作品タイトル不明
第107話 天敵
メテオ・ストライクや 不浄なる死者の国(ヘルヘイム) で破壊した箇所が少しずつ再生していっている。攻撃を止めてはダメだ。畳み掛けるしかない!
俺は右手を天に 掲(かか) げ、上空に魔力を集める。
“塔”より上に巨大な炎の玉が出現し、 煌々(こうこう) と輝きながら放たれる瞬間を待っている。俺は勢いよく手を振り下ろす。
「 地獄の極大業火(インフェルノ) !!!」
上空から真下の“塔”に向かって火球は落ち、塔を飲み込む巨大な火柱となった。
だが、塔は焼かれながらも少しずつ再生しようとしている。破壊と再生が同時に起こる異常な状況を前に、俺は塔の再生能力を甘く見ていたことに気づく。
まだ細かい粉塵が辺りを覆っているので、風魔法で粉塵を巻き上げ火柱に合わせることで強力な爆炎の竜巻を起こす。
「複合魔法― ―大焦熱地獄の風―(インフェルノアエラス) ―!!」
表面を切り裂きながら、遥か上空まで伸びる灼熱の竜巻は“塔”全体を焼き尽くしていく。しかし火力がまだ足りず、完全に再生を止めることができない。
人(・) 間(・) が(・) 使(・) う(・) 魔法の威力では限界があるようだ。
「仕方ない‥‥‥あまり使いたくなかったが」
これをやると 後々(あとあと) めんどくさそうだったから嫌だったけど、出し惜しみしてる場合じゃない。メテオ・インパクトのダメージが回復する前に攻撃を集中して倒す!
俺の体から大量の魔力が放出され、巨大な魔法陣が構築される。空高くまで立ち上る光の柱から、その魔物は顕在化してゆく。
「来い!! ――タイタン――!!!」
巨大な赤い体躯の怪物は、凄まじい衝撃と共にフランスの大地に降り立つ。地面は灼熱のマグマと化し、一歩踏み出すごとに地響きが起こる。
地中にも多数いるヒルのような生物は、声にならない悲鳴を上げて苦しんでいるようだ。それでも近づいてくる巨人を止めようと、ヒルが束になり触手のような形で地中から飛び出してタイタンに襲いかかってくる。
だが、巨人に巻き付いた触手はブクブクと水膨れのようになり燃え始めた。
タイタンは触手を引きちぎり、大地に手を突っ込む。マグマの中から身の丈ほどある巨大な斧を取り出し、ゆっくりと振りかぶる。
空気を切り裂くように斧を振り下ろし、塔の端を大地ごと吹き飛ばした。爆散した粉塵は空高く舞い上がる。
「やっぱり‥‥‥」
大地は溶解し、地中にいたヒルの化物は焼け 爛(ただ) れて再生できずに死滅しているようだった。
辺り一帯の地面がマグマになっているため、地面から這い出そうとしているヒルの化物が悶え苦しんでいるように見える。
この“塔”にとってタイタンは天敵なんだ。
灼熱の巨人はまた一歩“塔”に向かって歩みを進めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
遠距離からのカメラ映像ではあったが、赤い巨人の姿はハッキリと確認することができる。しかし、その映像をみた世界中の人々は何が起きたのか分からず困惑していた。そんな中――
【アメリカ中央軍・フロリダ州タンパ】
「何がどうなってんだ!?」
軍人が十数人集まってタブレットの映像を覗き込んでいる。俺たち以外の連中も仕事そっちのけで、それぞれで中継を見ていた。
「ジョシュア‥‥‥これ、どう見ても巨人だよな?」
「ああ、確かにそう見える」
「なんでフランスにいるんだ!? しかもこの大きさは‥‥‥」
塔と比べると小さく見えるが、対比で考えるなら 途轍(とてつ) もない大きさだ。しかも赤い巨人なんて見たことがない。
そう思っていると一人の男が呟いた。
「‥‥‥タイタンだ」
「何?」
それは北方軍から、この中央軍に最近配置換えになったフレッドだった。
「‥‥‥俺はタイタン討伐戦に参加したんだ。他の奴らはほとんど死んだが俺は生き残った」
フレッドは震える自分の肩を押さえている。
「間違いない。あの大きさ、あのマグマが噴き出す赤い体‥‥‥今でも夢に見るんだ。あの悪魔のような姿を」
あれが本当にタイタンなら、あそこで戦っている異能者は一人しか思いつかない。巨人と共に現れ、俺たちを助けてくれた男――
「お前が戦っているのか………五条」
◇◇◇◇◇◇◇◇
タイタンは手に持った斧を高く 掲(かか) げる。塔や地中からヒルが束になってタイタンに絡みつく。
この巨人が危険だと塔自体も認識してるんだ。
タイタンは触手のようなヒルを力ずくで引きちぎり、意に介すことなく塔に切りかかる。“破滅の斧”の一撃を受けた塔の下部は火山が噴火したかのように爆散し、ドロドロのマグマとなって溶け出した。
タイタンが確実にダメージを与えてる間に攻撃を続ける必要がある。俺は自分の前方に巨大な魔法陣を展開し、大量の魔力を流し込む。
魔法陣から焼けるような魔素が溢れ出す。
「召喚――!! 炎竜王シヴァ!!!」
巨大な炎の竜は空気を 劈(つんざ) く咆哮と共に現れた。巨大な翼を広げ、眼前にある異様な“塔”を視界に 捉(とら) える。
「シヴァ! あの塔を吹き飛ばせ!!」
炎竜王は、その口の中に莫大な魔力を集める。口から溢れる炎を“塔”に向かって 一気(いっき) に放った。
火球は塔の中央に直撃し、 途轍(とてつ) もない爆発が起こる。その爆発の大きさは塔全体を飲み込むほどだ。爆炎と煙が徐々に収まると、塔は表面が広範囲に破損した姿を晒すことになる。
炎竜王に対してもヒルの束が地中から猛スピードで襲い掛かってくる。
炎竜王は翼を大きく羽ばたき、上空に浮き上がると向かってくるヒルの“触手”を炎のブレスで焼き尽くしていった。
俺が魔法で作り出す“炎”より遥かに強力だ。焼かれたヒルの触手はその動きを止め力なく地上に落ちていく。
炎竜王の攻撃も充分“塔”に通用する。
俺は体から更に魔力を放出した。全身が悲鳴を上げるほどの負担を感じるが、ここで止まるわけにはいかない。
全神経を集中して魔法陣を構築していく。
「俺の許に来てその力を振るえ!! 召喚――」
上空に暗雲が垂れ込め、緊迫した空気が辺りを覆っていく。黒色の魔素が魔法陣から噴き出し、最強の竜がその姿を現す。
「――神竜ヒュドラ――!!!」
三つ首の竜は天に向かって、けたたましい 啼(な) き声を上げた。暗雲に風穴が開き、雲散して光が差す。
三体の“統率者”に囲まれた塔は最大限の危機感を抱いているのか、地中から大量の触手を伸ばし自身への攻撃を防ごうとしている。
その中でも特にヒュドラに対して大部分の触手を差し向けた。
高速で波のように襲い掛かってくる触手を前に、ヒュドラは慌てることもなく三つの頭を持ち上げた。口を開け、その中に光が集束していく。
「消滅させろ!!」
ヒュドラが放った光は迫ってくる触手を消滅させ、そのまま塔に直撃する。塔の内部を貫き遥か後方まで光の筋は伸びていく。
塔に空いた大きな穴もまた、簡単には再生しない。
タイタン、シヴァ、ヒュドラ……この三体の攻撃はいずれも塔の再生を阻害してる。やはり俺が使う魔法より、コイツらが使う攻撃の方が遥かに効果的だ。
このまま一気に決着をつける!!