軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第171話 二次産業の発展

孵化まで数日という話だったのだが、この世界では俺の世界よりも時間の感覚が緩いことを忘れていた。

数日と思っていたら、数週間だったでござる。

もう直ぐだと言われて数十分ぐらいかな? と思っていたら数時間だったみたいな感じだ。ここは沖縄か北海道だろうか。

だが時間にゆとりがあるのは良いことだ。

「あの、ワタクシ等が、こちらでお世話になっても宜しいのでしょうか?」

どこか怯えた様子のラクシュさんは、おっかなびっくりしながら尋ねた。

唐突な協力要請により、強制連行の如くアラバマ研究所に連れて来られて怯えるなという方が無理がある。

そんな不安そうなラクシュさんを他所に、アラバマ殿下はニヤリと笑う。まるで悪役のようですよ殿下。

「かまわん。寧ろそなたにはこちらに協力してもらわねばならんからな」

「はい?」

「アマンダ、チェリッシュ。話は聞いておろう。よろしく頼むぞ」

「ええ、かしこまりましたわっ!」

「お任せくださいっ!」

カーバンクル部隊から既に報告を受けていたアマンダ姉さんとチェリッシュは、心得たとばかりに返事をする。でも何で床下から出てきた?

そしてどこからともなく現れる、複数の女性職員たち。隠し扉から現れるとは結構楽しんでるな?

「え? あの、一体どこから……?」

「さぁさぁ、こちらへ」

「どうぞどうぞ、リラックスされて下さいませ」

「ヘッドスパもなさいます?」

「え? ヘッド……って、何でございますか?」

「アロマオイルで全身マッサージもしましょうね」

「え?」

「エステはご存じですか?」

「是非とも癒しの一時を体験して下さいませ~」

「あの、あのっ!?」

「さぁみんな、これまでの成果を披露するわよ~! お~ほほほほ!」

「レッツラゴー!」

かごめかごめみたく取り囲まれて困惑するラクシュさん。まともな説明を受けることなく連れ去られて行く姿はドナドナされる子牛のようだ。

美味しく頂かれるのではなく、磨かれて美しくなりますように。

この研究所にある巨大なバスタブやサウナ、スパリゾートのような施設を存分に味わってください。なむなむ。

ところでいつの間にあんなに美容部員さんが増えたのだろうか?

アラバマ殿下が雇っているとは思うんだけど、本当にこの研究所って色んな人が働いてるんだよね。どこからともなく現れてくるから、実際の人数が把握できない。

「……あいつらここ最近、貴族の奥方や令嬢相手に色々やってたみてぇなんだよな」

「女性の美に対する追及って、底知れねぇっす……」

ギガンやテオの話によると、現在は訪問エステと称して富裕層を中心に様々な美容品を販売しながらエステを体験させているそうだ。

なんかよく判んないことやってるね。楽しそうだから良いけど。

「風呂でリラックスさせ、マッサージをして貰うと気持ちが良いと貴様が言っておっただろうが」

「あ~うん」

「俺様も経験して分かったことだが、我が国では水に浸かる事こそが贅沢であるが、温かい湯というのも確かに良いモノだと理解できた」

「ふ~ん?」

「湯によって弛緩した身体を解すというのは、あまり経験したことがないしな」

「そうだね」

老廃物や疲労物質も排出され、血流は良くなるし筋肉のコリも解される。

水浴びとはまた違ったリラックス効果があるしね。

「あ奴らは美容品販売と同時に、それらの効果をより高める温浴やマッサージなどのサービスもしておるそうだ」

「……へぇ」

温泉に入ってリラックスした後、マッサージしてもらうと気持ちが良いって爺さんが言ってたのを思い出して口にしただけの話である。

俺はマッサージしてもらっても気持ち良くない(ひたすら痛いだけだ)からよく判らんけれども。でもたまに爺さんをマッサージしていたので、腰痛や肩こりの解し方自体は知っていた。

それを教えただけで、エステの仕方までは知らないし教えてはいないのだが。

彼女たちはそれをヒントに、サボテン美容品を使った独自の方法でエステを研究したらしかった。

「だが実際、かなり効果があるらしいぜ」

「王女宮だけでなく、口コミであちこちから予約が殺到しているらしいっす」

「ほぉん?」

俺が第一王子の竜騎士たちと不毛な攻防をしながら畑を耕している間に、アマンダ姉さんたちは美容部門の職員さんと仲良くやっていたようだ。

サボテンの魔物から作られる美容品の数々は、既に俺の知るところではない。

バホメールのミルクを混ぜたり、ローヤルゼリーやビーポーレンを配合したりと、いくつかの試作品を作らされた覚えはあるけどさ。魔道具職人さんと精油を作ったりもしたけど、最早自分でも何を作ったのか覚えていないんだよなぁ。

でも今までほぼなかったお風呂魔道具の注文が、予約待ちで殺到しているって話は耳にしたような気がする。相変わらず貴族仕様の高価な物らしいけどね。

ドワーフの職人さんたちは「焦らせておけばよいのです~」「その方が高く売れますからな!」とか言ってたけれども。

「貴様のお陰で一次産業だけでなく、二次産業まで発展しておるぞ」

「よかったね?」

「当の本人が、その功績の凄さを全く判っておらんようだがな」

呆れたようにアラバマ殿下は溜息を吐いた。

でも俺自身はSiryiと鑑定しながら面白おかしく実験してただけで、手持ちの素材を使ってねるねるほにゃららみたいに遊んでただけだもん。

それらを商品化させたり販売にこぎつけるのは殿下の仕事である。

特にローヤルゼリー関連の美容品に関しては、効果が高い分入手は今のところ俺しかできないので、かなりお値段が高くなっているそうだ。

個人差はあるけど十歳~二十歳ぐらい肌が若返るとかなんとか。シミやシワの改善がされると、それだけ若く見えるのは確かである。

日々アマンダ姉さんやギガンたちで実験してたから、ある意味実証済みだしなー。

でもローヤルゼリーの入手は困難だし、今後も商品として販売できるかどうか怪しいんだよね。アントネストの子供の中から入手できる子が現れるといいんだけど。

まぁ、ビーポーレンがあるからいっか。

「アントネストの美容品で効果を実感させ、サボテン美容品を新作として使用させるというアイデアは流石だな」

「アルケミストの作り出した美容品という謳い文句があるお陰だろうぜ。ブランドの信頼度が全く違うっつーか、アマル殿下やアマンダたちが使用してるっつー宣伝効果もあるからだろうが……」

うわぁ~、アマル様も巻き込まれてたのか~。

きっとあの特殊性癖のある侍女さんも協力してるんだろうなぁ~。

ご愁傷様ですアマル様。

でも美形の王族が使用している美容品となれば、みんなその恩恵に肖りたくて欲しがるんだろうね。売り上げにかなり貢献してくれているようで有難い。

「アマルはともかくとして。アマンダとチェリッシュのお陰で、シエラも随分と女性らしくなったのだぞ?」

「え」

「以前はもっと野性味に溢れておったが、あそこまで肌も髪も整えればアマルに似ていると実感するものだな」

「え」

「貴様の仲間には感謝したいと、シエラの侍女も泣いて喜んでおったわ」

あれで女性らしくなった……だと?

「どこの山ザルかと思うような身形で走り回っておったからな。だが最近は王族らしい恰好をすることも厭わぬようになったそうだ」

「そうなんだ……」

俺にとっては最初からあんな感じなので、その変化はよく判らないけれども。

もしかして、ブランカが最近大人しくなっているのって、やっぱアマンダ姉さんの教育の効果が現れているからだろうか?

そういやさっきもアマンダ姉さんの肩に乗って、ウキウキで美容部員さんと共にラクシュさんを連れ去る仲間に加わっていたような気がする。

何か妙な扉でも開いたんだろうか……。

「なぁ、俺らの本業って冒険者だったよな?」

「まだそのつもりっすけど」

「最近は素材集めも片手間にやってねぇか?」

「……そういやそうっすね」

「リオンの畑仕事を手伝ってる方が多い気がすんだよな」

「気にせいじゃないかもっす……」

ギガンやテオの呟きが耳に痛い。

確かに二人には武器を手に魔物を退治させるより、農機具を手にして働かせている事の方が多かった。

ディエゴはアラバマ殿下とムスタファと一緒になんか色々やってて充実した日々を送っているようだけど。

今の俺のブームが畑仕事だからね。仕方がないね。

そんなこんなでラクシュさんが来るべき飛竜の孵化の儀式を前に、アマンダ姉さんやチェリッシュ、そして美容部員さんに手厚いサービスを受けている間。

平和的産業革命をしているアラバマ殿下に協力したくて、畑仕事の合間に輸出入の邪魔となっているナベリウス対策を考えていた。

別に退治する方法を考えている訳ではない。

俺は以前からとあるドロップ品をもっと違う形で魔道具化できないかと考えていたので、それを利用できないかと思い付いたのである。

『人間が使用すると一度限りですが、魔動船での使用であれば、魔晶石を消費することで何度でも使用可能ですからね』

「そこなんだよねー」

秘密の小部屋という名の俺の秘密基地にて、Siryiと一緒に『 移転鏡(ターンミラー) 』を二つ並べてちょっとした実験を試みていた。

魔動船をワープさせるのにはかなり大量の魔晶石の消費が必要なので、緊急時以外ではできるだけ使用したくはない。それに魔晶石を大量消費したら、ただですら輸送費が加算されている輸入品が割高になる。俺はそれを何とかしたかった。

人間が緊急脱出の時に設定した場所にワープできる仕組みなのだから、鏡を通して物質の移動も可能なのは間違いはないんだよね。

魔動船だって魔晶石を大量消費すれば、そのエネルギーで瞬間移動することができる訳だし。

『マスターの予想通り、この鏡には「フェアリーリング」と似たような作用があるようですね』

「それな」

妖精の悪戯というか、空間転移魔法の一種とされる次元を自在に行き来できる妖精の残したキノコの輪っかを、フェアリーリングと呼んでいる。

どうもこの『 移転鏡(ターンミラー) 』も、その空間転移魔法が施されているんじゃないかと思うんだよな。

妖精には時間の概念も空間の概念もないようなので、好きな場所に好きな時に移動する能力があるとされる。ある意味高次元の存在なのだろう。

人間が時間や三次元空間に囚われているとすれば、妖精はそれを飛び越えられる存在である。だからこそこの世界の人間は、超自然的な現象を巻き起こす妖精という高次元の存在を畏れ敬っている。

俺がこの世界に飛ばされた原因も、神に選ばれし人間という中二病的な想像よりも空間移動と似たような 現象(いたずら) に遭遇したと思えば何となく理解できるしね。

『ですがマスター。やり過ぎないよう、注意して下さいね』

「うん」

俺が唯一持っている固有魔法である道具を変化させる能力で、この空間移動魔法の施された『 移転鏡(ターンミラー) 』を変化させられないかと考えた。

魔改造の得意な日本人ではあるけれど、俺は職人じゃないので注意が必要だ。

面白おかしく考えたり、無意識に創造すると大変なことになるからね。

出来るだけ穏便に、便利で役立つ程度に収める。

使用するにはある程度の魔力か、魔晶石を消費するレベルにしたい。

空間と空間を繋げて、物質を安全に移動させることができれば丁度良いみたいに。

なんか青いたぬきねこが似たような道具を持ってた気がするんだよなぁ。

俺のリュックが四次元収納だけでなく取り寄せリュックになってるみたく、この『 移転鏡(ターンミラー) 』を通して、もう一つの『 移転鏡(ターンミラー) 』に移動させられないかな――――――。

何気なく手にしていた筋肉ムキムキマグカップを鏡面に触れさせると、もう一方の鏡面からマグカップがずるりと出てきた。