作品タイトル不明
第122話 決意
【バンコクに五条が現れる21時間前――】
……………………………………暗い………。
苦しい……頭が回らない……何だ……ここは…………
俺は必死でもがいた。
「ぶはっ!」
水面に出た。海? 夜の海だ……。俺は海の中にいたのか……。
だんだん頭が鮮明になってきた。
俺は黒騎士との戦いに敗れて、殺されたのか……。
あの時――
黒騎士に勝てないと分かり、相手に背中を向け走り出した。
だが、奴のスピードは俺よりも速いことは分かっていたので、砕かれた剣の残った刃で左手の人差し指を切り落とす。
そして黒騎士から死角になるように川に向かって投げ込んだ。この国連施設に来るまでに大きな川があることは確認していたからだ。
指より大きな体の部位であれば気づかれていただろう。
記憶はそこから不鮮明になる。
賭けだった………。指先だけでは体の1%に満たない。再生されない可能性もあったが“女神の加護”のおかげか“命の揺籃”の効果か生き残ることができた。
何にせよ今が夜になってるってことは再生まで、そうとう時間がかかったってことだ。
俺は空中に浮き上がり、海岸まで移動した。
裸だったので火魔法と風魔法で体を乾かし、亜空間を開いて着替えを取り出す。
その時、亜空間の中にある物に目が留まる。
以前、万が一の時のことを考えて自分の左腕を切断し、時間の止まった亜空間に入れておいたが、まったく反応していない。
時の止まった空間では<超回復>の能力は発動しないのか…………危なかった。今回、指から再生できなければ確実に死んでいる。
俺は服を着た後、現状がどうなっているのか確認するため信頼する人物のもとへと瞬間移動した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【中国・四川省成都市”朱雀”本部】
レオたちがバンコクに向かって数時間………明日からインド討伐の準備をしなければいけないのに眠れずにいた。
「王、早く寝ろよ」
「ああ、分かってる」
施設の談話室で考え込む私を見て、劉が声をかけてくる。もちろん考えたところで私のやるべきことは変わらない。
そう思いながら窓の外を見ていると………。何か気配を感じる。
「なんだ……?」
私は外に出て違和感がある方へと向かった。すると木の根元に誰かが座り込んでいる。誰かと思って声を掛けようとすると………。
「………王か……」
か細い声で答えたが、一瞬でそれが誰なのか分かった。
「五条!! 五条なのか!?」
私はすぐに駆け寄り、間近で五条の顔をみる。少しやつれたように見えるが、 紛(まぎ) れもなく五条将門だ。
「良かった……ここに来ても会えないかと思った……」
「しっかりしろ!」
私は五条に肩を貸し、宿舎へと連れていった。話を聞くため五条を椅子に座らせる。
「すまないな……。まだ本調子じゃないみたいだ」
「話してくれ、今までどうしてたんだ?」
私は五条から、 粗方(あらかた) の事情を聞いた。とんでもないスキルを持っていることを聞いても五条ならありえる。と思えるから不思議だ。
「とにかく戻ってきてくれて良かった。五条が死んだ世界なんて絶望しかないからな」
「俺がやられた後のことを教えてくれないか? あれからどれくらいの時間が経ったんだ?」
今度は私が今の世界の状況を説明する。五条が倒されてから四日以上が 経(た) ったこと、世界中に化物が溢れ“統率者”もいること、子供たちがレオと合流し一緒にバンコクへ行ったことなどだ。
「そうか……ノアたちが……」
「正直、驚くほど強かったぞ! さすがはお前の教え子だ」
「……レオたちは、すぐに戦おうとしてるのか?」
「いや、夜になるのを待つと言ってたな。黒騎士は日中に強さを増すらしい」
「黒騎士に勝つのは難しいだろう……」
「次に黒騎士と戦ったら勝てそうか? 以前と違って夜なら五条の方が強いんじゃないのか?」
「いや…夜でも良くて互角、“統率者”が一緒にいるなら 尚更(なおさら) 厳しいな。それに、ずっと考えていたんだが黒騎士は特殊なんだ」
「特殊?」
「今までの敵とは明らかに違う………うまく言えないが、あいつの剣は怒りや憎しみじゃなくて何か悲しい感じがするんだ」
「黒騎士のことはよく分からないが、今はそんなことを言ってる場合じゃない。時間を止められるなら、時間を止めてから近づけば倒せるんじゃないのか?」
「それは俺も考えた……。だが、あいつの固有スキルを鑑定した時“能力を封じる”ではなく“ 影(・) 響(・) や(・) 効(・) 果(・) を(・) 全て封じる”と出ていた」
「どういうことだ?」
「黒騎士の周りには、いかなる影響も与えることができない……つまり」
五条は厳しい表情になる。
「あいつは止まった時の中で動ける」
「そんな……」
「王、バンコクの日没は何時間後か分かるか?」
「日没か、時差はほとんど無いから……あと19時間くらいじゃないかな」
「19時間……」
そう言うと五条は何もない空間に亀裂を入れ、中からカードのような物を取り出した。
「なんだ、それは?」
「職業ボード……前に話したガチャから出てきた物だ。レベルを上げていけばその 分(ぶん) 強くなることができる。王、世界に現れた“統率者”の数は分かるか?」
「正確かは分からないが情報として入っているのは中国、日本、アメリカ、ロシア、フランス、イギリス、ボリビア、インドの8ヶ国だ。他にもあるかもしれないが、今の状況では分からないな」
「中国を除けば7ヶ国か……」
「どうする気なんだ?」
「今、職業ボードは全部で53枚ある」
そう言うと五条は覚悟を決めたような顔になる。
「19時間以内に7ヶ国の“統率者”を倒して、職業ボードをできる限りカンストさせていく」
突拍子もないことを言い始めた。19時間で7ヶ国……? いくらなんでも厳しすぎるだろう。
「五条、お前は病み上がりみたいな状態だろう? その状態では無理なんじゃないのか?」
「確かに無茶かもしれないが……のんびりしてる場合じゃない。恐らく敵は俺が急速に強くなれることを知らないと思う。王、君に頼みがあるんだ」
「なんだ? なんでも言ってくれ」
「腹が減りすぎた……。何か食べ物はあるか?」
一瞬、気が抜けたが、確かに何も食べてないと力も出ないだろう。
私は団員が寝ている宿舎に行き、大声で叫んだ。
「起きろ、お前ら! すぐ飯の準備をしろ!!」
叩き起こされた団員は訳も分からずフラつきながら廊下に出てくる。劉も起きて困惑した表情で聞いてきた。
「どうしたんだ王、何かあったのか!?」
「五条が戻ってきた。飯の準備をしてくれ!」
「五条が!?」
それを聞いた他の団員も半信半疑で、談話室を覗き込み五条の姿を見つけると大騒ぎになった。
「本物だ!」
「五条さんがいるぞ!!」
劉も五条に駆け寄り、話をしようとする。
私は団員のケツを蹴り上げ、さっさと飯の用意をするよう怒鳴った。男が数人掛かりで作った料理はかなりの量になったが、五条は凄い速度で 搔(か) っ 食(く) らう。
どこに入っていくんだと思うぐらい 鱈腹(たらふく) 食うと、箸を置き戦いに向かう準備を始める。
「まずインドに向かう。インドの“統率者”を倒せば王は自由に動けるんだろ? バンコクに行ってほしいんだ」
「レオたちと合流すればいいんだな」
「俺が黒騎士と戦っている間、“統率者”を押さえててくれ。なるべく早く助けにいくから、そのあいだ頼む」
「見くびるなよ五条。私たちだけで“統率者”は倒す。お前は黒騎士に集中すればいい」
五条を見送るため団員と共に外に出た。
「行ってくる」
そう言って五条は浮き上がり、夜の闇へと消えていく。
「劉、中国政府に言って通信障害の影響を受けない飛行機を用意してもらってくれ。すぐにバンコクに向かう!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
高速で移動しながら“千里眼”を使い、インドの 様子(ようす) を見る。半人半獣の魔物が大量にいて、人の町を破壊して回っていた。
「あれがインドの魔物か……」
俺は亜空間から職業ボードを取り出す。最初何にするかで迷っていたが、やはりこれしかないと思い表面をタッチする。
勇者の職業になった。スキルの“成長加速”が増えるのが大きい。
インドの首都ニューデリーが近づくと、視界に魔物が入るようになったので体の周りに炎を展開し、五体の巨大な炎の竜を作り出す。
俺と共に飛行しながら移動し、地上にいる魔物を焼き尽くしていく。
民家や人が近くにいる場合が多いようなので魔物だけを焼くように炎をコントロールして攻撃していた。こういう時“火魔法”は扱いやすい。
数百体の魔物を倒しながら“統率者”の気配を探すと、 一際(ひときわ) “魔素”の強い場所を見つける。
“千里眼”を発動すると――。
「アレか……」
その”統率者”は大きな 礼拝堂(モスク) の前で、大勢の魔物たちに囲まれながら中央に鎮座していた。象の頭と4本の腕を持つ半人半獣の魔物。
「王様きどりだな」
鑑定を行使すると……。
ガネーシャ
神格種 Lv2686
たいした強さじゃない……一気に決着をつける。
「召喚―― 不死鳥(フェニックス) !!」
召喚された不死鳥は翼を大きく広げ、ガネーシャに向かって飛翔していく。その後を追うように五体の炎竜は降下し、不死鳥に食らいついた。
爆発的な炎が辺り一面に広がり、巨大な火の鳥が舞い降りる。
礼拝堂(モスク) の前にいた魔物は異変に気づいたようだが、もう遅い。火の鳥は魔物を全て飲み込み、ガネーシャごと炎の渦に巻き込んだ。
断末魔とも思える魔物の叫びが辺りにこだまする。
だが、さすがに“統率者”はまだ生きていた。元の大きさに戻った不死鳥を下がらせ、俺は右手を天にかかげる。
「雷帝!!」
ガネーシャを脳天から 雷(いかずち) が 貫(つらぬ) く。
その衝撃で渦巻いていた炎は 掻(か) き消え、ガネーシャは声にならない声を上げふらついていた。
俺は子供たちから 貰(もら) った 竜燼刀(りゅうじんとう) を亜空間から取り出し、剣身に炎を纏わせる。
瞬間移動でガネーシャの目の前に行き、炎の魔法剣で頭から真下に向かって 斬(き) り 下(お) ろす。
「ヴォオオオーーーーーーッ!!」
最後の雄叫びを上げた後、ガネーシャは黒い煙となって消えていく……。
「テイム!」
魔法陣が展開するが、すぐに消えてしまう。
「ん、なんだ?」
ガネーシャが消えた場所を見渡すが“魔核”も無かった。
ひょっとして……最初から魔核が無い? 俺は王の言葉を思い出す、黒騎士が空に浮かべた黒い宝石………それが“魔核”ってことか?
だとしたら今、現れてる“統率者”は偽物……疑似的な“統率者”ってことか……。俺は鑑定で自分のステータスを確認する。
勇者 Lv99
【職業スキル】
光の加護 Rank C → B
獲得スキル 成長加速(Ⅰ)×2
獲得魔法 光魔法 (Ⅰ)
魔核は無いが経験値は入ってくるな……まあいい、最終的には黒い宝石も破壊するが、今は各地の魔物を倒していくのが先だ。
とりあえず一体目……。
俺は亜空間を開き、不死鳥と共に瞬間移動した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その日、魔物から逃れ身を 潜(ひそ) めながら祈っていた人たちは、突然“魔物の王”が倒されたことを知らされる。
それと同時に夜の闇を切り裂きながら、火の鳥と炎の竜を 従(したが) えた人間が空を飛んでいたことも 噂(うわさ) となった。
「五条だ! 五条が来たんだ」
「我々の祈りが天に通じた!」
噂(うわさ) は 瞬(またた) く 間(ま) に広がり最強の異能者、五条将門が助けに来てくれたと誰もが信じて疑わなくなった。
やがてインドの人々は五条のことを神話に出てくる英雄ラーマの再来と呼ぶようになるのだが……… 当(とう) の本人は知るよしもない。