作品タイトル不明
6-16
「待って、メイベルさん!」
走り去ろうとしたところで、後ろから腕を掴まれた。振り向くと、レナード様が焦った顔で私を見ている。
「あの、さっきのって……」
レナード様は躊躇いがちに口を開いた。私はふるふる首を横に振る。
「いえ、なんでもありません。お邪魔してしまい申し訳ありませんでした。私のことは忘れてください」
「いや、待って、ちょっと確認したいことがあるんだけど……」
「本当にお気になさらないでください。これから婚約なさるお二人を邪魔して申し訳ありませんでした。私はこのまま消えますので……」
「メイベルさん、何か勘違いしてない?」
え、と思わずレナード様の顔を見る。
勘違いとはどういう意味だろう。私ごときが相棒面するなということ……? 調子に乗るなという意味……?
思いきりネガティブなことを考えながらレナード様を見ると、思ってもみなかった言葉が返ってきた。
「エリアナさんと婚約するのは僕じゃないよ。彼女が婚約する予定なのは僕の弟のロドニー。来月の婚約発表パーティーでエリアナさんがロドニーにサプライズで何かしてあげたいって言うから協力してたんだ」
「え?」
私はぽかんとしてしまった。
エリアナ様が婚約するのは、レナード様ではなくレナード様の弟さん?
頭を冷静にして、改めて今までのことを思い返す。そういえば、アイヴィーさんはラスウェル家のご令息と言っただけで名前を出していなかった。名前を出したのは私の方だ。
レナード様にしても、ご自身が婚約したとは一言も言っていない。私が婚約のことを聞いたと言ったから、知っている前提で話していただけ。
ようやく自分の勘違いに気づいて、どんどん血の気が引いていった。
「ご、ごめんなさい! 私、早とちりしたみたいで……っ」
「いや。僕も説明が足りなくてごめん。弟の婚約が決まりそうだから父上も安心して、今までのように僕の婚約者決めを急かしてこなくなったから、気が抜けてたんだ」
レナード様は申し訳なさそうに言った。
すると、後ろからエリアナ様が近づいてきた。
「あなた、メイベルさんとおっしゃるんですか?」
「は、はい……」
「不安にさせてしまってごめんなさい。レナード様には本当にサプライズの手伝いをしてもらっていただけですから。私はロドニー様一筋でレナード様にはちっとも興味がありませんので、心配なさらなくて大丈夫ですよ」
エリアナ様は年下とは思えないような大人っぽい笑みを浮かべて言う。それから彼女はレナード様に向き直って言った。
「レナード様、今日はありがとうございました。私、この後用事がありますので早めに退散させていただきますわ」
「え、いや、エリアナさん」
「がんばってくださいましね。それではごきげんよう」
エリアナ様はにっこり笑ってそう言うと、軽やかに去っていった。
後には私とレナード様だけが残される。