作品タイトル不明
第三百八十三話 Side美鈴 ギガノス大陸
【美鈴へ
急に美鈴の元を離れることになって、本当にごめんなさい。私はあなたと敵対することになるかもしれない。そして美鈴はもうきっと私のことを二度と仲間だと思ってくれないかもしれない。
本当なら祐太が10年もいなくなる大事な時期に、私がここを離れるべきじゃない。そのことは、この行動をとる前に何度も何度も考えたわ。それでも私は何度同じ選択を迫られても、きっとこの道を選んだ。
どうしても私はもう一度家族の顔が見たい。でも、このことを何1つ相談しなかったこと謝ります。本当にごめんなさい。それでもこれだけは信じてほしい。私はまた必ず祐太や美鈴のいるところに帰ってくる。
そして大好きな祐太と美鈴、そして伊万里、きっとまた4人で笑い合える日を信じてる。それまでどうか無茶をしないで、ちゃんと元気でいてね。心からあなたの成功と元気であることを祈ってるわ。
エヴィーより】
このメッセージを聞くのはもう何度目だろう。
「……全然帰ってこないじゃん。嘘つき」
「あんたまた聞いてるの?」
呆れて声をかけてくる小春。私はその姿を不機嫌な顔で見た。喧嘩別れしたのに、祐太の顔にホイホイついてきて、私のことなんて何も考えてない。そう思っていたのに、私が一番困っている時に結局助けに来てくれた榊小春だ。
小春は私の親友じゃない。そうやって少しの間、疑ってたけど、最近は私の中でその疑いは晴れた。祐太のイケメンになびいた現金な親友だけど、どうやら意外といいところもあるようだ。だってエヴィーいなくなった時に小春が、
『そんな捨てられた子犬みたいな顔してないで、私のところに来なさい!』
私の腕を強引に引っ張って自分のエリアに連れて行ってくれたんだ。私を都合よく使おうとしてるんじゃと、最初は疑ったけど、ガチャ運1にそんなことするバカはいない。都合よく使いたいならせめてガチャ運3にする。
体以外の目的で私みたいなやつ誰も相手にしない。正直小春がいなかったら、私は探索者自体を諦めてたと思う。虹装備があっても防御力ペラペラ問題が消えない私は、誰のそばにいても迷惑だった。
祐太だと私の問題は何も存在しないというぐらい、全て任せておけば全部うまくいった。エヴィーも召喚獣がいるから私の一発の攻撃力をうまく使ってくれた。それなのに小春は正直私とやっていくのに苦労していた。
私がいるからやりにくいんだっていうのが、見ててもよくわかった。だって攻撃力以外に問題がありすぎるんだもん。シルバーエリアにある冒険者ギルドでもどれぐらい馬鹿にされたことか。
『見ろよ。一発屋の、ほら』
『ああ、あれが、ガチャ運最悪女かよ』
『ガチャからゴミが出てくるらしいぞ』
『あの優秀なコハル様がよくそんな慈善活動をしてられるもんだな』
『俺だったら途中で死ぬように持っていくぜ』
『でも顔だけはいいんだよな』
『おーい、ウチに来たら、俺たちの下半身は喜ぶぞ!』
下品な笑いが冒険者ギルドの中で何度起こったかわからない。そのたびに私はひどく落ち込んで、小春は全然平気そうだった。
『ねえ、小春。私』
『うるさい。あんたは一発虹カプセルが出るだけで、人生大逆転なんだからごちゃごちゃ言わない!』
『まだ何も言ってないもん』
『どうせ「私がいなくなった方が小春は自由に動ける」ってお決まり文句でしょ! そんなのもう聞き飽きてるのよ! シャキッとしなさい! 一々泣かない!』
『だってみんなからバカにされるんだもん!』
小春と2人になった私はそれはもうよく馬鹿にされた。ガチャからゴミが出てくるなんてのは優しい方で、榊小春の金魚の糞とか、歩く不良債権とか、そこまで言うことないじゃない。というのもたくさんあった。
祐太といる時は人に馬鹿にされることなんて全くなかった。そもそも馬鹿にしようとしても他の探索者だろうが冒険者だろうが、祐太はもうそこにはいなかった。風のようにその場所を通り過ぎて、六条祐太という伝説だけが残った。
そのパーティーメンバーのガチャ運など誰も知ることはなく、その頃は私も結構尊敬されてた。
でもシルバーエリアで、私と小春は六条パーティーということで結構注目された。最初はどんなにすごいのかと思われていた。でもいつまでもダンジョンショップで売ってる装備を着ている冴えない私。
私のガチャ運が悪すぎることはすぐに他人にもバレた。だいたいお金が回らなすぎた。祐太で貯金できていたお金は、私のペラペラすぎる防御力のせいでポーション代に消えて、底辺"冒"険者たちと同じく安宿にしか泊まれない。
博士が気づいて助けてくれるまでは、最低限のポーションすら買えなくて本当に大変だった。それでも小春は私を見捨てないでいてくれた。でも迷惑かけられてる方も辛いだろうけど、迷惑かけてる方も結構辛い。
私はよく不幸ぶっていた。
『私は美鈴が迷惑だなんて思ってない! だから一緒にいるの!』
『本当に小春はそう思ってくれてる?』
『思ってるって言ってるでしょ。人の愛情を確かめてくるのやめなさい。私は嫌なら嫌ってはっきり言う人間よ。美鈴といると楽しいし、それにお荷物だとも思ってない。あんたは六条のところで鍛えられてるだけあって、自分でよくわかってないかもしれないけど、その辺の有象無象よりはるかに優秀よ』
『そうかな。なんか私って祐太といた時もお荷物になってた印象しかないんだけど』
『そりゃ、六条と一緒にいた頃みたいには行かないわよ。あいつはちょっと異常だったから。でも少なくとも他の探索者たちが執拗に私たちを馬鹿にしてくるのは、私たちが怖いのよ。シルバーエリアは領土と【管理球】の取り合いよ。ゴールドエリアだってそう。どうしたところで足の引っ張り合い。あんたがメンタル崩壊してくれたら、あいつら手放しで喜ぶだけだから。だからあんたは強くなりなさい。いちいちごちゃごちゃ気にしない!』
『う、うん……』
でもやっぱり私は小春の足は引っ張ってる気がした。だから私はたまに無理をしようとして、小春はそういうのにすぐに気づいて止めてくれた。そんな状況だったから余計に、返事が来ないエヴィーを確かめに行く気にはなれなかった。
私のためにここまでしてくれる小春がいるのに、エヴィーの事なんて気にするわけにいかなかった。まあそれでも気になるから迦具夜様に届けてもらったエヴィーのメッセージをよく聞いてる。今日もそうだった。
「ごめん」
「なんで謝ってるのよ」
「だって、まだエヴィーのこと気にしてるから」
「私も気になってるから謝らなくていいわよ。六条から言われて余計に気になったんでしょ。六条の事だからこれが終わればエヴィーよ。もうすぐ会えるわよ。それにとりあえず元気そうで良かったじゃない。召喚獣がそれだけすごくなってるならやっぱりエヴィーもすごいのよ」
「うん……小春」
「何よ」
「ありがとう」
「あんたのその言葉を聞き飽きた。いいから集中してよ」
「ぶー、分かってる。でもエヴィーって、どうして元気なのにこっちに連絡寄越さないんだろう」
「美鈴だってそうでしょ。ピンピンしてるくせにエヴィーに手紙1つ書いてないんでしょ」
「そうだけどさ。向こうは英傑にまで登り詰めたんだよ。普通そこまで行ったら、結構わがままなことだって言えると思うんだよね。戦争は終わってるんだし、ちょっと私たちに手紙を届けるぐらい、さすがに許されるでしょ。気配を消すのが得意なクーモに届けさせてもいいわけだしさ」
「それ以上無駄だから考えるのをやめなさい」
私がこういう話をしだすと決まって小春はそう言ってくる。榊小春は結論が出ないことをごちゃごちゃ考えるのが嫌いなのだ。
「はーい」
「美鈴、天災獣ギガをあんたが自分で選んだのよ」
「わかってる」
小春と2人で手をつないで移動していた。私たちは“速く”空を飛ぶスキルがないから、海中を泳いでいた。目指しているのは天災獣ギガが支配しているギガノス大陸。人よりもモンスターの方が勢力が強いという未開大陸。
支配をしているのは全長200mを超えるモンスター天災獣ギガ。それだけの図体を持ちながら、背中に翼を持ち空を飛ぶのだという。そしてその口からは熱光線のようなものが放たれるらしい。その攻撃範囲が常識外れに広いそうだ。
でかいだけの的だと考えて相手をするとかなり痛い目に遭う。実際、聖勇国にたくさんいる超越者たちは、ギガを排除できずにかなりの支配領域をギガに奪われたままだ。
「まあ帰ってきてすぐにこんなことやるって、ほんと六条はちょっとおかしいのよね。もうちょっとゆっくりダンジョンを楽しみなさいって言いたくなるわ」
「仕方ないよ。伊万里ちゃんを助けなきゃいけないんだもん」
まあそれにしても行動が早いと思う。祐太が帰ってきて私達の力を求めるのなんて何年か後のことだと思ってた。祐太と私たちの力は大人と子供ぐらいに違ってしまっている。そんなにすぐに追いつくわけがない。
思っていたのに光の速さで追いついてきた。どうなってるんだあの男。しかも超絶イケメンになってる。あの顔よりもまだ男前になる余地が残っていたことに驚きだ。
今度は何と言うかもう体全体から出てくるフェロモンが頭をクラクラさせる。可愛過ぎてごめんねなんて言う言葉があったけど、あれはもうなんか別物だ。ルビー級になって耐性も私の方が強いはずなのに、怖くなるほど格好良い。
それに意外なほど反応していない小春がちょっと心配だ。格好良すぎて回線はショートしてるんだろうか?
「伊万里ね。私は話したこともないんだけどさ。話を聞く限り裏切るわけのない子なのよね?」
「まあね。正直、世界中全ての人間が祐太を嫌いだって言っても、伊万里ちゃんだけは祐太のこと好きなままだと思ってた。だから裏切ったって聞いた時、なんの冗談だって思ったし、今でも私はまだどこか信じきれてないな」
「多分、ダンジョンに好かれる究極系だっけ? それと関係してるんでしょうけど、面倒な話よね。好きなら何が何でもそばに一緒にいる。それじゃダメだったのかしら」
「ダメだったんじゃないかな……」
「伊万里自身は正気なのよね?」
「偉い神様の話ではね」
何か事情はあるんだろう。それは分かってる。それでも伊万里ちゃんは裏切ってるようで裏切ってない可能性だってあるんじゃないか。それぐらい伊万里ちゃんが祐太を殺そうとする姿が想像できない。
「まあこれはあんまり考えても意味なさそうね」
「だね。本人に聞かないとわからなそう」
最近ちょっとは切り替えが良くなった。叩かれすぎて強くなった? 違う。小春がいてくれたから強くなった。いなかったら叩かれすぎて、ちょっとかなり情けないことになってしまってるお父さんと一緒に家に引きこもってた。
私は、海中を泳いでいる。魔法で喋ってるから【意思疎通】を使わなくても普通にしゃべり続けられる。周囲は青色の光に包まれ、太陽の光が水面から差し込んで、幻想的な模様を作り出していた。
私の身体能力は、もうかなり前から人間のそれとは全く別物になった。小春だってそうだ。こんな海の中で一度も呼吸する必要もなく、水流を操ってどんどんと海の中を進んでいく。今は新しく出た虹装備を使用している。
虹装備とは七つ存在し、私はその2つ目までを持っている。1つは【毘沙門天の弓槍】、もう一つは【広目天の筆】と呼ばれている。これは書いた文字をあらゆる形で現実化するという筆で、書ける文字数は今の私で2文字である。
文字は空気でも水でもどこにでも書こうと思った場所に書ける。てっきり【毘沙門天】シリーズが出てくるのかと思っていたが、そうじゃなくて仏教四天王がどうやら私の装備のルーツらしい。
この【広目天の筆】を手に入れたことで一気に自分の問題の解決ができるようになった。最初は1文字しか書けなかったけど、それでも防御力ペラペラ問題が解決したのだ。【防】や【護】と私の装備に書けばそれだけで防御力が飛躍的に上がった。
【速】と書けば走るスピードが上がるし、【力】と書けばパワーが上がる。そして水に【操】【操】と書けば自分のイメージ通りに水を操れるようになる。それで今2人で海を高速で水流に導かれて進んでいるわけだ。
最初は【水操】と書いたりしていたのだけど、水に直接書いたら【操】で操れるようになるから、一文字分は損していることになる。
「そう気づくのに結構かかっちゃったのよね」
「もっと単純でいいって気づいたの1年ぐらい経ってからだったわね」
「汎用性がすごいんだけど、それだけに最大効果を発揮する書き方がよくわかんなかったりするんだよね」
そんなことを小春と話し合う。どんどんとギガノス大陸が近づいてきている。【広目天の筆】が出てきて、迷惑をかけてた小春にもかなり報いることができた。でも正直かなり後もう1つ虹カプセルが出てきてほしい。
【広目天の筆】は汎用性が高いだけに威力が弱い。そのレベルの威力としてはどんな能力も一段劣る。それがレベルの高い戦いになるほど意外と痛くなる。【毘沙門天の弓槍】の攻撃力【広目天の筆】の汎用性。
この2つにもう一つあれば、もっと上に行けるのに。小春とともに強くなりたい。エヴィーにかなり先に進まれているだけに余計にそう思うようになり、なんとかガチャを成功させたかった。
「ぶっちゃけ今回ギガを倒して手に入るルビーコインが美鈴も欲しいのよね」
「みんなそうだよ。小春だってそうでしょう」
「まあそりゃね。私だってゴールド装備がまだ足りないしさ。でも、六条が報酬でくれるお金も正直結構助かるのよねー」
「言えてる。1人20兆とか、10年分割払いとはいえ、どうやったらそんなお金を渡せるんだろう」
「そのお金があれば、結構買えなかったものが買えるのよね」
私たちが今いるルビーエリアは地球全体のルビー級探索者と、同じエリアに所属することになる。いや、それどころかもっと広い範囲、ブロンズエリアの世界の国とも共通なのだ。
おかげで手に入れたアイテムの交換も結構な頻度で行われる。つまり欲しいアイテムや装備が結構お金で買える。私は【千年郷】の土地収入で得たお金のかなりの部分をその財源としていた。
しかし広いエリアの運営権をもらっているが、これがなかなか儲からないのだ。うまく領地経営ができているルビー級ですら100億円の黒字を出すのに苦労する。そう言われているのだ。
経営規模は大きいが、探索に使っていいお金となると黒字分でやらないと領地経営に赤字を出すことになる。祐太がくれるというのはその200倍。それは私や小春のガチャ運でガチャを回すよりも、かなり魅力的な報酬だと言えた。
「うん? 小春目的地に近づいてきたみたい」
今の私は新たに転生した種族、七式のうちの光の式というモードになっている。頭は金髪で瞳が緑。能力は光を生成し、敵の目を眩ませたり、幻影を作り出して視覚的に惑わせることができる。
また、光の中に含まれる情報を人よりもたくさん手に入れることができる。光の中には目に見える視覚情報以外にも、反射角でこちらからは見えないたくさんの情報が含まれている。
それを使って光の中にある大陸の情報を常に掴んでいた。
「OK。じゃあそろそろやめましょうか」
「うん」
【広目天の筆】によって操っていた水操作を解除する。この状態だと水を操ることができても、大量の水と共に動くから気配を消すのが難しい。だから元々の私の気配を消す能力が成長した【超自然】を使用する。
私達は2人して気配を隠した。手は繋いだままでいないと、お互いどこにいるのか分からなくなるぐらい気配が消える。それでも土岐さんや千代女様ほどじゃない。【広目天の筆】は今の状況では役に立たない。
レベルマックスに戻って3文字使えるようになると【気配消】という文字が使えるようになるから、それをするといいのだけど2文字だと今のところ気配を消すのに良い文字が見つかってなかった。ギガノス大陸が見えてくる。
私たちは海面から少し頭を出す。そうすると大きな活火山が目に飛び込んできた。この土地の情報では、ギガのエネルギーの影響で常に噴火し続けているというギガド山だ。そのためにギガノス大陸の空はいつも曇っているらしい。
そんな山を見つめながら、海面に目を向ける。岩礁地帯が見えて、私たちはゆっくりと静かに泳いだ。今の身体能力だとすぐに陸までたどり着き、陸に上がった。それとほぼ同時だった。
その声が聞こえたのは。噴火の音が静かだったと気づかされるように、突然、ギガの咆哮が響き渡った。その音は、空を引き裂く雷鳴のようで、心の奥底にまで響き渡る。うなるような声が、大地を揺るがし、周囲の木々が震える。
音は瞬時に周囲に広がり、風に乗ってすべての方向へと飛び散っていく。
「う、うるさ!」
鼓膜が破れるかというような雄叫びだ。
「まさかこっちに気づかれた?」
ギガがいくら強くてもルビー級の私たちが潜入してきたら敵意を向けるだろう。私たちに気づいたために威嚇行為をしているのかと思えた。
「情報では気配を読むのは苦手な相手のはずよ。さすがにそれはないでしょう。向こうからしたら小さい蟻が動いてるぐらいの気配しか感じないはずよ」
「こ、小春。近くだ!」
「は?」
ギガは思ったよりも近くにいたようで、その巨体が見えた。今戦うことになってはダメだと息を潜める。心臓の鼓動が高鳴る中、噴火する山の影からそいつは姿を現した。空を飛んでた。背中の翼が羽ばたいてた。
体長200メートルを超える巨体が本当に空を飛んでることにあっけに取られた。
山そのものが飛んでるようだった。黒い肌が太陽の光を受けて輝き、周囲の風景が天災獣ギガの影に飲み込まれていく。あまりにも大きい生物を見たことに、恐怖と興奮が入り混じり、私は目が離せなかった。