軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第149話 神託の獣 その②

魔神の軍勢は各都市を制圧する命令を受けていた。そのため数万の戦艦は地上に着陸し、地上部隊を投入しようとする。

それは自分たちの手足となる奴隷を無傷で確保することが主な目的だが、地上に降りてエネルギーを確保する意味もあった。

より人口の多い都市がある中国の南東部に多数の戦艦が降り立つ。

エネルギーを確保するためには星の中心部まで掘削し、そこから熱をエネルギーに変える装置を設置する必要がある。

その装置を積んだ戦艦が降り、その周りを護衛艦が囲むように降りていった。

護衛艦からは装甲車と大型の虎のような形の機怪獣が現れる。数十万の銃を持った兵士も連隊を組んで進行していた。

『準備完了しました。敵側の住民は避難しているようで、抵抗はほとんどありません。半日もあれば都市の制圧は終わると思います』

『掘削の方は?』

『そちらも半日ほどで終わる予定です』

この部隊を任された魔神ジミマイは、地上への侵攻になんの不安も抱いていなかった。与えられた仕事をこなすだけだったからだ。

だが地上に降りたことを、この後ジミマイは激しく後悔することになる。

『北西の方角、光の柱が立っています!』

『光の柱?』

ジミマイは何が起こっているのか分からなかったが、地上部隊からの報告が上がってきた時、その深刻さに気づく。

『大変です! 地面が……地面がマグマに変わっていきます』

『マグマ? なんの話だ』

部下からの連絡だが、音声の向こうから悲鳴のような叫び声が聞こえる。何か 途轍(とてつ) もないことが外で起こっているのは容易に想像ができた。

『なんだ……いったい何が……?』

『大変です! 光の中から巨人が……巨人が現れました!!』

ジミマイがモニターを確認すると、とんでもない大きさの巨人が映っている。体からマグマを垂れ流し、一歩進むごとに大地が揺れる。

『まさか……あれは“神託の獣”……?』

『こ、こちらに来ます。どうしますか!?』

一瞬、唖然としていたジミマイだったが魔神王の命に背き、撤退などありえなかった。なんとしても、この地上部隊の戦力は維持しなくてはならない。

『全艦に通達! あの巨人に向け一斉攻撃だ!!』

300メートルはある巨人に戦艦の砲撃が直撃する。500を超える戦艦の一斉射撃で爆発が巻き起こり、巨人の体は煙で見えなくなった。

『やったか……?』

ジミマイは巨人が倒れないかと期待したが、赤い巨人は煙の中から何事も無かったように悠然と歩いて出てくる。

巨人は地面のマグマ溜まりに手を突っ込み、中から巨大な斧を取り出す。

斧からは真赤なマグマがしたたり落ち、あまりの高温に蒸気が上がっていた。巨人は戦艦が密集して着陸している場所に足を進める。

『こちらに来ます! 退避しますか!?』

『今からでは間に合わん! それに“王”の命に背いて逃げるなどありえん。なんとしても、あの巨人の足を止めろ!!』

地上に着陸している戦艦や護衛艦がありったけの砲弾を巨人に叩き込む。だが巨人の足はまったく止まらず、ある程度近づくと斧を振り上げた。

『うわあああっ! や、やめろ!!』

巨人が振り下ろした大斧は、大地を爆発させた。

衝撃で噴き上がったマグマは数キロの高度まで達し、地上にあった戦艦や上空に待機していた戦艦合わせて数万を一撃で沈めた。

残存艦は指揮系統が混乱し、身動きが取れなくなっている。

巨人はその巨大な手で溶岩をすくい上げ、上空に残っていた戦艦に向かって放り投げた。溶岩は空中でバラバラに砕け、破片が戦艦に直撃する。

魔法障壁も簡単に突き抜け、数百の戦艦が墜落していった。

巨人は何度か 投擲(とうてき) を繰り返すと、満足したのか別の場所に着陸した敵戦艦を目指して歩き出した。

◇◇◇◇◇◇◇◇

【モンゴル首都 ウランバートル】

『おいおい……これマジなのか……?』

神将ヘーパイストスは目の前にいる異形の魔物に 辟易(へきえき) していた。何度攻撃しても、まったく手応えが無く相手が使う剣の数はどんどん増えていく。

“王”の命により、もっとも近くにあった都市の制圧に乗り出したヘーパイストスの軍だったが、その前に突然、黒いゴーレムが現れた。

それは黒くて丸い金属の塊で、無数の剣を自分の近くに出現させる。

空中を飛び回り、戦闘機や戦艦を次々と撃沈させていった。ヘーパイストスは 堪(たま) らず戦艦から飛び出し戦いを挑んだが、とても勝てそうにない。

黒いゴーレムは更に剣を出現させた。合計30本の剣がゴーレムを中心にクルクル回っている。

『……冗談だろ』

高速で向かってくる大剣が、何重にも襲い掛かってきた。ヘーパイストスは剣で何度も打ち払うが一撃一撃が重く、 捌(さば) くので精一杯だ。

なんとかスキを見つけてゴーレムに斬りかかるが、剣が弾かれた。斬撃に効果がないのは明らかだ。

ヘーパイストスは後ろに引いて剣を構える。

黒いゴーレムは更に20本の剣を出現させた。上空に浮かび上がった50本の剣は 容赦(ようしゃ) なくヘーパイストスに向かっていく。

『嫌な役割、引き受けちまったな……』

無数の剣が敵を切り裂くのに、時間はかからなかった。

邪魔者がいなくなった後、黒いゴーレムは空に浮き上がって更に50本の剣を生み出す。計100本の剣が地上と上空の戦艦に襲いかかっていく。

その日、魔神の軍勢は抗うことのできない暴力の前に無力だった。

あれほど優位に立っていた自分たちが今、追い詰められている。恐怖と絶望に支配されたヘーパイストスの艦隊は 呆気(あっけ) なく全滅した。

◇◇◇◇◇◇◇◇

【南シナ海――】

『なんなんだ? あの光の柱は』

軍の侵攻にあたって10万の艦隊を任された魔神のウバルは海上に突然出現した巨大な光の柱に困惑していた。

作戦上、あんなものが現れるはずがないからだ。

『何が起きてるのか分かるか?』

『分かりません。すぐに確認を――』

その時、海上に着水している自艦が大きく揺れる。何人かが席から投げ出されるほどだ。

『な、何が起きた!?』

戦艦のモニターを見ると海上にあった光は消えて、黒い山のようなものが出現していた。海には大きな波が立ち、艦艇同士がぶつかって炎上している。

この“山”が何なのか分からなかったが、上空で待機している戦艦からは、その 全貌(ぜんぼう) が見えていた。

それは大きな“虫”だ。

とてもこの世の物とは思えない大きさで、六足の足が海の中に入っているが、胴体は完全に海上に出ている。

上空の戦艦から送られてきた映像を見たウバルや乗務員は息を飲む。

『神託の獣……』

ある乗務員が口にした言葉だが、ウバルも同じ考えだった。

想像を絶する力を持った魔物で、“神からの使い”や世界の均衡を保つためにいるなど様々な伝承がある。

一説には“魔神”を殺すために存在するとも……。

そんな伝説上の魔物が目の前に現れたことによって、魔神の軍勢はパニックに 陥(おちい) っていた。そして――

『なんだ!? 何か煙のようなものが……』

魔物の体から、煙が噴出していた。最初は何か分からなかったが、その煙が戦艦に触れると異変が起きる。

戦艦の装甲が急速に溶けていき、あっと言う間に機関室や操舵室にまで煙が入ってきた。その煙が手に触れた瞬間――

『うわあああーーーーー!!』

ウバルの手が一瞬で溶け、骨が露出している。他の乗務員も煙に巻かれ断末魔の叫び声と共に、次々と死んでいく。

煙は辺り一帯に広がり、一万を超える艦隊が海へと沈む。煙は陸上にまで及び、陸地で活動しようとしていた者まで巻き込んだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇

その魔物の姿は中国軍が撮った映像のほか、海岸沿いから一般人が撮影した動画も含めて世界中の人々が見ることになる。

それはフランスに現れて世界中を恐怖のどん底に落とした“虫”の怪物だった。

なぜ再び“虫”の怪物が出てきたのかは分からなかったが、それ以上に人々を困惑させたのは自分たちの敵を攻撃しているように見えたからだ。

海上にいた敵戦艦が全滅したことで、この“怪物”が味方になったと歓喜する者も増えていった。

◇◇◇◇◇◇◇◇

ヴィシュヌは上空に羽虫のようなものがいることを認識する。足元に何がいたかなど気にする様子もない。

上空に向かって口を開ける。

「――――――――――――――――――――――――ッ!!」

声にならない超音波の咆哮は、射線上にあった戦艦や戦闘機を全て破壊し爆破させた。

1万以上の艦隊が次々と地上や海上に落ちていく。

残った戦艦はヴィシュヌの脅威に気づき総攻撃をかけてきたが、あまりに巨大すぎて攻撃がほとんど通用しない。

ヴィシュヌは再び口を開き、破壊の咆哮を放つ。魔法障壁など一切関係なく数千の戦艦は全て爆発した。

あらゆる物を破壊する魔物は、その巨体を動かそうと一歩前進する。足を動かしただけで、大きな津波が起こった。

ヴィシュヌが下腹部を上下に動かすと、背面にびっしりと付いていた卵が 孵化(ふか) して魔物が飛び出してくる。

一万を超えるキラービーが大量に生まれ、高速で移動しながら戦艦や戦闘機に襲い掛かってゆく。

『どうなってんだ!? 何か追ってきてるぞ!』

戦闘機のパイロットが外から襲ってくるキラービーを視界に 捉(とら) えた。

あっと言う間に窓に取り付くと尻尾にある針を突き刺し、あらゆる物を溶かす溶解液を注入する。

『ぎゃあああーーーー!!』

中にいた兵士も戦闘機の機体も溶かして墜落させてしまう。

大型の戦艦も数十匹のキラービーに取り付かれると、ものの数分で爆発して地上へと落ちていく。

ヴィシュヌは、その巨体を揺らして再び卵をかえすと、また同じ数のキラービーを生み出した。

無限に繰り返される孵化で、数十万のキラービーが空を覆い尽くす。

その光景を見た魔神の軍勢は、ただ絶望することしかできなかった。