軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百六十四話 Side思惑②

Side???

「では時が来るのをしばし待て」

髪をロングに伸ばしたそれなりに綺麗な女は、その言葉を残すと姿が消えた。本当によく働く女だ。ついに6人をまとめたのだから大したものである。特にカインに死神と組むことをよく納得させられたものである。

「またあの女と悪巧みですか?」

「ふん。まあそんなところだ」

心の底から愛してやまない女が入ってくる。今日は本来のこの世のものとは思えないほど美しい狼の姿だ。彼女と二人だけで何もかもができるならばどれほど幸せか。だが、そうもいかない。

自分だけでこの世の全てを掴めると思った。なのに、それはできないのだ。この太陽のごとき力を手にしても、それに対応できてしまう者たちがこの地上ですら11人もいる。それどころか戦い方によっては負ける。

実に忌々しい事実である。あの天使に屈辱を受けてから、ここまでなんとか回復したが、それでもまだ1つ足りないものがあるままだった。私の大事な剣を必ず取り戻さねばいけない。アグニ……。

「あまり信用しすぎるのもどうかと思いますよ。あの女の心は故国にあると考えた方が良いでしょう」

「分かっている。誰もが自分のためだけに動いているのだ。今、この時に自分のことだけを思わないものなど存在しない。だが仕方のないことだ。かの国の四英傑はお互いに裏切らない。さらにロロンとゲイルで六英傑。こちらも同数を揃えなければ話にならん。お互いの信条はこの際、胸に収める。そのことはお前よりも美しくないあの女も分かっているさ」

「本当にそうならいいのですが……」

「それよりも世界が大きく動くぞ。ついに森神を狩る準備が整う」

「……殺せますか? あのエルフは異常なほど頑丈ですよ。殺したところですぐに生き返ってしまいます」

「知ってるさ。だが死神も協力すると言っている。あのカインの召喚獣一体を見事に魂ごと殺した老公ならば、たとえ森神の魂であろうとも消滅させてくれるさ」

12英傑同士で戦う。それはとても危険な賭けだとは思う。だが時間がない。時が過ぎれば全ては手遅れになる。四英傑風情が世界を牛耳るなど許せない。手遅れになる前になんとしてでも奴らをせめて一人殺さなければいけない。

それはアメリカの2人も理解してくれる。

「本当に大丈夫なのでしょうか……。妙に胸が騒ぐのです」

狼の姿のまま心配そうにそばに寄ってきた。

「王のやつ、ロロンとゲイルにも話をつけたようだ。こちらがことに及ぶ間。あの二人は動かない。これで六対四。狙うはエルフのみだ。まず間違いなくエルフは殺せる。できれば天使も殺したいがあの女だけは、そう簡単に殺せる相手ではない」

「それはあなたが一番よく分かっていますもの」

「言うな。思い出したくもない」

あの天使の言葉は今も覚えている。しっかりと思い出すことができる。忘れることができないまま頭にこびりついている。

『ピカピカ男。お前の方が弱い。だから帰れ。私の最高の引きこもり場所を襲った罰を受けろ』

あのふざけた女め。いつもいつも会議の時も意味のわからぬことばかり抜かす。日本人だろう。せめてもうちょっと常識人になれ。ああ、一度でいい、例え殺した後に生き返ってもいい。あの首を絞め殺せたらどれほど楽しいことか。

「だがエルフのババアは一番目障りだ。もう、このような機会はあるかどうか分からん。なんとかエルフだけでも二度と蘇らないようにしなければならない」

「龍炎は大丈夫でしょうか? ひどく落ち込むのでは……」

私の愛しい人はそれが一番気がかりなようだ。忌々しい。なぜあの男はやたらとモテるのだ。女性に対する誠実さなど欠片もない男だというのに、なぜかいつも気づくと女に囲まれている。それに、

「……あまり近づきたくないな。あの男を怒らせると何をするか分からん」

本当にあの男は、何もかもぶち壊してしまうようなことをしてしまうのだ。

「どの道エルフを殺せば怒り狂うでしょう」

「まあそうなのだが……まず一つ落として枠を開けてもらわないと……うん?」

「どうしました?」

「今、誰かが“アグニ”を使った」

私の大事なルビー。専用装備も上のレベルになればなるほど滅多なことでは手に入らなくなる。何千年も生きるヴェーダの神々ですら、ルビー級をちゃんと揃えられていないということも珍しくない。

私もルビー級は今、1つとして持っていない。あれはそう簡単にガチャから出てくるものではないのだ。等級が上がるほどに揃えるのが難しくなる。高レベル探索者になってようやくブロンズ級が揃ったというものもいるほどだ。

シルバー級ですら揃えるのにどれほど時間がかかることか。それでも今はまだ専用装備はとても出やすい時期なのだ。だから、まだガチャ運がいい方の私はルビー級の一つ目が出てくれていたのだ。だがあの女に取り上げられた。

『これは推しへの献上品にさせてもらう!』

などと宣っていたが、さすがにそれは田中に止められたらしい。私はあの時、田中とだけは四英傑の中で唯一仲良くできると思った。ガチャ運頼みのクソ引きこもり女は、どうせ今日も田中に迷惑をかけているのだろう。

田中はよくあんな女の面倒を我慢して見られるものだ。私ならばあの女と1日でも一緒にいたらストレスで死んでしまう。それにしても、久しぶりにアグニの波動を感じたら、あの女への怒りも思い出してしまった。

【ガチャ運10】

現在存在している探索者の中で、最も高いと言われるガチャ運を持っている豪運天使。あの女の忌々しいこと。

「何かの間違いでは? アグニがあなた以外の言うことを聞くとは思えません」

「いや確かだ。どこだ? どこで使われた……さぞ嫌だったことだろう。無理やりか。無理やりに違いない。アグニに手を出すとは愚か者が、灰すら残さず燃やし尽くしてくれる」

だがこれは吉事だ。

池袋にあっては取り戻すことは不可能かと諦めていたが、別の場所へと動いている。誰が動かした。どうして動かした。いやそんなことは構わない。アグニを取り戻せば私のルビーがこの手に戻る。

どこなのだ。はっきりと場所が分からない。ダンジョンの中。それほど深い場所ではない。必ず見つけてみせるぞ……。

Sideエルフさん

「ううん。見える未来は変わらないか……やはり私は死ぬか……面倒なことばかりが起きるね。なんとかもうちょっと若い子たちが育つまで待ってあげたいんだけどね。……困ったね」

《今さら死ぬのが怖い?》

そりゃ怖い。できれば死にたくないさ。でもみんなが死ねと言うなら仕方がないじゃないか。確かに1つの国に力が偏りすぎた。私が減ってバランスが取れるというのなら、仕方がない。

もともとおまけみたいな人生だ。ただボケて死ぬしかないと思っていたのが随分楽しませてもらった。だから文句はない。ただ残された3人が心配だ。田中はもう大丈夫だ。一番大人だしね。

でも引きこもり女と南雲の坊っちゃんがね。特に南雲は私がいないと何するか分からないよ。

「……私たちとほとんど同じペースでレベルが上がってる。でも、いくらルルティエラでも、これ以上は早めることができない。どう考えてもそれでは死んでしまう」

《それが問題。死なせたくない》

若い子の中で1人だけ気にしていた子はいる。烏丸が言っていたレベル300の子達は大したことなかった。確かにそれなりに強いけど、強いだけだった。そして才能があるだけだった。それだけなら世界中を探せばいくらでもいるのだ。

でもあの子は唯一良かった。

最初ダンジョンショップで南雲が助けるのを見た時は、こんなひ弱な坊やが大丈夫かなと思った。けど、真莉愛のバカが死んだと聞いて、調べてみたらまたあの子だった。私と南雲の後悔の一つ。

それは真莉愛が幸せならば、 あ(・) の(・) ま(・) ま(・) でもいいのではないかと放置したこと。そしてあの子が壊れたこと。真莉愛が壊れても、私は真莉愛を殺せなかった。南雲も殺せなかった。

《どうして?》

「知ってる奴ってのは殺しにくいんだよ。かなり覚悟がいる」

それを代わりにやってくれたというのなら、少しは目をかけてあげようかと思った。だから、

『僕ではどうしても手に入れる先がないようです。だから1本でいい。分けてもらえないでしょうか?』

『……OK。いいよ』

『……』

『自分から言い出しておいて黙るのかい?』

『いえ、正直一番ダメそうな相手だと思っていました』

『よく言うよ。真莉愛のことで貸しが一つだと分かってて尋ねてきたんだろうに』

かなりの頭脳も手に入れてる。あの男の悪巧みは知らないけど、役に立つことだけは間違いない男だ。それにしても、

「恐ろしい子だね。ガチャ運6。高レベルでも4とか5だよ。あんたは数字を決めてないんだろう?」

《決めてない》

「引きこもり女がバグってると思ってたけど、もっとバグってる子がいたんだね。にしても、南雲の坊ちゃんはこのことをずっと私に黙ってやがったね」

でもやはりだめだ。せめて私達と同じ時期にダンジョンに早く入っていれば、私の悩みもかなり解決してくれたんだ。今からじゃ間に合わない。この子なら、

「 な(・) れ(・) た(・) か(・) も(・) し(・) れ(・) な(・) い(・) 」

《なんとか間に合わせる方法がない?》

難しいね。この子自身は何かに気づいて急いでる。それでも間に合わない。私が死ぬまでもう時間がない。

「私が死んでこの国が色々大変になったら、かなりみんな死んじゃうよね」

《半分以上死ぬ》

まず間違いなく起こるのがダンジョンアイテムの高騰だ。特にポーションがやばい。まず間違いなく普通には買えなくなる。だからと言って私が死ななかったがために他の3人のうち誰かが死ぬのは私が嫌だ。

「死ぬことを回避しようとすると、他の誰かが絶対死んじゃうんだよ……。どうしてもそれと違う未来が見えない。どうにかならないかね」

歳が行けば潔くなる。そんな言葉を誰かが言った。なのに私は未だに自分が死ぬことに覚悟が決まりきっていない。お爺さんが死んだ時はもういいと思ったのに、時間が経つとどうにも怖くて仕方ない。

いざ死ぬ時になって『死にたくない』と泣き叫んだら誰か助けてくれないかね。

「ルルティエラ。あなたがどれだけ気に入ってもこの子は間に合わない。他の子にしなよ」

《いやだ。この子がいい》

「どうしてそんなに拘る。これ以上急がせたら間違いなく死ぬよ」

自分が決めたことに自分が一番縛られる女神。だからこそ何でもできても何でもできるわけではないのだろうに。それでもこだわるというのなら、どうするのかね。今でもかなりギリギリなのに、もっと無理させなきゃいいけど……。

Side玲香

「やはり入れない……」

2番目の入り口に触れる。研究所からほど近いダンジョンの入り口でため息をついた。力は強くなった。速く走れるようにもなった。頭だって想像以上に賢くなった。これで上を目指せると思った。

ても、ダンジョンは私を2番目の中に入れてくれない。1番目からは入ることができた。そこから一人で一生懸命下に降りて、2番目の大八洲国に通じる入り口を探した。しかしどこをくまなく探しても見つからなかった。

「どうして……」

降りること自体は戦闘能力が飛躍的に上がったことで簡単だった。それなのに、私には一度もクエストというものが出たことがなかった。統合階層という場所で、出されるクエストがある。

それをこなすことで、大八洲国への入国許可ももらえるという話だった。しかし1人で下まで降りてもどうしてもクエストが出なかった。

『このままでは結局中途半端だね』

博士からはそう言われた。あの私に対する興味がなくなったような視線。美鈴の方がはるかに優秀だとでも言いたそうだった。マークは同じ状況のはずなのにあっさりと入ることができた。

博士の話では、レベルアップの糧にした大鬼に許可が下りていたのだろうということだ。正直ずるいと思った。なぜ私には与えられないのに同じ条件のマークには与えられたのか。おまけに私の頭には未だに呪いのような言葉が響き続ける。

マークにはそれもないようだった。

「どうして……」

私はどうしても大八洲国に行きたかった。自分が落ちこぼれではないと証明したかった。それなのにダンジョンというものが現れてから、毎日のように自分が落ちこぼれていくような気がして嫌になる。

六条祐太……。あの子は多分ダンジョンに選ばれている。私とは対照的な子。一目見て分かったんだ。『何だろう。あの輝きは』と思った。女ならば誰でもあの魅力に気づくはず……そしてなんとなくこの子なら私を助けられるのではと思った。

だから博士にお願いしてみた。

『六条祐太君を少しだけでいいので貸してもらえませんか?』

そう言ったのだ。

『僕のものでもないのに貸すも何もないよ。一緒に過ごしたいなら彼に直接頼んでみればいい。ただ僕も彼に嫌われるのは避けたいんだ。あまり妙なことをしないでくれたまえ』

『妙とは?』

『魅力値を上げなかった割に君はなかなか顔が綺麗だしね。いきなりキスしたり裸になったりいろいろ武器があるじゃないか。でもそういうのはやめたまえと言ってるんだよ』

『そ、そんなことしません!』

『泣きすがるとか同情を誘うとかそういうのも許さないよ。君も学者の端くれならばその頭を使いなさい。あるいはそうすれば2番目の扉も開くよ』

人を色情狂みたいに言わないでほしい。色仕掛けはするかもしれないけど節度は守る。いきなり裸になんてなるわけがないだろ。人をなんだと思ってるんだ。

「ふう」

自然とため息が漏れた。ダンジョンが現れ、この回数が増えた。

「ため息をつくと幸せが逃げるそうですよ。痛っ」

両目に眼帯を当てた少女が研究所の柱に頭をぶつけた。

「クリス大丈夫?」

「ええ、まだこの状態にはなれません。それに……」

クリスが苦しそうに膝をついた。私以上にこの白銀の髪をした少女の頭の中には、いつも声が響き続けているらしい。そして瞳を移植してからずっと調子も悪い。体が何かに蝕まれていくように感じるそうだ。

「この中にいる方は私のすべてが欲しいようです。やはり私は全てをお譲りするべきでしょうか……」

「博士からは『譲らないように』と何度も言われたでしょう。『死人が他人の体で蘇えれば碌なことにならない』と、クリス。気をしっかり持ちなさい。生きると決めたから、本来の仇であるその魂を受け入れたのでしょう」

「分かってはいるのですが……、これほど生きたいと願うなら、いっそお譲りしてしまってもいいのかと」

この子はこの子ですぐに弱気になる。まあ何もかもに否定されて生きてきた。だからこそ生きようとする力が弱い。

「とにかく調整槽に運ぶから。ほら私に掴まって」

博士は一体何を考えているのだろう。あの人は私が2番目に入れないことも分かっていたはず。この子がこうなることだって分かっていたはず。そして何よりもアグニを動かした。あれの持ち主を考えると私はどうにも怖くなる。

「とにかく早く帰ってきてください」

博士は私に任せれば自由に出かけられるから羨ましい。出かけたあの男。さっさと帰ってこいと私は思った。とにかくクリスティーナの調整が終わらない限り、ここからあまり離れすぎるわけにもいかない。

眼帯を当てた少女を調整槽の中に入れながら、私はまたため息が出た。