軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第84話 破円

「まだやれるのか」

オースティンは槍を構え直した。

手を出すことをまだ躊躇していた。武人としての矜持もあったが、それ以上に、この半身血まみれの弟にどう止めを刺せばいいのか分からなかった。これでは屠殺だ。

「俺を……舐めるな……!」

レオンは目を見開いてオースティンを睨みつけた。

「兄上には四つ星がある、獅子旋牙がある……俺にだって、俺のやり方がある……!」

「負けない……俺にはまだ……まだ……」

疲労と失血が眩暈を引き起こしていた。オースティンの槍が二本にも三本にも見える。自分がどれだけ持つか分からなかった。最後の力——おそらく、あと一振りだけの力が残っている。完璧な、一振り。

「試してみろ……!」

レオンは剣を握り直した。罅だらけの刃を両手で握りしめた。

「俺たち——試してみよう……!」

レオンが踏み込んだ。オースティンも踏み込んだ。

同時だった。

剣と槍が正面から激突した。弾かれ、即座に次の一撃。弾かれ、また次の一撃。防御はなかった。受けもなかった。二人の間に残されたのは、ただ攻撃だけだった。攻撃に攻撃。力に力。速度に速度。

五十八合。五十九合。六十合。

もはや数える者もいなかった。

純粋な殺し合いだった。

双方とも勝機を速度と力の極限に賭けていた。技量で言えばオースティンが上だった。四つ星と二つ星の差は歴然としている。だがレオンには、その差を埋める何かがあった。退かないこと。怯まないこと。斬られても、突かれても、前に出ること。

オースティンの突進の型をレオンの剣が封じ、レオンの斬撃をオースティンの槍の柄が弾く。だがこのまま攻勢を限界まで推し進めれば、結果は共倒れだった。最悪の場合——互いの胸を貫く。

演武場には血の風が巻いていた。石畳に赤い飛沫が散り、戦場の鉄と砂塵の匂いがした。

◆◇◆

観客席の学生たちは、もう座っていられなかった。

何人かは立ち上がり、何人かは目を背け、何人かは拳を握りしめていた。名門の子弟として武術を学んできた彼らだからこそ分かった。あの二人の打ち合いが、どれほど常軌を逸しているか。

「止めなくていいのか……」

「止められるわけがないだろう……」

低い囁きが、やがて一つの念に収束した。誰もが口にはしなかったが、同じことを考えていた。

——あのデキソコナイ、持ち堪えろ。

あの同じ獣のような苛烈さだけが、四つ星の暴威に対抗できる。

◆◇◆

貴賓席で、エイドリアンは苛立たしげに腕を組んでいた。

セレストームカセレリック侯爵家の次男。レオンの二番目の兄。だが、この腹違いの弟――レオン――は、母を死に追いやった犯人だった。セレストーム家の血を汚す存在。エイドリアンにとって、レオンは、許されざる罪を背負った弟だった。

(なぜまだ立っている——さっさと倒れろ)

だが、レオンは立っていた。立って、剣を振り続けていた。

隣の侯爵は微動だにしなかった。翡翠の指環を嵌めた手が肘掛けの上で静かに組まれていた。何を考えているのか、その顔からは何も読み取れなかった。

◆◇◆

六十七合。

レオンの剣がオースティンの槍の柄を弾いた。だが——弾き返された反動で、剣に新たな罅が走った。

六十八合。

オースティンの穂先がレオンの頬を掠めた。赤い線が一筋、頬に走った。

六十九合。

レオンの斬撃がオースティンの胸当てを叩いた。火花が散った。だがオースティンは退かなかった。

七十合。

互いの武器が絡み合い、至近距離で睨み合った。息がかかる距離。互いの血の匂いが混じる距離。

「まだ——やるか」

オースティンが歯を食いしばりながら言った。

「当たり前だ——」

レオンが血を吐くように答えた。

弾き合い、また距離が開いた。

◆◇◆

レオンの体が、悲鳴を上げていた。

脇腹の傷から血が流れ続けている。視界が滲む。剣を持つ手の感覚が薄れ、足が石畳に張り付いたように重い。あと何合持つか分からない。一合か。二合か。

だがレオンの頭は、七十合分のすべてを覚えていた。オースティンの槍の軌道。反動の癖。回転の角度。重心の移り方。七十回叩きつけられて、七十回弾かれて——その全部が、体に刻み込まれていた。

そして——その七十合が、一つの結論を突きつけていた。

(届かない)

剣では、槍の円に届かない。どれだけ速く振っても、どれだけ強く踏み込んでも、槍の方が先に届く。長さという絶対の理が、七十合分の現実となってレオンの前に立ちはだかっていた。

(このままでは——勝てない)

絶望ではなかった。諦めでもなかった。ただ、事実だった。円の外にいる限り、剣は永遠に槍に届かない。

では——どうする。

その時、レオンの脳裏に声が蘇った。遠い夜の、低い声。月明かりの下で木剣を構えた男の、静かな声。

◆◇◆

「剣の道は——短にあり」

月明かりの下、バートンとレオンが一本の木剣を挟んで向かい合っていた。正から逆へ、逆から正へ、見えない円の軌跡を描くように、二人はゆっくりと巡っていた。

「いいか、レオン。すべての武器には円がある」

バートンは木剣で地面に円を描いた。

「剣には剣の円、槍には槍の円。武器の長さを半径とし、敵を中心に据えれば一つの円になる。敵の反撃の範囲もまた円。お前が攻撃した後に防御できる範囲も、やはり円だ。一つの戦いの中に無数の円が存在する。そのどれもが、勝敗を左右する」

「でも、すべての円を把握することなんて、できるんですか」

「それは『変幻の剣』の領域だ」

バートンは言った。

「今は教えん。だが——この世に一つの剣術がある。『絶断の剣』という」

「絶断の剣?」

「すべての円を超越する——破円の剣だ」

バートンの木剣が、レオンの眉間を指した。

「お前の剣が極限まで鋭く、極限まで速くなったとき——時間すら止まったように感じるだろう。お前の剣はすべての円を突破し、一振りで戦いを終わらせる。時間が止まったとき、世界に円はない。あるのは一本の線だけだ——すべてを断ち切る、一本の線」

◆◇◆

レオンの目が、自分の剣の切っ先に落ちた。

世界から他のすべてが消えた。観客席の声も、風の音も、自分の心臓の音さえも。残ったのは、罅だらけの刃の最先端だけだった。二丈先のオースティンを見据えた。

——切っ先は一つの点だ。その点で、破円の直線を描け。余計なことを考えるな。すべての精神を切っ先に注いだとき、お前の体は自然と最も完璧な姿勢を取る。

体の微細な変化は、レオン自身にも感知できなかった。手首、肘、腰、脚——全身が、あの最も完璧な一振りの構えに少しずつ近づいていく。

——なぜ剣を振るのかを知れ。お前の心にくすぶる火がある。それは大地の底で燃える炭鉱だ。その炎はいつか地面を突き破り、天を焼く。お前は叫ぶだろう——叫ばなければ、その炎が胸を焼き貫くからだ。それは怒りに似ている。だが、高らかな歌にも似ている。獅子の咆哮が——時を止める。

◆◇◆

絶断の剣。すべての円を——断つ。

◆◇◆

一筋の光がレオンの掌から走った。

属性の光ではない。魔力の輝きですらない。鍛え抜かれた刃が極限の速度で空気を裂いたとき、摩擦だけが生み出す白い閃光だった。

罅だらけの刃が最後の輝きを放った。切っ先を前に、レオンと彼の剣が一体となって鋭利な牙と化した。咆哮と刃鳴りが一つになって激しく轟き、かつてバートンが若き日に振るったという騎士団秘伝の剣術に秘められた覇気と鮮烈さが——一振りの未熟な斬撃の中に、蘇った。

◆◇◆

オースティンは動けなかった。

何か見えないものに押さえつけられたように、足が石畳に縫い止められた。

◆◇◆

エイドリアンの顔から血の気が引いた。

嫌悪とは別の何かが、背筋を這い上がっていた。

「あの剣は——」

エイドリアンは呟いた。

「バートンの……馬鹿な……あれは騎士団の秘奥のはずだ……なぜ、あいつが……」

◆◇◆

誰一人、あの一振りの軌跡を見切れなかった。

一瞬だった。レオンがオースティンの背後に立っていた。剣は砕け散り、破片が砂利のように石畳に散らばっている。レオンが一度よろめき——だが、倒れなかった。歯を食いしばり、両足で石畳を踏みしめた。

人々は茫然と周囲を見回した。何が起きたのか、まだ理解できていなかった。

「騎士団秘伝・絶断の剣」「先代副団長が魔獣戦役で三体の災獣を斬った」「二十年前に失伝したはずの破円剣術」——エイドリアンはそれらすべての伝説が、目の前で現実に変わるのを見た。認めたくなかった。あの側室の子が。だが——見てしまった。

まだ十年後、蒼旗の下で一振りで戦場を沈黙させる「封絶一閃」とは比ぶべくもなかった。だがレオンはこの一撃の中で、今の自分にできる最強の攻撃を完璧に実現した。激烈な一振りは彼の力をすべて奪い取った。最後の一瞬で剣がわずかにずれ、オースティンの胸を外し、かろうじて肩を掠めた。

◆◇◆

オースティンは黙って肩に手を当てた。

細い線のような傷。一筋の赤。

◆◇◆

オースティンは槍を構え直そうとした。

だが——止まった。

レオンの目と、目が合った。

今、軽く一突きするだけで終わる。レオンは完全に力を使い果たしていた。赤子よりも脆い。殺しても罰すら受けないだろう。

だが、槍がそこで凝った。鉛よりも重かった。

すべての視線がオースティンの槍に集まった。人々は茫然として、この戦いの結末を理解できずにいた。

◆◇◆

「今の一振り」

オースティンは聞いた。

「何という技だ」

「絶断の剣・破円」

◆◇◆

オースティンは頷いた。

数歩後ろに退き、レオ・ルガールをレオンに向けて投擲した。槍が唸りを上げて飛び、石畳に突き刺さった。レオンの頬から半尺と離れていなかった。

「お前の勝ちだ」

言葉の少ない男だった。少し考えて、続けた。

「お前が言った通りだ——お前は、本当に勝った」

◆◇◆

オースティンは振り返り、演武場を後にした。

槍を投擲したのは、武器を手放したのと同じ意味だった。そこで初めて人々は理解した。

◆◇◆

「第二十七戦、勝者——レオン・セレストーム」

審判の声が響き、演武場は静まり返った。

◆◇◆

大勢は決した。

レオンの信じがたい勝利だった。喝采の時のはずだった。

だが演武の礼儀は古式に従い、すべての視線が貴賓席に集まった。カセレリック侯爵が先に喝采を送るのが慣わしだ。カセレリック侯爵が立たなければ、誰も立てない。カセレリック侯爵が声を上げなければ、誰も声を上げられない。

カセレリック侯爵は、動かなかった。

エイドリアンは顔を背けていた。

静寂が、石のように重く、演武場を押し潰していた。

◆◇◆

やがて、カセレリック侯爵が立ち上がった。

だがそれは喝采のためではなかった。侍従を従え、貴賓席から降りようとしていた。帰るのだ。一言も発さず、勝者の名を呼ぶこともなく。

エイドリアンが後に従った。振り返りもしなかった。貴族たちが次々と腰を上げ、護衛騎士たちが隊列を組んだ。

レオンは黙って見ていた。父が去り、兄たちが去り、教官たちが去り、生徒たちが教官に促されて列に加わった。

誰一人、振り返らなかった。

◆◇◆

勝者の少年は、演武場に取り残された。

一瞬にして誰もが彼を忘れたかのようだった。レオンはどうしていいか分からなかった。彼らについて行くこともできず、倒れるわけにもいかなかった。

石畳に突き刺さったレオ・ルガールの柄を掴み、体を支えた。砕けた剣はもうない。兄の槍だけが、今は彼を立たせていた。

まっすぐ前を見据えた。去っていくすべての人の背を、冷たく見つめた。

◆◇◆

レオンは喝采を待っていた。

自分の勝利を認める、一声の喝采を。立ったまま、それを迎えたかった。

だが長い時間が過ぎても、聞こえるのは遠ざかる足音と衣擦れの音だけだった。

◆◇◆

脇腹の傷から血が流れ続けていた。レオンは必死に押さえていたが、血はとうに戦衣の半分を染めていた。あの一振りを支えていた気迫も、血と共に静かに流れ去っていく。

眩暈がした。痛みが次第にぼやけた。痺れるような感覚が全身を包み、何重もの絹に巻かれたような、全身が空になっていく疲労。

朦朧とした意識の中で、幼い日に戻っていた。

小さくて、弱くて、誰にも守られない子供。だが背中から、誰かがそっと抱きしめてくれていた。細い腕。星の匂い。あの静かで、遠い、温もり。

「お母様……」

レオンが低い声で呟いた。昏倒する寸前の、うわ言だった。

◆◇◆

演武場の端で、一人だけがその声を聞いた。

貴賓席の最も端——他の貴族たちから離れた場所に、深いフードを被った青年がいた。質素だが仕立ての良い外套。護衛は一人だけ。演武が始まってから、彼はずっとそこにいた。誰にも話しかけず、誰にも話しかけられず。名簿には「随行者」としか記されていなかった。

フードの影の奥で、青年の目が微かに揺れた。レオンの黒い瞳の中に——子供の目を見た。ただの、子供を。まるで運命が一つの窓を開けて、レオンの心の最も深い場所を覗かせたかのように。

ほんの一瞬のことだった。

誰も気づかなかった。レオンを凝視したとき、青年の目尻がかすかに痙攣したことを。それは、痛みを含んだ引き攣りだった。

◆◇◆

これはセレストーム暦二三七年の秋のことだった。

レオンが母を呼んだとき、二十年後に「星詠みの聖女」と追贈されるこの女性——星象系の天才にして、セレストームカセレリック侯爵家のエリーゼは、既にこの世にいなかった。

周囲はほとんど空になっていた。

カセレリック侯爵の列は遠くに去り、貴族たちの馬車が次々と動き出していた。演武場に残っているのは、レオンと、去り遅れた数人の学生と、あのフードの青年だけだった。

「殿下、お急ぎください。皆、もうお発ちです」

護衛が青年を促した。

青年は頷いた。立ち上がり、去ろうとした。

だが——足が止まった。

◆◇◆

拍手の音が、響いた。

たった一人の拍手だった。

あのフードの青年が、手を叩いていた。

去ろうとしていた足を止め、向きを変え、演武場の方を見つめ、手を叩いていた。他の貴族たちがカセレリック侯爵の後を追って去った流れの中で、彼だけが逆らっていた。

場違いな拍手だった。

だが——力のこもった拍手だった。

一つ。二つ。三つ。石畳に落ちる雫のように、空っぽの演武場に響き渡った。

◆◇◆

風がフードを揺らした。影が一瞬だけ晴れた。

その下にあったのは——若い、端正な顔だった。金の髪。蒼い目。額に、小さな星形の痣。

帝国の者なら、誰でも知っている痣だった。

皇族の証——「星痕」。

だが、それに気づいた者はいなかった。青年は微かに笑い、フードを直し、護衛に促されて静かに去っていった。

◆◇◆

レオンには、もう何も見えなかった。

だが——聞こえていた。

拍手が。たった一人の拍手が。

誰が手を叩いてくれたのか、分からなかった。だがその拍手が、レオンの胸の奥で——五年間凍りついていた何かを、静かに溶かしていた。

◆◇◆

レオンはレオ・ルガールの柄を握りしめたまま、演武場の中央に立ち続けた。

膝が震えていた。視界は真っ暗だった。血は止まらなかった。

だが——立っていた。

血まみれのまま。まっすぐに、前を見据えて。

去っていった者たちの背中は、もう見えなかった。

代わりに——拍手が、聞こえていた。

【続く】