良いものの、なかなか売れずに困っていたのだそうだ。

値切って大量に購入しておいた。これで昆布だしが作れるぜ!

それに確か薄く削ればとろろ昆布になるはずだ。ご飯と合わせてとろろ昆布おにぎりも作れる。夢が広がるな!

ちなみに、探してみたが味噌や醤油はなかった。

あと米を使ったお酒も探してみたが、市場にはなかった。

マールに聞いてみると、ミスクロニア王国にはお米を使ったお酒があるらしい。

「白くてドロっとしたのとか、お水みたいに澄んだお酒とか色々ありますよ。澄んだお酒のほうが手間隙がかかるので、高いんです。もしかしたら壁内のお店にならあるかもしれませんよ?」

「なるほど。後で探してみるか」

とは言っても俺はそんなに飲兵衛ではないので無いなら無いでも良いんだが。どちらかというとウィスキー派だったしな。

よし、次は壁外の方に行ってみよう。