軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十六話 翠聖都

「ようこそ【翠聖都】へ。君たちは【魔眼殺し】で間違いないかな?」

それはとても低い身長だった。俺の腰ぐらいまでしかない男。どこか見覚えのある見た目をしていて、ドワーフと呼ばれる種族に似ていた。だが俺が見た利休さんたちと違い髭を生やしていない。

「はい。たぶんそれで間違いないですよ。ドワーフの人ですか?」

「そうだよ。ドワーフを知ってるってことは、ひょっとしてドワーフ工房を見つけたの?」

「ええ、まあ」

髭がないと小学一年生ぐらいにしか見えない茶髪の男の子だった。こんなところで門番をしているのだから、この見た目でも強いはずだ。

「それはすごいね。さすがは【魔眼殺し】だ」

「負けた……」

ドワーフの後ろには狼男がいた。統合階層で見かけた狼男が門番をしている。がっくりとうなだれていた。ここではモンスターが門番をしているのか? あれだけ知能が高ければ人と普通に共存はできるということか?

俺たちは狼男を統合階層で殺しまくった。そのことはいいんだろうかと気が引ける思いがした。

「だから馬鹿な賭けをするなって言ってただろ。1000万貨とかアホだね」

「だって絶対無理なのに、倍率三倍だったんだぞ。そんなもの賭けるに決まってるだろ! くそが! しっかりしろよ久兵衛のおっさん! 信じられない大損こいたぞ! 何、レベル半分のやつに抜かれてるんだよ!」

叫んでいる狼男はいかにも賭け事が好きそうだ。

「あの?」

「ごめんねー。今のは不快だろうね。勇者の殺害はルルティエラ様からのクエストということで、みんな注目してたんだよ。行き過ぎて賭けの対象にしてしまうバカがいるぐらいね」

「ああ……賭け?」

「そうだよ。大抵はルルティエラ様のクエストは達成されるから、みんなほとんど君達には賭けてない。でも、君たちに賭けた大口が誰かいたみたいで、オッズが三倍で成立したんだ。内容は“ここまで君たちがたどり着くかどうか”だったんだけどね」

なるほど、そしてこの男は俺たちが死ぬことに賭けた。それが外れて怒っていると。まさに知ったこっちゃない。だが俺たちに賭けた大口もいたわけか。

「賭けた奴は未来視持ちだ! 絶対インチキに違いない!」

「はいはい。この馬鹿は気にしなくていいからさ。それで一応ステータスにある【名前】と【称号】と【入国許可】の部分だけ提示してもらえるかな。決まりなんだ」

「これでいいですか?」

俺はともかくステータスを提示した。

「大体。なんであの 白虎(びゃっこ) が背中に乗せるんだよ。深部のモンスターのプライド忘れたのかよ。おかげでこっちは大損じゃないか。明日のメシ代まで賭けちまったよ。って、お前!」

美鈴と伊万里も狼男は無視して俺に続いてステータスを提示した。俺と同じように【入国許可】のステータスだけである。

「他の2つも見せて欲しいんだけどな」

「必要ないだろ」

狼男が殺気を込めて睨んでくる。だが無視した。

「……ちっ。【入国許可】OK」

「えっと、後ろの美人さんの二人もOKだな」

「なあお前が【勇者】だろ。知ってるんだぜ!」

「あ、ええ」

伊万里は自分に目をつけられて緊張した顔になる。

「なあ東堂伊万里ちゃんさー」

と、狼男が馴れ馴れしく口を開いてきた。どこからか情報が漏れているみたいだ。できればこの男は喋ってほしくない。それぐらい嫌な雰囲気がビンビンとする。

「なんですか?」

「お前なんで 死(・) ん(・) で(・) こ(・) な(・) か(・) っ(・) た(・) ん(・) だ(・) ?」

狼男は言い放った。にやにや笑いながら、いかにもこちらが腹を立てる事を期待しているようだ。

「俺ならパーティメンバーに迷惑になるからって自分から喜んで死ぬところだよ。東堂伊万里ちゃんってパーティメンバーに迷惑をこんなにかけて生きていられるぐらい恥知らずなんだな! なあ、生きてて恥ずかしくないか? 2人も言わないだけで迷惑だってきっと思ってるぞ」

「それは……」

「ううん? お!? おお!?」

そして喜んだという感じで急に笑った。

「なあ! おい! お前! 魔眼殺しの兄ちゃん! お前ら四人パーティーじゃなかったか? まさか、一人死んだとかー!? それなら賭けは俺の勝ちだよなー!?」

「おい、やめろ!」

美鈴が叫んだ。さらにスッと後ろで弓を構えた。

「美鈴。露骨な挑発だ。相手にする必要はない」

これに反応すると、相手は余計面白がって、ちょっかいをかけてくるのだ。池本の時に散々それで苦しんだ。

「はあ? 兄ちゃん。彼女の前だからって格好つけるなよ! 俺が今この場で殺してしまうぞ!」

「ドワーフの人。もう中に入ってもいいのか?」

50mあろうかという門の横に20mほどの門があり、その横に10mほどの門がある。そして、そのさらに横に5mほどの門があり、その横には3mほどの門もあった。門が5つ並んでいるのはなんのためだ?

「ふふ、こりゃ無理そうだぞ。諦めろって」

ドワーフが何か面白そうに笑っている。やはり別の意図があるか。

「ちっ、可愛げのない奴ら!」

「通っていいですか?」

「ああ、もちろんだ。通ってくれ。でも、また会おうね」

「その時は 殺(・) し(・) 合(・) い(・) ですか?」

「ふふ、怖い怖い」

ドワーフが道を譲ってくれて、自動で門が開いた。開いたのは10mほどの真ん中にある門だった。両開きになって、ゆっくりと開いていく。それでようやく俺たちは【翠聖都】の中に入った。

50mの門があるほどだから、中に巨人の歩く道でもあるのかと思った。しかし、広いことは広いが巨人が歩くほどの道というわけではなかった。石畳の道が続き、横に和風の建物が立ち並んでいる。

その一つ一つが高層ビルほどの大きさである。

それもすべて人が入るための建物である。50mほどの門があるから巨人でもいるのかと思ったが、そうでもないようだ。振り向くと不思議と10mの門しかなかった。5つ門が並んでいたはずなのに1つしかない。なぜだ?

「なんか嫌な感じの人達! 伊万里ちゃん気にしないでね」

美鈴は基本直情的である。あんなのが門番なわけがない。俺だったらそう思う。美鈴は戦いになると意外と鋭いのだが、俺たちといるとあんまり考えないのだ。でも伊万里のために怒ってくれたことは嬉しかった。

「うん……祐太、今のって」

「門番にしては変な人たちだった。必要もないのに挑発してきたりはおかしいよ。だとすれば挑発する必要があったんだ。多分、久兵衛の仲間だったんじゃないかな」

「そうだよ。久兵衛の仲間……へ? そうなの?」

美鈴が今更になって慌てた顔になっている。美鈴は狼男に手を出さなかったが、もし、手を出せばどうなるかは予想がついた。黒桜は『翠聖兎神の威光があるこの中の空間は安全』と言った。

「あのさ。敵になるレベル200は二人までじゃなかったの?」

「もちろんそうだ。だからキーワードは“正当防衛”ってところかな。こっちから手を出した分にはそれに対抗しても正当防衛ってことになる。ジャックの仲間って可能性もあるけど、門番を代わってもらっているのを見る限り、この国の人間じゃないと難しそうだ。ああ見えてあの二人は軍人なのかも」

「じょ、冗談じゃないんだよね?」

「祐太がこんな冗談言うわけない。美鈴さん。きっとみんな面倒な勇者を早く殺したいんですよ」

伊万里が言った。伊万里は自分のことをそう思っているのか……。こちらの方がよほど問題だ。ドワーフと狼男は別に追いかけてくるわけでもなかった。この中は安全なんだ。あそこがまだちょっかいをかけられる最終ライン。

空を見上げる。目の前かと思われた【翠聖樹】からまだ離れているのだなと分かった。夜空が見えたからだ。周囲は夜だというのに、まだまだにぎわっていて、驚くべき事はオーガやオークが普通に歩いていた。

モンスターでも知能のあるものは普通に人と共に暮らしているようだ。いや、むしろ、鎖をつけられた人もいて、奴隷にされている人間もいるようだった。それにしてももう夜の10時になろうかというのに、真昼のようだった。

レベル100を超えた探索者は寝る必要がない。その結果として【 翠聖都(すいせいと) 】は完全に夜でも眠らない 都(みやこ) と化していた。

「……はあ。伊万里ちゃんごめん。私が弓を構えたのはかなりアウトだよね」

「美鈴さんが謝ることじゃない。私が謝ることです」

「え、なんで?」

「なんでって……」

こういうところが美鈴のいいところだ。俺は基本捻くれてるから、こういう言葉は素じゃ言えない。

「まあここに入ることができた時点で、一旦は安全ということだ。な、“黒桜”」

俺がそう言うと足下にネコがうろついていた。先ほどの白虎様の言葉で、気にしだしたらネコがいたのに気づいたのだ。

「いつ声をかけようかと思ってたにゃ」

そう言って足元にいた普通の茶色いネコが、黒く、そして大きさはそのままで三つの尻尾を持つネコに変わった。

「黒桜だよね?」

伊万里が聞いた。

「そうにゃよ」

聞き慣れた声がしてホッとした。大きさが違うのに声の質が全く変わっていないのは、いつも魔法で喋っているからだろう。このネコが平気そうな顔でここに居る。それがなによりもエヴィーが、無事であることを表している気がした。

「エヴィーさん、大丈夫?」

伊万里が言う。

「大丈夫にゃ。怪我も治してもらったし、問題ないにゃ。ただ、久兵衛とジャックから伝言にゃ」

伝言役として逃がされたのか? 黒桜が伊万里の腕にだきあげられた。その豊かな胸元で喋り始める。

「内容は?」

「『東堂伊万里との交換でこの少女は無事返す。履行期間は明日の深夜24時。それまでに約束が守られなかった場合。エヴィー・ノヴァ・ティンバーレイクは殺す』とのことにゃ」

「「「……」」」

三人とも言葉を失う。一ヶ月くれたらまだレベルを上げる時間はあったと思う。せめて一週間でもなんらかのアイテムを手に入れる時間があった。しかし明日の深夜0時は短すぎる。

「一応確認するが、この世界は一日が一ヶ月とかじゃないよな?」

「違うにゃね。地球と完全に一緒にゃよ。その証拠にそのままの時計で通用するはずにゃ」

俺は探索者用スマホで時計を確認した。夜の9時半。まだ一日以上の時間は与えてくれたわけか……。お優しいことである。

「……これじゃあ久兵衛たちとのレベル差を埋めるのは難しそうだな」

伊万里を殺すことが目的なのだから時間与えてくれるわけがないか……。

「あんまりそっちは考えない方がいいと思うにゃ。それよりは現状で主を取り戻す方法を考えた方がいいにゃ」

「伊万里。分かってるね?」

「大丈夫。祐太の考えてるようなことはしないよ」

「前と立場が逆だね。伊万里ちゃん」

美鈴は今の伊万里の気持ちがわかるのか、後ろからぎゅっと抱きしめる。伊万里はそれに抵抗しなかった。

「伊万里。念のためにもう一度言っておくよ。美鈴の時もそうだけど、これは俺たちが飛躍するためのチャンスなんだ。勝手にその目を潰してもらっては困る。分かってるね?」

「うん……」

伊万里が死ねばすべて解決する。 先程のやつに言われた言葉は、まさに正鵠を射ている。狼男は多分、伊万里を悩ませて行動を鈍らせたいんだと思う。久兵衛はパーティー仲間をあそこに配置していた。

万が一にも門まで辿り着かれた場合に手は出せないけど 言(・) 葉(・) を(・) 出(・) さ(・) せ(・) る(・) 。 無(・) 理(・) で(・) も(・) 毒(・) は(・) 撒(・) く(・) 。これで本人以外のパーティー仲間も悩んでくれたら万々歳。これをレベル100でやられる。

今までの勇者が逃げるか死ぬかの二択になっているのも納得である。ブロンズエリアにようやく来たと思った初っ端でここまで追い詰められたら誰でも心がくじけてしまう。

「祐太。まずは探索局に行くにゃ。ダンジョンから祐太達あてのクエストも発注されているはずにゃ。それを受けないと報酬がもらえないにゃよ」

「報酬が……なんというか結構システムが違うんだな。本来はダンジョンからのクエストでは無いんだろう?」

「そうにゃね。特別な場合を除いてブロンズエリアからは、ダンジョンからのクエストが出るのは稀にゃ。もし出たとしても国が引き受けてしまうから、一般の探索者には回ってこないにゃ」

「ジャックはレアケースなんだな」

探索者を殺すことを専門にしている奴である。そんなのは大八洲国の中でも珍しいのかもしれない。久兵衛あたりが雇ったのか。

「まあ考えるよりとにかく探索局に行こう。黒桜、案内を頼む」

「了解にゃ。探索局は門に近い場所に必ずあるものにゃ。この道をまずまっすぐ行くにゃ」

黒桜は放浪城に住む白蓮様と今まであちこちうろついてきたのだろう。こういう都市での対応もわかっているようで、案内してくれた。改めて周囲を見ると、一つ一つの建物がとにかく大きい。

和風建築だとこれほど高く積み上がると構造的に木がもたないと思うのだが、そんなもの無視で普通にビルのような和風建築がそこかしこに建っていた。なかには100mを超える超高層ビルのような和風建築もある。

大きい建物が多いところを見ると、ここら辺は都市開発をされているエリアなのかもしれない。乗り物類は一切ない。全員が徒歩で、空を飛んでる者もいる。

「ねえ黒桜。車とかないんだ」

美鈴も同じようなことを考えたようで口にした。未来的な乗り物でも走っていることを予想していたが、そんなもの何処にも無かった。

「【転移駅】が主流で、車に乗るのは珍しいにゃね。着くのが一瞬にゃし、荷物も大抵一つはマジックバッグを持っているにゃから運搬業がないにゃ。その結果、車は必要なくなってしまったにゃ。下の二層にはあるにゃよ」

「はあ……むしろ乗り物に乗るのは奴隷と一般人なんだ。この層で働いてる人たちはどうしてるの?」

「頑張って走ったりしてるにゃ。大抵、この層で働くような存在は奴隷でも時速100㎞以上出せるにゃ。ここを右にゃ」

しゃべりながらも道案内は続いて、左に曲がってまたもや広い道に出ると、まっすぐ行った正面に、その建物はあった。

【翠聖都探索局第二局】

立派な門構えに看板がかけられていてそう記されていた。それは日本で言うところのお城のようにも見えたが、上に向かってだんだん細くなっていくのではない。むしろ逆さまにしたように、上に向かって広がっている。

どうやったら構造的にこんなのが建つんだろう。おまけに500mぐらい高さがあるんじゃないだろうか? そこに獣耳を生やした人や、モンスター、ドワーフ、人間の方がむしろ少ないのではないかと思える様相だ。

「大きい。何もかもが大きい……」

もう別れてしまったが、両親の仲がまだ良好な時、海外旅行でニューヨークを訪れたことがあった。その時は何もかもの規模の大きさに、圧倒されてアングリ口を開けてお上りさんよろしくしていた。それが今の状態である。

とにかく何もかも規模が違う。東京よりも人が多いし、建物一つでもでかい。

「えっと、入ろうか?」

「あ、うん」

「ねえ、黒桜。【翠聖都】って、どのぐらいの広さなの?」

「日本ぐらいにゃね。人口はいろんな人種を合わせて1億人ぐらいにゃよ。ここら辺は賑わってるけど、ちょっと奥に行けば誰も人がいない所もあるにゃ。五層構造で、一番上は全て翠聖兎神様の住居にゃ。その下が貴族の土地にゃね。真ん中が探索者で、その下が一般人にゃ。更に下が奴隷にゃ」

「ああ」

その言葉を聞いて門が五つあった理由が分かった。おそらく50mある門は別に巨人専用とかではなく翠聖兎神様専用なのだろう。そして横にあったのが貴族の門。真ん中が探索者。次が一般人。そして一番小さいのが奴隷というわけか。

文明は進んでいるが日本以上にはっきり身分社会のようだ。

「奴隷ってたくさんいるの?」

美鈴はそのことに対してとくに忌避感がないようだった。まあ日本に住んでいて奴隷と聞いてピンとくる人間などいないだろう。

「人口が一番多いのが奴隷でだいたい人口の9割ぐらいはどこでも奴隷だって言われてるにゃ。9分が一般人で、9厘が探索者、貴族は100人もいない筈にゃ」

「すべての層を合わせて日本と同じぐらいの大きさになるの?」

「そうにゃ。言うまでもないにゃけど、ここは三層にゃ」

「はあ、奴隷の住まい狭そう」

「というか賑わってるように見えても、ほとんど首輪をつけてる人たちだ。これだけいるとむしろそっちが主流だな」

ともかく建物の中に入った。自動扉になった木製の両開きドアが開く。全員靴を脱いで中に入っている。靴自体は下駄履き番がいるらしく、履き物の管理をしてくれているらしい。この人もよく見ると首輪をしていた。

「お願いします」

「へい、かしこまりました」

俺の履物を受け取って奥の下駄箱へと収納していく。今の俺の履物は、動きやすい運動靴である。この靴を履いているが実際は美火丸の首飾りの効果で、【美火丸の履物】を履いている時と何も変わらない効果を得られる。

だが、それよりも気になったことがあった。下駄履き番は若い男の人だったのだが、今の声が電子音のように聞こえた。

「黒桜! 黒桜!」

「なんにゃ?」

「ロボット!?」

「ああ、ロボットっていうより奴隷にゃ」

「奴隷? 今の人も?」

「そうにゃ」

「なんで?」

「正確に云うと、レベル500以下の存在に生み出された人工生命体にゃ。レベルアップすることができず、生まれたまま以上になることができない存在にゃ。総じて奴隷になるしかない存在にゃ。アンドロイドもいればホムンクルスもいるしゴーレムもいるにゃ。思考能力は人間と同じようにあるから、ちょっと見ただけでは何も分からないにゃ」

「そうなのか……」

なんだかそう聞くと、一気に夢のない存在に思えた。残念である。どうやらこの世界にターミネーターがやってくることはないようだ。ひょっとすると米崎がやってることも、この世界の人間からすればまだまだなのかもしれない。

だからこそ米崎はレベルアップを望んでいるのか……。レベル500以上にならないと超えられない壁のようなものがあるのかもしれない。

「まあ祐太達に分かりやすいように奴隷って言ったにゃ。本当は【からくり族】って呼ばれてるにゃ。労働のほぼ全てはからくり族がしてるにゃ」

「じゃあほかの人は何してるの?」

「大八洲の生命体において一番尊敬されることはレベルが高い事にゃ。でもレベルアップの条件はほとんど日本と変わらにゃいから、大抵は探索者をあきらめて、からくり族の真似事をして趣味で働くにゃ。そこでお金も発生するにゃ」

「じゃあお金のやり取りが一番主流なのってひょっとして奴隷なのか?」

「正解にゃ。でも【貨】はどこの層でも大事なものではあるにゃ。だからお金を巡って、人間同士の軋轢も何もかもここでもちゃんとあるにゃ」

あのままダンジョンが現れずに科学が究極に発展したら、こんな世界が来ていたんだろうか? 趣味で働く。どんな気分なのだろう?

「一般人が趣味で働くのは楽しそうだな」

「祐太。ねえ、急がないと」

「ああ、そうだな」

聞きたいことがどんどんと出てくるが、今はともかくエヴィーである。玄関を上がって靴下だけ履いて進むと、板張りの廊下を抜けて畳張りの広間に出た。その広間は入り口に【日本探索者窓口】と記載されていた。

カウンターが設置されている。これも和式の文机である。文机をカウンターにして正座をしているのは黒髪女。小さい人だ。おそらくからくり族の女の子なのだろう。奴隷の首輪をしている。人工的に作られたというだけあり、とても綺麗だ。

だが、不思議とエヴィーのような抑えきれないような魅力を感じない。魅力にはやはり見た目には出てこない何かがあるのかもしれない。

「黒桜。からくり族を守る法律ってあるのか?」

ふと気になって疑問を尋ねた。

「ないにゃ。その代わり、勝手に危害を加えると所有者が怒るにゃ。ここのからくり族は全員、局長の所有物になるにゃ。局長は貴族でもあるから、手を出すと貴族の持ち物に手を出したってことになるにゃ」

「からくり族を守る法律はない。でも奴隷を守る存在はいるわけか」

俺たちは夜でも賑わった人の列に加わって、大人しく並んだ。俺たちの見た目はかなりこの中でも良いと思われるが、それでわざわざ騒ぎ出す探索者はいない。見た目を気にして変装しなければならないのはレベル100まで。

「今日もあんまりいいクエストがないな」

「キークエストはあっという間に売り切れるしな」

「あなたまだレベル200を超えること目指してるの?」

「そりゃそうでしょう。中レベルになるだけでどれぐらい扱い変わるか知ってるでしょう」

「俺はもう諦めた」

「久兵衛たちの噂聞いたか?」

「うん? もう決着ついたのか?」

「いやそれが抜かれたらしい」

「うえー。マジかよ。相手はレベル100で間違いないんだよな?」

「私も聞いた。白虎が協力したんでしょう」

「なんだそれ関わりたくない」

「局長は?」

「そこまでは知らなーい」

「今日も、ののみちゃんは可愛い」

「お前局長の所有物に手を出すなよ。殺されるぞ」

「バカを言うな。ロリは見つめてこその癒しだ」

「本州から武官が来てるらしいぞ」

「俺なら即行で外に逃げるぜ」

ここでは見た目の良し悪しなど、みんなどうでもいいらしい。少なくともそれで視線が集まるなんてことはない。そのことが随分気楽に感じられた。

「これ並ぶしかないの?」

「ないと思うにゃ。ただ、黒桜もここからはどうなってるのか、あまり知らないにゃ」

「祐太。24時間だよ。こんなの後にしたほうがいいんじゃない?」

伊万里が口にした。

「いや、ここの探索者の常識についても聞いておきたいんだ。知らないがために久兵衛たち以外の敵も作ったなんてことになったらシャレにもならない。ここは大人しく順番待ちしよう」

「うん……」

別行動でどんどんと動いたほうがいいぐらいなのかもしれない。しかし、ダンジョンからのクエスト内容次第で行動も変わる。だとすると、それを確認してから動かなきゃ余計な時間ロスになる。

「ねえ、まだかな?」

「伊万里ちゃん焦っても仕方ないって」

「分かってます」

「おい、お前ら」

「でも、急がないと。どの道、普通に戦っても勝てないなら【奈落の花】とか」

「おい、聞いてるのか、そこのガキ!」

「うん?」

大きな声で叫ばれて俺たちだけではなく、ほかの探索者まで振り返った。そして叫んだ人の顔を見て、みんなひきつった。その周囲の様子から、この人はきっと偉い人なんだろうなということだけが分かった。

「六条祐太。東堂伊万里。桐山美鈴。お前達は別だ! こっちに来い。ルルティエラ様からご指名のクエストが来ている。局長が直に話をしてくださる! ありがたく思え!」

「えっと、はい。了解しました。伊万里たち行こう」

急ぐ目的とちょうど合致したので、俺たちは頷いた。それにきびきび動かないと、本当に怒られそうである。叫んだ人は女性だった。濃紺のスーツ姿。眼鏡をかけていた。ロングの髪で鋭利な瞳をしている。

この人も絶対俺たちより強い。それだけは気配からよくわかった。改めてレベル100はここでは最弱なんだ。そのスーツの女の人はそれ以上話すこともなく廊下に出る。背中に翼が生えていた。飛べるんだろうなと思った。

歩いていくと天井が開けた場所に出た。吹き抜けで屋上まで空いているようだ。不思議な構造の建物だなと思っていたら、スーツの女の人が俺達に一言声を掛け、

「一番上だ。さっさと上がってこい」

言葉と同時に消えた。いや消えたのではなく、上に飛んだのだ。衝撃波がぶつかってきて、上に飛んでいったのが分かる。なるほど、探索者がさっさと建物内を移動できるように吹き抜けになってるわけか。

「いろいろと感心させられるな」

「祐太、行くよ」

「美鈴。登るの大丈夫?」

「大丈夫。途中で足がかりもあるみたいだし」

よく見ると一番上まで一気にジャンプできなくても、途中で脚を引っ掛ける場所が設置されていた。こんな構造の建物が成立しているわけだから、建物自体は謎に頑強に造られていると思われる。

あの女の人が蹴っても大丈夫なら俺も思いっきり蹴飛ばしてもいいわけか。伊万里は【光天道】で移動した。先ほどの人以上に見えなかった。美鈴は50m間隔ぐらいで足場を使って登っていってる。

俺もさっさと登ろうと屈伸すると、【韋駄天】を唱え一気に足を伸ばした。さっきの人ほどじゃないけれど、衝撃波が巻き起こる。だがその衝撃波は建物内に入る前に消えたのがわかった。魔法だろうか?

感心しながら体が一気に浮き上がって屋上まで届いた。取っ掛かりの方へと手を引っ掛けて入る。美鈴も到着して、俺たちは待っていた女の人を探し、見渡すと他にも異様に大きい存在がいた。

「うんうん。レベル100にしては稀に見る優秀さだ。昔の俺を思い出すな」

「局長。あまり気安く下々の者に声をかけないでください。相手が図に乗ります」

「摩莉佳。細かいことを気にするなよ。だから100歳超えても嫁の貰い手がないんだよ」

「くっ。セクハラおやじ」

その男は大きかった。2m50cmぐらいあるのではないかと思えた。筋骨隆々である。そして人間ではなかった。全身が黒い体毛に覆われて、熊のような見た目であり、人とはまた別の種族であることだけは間違いないと思った。