軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第140話 発足以来

【時は 遡(さかのぼ) り、モンゴルに漆黒の船団が現れた直後――】

「五条さんが言ったように、本当に現れやがったな」

「この時のために準備してきたんだ。慌てることじゃない……恐らく、すぐに上から命令がくるだろう」

清水と坂木は自衛隊の岐阜基地で、テレビから流れるニュースを見ている。

モンゴルに突如出現した謎の航空戦力に対抗するため、モンゴル軍、中国軍、ロシア軍がすぐに出撃し、各国に援軍を求めた。

想定された事態であったため、ヨーロッパでは作戦本部がすぐに立てられ“プロメテウス”の出撃が決まる。

しかし、モンゴルまで距離があるため空軍は何ヶ国かを経由しないと燃料が持たないと判断、戦地到着まで時間がかかると思われた。

この支援要請を受け、日本でも――

【大阪・首相官邸】

「やはり来てしまったか……」

「はい、事前に五条将門が言っていたことが現実になりましたね。ただ、準備は整っています」

官邸には総理の多田と、新しく防衛大臣に就任した 岡添(おかぞえ) が話し合っていた。

「千歳、岐阜、芦屋の航空自衛隊基地では陸自と合流した特殊部隊が詰めているので命令があれば、いつでも派遣できます」

関係閣僚との調整や必要な法整備など、五条が南極へ行く前に全て終わらせていたため、戦後初の命令を多田が決定することになんの問題もなかった。

「命令を下す前に、実際に派遣される隊員に直接言葉を伝えたい。中継はつなげるか?」

「すぐに準備します」

◇◇◇◇◇◇◇◇

その日、航空自衛隊岐阜基地はバタついていた。自分たちに出動命令が出るのは確実だったからだ。

特に坂木は千歳、岐阜、芦屋の三つの航空自衛隊によって構成される特殊部隊の総指揮を任されていた。

「あんまり張り切り過ぎるなよ!」

「ああ……だが、ゆっくりもしてられない。出動命令はすぐに出るだろう、やはり不安は大きいよ」

「心配すんな。この時のために五条さんと準備した ア(・) イ(・) ツ(・) があるんだ。うまくいくさ」

坂木や清水を始め、出動が予定されている全隊員が基地の一室に集められた。部屋の中央には大きなモニターが設置されている。

官邸からの中継が入ると聞かされ、隊員たちは姿勢を 正(ただ) していた。モニターに総理の多田の顔が映り、隊員に対して語り始める。

『この画面の前に集まった自衛隊諸君らに、内閣総理大臣として 一言(いちごん) 申し上げる。これより国連の要請に従い、戦地へ行くことになります』

国連の要請があっても、事前に根回しがなければ簡単には実現しなかったであろうことは、ここにいる自衛隊員全員が分かっていた。

『諸君らを危険な戦地へ送ることは心苦しい。しかし、諸君らの活躍が世界の平和に大きく貢献し、日本国民の生命を守ることになると私は信じます』

多田が言葉を切ったことで、その場に緊張が走る。

『第10航空団飛行群、特殊飛行隊に集団的自衛権に基づく出動を命じる!』

「敬礼!」

坂木の号令で、その場に集まった隊員が一斉に敬礼する。それは自衛隊発足以来、初めて海外で武力行使を容認する命令だった。

◇◇◇◇◇◇◇◇

俺と清水は戦闘機と輸送機がすぐに飛びたてるよう準備してある滑走路へと、急いで向かっていた。

「坂木、現状はどうなってんだ? さっき防衛省の幹部と話してたんだから情報は入ってきてるだろ」

「ああ、モンゴル軍はすでに壊滅状態らしい。中国軍とロシア軍が 挟(はさ) み撃ちにする形で攻撃を継続してるようだが……」

「苦戦してるのか?」

「相手は黒い母艦から、数万の戦闘機を発進してる。向こうにも我々と同じ科学技術があるってことだ」

「同じって、かなりの戦力差があるだろう?」

「向こうの母艦や戦闘機に攻撃が当たっても、見えない障壁に阻まれるって報告がある」

「じゃあ……」

「だが、何発か攻撃が当たると障壁が消えて、その後は通常の攻撃でも撃墜が可能らしい」

「通常兵器でも倒せるってことだな。化物達とは違う……だからアイツら、自分たちでは直接来ないで化物たちを送り込んできたのか?」

「ああ、それは有り得る。アメリカやEUからは大陸間弾道ミサイルで大型の母艦を攻撃しているが、これも何発か当てれば障壁を突破できるそうだ。しかし、数が多すぎる。支援が遅くなれば中国、ロシア軍も壊滅するかもしれない」

「いかに早く世界の戦力が結集できるかが重要か……でもなんでモンゴルなんだ? 地理的に何か意味があるのかな」

清水の疑問は俺も考えていたが……。

「分からない……戦略的なものか、あるいは出現場所を細かくコントロールできないのか……不明な点は多い」

「目的もそうだ。数は多いが全世界を敵に回すには戦力として足りない気もするし」

「中国軍からの報告では大型の母艦が何隻か着陸して、何かをしているっていう目撃情報もある。嫌な感じがするだろう」

「ああ、通信妨害や化物を呼び寄せる装置だったら、こっちが圧倒的に不利になる。止めるしかないな」

滑走路に着いた俺たちの目の前にあったのは、戦闘機のF35。ただの戦闘機ではない。五条さんが連れてきた子供たちが不思議な力で改良してしまった物だ。

最初は冗談かと思ったが、試験飛行で常軌を逸した性能を見せた。

「清水、俺は陸自の部隊と輸送機に搭乗して現地に向かう。お前たちは先行する形になるが、気を付けろよ」

「ああ、分かってる」

「元エースパイロットの実力を見せてくれ」

「あんまり期待すんじゃねーぞ。でも、まあ……やるだけやってみるさ」

清水はそう言ってF35に搭乗し、発進の命令を待つ。百里や千歳からくるF35の部隊と進路上で合流する必要があるからだ。

俺も輸送機に乗り、その時を待った。

すぐに司令部から命令が下り、まずは清水たちの戦闘機部隊が、続いて我々を乗せた輸送機が後を追うように飛び立った。

◇◇◇◇◇◇◇◇

【スイス・ジュネーブ】

国連と欧州議会の合同戦略本部が置かれ、衛星や各国の軍から集めた情報を国連加盟国や各種メディアに提供していた。

「中国の空軍損耗率、5割を超えました。ロシア軍の損耗率も4割を超えています。このままだと援軍が到着する前に重要な戦力を失います」

「近隣の国からの増援は見込めないのか?」

「自国の防衛を優先する国が多いようです。それも 致(いた) し 方(かた) ないかと」

このジュネーブに詰めていたのは、国連職員、欧州議会議員、そして国連軍の軍人たちだった。彼らは 侃々諤々(かんかんがくがく) の議論を交わしていたが、状況が悪いことだけは共通の認識だった。

そんな中――

「急速に接近する機影あり。100機ほどの航空機編隊です」

「味方だろうな。どこの国だ」

「この識別コードは……日本、自衛隊機です!」

「日本?」

日本と聞いて多くの者は驚いた。支援要請をしてから到着まで思いのほか早かったのもそうだが、日本は自衛隊の武力行使を嫌って海外への派兵をしないことで知られていたからだ。

「なんにせよ100機程度の編隊でこの戦場に突っ込むのは危険だ。一旦下がらせて他の軍と合流させた方がいい」

「それが……一直線に戦場の中心部に向かっています」

「なんだと!?」

「敵母艦の射程圏内に入ります!」

相手の強力な火器で多くの友軍が落とされていたため当然、自衛隊機も撃墜されると誰もが思った。

だが、中国軍から提供されているレーダー上では自衛隊の前方にいる敵機の機影が次々にロストしていく。

何が起きているのか、その場にいる者には分からなかった。

「映像、来ます」

司令本部に置かれた大型のスクリーンモニターに中国軍から送られた映像が映し出される。その光景に誰もが目を疑う。

自衛隊が乗っていたのは、見た目は普通のF35だった。だが、敵からの攻撃を光の障壁で防ぎ、攻撃は銃弾ではなくレーザーのような物で行なっている。

その攻撃は敵の障壁を突破し、一撃で敵戦闘機を撃墜していく。黒い母艦が展開する障壁さえ突き抜け、戦艦の装甲も貫通し爆発した。

黒い煙を上げながら母艦は地上へと落ちてゆく。

「なんだアレは……“プロメテウス”の機体ともまったく違うぞ。日本はどうやってあんな物を造ったんだ!?」

モニターの前にいた人々は敵戦力が減っていく光景を、呆然と見守るしかなかった。

◇◇◇◇◇◇◇◇

「各機、個々に狙いを定めて各個撃破しろ!」

「「了解!」」

俺に着いてきていた十機のF35が散開し、敵戦闘機を着実に撃墜していく。

「それにしてもスゲー威力だな……」

この機体、F35改“ 天照(アマテラス) ”は太陽石って石を動力源にしてる。連続72時間の飛行が可能ってとんでもない物だ。

機動性だけじゃなく、エネルギーを充填すればレーザーのように敵の機体に風穴を空ける。

現代の科学技術で作るのは不可能な 代物(しろもの) だ。

あのノアという少年や幼い双子が戦闘機の設計図を見たら、いとも簡単に必要な部品を造りやがった。

『十時の方向、敵機二十!』

「中距離空対空ミサイルで迎撃する――」

俺の戦闘機を含め、周囲に散開していた機体が敵に狙いを定める。

「発射!」

一斉に放たれたミサイルは追尾しながら敵機に向かっていく。

オリハルコンで造られた弾頭は、敵の“魔法障壁”を楽々と突破し着弾する。空中で爆発し炎上して落ちていった。

「よしっ!」

俺たちの航空戦力が敵に通用することは分かった。あとは……。

事前の情報通り、四機の大型母艦が地上に着陸している。四方を守るような配置で、その中央では何かを造っているようだ。

あれはなんとかしないとな。

「第三飛行隊! 俺についてこい、地上施設を攻撃する!!」

「「了解!」」

俺を含めた十三機の飛行隊が、四つの母艦の射程圏内に突入する。敵戦艦からは雨のような斉射で迎撃してくる。

向こうもレーザーのような攻撃が主力のようだ。

だが“天照”の強力な魔法障壁が全ての攻撃を防いでいく。戦艦の防衛ラインを抜け、中央の平地を見ると黒い建造物が目に入った。

何を造っているか分からないが、ろくでもない物に決まってるからな。

「全機、チャージしろ!」

太陽石のエネルギーが貯まっていくのがコックピットの計器によって把握することができる。こいつは五条さんが使う“魔法”と同じ効果があるらしいからな。

敵の“魔法障壁”も軽く突破してくれる。頼んだぞ。

「撃てーーー!!」

十三機から放たれたレーザーは真っ直ぐに建造物に向かっていく。だが――

「何!?」

レーザーは建造物の手前で弾かれ爆発した。戦艦などより強力な“魔法障壁”が張られているようだ。

「ダメか……」

空からの攻撃で破壊するのは難しいな。

「仕方ない。地上は坂木たちに任せて、俺たちは航空戦に専念する。ついてこい!」

「「ハッ」」

◇◇◇◇◇◇◇◇

【スイス・ジュネーブ 国連本部】

「航空戦にインド、パキスタン、韓国軍が参戦。まもなく“プロメテウス”が到着。戦況が拮抗し始めています」

「問題は地上か……」

「謎の建造物へ接近した部隊はことごとく壊滅しています」

「空より地上の方が守りが堅いか……あそこには何があるんだ?」

「怪物のようなものもいると報告が上がっています」

地上の建造物が危険なのは誰の目にも明らかだったが、手をこまねくことしかできなかった。その時――

「中国軍から 入電(にゅうでん) 、同じく欧州部隊からも――」

「なんだ!?」

「間もなく戦闘領域に、それぞれの輸送機が入ります。乗っているのは“朱雀”と“ 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) ”です!」