軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第32話 魔力系統

『では、まずは実物を見せてやろう』

オーグリはそう言うと、右手を軽く持ち上げた。

次の瞬間——

部屋の中が、金色の光で満たされた。

「っ!?」

レオンは思わず目を細めた。眩しい。だが、目が慣れてくると、その光景に息を呑んだ。

オーグリの掌の上に、純金のような光の塊が浮かんでいた。

拳ほどの大きさ。だが、その密度は尋常ではない。まるで本物の金属のように、重厚な存在感を放っている。

『これがゴールデンフォームだ』

オーグリは淡々と言った。

光の塊が、ゆっくりと形を変え始めた。

剣になった。

刃渡り一メートルほどの、美しい長剣。金色の刃が、部屋の明かりを反射して輝いている。

『剣に変えれば、鋼鉄をも断つ』

剣が消え、今度は槍になった。穂先が鋭く尖り、まるで本物の武器のようだ。

『槍に変えれば、どんな鎧も貫く』

槍が崩れ、盾になった。円形の大盾。表面に複雑な紋様が浮かび上がっている。

『盾に変えれば、あらゆる攻撃を防ぐ』

盾が分裂し、無数の小さな刃になった。それが空中を舞い、オーグリの周囲を旋回する。

『そして——使い手の発想次第で、どんな形にもなる』

刃が収束し、再び光の塊に戻った。そして、ふっと消えた。

レオンは呆然としていた。

「これが……ゴールデンフォーム……」

『光の魔力を硬質化させ、自在に形を変える。単純な原理だが、極めれば万能の武器となる』

オーグリは腕を組んだ。

『お前が習得すれば、剣も槍も盾も、すべてを一つの術で賄える。武器を持ち替える必要もない。状況に応じて、最適な形を選べばいい』

レオンは唾を飲み込んだ。

今見せられたのは、間違いなく高位の術だ。あれほど自在に形を変え、しかも実体を伴う硬度を持つ。B級どころか、A級と言われても納得できる。

「俺にも……あれができるようになるのか?」

『二ヶ月では無理だ。今見せたのは、完全に習得した状態だ。お前はまず基礎から始める。だが——』

オーグリはにやりと笑った。

『三割でも習得すれば、家族魔闘会では十分に戦える。エイドリアンを驚かせるくらいはできるだろう』

レオンは拳を握りしめた。

あの光景が、目に焼き付いている。金色の剣。金色の槍。金色の盾。そして、無数の刃。

「やってやる……」

『では、早速——』

オーグリが何か言いかけた時、レオンが手を挙げた。

「待ってくれ。一つ聞きたいことがある」

レオンは掌を見つめた。先ほど自分が生み出した、弱々しい光を思い出す。

「俺は錬金系だ。光暗系の魔法を学べるのか?」

魔法師には、それぞれ得意とする系統がある。レオンの系統は錬金系——物質を変換し、創造する力だ。光暗系とは、まったく異なる系統のはずだ。

『ほう、気づいたか』

オーグリは感心したように頷いた。

『だが、お前は二つ間違っている』

「二つ?」

『一つ目。ゴールデンフォームは光暗系の魔法ではない』

「違うのか? 光を操る術だろう?」

『単純に光を操るだけなら、光暗系だ。だが、ゴールデンフォームはそうではない』

オーグリは指を三本立てた。

『ゴールデンフォームは「混合魔法」だ。三つの系統が融合している。光暗系、力場系、そして変化系。光を生み出し、力場で形を固定し、変化系で硬度と性質を自在に変える。この三つが組み合わさって、初めてゴールデンフォームは完成する』

「混合魔法……」

レオンは呟いた。そんなものがあるとは、聞いたことがなかった。

『混合魔法は珍しいが、存在する。複数の系統を組み合わせることで、単一系統では不可能な術を実現できる。ゴールデンフォームがB級でありながらA級に匹敵しうるのは、この複雑な構造があるからだ』

「なるほど……だが、俺は錬金系だ。力場系や変化系の適性があるのか?」

『それが二つ目の間違いだ』

オーグリは呆れたように首を振った。

『お前、魔力系統の仕組みを根本的に勘違いしている』

「勘違い?」

『錬金系だから他の系統が学べない、などということはない。魔力系統というのは、得意不得意の問題だ。相性によって、発揮できる威力が変わる』

オーグリは宙に指で円を描いた。すると、淡い光の図形が浮かび上がった。

十の点が円環状に並んでいる。それぞれの点には名前が記されていた。

力場系。元素系。死霊系。召喚系。錬金系。幻術系。変化系。電磁系。熱力系。光暗系。

そして、円の中心に一つ——星象系。

『これが魔力系統の全体図だ。外周に十の系統が円環を成し、中心に星象系がある』

レオンは目を見張った。こんな図は、学院でも教わったことがない。

『まず、外周の十系統について説明しよう』

オーグリは図を指さした。

『円環上で隣り合う系統は「相生」の関係だ。自分の系統の隣にある二つの系統は、本来の80%の威力を発揮できる。これが一番学びやすい』

「80%か……」

『そうだ。そこから離れるごとに、発揮できる威力は下がっていく』

オーグリは指を動かし、円環を辿った。

『二つ離れた系統は60%。三つ離れれば40%。四つ離れれば20%』

「どんどん下がるんだな」

『そして——』オーグリは円環の反対側を指した。『正反対に位置する系統、つまり五つ離れた系統は「相克」の関係だ。これは完全に学ぶことができない。どれだけ努力しても、その系統の魔法を使うことは不可能だ』

レオンは円環を見つめた。

力場系——元素系——死霊系——召喚系——錬金系——幻術系——変化系——電磁系——熱力系——光暗系——そして力場系に戻る。

「俺は錬金系だから……正反対は——」

『熱力系だ。お前は熱力系の魔法を学ぶことはできない。永遠にな』

レオンは頷いた。

「なら、他の系統は?」

『錬金系から数えてみろ。隣の召喚系と幻術系は80%。二つ離れた死霊系と変化系は60%。三つ離れた元素系と電磁系は40%。四つ離れた力場系と光暗系は20%。そして五つ離れた熱力系は不可能だ』

レオンは計算した。

ゴールデンフォームに必要なのは、光暗系、力場系、変化系の三つ。

光暗系——四つ離れている。20%。

力場系——四つ離れている。20%。

変化系——二つ離れている。60%。

「光暗系と力場系が20%しか発揮できないなら……ゴールデンフォームはかなり弱くなるんじゃないか?」

『普通はそうだ。だが——』

オーグリはにやりと笑った。

『混合魔法の利点は、複数の系統を組み合わせることで、個々の弱点を補えることだ。お前は変化系で60%の威力を出せる。変化系の要素を軸にして、光暗系と力場系の弱さを補う。そうすれば、全体として50%程度の威力は出せる』

「50%か……」

『本職の光暗系使いには劣るが、実戦では十分だ。それに、ゴールデンフォームの真価は威力ではない。応用力だ。50%の威力でも、使い方次第でいくらでも強くなる』

レオンは少し安心した。

「ところで、円の中心にある星象系は何だ?」

『ああ、それは特殊な系統だ』

オーグリは中心の点を指した。

『星象系は、円環の外にある。どの系統とも「相生」でも「相克」でもない。独立した存在だ』

「独立?」

『星象系の魔法師は、他のどの系統を学んでも、一律80%の威力を発揮できる。隣だろうが、正反対だろうが関係ない。すべて80%だ』

レオンは目を見開いた。

「それは……かなり有利じゃないか」

『そうだ。星象系は「万能」とも呼ばれる。どんな魔法でもそこそこ使える。だが、逆に言えば、どの系統も100%にはならない。専門家には敵わない』

「エヴィルは星象系だったな……」

『そうだ。あの小娘が三つ星でありながら四つ星に匹敵する実力を持っているのは、星象系の万能性があるからだ。どんな状況にも対応できる。厄介な相手だぞ』

レオンは円環の図をじっと見つめた。

錬金系の自分。

光暗系と力場系は20%しか発揮できない。変化系は60%。

ゴールデンフォームを習得しても、本職には遠く及ばない。

だが——

「50%でも、やれることはある」

『その通りだ』

オーグリは満足そうに頷いた。

『威力で勝てないなら、技術で勝て。応用力で勝て。相手の予想を裏切る使い方をしろ。それが、系統の不利を覆す唯一の方法だ』

レオンは拳を握りしめた。

「分かった。やってやる」

『よし。では、まず各系統の基礎から教えてやろう。ゴールデンフォームを学ぶ前に、力場系と光暗系と変化系の基礎を理解しておく必要がある。今夜は長くなるぞ——』

窓の外では、月が高く昇っていた。

◆◇◆

『まず、力場系から説明しよう』

オーグリは宙に手をかざした。すると、空気が微かに歪んだ。

『力場系は、空間そのものに干渉する系統だ。重力を操り、障壁を張り、物体を押し出したり引き寄せたりする。ゴールデンフォームでは、光を特定の形に固定するためにこの技術を使う』

「光を固定する……」

『普通、光は拡散する。だが、力場で光を包み込めば、剣の形、盾の形、矢の形——何にでも固定できる。お前は力場系を20%しか発揮できないが、光を固定する程度なら問題ない。複雑な力場操作は無理でも、基礎的な固定は可能だ』

レオンは頷いた。

『次に、光暗系。光と闇を操る系統だ。光を生み出し、闇を吸収する。ゴールデンフォームでは、主に光を生成するためにこの系統を使う』

オーグリはレオンの掌を指さした。

『今、お前の掌で輝いている光。あれが光暗系の基礎だ。魔力を光に変換する。お前は20%しか発揮できないから、光の強度は弱い。だが、変化系で補える』

「変化系で補う?」

『そうだ。変化系はお前の得意分野だ。60%の威力を出せる。光の「硬度」を変えることで、弱い光でも鋼鉄のように硬くできる。量より質で勝負するんだ』

レオンは理解し始めていた。

力場系で光を固定し、光暗系で光を生成し、変化系で光の硬度を変える。

自分の弱点である力場系と光暗系は最低限に抑え、得意な変化系を軸にする。

「複雑だが……筋は通っているな」

『複雑だからこそ、相手は対策しにくい。エイドリアンは四つ星の魔法師だが、混合魔法の使い手と戦った経験はないはずだ。そこに勝機がある』

オーグリは真剣な目でレオンを見た。

『二ヶ月で完璧に習得するのは無理だ。だが、基礎を固め、いくつかの応用技を身につければ——』

「勝てる、か?」

『勝てる可能性が生まれる。あとはお前の努力次第だ』

レオンは掌を見つめた。

先ほどオーグリが見せた、あの金色の剣を思い出す。

あれが自分の手から生み出せる日が来るのか。

「やってやる」

『その意気だ。では、今夜は力場系の基礎から始めるぞ。空間に干渉する感覚を掴め——』

長い夜が、続いていく。

窓の外の月は、ゆっくりと天頂に向かって昇っていた。

【続く】