作品タイトル不明
第四百三十四話 死を拒絶した男
「この機能を、よもや使うことがあるとはね。よりによって『君』が僕を訪ねてくるなんて、一体何のつもりかな?」
その声は、紛れもなく米崎秀樹のものだった。だが、視界に広がるのは無数の脳が浮かぶ水槽の森だ。一体どの脳が発声し、どの個体が思考を司っているのか。以前の俺の目では、判別など不可能だった。
しかし、今の瞳――100万年を経て最適化された視覚情報は、空間を流れる微細な魔力や電気信号の奔流を、手に取るように可視化した。機械的な伝達の流れをトレースした結果、異様な事実が判明する。
目の前の膨大な脳は、個々に独立しているのではない。それらすべてが巨大な並列ネットワークとして連結され、一つの『集合知』として機能しているのだ。
米崎などという強烈な個性が集まりながら、どれか一つが反乱を起こすこともなく、静謐なまでに完璧な調和が取れている。おそらく、自己の生存に異常な執着を持つ米崎のことだ。
『争い』が『全体の死』を招くリスクを極限まで排除したのだ。
「……お前の生存確認だ。それと、もし生きてるんなら、少し喋ってみたくなってな。なあ米崎、今のこの状態を、お前の中では『生きてる』って定義でいいのか?」
「どうかな。生を肯定するものと、死を定義するもの。それらの境界線は、いつの時代も、どんな文明においても曖昧だ。例えば、僕が創り出した『からくり族』には魂が存在しない。それでも彼らを生きていると慈しむ者もいれば、ただの精巧な自動人形と断じる者もいる。では、生きていないのだとしたら、彼らは一体何だろう? そして、生きていないのだとしたら、今ここにいる僕や、『君』は何なのだろうね」
「……」
思わず沈黙する。やはりこいつは、今の俺の現状を正確に把握しているらしい。いくら米崎の分析能力が神懸かっていても、今の俺の内面、ましてや100万年前の意識との統合状態までを直接覗き見ることはできないはず。
だとすれば、あいつは俺の基本的な性格をベースに、【千年郷】での俺の不可解な行動ログを観察し、そこから導き出される『辿り着くはずの結論』を逆算したのだ。
「よく回る頭だな。あんまり先読みばかりしてると、早死にするぞ」
「皮肉だね。一応、僕はもう物理的には死んでいるんだから、その心配は無用だよ」
「……魂は、ないのか?」
俺は、無数の水槽の中でも異彩を放つ、例の『二つの脳』を観察した。米崎自身のバックアップ群とは異なり、一つの脳の中には、確かな輝きを放つ『魂』が揺らめいているのが見えた。
しかしもう一つの脳に魂はなかった。それでも脳みそだけは保存している。その光景は奇妙に思えたが、脳組織そのものが保管されているならば、肉体を再生することは可能なはずだ。俺は、魂の光を宿すもう一方の水槽へと視線を戻す。
肉体を失い、脳殻に閉じ込められてもなお輝き続ける魂。だからそいつだけは生きてる。他は死んでる。そう断じるべきなのか。魔法と科学が進歩し、生の代替品が溢れるほど、生命の定義というものは哲学的な迷宮へと迷い込んでいく。
「ないね。僕の大元の魂は、セラス……いや、クミカ君によって完全に消し飛ばされたよ。まあ、かつての僕が彼女にしたことを考えれば、一回くらい殺されても文句は言えない。彼女には、僕という存在を抹殺する正当な権利があったのかもしれないね」
「……それは、否定できないな」
俺は思わず、笑いをもらした。米崎が『クリスティーナ』であった頃のクミカに強いた所業は、残酷という言葉では到底足りない、人間としての尊厳を根底から踏みにじるものだった。皮肉だがクミカが、その復讐をしたなら納得だ。
しかし、目の前の『集合知』としての米崎には、それを悔いるような自責の念は微塵も感じられない。こいつにとっては、自身が殺害された事象すら、効率的に収集された『死の体験データ』という新しい知見の一つに過ぎないのだろう。
俺とは、魂の在り方そのものが決定的に違う。俺が消滅する直前、最後に強く考えたのは『消えたくない』という、あまりにも泥臭く、必死な生の執着だ。そのデータだけは、今の俺の中に、傷跡のように残っている。
「……お前は、今の俺をどう思う?」
「おや、そんなことを僕に聞くのかい?」
「お前以外に聞けるやつがいない」
「くく……正直に答えても、ショックを受けないの?」
「ショックを受けそうだから、できるだけ優しく言えよ」
「あいにく、慰めをプログラムする余裕はなくてね。そういうのは専門外だ。僕の専門は命だよ」
「じゃあ、ショックでも構わない。お前の正直な見解を聞かせろ」
米崎という男は、常に言葉遊びを好む。相手がこう言えば、こう返す。そのやり取りが自分の予測通りに収束すれば鼻で笑い、少しでも予想を外してくれば、子供のように興味を示す。自分ですら制御しきれないほどに肥大化した知性。
本当に、難儀な性格をした男だ。
「……君の状態を、僕の語彙で表現するなら。端的に言えば『分身心症』だね。君は、君ではない高次の誰かの中に、精巧に再現された『君の模造品』だ。正直に言わせてもらえば、実になんとも不可解で、興味深い。……ところで、君は一体、誰なのかな?」
さすがの米崎も、俺が『100万年前の俺』そのものであるという飛躍した事実にまで、たどり着くわけがない。ただ、理解しているのだ。かつての六条祐太は、あの戦いで修復不可能なレベルで完全に壊れたと。
「……そんな風に得体の知れない存在として俺を疑っているのに、よくもまあ、あっさりとこの最深部まで招き入れたな」
俺の問いに、スピーカー越しの米崎は、クスクスと乾いた電子音を震わせた。
「保険は常に重層的に用意する性格なんでね。余計な心配は無用だよ。今の『君』が何者であれ、その内側には僕の知る六条祐太の残滓がある。それはどうしてなのか、どのようなプロセスで再現されたのかを探る程度の興味を、僕は今の君に持っているし……何より、こんな僕でも、彼――かつての六条祐太には、それなりの恩義を感じているんだよ」
「そうか。……お前が相変わらずの米崎であってくれて、正直、少し嬉しいと思ってるよ」
「おやおや、殊勝なことだね。……それで? 僕の問いに対する『答え』は、タダで教えてもらえるのかな?」
「そうだな……」
米崎の言葉の端々には、依然として俺に対する深い疑念と、拭いきれない敵意が刺のように混じっている。このまま正体を明かさず、喋ることも可能だろう。
今の俺のスペックからすれば、脳だけになった米崎がどれほど策を弄したところで、実害を被ることはまずない。だが、この男に紛い物として誤解されたまま話すのは、どうにも座りが悪かった。
「米崎。これから話すことは、俺にとっての絶対的な秘匿事項だ。だから、あちこちで喋り回す気はない。お前は、その秘密を墓場まで持っていけるか?」
「……ほう。そうきたか。……ちょっと待ってくれ」
その瞬間、監視カメラのレンズやセンサー類が不自然な動きを見せ、俺の様子を感知していた膨大な脳のネットワークが、物理的に切り離されていくのがわかった。数千あった接続先が、たった一つの脳へと急速に収束していく。
米崎自身のバックアップ機能さえも一時停止させた、完全な孤立状態だ。
同時に、ヒノエが音もなく一礼し、速やかに部屋から姿を消した。
「これでいいよ。この部屋の通信は完全に遮断した。もし外部から僕の思考ログを探ろうとする不届き者が現れたら、この接続中の脳は瞬時に分子レベルで分解され、消失するよう書き換えた。さあ、心置きなく喋ってくれ」
それはつまり死を意味する言葉だと思うのだが、データが一つなくなるだけのように捉えているようだ。
「分かった。……言葉で説明するのは面倒だから、【意思疎通】で直接送る。安心しろ、どの脳に流し込めばいいかは視えている」
「……」
俺は米崎の一つの脳に向け、データを圧縮した【意思疎通】を放った。
あの日、戦場で見せた最期、魂の消失、そして100万年のあまりにも長すぎる時間の末に発生した『俺と俺』の邂逅。今まで起きた出来事のダイジェストが、奔流となって米崎の意識へ流れ込む。
理解のプロセスを待つ間、静寂が部屋を支配した。やがて、深く重いため息のような合成音が響く。
「……そうか。死んだか。……実に彼らしい幕引きだ。そして、今の君の在り方も、実に彼らしいよ」
「そうか?」
「ああ。目的を完遂するためには、自分の死すらもリソースとして利用し、100万年前の自分という『最強の器』に座を譲る。合理的で、残酷で、相変わらず君はいつだって素晴らしい。そのオリジナルが失われてしまったのが、研究者として口惜しいぐらいだ。正直、もっと近くで観察していたかったよ。……ああ、それで。今の君の状態を、僕の知見で定義してあげよう」
米崎の言葉には、先ほどまでの警戒心が霧散していた。代わりに、純粋な好奇心と、奇妙な親愛の色が混じっている。
「限りなく、今の僕と近い状態だね。つまり元の君……『現代の六条祐太』は、概念レベルで完全に死んでいる。今の君は、100万年前の時代から生き残った君と言えるかどうかも怪しいほど、別のナニかに変質した巨大な器の中に再現された、人格パッケージの一つに過ぎない。100万年という永劫の時間は、人の心を摩耗させ、失わせるには十分すぎたのだろう」
「やはり、長く生きすぎると自我を保つのは難しくなるか……」
「そこまで長生きした経験はないから断言はできないがね。ただ、君自身が直感した通りだ。君が『君』としてこの世界で活動するために、器である『彼』が必要に応じて、君という名の残滓をシミュレートしている。……つまり、僕たちは同じ穴の狢、理から零れ落ちた『残像』というわけだ」
「……お前とは、どこまでも腐れ縁だな」
苦笑が漏れた。残像。その言葉は今の俺の胸に、ストンと腑に落ちるように響いた。生身の人間ではなく、データとして出力された人格。それを生と呼ぶのか、死と呼ぶのか。決めるのは結局、受け取る側の心次第なのだろう。
「全くもってその通り。なかなかに、僕は今のこの事実を楽しんでいるよ。……君という観測対象がいれば、僕はこれからも退屈しなさそうだ」
「そうか。……で、お前は、これからここで何をするつもりなんだ?」
「決まっている。僕の全リソースを注ぎ込み、可能な限りの研究を進める。正面切った実力行使でサファイア級に到達するのは不可能だと理解したからね。だが、僕は諦めない。人工的であろうと、歪な形であろうと、僕はその高みを目指したいんだ」
「変わらないな。その脳だけの状態で、永遠に研究を続ける気か?」
「いいや、それは無理だ。 機械神(ルルティエラ) の監視の目は、この状態の僕でも見逃してはくれないだろう。実際、僕は探索者ランキング1000から一時消えたが、最近また復活してしまったようだ。どうやら彼女たちは、僕のこの有様を『死霊王』として、存在していると判断したらしい」
「存在している、か……」
生きているのか死んでいるのかは定かではないが、世界という 理(システム) の中に、確かにその座標を有しているのか。
「存在する残像。それが俺たちか」
「魂は喪失したが、知性は存在し続けている。生命とは何か、という問いに哲学的な答えを求めたくなる気分だよ。……あそこに僕の称号が刻まれた以上、人工的にでもサファイア級へ至り、寿命の枠を壊さない限り……五百年の刻が来れば、僕はこのデータだけの存在ですら消えるだろうね」
「永遠に生きていいのは、ルルティエラだけ、か」
「さあね。少なくとも彼女は、【名もなき神】というイレギュラーの存在を今日まで許容し続けていた。あるいは、あの神がダンジョンの深奥へと辿り着き、100万年の時を生き延びる権利を自力でもぎ取ったのかもしれない。……そのあたりの裏事情は、今の君の方が、よほど詳しく分かっているんじゃないのかい?」
米崎の指摘は鋭かった。自分自身がその一部となった今、俺の脳内には、かつては触れることさえ許されなかったダンジョンの深淵に関する知識が、膨大な図書館のように確かにある。
「米崎。四の五の言わずに、俺の言うことを聞け」
俺は思考を断ち切るように、あえて傲慢な響きを込めて言い放った。スピーカーから漏れるノイズが、彼の戸惑いを代弁するように一瞬乱れる。
「……何の、強制かな?」
「お前は嫌になるほど頭がいい。だが、今の俺はあくまで100万年前の俺の『廉価版』でしかないんだ。あいつは強大すぎて滅多なことでは表に呼べないし、呼びたくもない。そうなると、俺一人では手が回らない事態がこれから腐るほど起きる。…… 器(からだ) を用意してやる。お前も、ついてこい」
「ええ……。せっかく隠居生活を決め込もうとしていたのに、随分な物言いだね」
「これだけ予備の脳を作り上げた執念があるんだ。今さら隠居なんて似合わないだろう。お前のために、以前よりも遥かに高級な『素材』を用意してやる。ついでに、その二人の女の分もだ。だから、脳みそ一つ分くらいは俺のために割け。そして、ここまでわざわざ迎えに来させてやった俺に、『恩返し』をしろ」
「……」
「反論はないな?」
こいつの思考速度は光速に近い。即座に論理的な反論が返ってこないということは、既に損得勘定を終えて肯定へと傾いている証拠だ。
俺は返事を待たず、米崎と『ブリュンヒルデ』ともう一人の誰かのための肉体構成を開始した。俺の意識は、悠久の時をかけて溜め込まれたマジックボックスへと沈み込む。それは現代の祐太が持っていたささやかな収納ではない。
100万年という永劫の時間を戦い抜いた『彼』が積み上げた、宝物庫だ。
俺はそこから、米崎の新たなガワとなる素材を慎重に選定していった。あいつの知性に耐えうる構造でありつつ、以前のスペックを凌駕する材料を厳選する。
とはいえ、100万年分のストックがあるからといって、無闇に最強の遺物を使えばいいというものでもない。あまりに高次元すぎる素材は米崎の制御を焼き切る恐れがあるし、何より俺自身使いこなせない。
使いこなせないアイテムの恐ろしさは【冥界の梵鐘】で嫌というほど分からされた。分不相応なダンジョンアイテムは、使い手の命を危険にさらす。
「……米崎。お前のレベルは確か800を少し超えたあたりだったよな。再構成の目標値は813。このあたりを基準にする。……で、女の方はどうする? レベル800相当の出力があった方が、お前のサポートには都合がいいか?」
「……」
「おい、聞いてるのか?」
返答のない、接続中の一つの脳を凝視する。すると、ようやく諦めたような、どこか苦々しい米崎の声が響いた。
「……女性の体は、ブリュンヒルデだけでいい。僕の方は、以前のスキルセットを完全に再現できる構造にしてくれ。見た目のアバターは……これで行こう」
脳内の通信で送られてきたのは、かつての彼そのものの姿だった。
しかし、奇妙な点が一つ。彼はもう一人の、彼が大切に保存していたはずの『脳』には肉体を与えようとしなかった。その脳を観察すると、保存状態こそ完璧だが、思考のパルスが全く走っていない。
まるで時が止まったように、ただそこにあるだけの標本。
米崎にも語られない過去があるのだろうが、俺も自分の内側に『言えないこと』を山ほど抱えている身だ。深くは追求せず、米崎から送られてきた設計図に意識を集中させた。
「……なるほど。ほとんど以前と一緒だな。ブリュンヒルデという女性の方は、驚くほど美しいじゃないか。本当にお前なんかに惚れたのか?」
「僕は生物に暗示をかける趣味はない。操ることは自然ではない。そういうのは嫌いなのさ」
「なんか良識ある学者に見えるぞ」
「君はここのところ失礼だね。それと姿は変えない方がいい。力の出力が安定するからね。……ああ、念のため【死霊王】の形態も取れるようにしておいてくれ。それと、ブリュンヒルデのレベルは499で止めておいてほしい」
「……いいのか? どれだけ頑張っても100年後、彼女を失うことになるぞ」
「長生きというのは、存外、退屈で平凡なものだよ。こんなところまでやってきたブリュンヒルデの行動は計算外だったが……共に100年近くも過ごせば、彼女も納得して眠りにつくだろう。それ以上の永生は、ごめん被る」
「……そうか」
米崎が納得していることに俺が文句を言う権利もない。恋愛事にはいまだに苦手意識があるままだ。ましてや女性心理などわかるわけもない。俺は米崎の意思に文句は言わなかった。
提示されたイメージに従い、100万年のアーカイブから最適な素材が自動的に、かつ必然的に弾き出されていく。俺はそれを、淡々と米崎に伝えた。
「骨格の核には【 星核鉄(アストラル・アイアン) 】を。演算中枢には【 全知の泥(グノーシス・マド) 】を。神経系には【雷銀のフィラメント】を。魔力循環には【虹色トカゲの逆鱗】を。視覚素子には【支配者の魔眼】を。……そして最後に、動力源として【闇と死】を据える。これでどうだ?」
「……随分と奮発してくれるじゃないか。全てのアイテムの価値までは正確に分からなくても、その『闇と死』ってやつだけは格が違う。……これ、サファイア級だろう? こんなのもらっていいの? 」
「次は簡単に死なれても困るからな。……なかなかに、死ににくい体にしておくよ」
「ふん……優しいね、君は」
俺は次に、ブリュンヒルデのための材料を選んだ。こちらは彼女の魂の器に馴染むよう、ゴールド級の最上質品で揃える。以前の彼女より弱くなることは、まずありえない構成だ。
「……米崎。ちょっと、待ってろよ」
ここからが正念場だ。無機質な素材を組み上げ、そこに脳を接続し、精巧な『人の形』を定着させる。この創造のプロセスは、今の『廉価版』の権能を遥かに逸脱していた。
俺は意識の深層へと手を伸ばし、微睡んでいる『100万年前の俺』の力を、極小の針の穴を通すようにして引き出した。瞬間、地下空間に白銀の巨大な魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣は力強く拍動し、眩い光を放ち始めた。その光の中で、厳選されたアイテムたちが分子レベルで結合し、二つのシルエットを形作っていく。
ブリュンヒルデの魂が、米崎への深い献身と共に新造の肉体へと滑り込んでいくのを感じる。彼女の『離れたくない』という強烈な意思を尊重し、ヒノエと同じく、米崎との結びつきをより強固に固定した。
光が収束し、そこには――禍々しい骸骨の王と、彼に恭しく傅く、白い羽を持った黄金色の髪の美女が立っていた。
「……やはり、この姿が一番落ち着くな」
「ブリュンヒルデさんの方はどうだ?」
「私は……生き返ったのですか?」
彼女が一番生きていたと言える状態にあったが、彼女自身は脳だけの状態を生きているとは感じてなかったようだ。立ち上がると戸惑いとともに俺や米崎を見つめている。
「説明」
「いいよ。彼女には僕から話す。ブリュンヒルデ、データを送るからそれを見なさい」
「あ、はい。あなた、了解しました」
あなた、か。違和感しかないな。米崎はからかわれるの嫌いそうだからからかわないが、これが他の相手だったら絶対からかってるな。
「面白そうな顔で僕を見るのをやめなさい。それで? 僕は具体的に何をすればいい?」
「俺には、まだ片付けなきゃいけない『お仕事』が一つ残っている。……もし、その後に俺がいなくなっていたら……南雲さんの力になってやってくれ」
「……君は、いつも命を削るような選択ばかりするね」
「とりあえず今は俺についてこい。それでいい。あと骸骨の姿はやめろよ」
「分かってるよ」
米崎は呟くと、骸骨の姿から以前と同じ白衣の男の姿へと擬態した。
「あなた。現状把握終わりました!」
「まず君は僕をあなたと呼ぶ癖からやめようか」
「どうしてです?」
「説明する必要があることに驚きだよ」
「ちゃんとついてこいよ」
言葉を投げ捨て、俺は米崎に座標を送って【転移】を発動させた。
自分が生きているのか、死んでいるのか。米崎のあの歪な生存形態を見ていると、その境界線はますます曖昧に、ぼやけていく。それなのに今の米崎を見てると俺自身が、その曖昧さを許容し始めている。
次は、千代さんの墓前へ向かおう。……ふと、なんとなく二人の姿を見てるとそう思えた。