作品タイトル不明
第116話 バンコク
タイのスワンナプーム空港に着き、タイ政府が用意した車に乗って国連施設が入るESCAPビルに向かった。
同乗したのは、タイ外務省の職員と国連の職員だ。目的地まではそんなに遠くないと言われたので、到着はすぐだろう。
通りに出ると、車の窓から意外な光景を目撃する。
道の脇に大勢の人がいて、タイの国旗を振っていた。何かお祭りでもあるんだろうかと思い、国連の職員に聞いてみると………。
「何を言ってるんですか。五条さんを歓迎するために集まってるんですよ」
「ええ!?」
こんなに沢山の人が俺のために? 信じられなかった。
「やっぱり、世界的な英雄を間近で見たいじゃないですか。私も今日、同行させてもらってとても光栄です」
日本の自衛隊基地で 籠(こも) ってたから分からなかったけど、他の国ではこんな感じなのかな?
「結構、怖がられてると思ってたけど……」
「確かにそういう人もいます。人は自分の常識の範囲外のことが起こると警戒しますからね。でも五条さんが世界を救ったのは、まぎれもない事実です」
集まった多くの人が、大きな声で何かを叫んでいる。言葉は分からなかったが、歓迎されているのは伝わってきた。
所々に日本語で書かれたボードを持っている人もいる。
「ありがとう」「感謝」「歓迎ようこそ」など、何を言われても気にしないようにしていたけど、感動するぐらい嬉しい気持ちになった。
車は大通りを抜けて、そのままESCAPビルの敷地内へと入っていく。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「 王(ワン) から連絡があった。すぐ近くまで来ているそうだ。我々もビルの周りを警戒しながら 王(ワン) たちと合流する」
聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) のメンバーを連れてバンコクの国連事務局前に車で来ていた。普段は多くの車の往来がある場所だろうが、今は交通規制がかかっているので限られた車しか通っていない。
五条にも連絡を入れたので、もし黒騎士が現れれば我々と五条、“朱雀”の三組で囲い込むことができる。
もちろん必ず来るとは限らないんだが………。
「グレス、鑑定は頼んだぞ」
「ああ、まかせてくれ旦那!」
今日、この場には俺、フレイヤ、カルロ、アンナ、エリアス、ルカ、グレスの七人で来ていた。戦闘要員ではないグレスを連れて来たのは、黒騎士を鑑定させるためだ。
謎が多い敵だけに、倒す前に情報を取りたい。
“朱雀”の 王(ワン) と合流して、それぞれがどこで待機して黒騎士を待つか相談する。
「すまないな、中国政府の許可が出なくて大勢では来られなかった。私の他には二人だけになる」
「いや、充分だよ。来てくれたことに感謝する」
王以外では、槍と弓を持った“朱雀”の団員が来てくれていた。
話し合った結果、“朱雀”はこのESCAPビルの中で、 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) は三班に分けて一班はこのビルの中で、残りの二班は会場施設の外で待機することになった。
タイ政府には事前に知らせていたので、一般人が会場施設内に入らないよう制限してくれている。
だが、マスコミに関しては全員退去させると、公開を前提とした公聴会の意味が無くなってしまうため会場内への立ち入りが許可されていた。
戦いになったら巻き込まれる可能性があるが……仕方ないか。
マスコミなどには気づかれないように行動していたが、一部では 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) や“朱雀”が来ていると噂になってるようだ。
「来るかな……」
ルカが 呟(つぶや) く。俺たちは施設の外で車に乗り辺りを警戒している。この車には俺とルカ、グレスが同乗していた。
本来は駐車禁止の道路沿いだが、許可をもらって車を止めている。
「まあ、来るか来ないか分からないが、気長に待つしかない」
俺は長期戦を覚悟して待とうと思っていた。そんな時――
「なんだ? マスコミかな……騒がしいぞ」
ビルの前にいた報道陣が一斉に移動してるようだ。
「ちょっと見てくる」
俺は車を降り、ESCAPビルに入るための道路を見に行った。ざわついた様子で多くの人がカメラで何かを撮っている。俺も見える場所まで回り込むと……。
真っ黒な鎧を着た騎士が、道の真ん中を堂々と歩いてやってきた。
あまりにも悠々と 闊歩(かっぽ) しているため、マスコミは何かのコスプレかと勘違いして写真を撮っている。
黒騎士の容姿は公表されてない。報道陣は、目の前の騎士がまさか異能者殺しだとは思っていないようだ。
「アレが黒騎士なのか……!?」
まさか、こんなに堂々と現れるとは思っていなかった。すぐに連絡を取り、他のメンバーにも黒騎士が現れたことを伝える。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「おい、どうしたんだ?」
「アレは 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) のレオ・ガルシアじゃないのか!?」
「 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) が来てるって噂になってたが本当だったのか」
国連ビルの周辺にいたマスコミが異変に気付き始めた。国連ビルの中にいた報道陣も施設前の大通りに集まる。
彼らが見た光景は、ある種、異様なものだった。
黒い鎧を着た人間を 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) のメンバーと“朱雀”の 王(ワン) らが取り囲んでいる。
何が起きているのか分からなかったが、武器を構える彼らを見てあの黒い騎士が異能者殺しなんじゃないかと何人かの人間が口にする。
少し遠くにいた一般の民衆も、この異変に気づき始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「あいつ馬鹿なんじゃないのか!?」
レオの旦那を始め、他の奴らも準備は万全だ。あいつがどれだけ強かったとしても、ここから逆転できるわけがない。
そして五条もビルから出てきた。手には巨大な剣を持っている……見たことがない武器だが五条も対黒騎士に 余念(よねん) がないようだ。
俺はレオの旦那に言われた通り、黒騎士を鑑定した。
「……………どういうことだ?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
あれが黒騎士か……確かに異様な雰囲気を 醸(かも) し出しているが、どれほどの強さなんだろう……。そう思い、鑑定を行使すると――
ヒュブリス
勇者 Lv99
【職業スキル】
光の加護 RankSSS 称号“光へ導く者”
剣術 RankSSS 称号“剣聖”
魔法剣 RankSS
暗殺術 RankA
魔術 RankB
結界術 RankB
回復術 RankC
【固有スキル】
嘆きの檻
【スキル】 【魔法】
筋力増強(ⅩⅩⅣ) 光魔法 (ⅩⅡ)
物理耐性(ⅩⅧ) 闇魔法 (ⅩⅥ)
魔法耐性(ⅩⅡ) 炎魔法 (ⅩⅤ)
俊敏 (ⅩⅨ) 回復魔法(Ⅶ)
隠密 (Ⅷ)
成長加速(Ⅹ)
なに!? 勇者? そう思った瞬間、黒騎士はエリアスの目の前にいた。
格子状の黒い斬撃が襲い掛かった時、エリアスは反射的に結界を張りギリギリで防いだが結界は破壊され、衝撃で後ろに倒れ込む。
俺以外、その場にいた者は次々と黒騎士に向かって飛び掛かっていった。だが“光の加護”は日中、力と速さを跳ね上げるスキルだ。
しかも“称号”持ちなんて危険すぎる。そう思い、俺は時間を止めた。
黒騎士は剣を地面に突き刺し、何かを 呟(つぶや) く。
「え?」
黒騎士が一気に剣を引き抜くと爆発したような衝撃波が起こり、レオたちは後方へと吹き飛ばされた。
俺はなんとかその場に踏みとどまったが、時間が止まっていないことに唖然とする。今までこんなことは一度も無かった。
それに衝撃波を防いだ時も“結界防御”が発動しなかったぞ……。
どういうことだ!? 俺はアダマンタイトの大剣を黒騎士に向かって振り下ろす。俺の全力の一撃を難なく受け止め、切り返してくる。
剣と剣がぶつかり合い、手に相手の剣の重みが伝わってくる。
おかしい……アダマンタイトの大剣は“重力操作”を使えば羽のように軽く振ることができるが、今はただ重いだけで、うまく扱うことができない。
相手の剣が肩をかすめ、傷口からわずかに血が流れたが、治る気配がない………どうしたんだ!?
やはり、この黒騎士が何かしてるのか! お互いに距離を取った時、俺は奴が持つ“固有スキル”を鑑定した。
【固有スキル】
嘆きの檻
一定範囲にある“固有スキル”の
影響や効果を全て封じる。